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裸にしてのボディチェック、最高裁の不愉快な判決

【海外ニュース】

Strip Searches: The Supreme Court’s Disturbing Decision
People do not like being physically humiliated by their government, but law enforcement now has the court’s blessing to strip-search people stopped for minor offenses(Time より)

裸にしてのボディチェック、最高裁の不愉快な判決
政府に肉体的な屈辱を与えられることを好む人はいない。しかし、今回微細な違反で拘束された人を警察が裸にしてチェックすることを裁判所が容認したのだ

【ニュース解説】

Strip Search (ストリップサーチ) とは、警察などが被疑者を裸 (多くの場合全裸) にし、危険物や麻薬などを持っていないか調査すること。誰もが思い浮かべるのは、罪を犯した人が拘置所や刑務所に入所するときなどの光景ですね。
しかし、こうしたサーチが minor offenses、つまりスピード違反などの軽犯罪を犯した者に対してもなされるとしたらどう思いますか?

この記事を理解するために、アメリカの法制度について説明します。アメリカは州毎に独立した司法制度があり、各州に刑法、民放、憲法があります。
このことから、州によって刑事罰の内容が異なり、時には州法と連邦法との内容が異なります。極端なケースでは、州内では合法であっても連邦法では違法の場合、州内で合法な行為をしている者を連邦警察 FBI が逮捕することもありうるのです。連邦制をとるアメリカがその建国以来、一貫して地方分権を国是としてきた背景がここにあります。

さて、この記事で記されている Supreme Court とは連邦最高裁判所のこと。連邦最高裁判所では、合衆国憲法に対する違憲審査、州と州の諍いなど、それぞれの地方自治では対応できないケースを扱います。今回は、ニュージャージーの高速道路でパトカーに止められた男性が、交通違反の罰金を払っていないということで拘束され、ストリップサーチを受けたことが、合衆国憲法の Fourth Amendment 修正第4条の規定に違反するという訴訟に対する最高裁の判断が記事となったのです。

実は、合衆国憲法では修正条項こそが大切なのです。そこには、人権や言論の自由についての規定が記され、それは時代とともにその解釈が変化改善され、修正条項が付加されていくのです。
問題となった修正第4条は、国家権力による違法な捜査や財産の差し押さえを禁止する項目で、独立戦争のときに、宗主国イギリスの軍隊が、新大陸に住む人に加えた弾圧への教訓から、こうした規定が明文化されたのです。
パトカーに止められた男性は、交通違反の罰金の未払いでストリップサーチを受けたことが違憲だとしたのですが、最高裁は裁判官の投票の結果、5対4でそれを退けたのです。

最近アメリカに行くと、友人の多くがアメリカの良いところがどんどんなくなっているとぼやきます。
アメリカ建国の理想や、リスクにチャレンジする開拓者精神、移民を受け入れ多様な社会を造る理想などが、肥大した拝金主義や、同時多発テロの後遺症、そして弁護士と法のトリックによって運営される社会などによって廃れてきているというのが、彼らの悩み。
修正第4条は、確かにアメリカ人のルーツにも関わる、国家に対する個人の権利を述べた条項です。アメリカ人のいう freedom 自由という概念が、個人の思想信条やスピーチ、行動の自由、そして地域社会の独立性の維持によって支えられているということは以前説明しましたが、その個人の権利を明記した条項の一つがこの修正4条というわけですね。

法の運用は、現場の警察官などの良識にかかっています。
マイナーな違反者へのストリップサーチが悪用されれば、どのような事態になるかは誰でも想像にかたくありません。特に、英語が拙い移民や旅行者にとっては、この最高裁の判断は恐怖です。

アメリカがその長所であった「おおらかさ」を失いつつあることは残念です。同時多発テロ以来、アメリカ社会には余裕がなくなっています。その余裕を失ったとき、アメリカが本当に衰退してゆくと思うのは、私だけでしょうか。

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