ブログ

シングリッシュの国、シンガポールの、労働事情

【海外ニュース】

Drive to ensure foreign workers get proper housing. Manpower Ministry roadshows in July will publicise a hotline and info on expected standards.(straight times より)

外国人労働者に適正な住宅を。労働省はどのような居住基準を外国人労働者に提供しなければならないかというテーマについて、7月にもホットラインと情報を公表する予定。

注:英文中の publicise はシンガポールがイギリス英語を採用しているため、米語の publicize とは異なった綴りで表現されています。

【ニュース解説】

世界には移民によって成り立っている国がいくつかあります。代表はアメリカ合衆国。アメリカの住人は、ネイティブ・アメリカン Native American を除けば、全てが移民かその子孫です。アジアではどうでしょう。中世から近世にかけては、インドネシアやマレーなどの王朝の支配をうけ、港湾都市 harbor として発展しながらも、その後荒廃し、19世紀初頭にはたった150名が居住する漁村になっていたシンガポールは、小さな島国ながら、アメリカと同様、その後移民によって発展しました。

19世紀に、シンガポールはイギリスの支配下で再び港町として発展。そこに労働者として中国南部から大量に移民が流入しました。さらに南インドからタミール語を話すインド人、隣国マレーシアやインドネシアからマレー系の人々が移住し、支配者のイギリス人と共に混合民族による国家が形成されました。第二次世界大戦後、シンガポールは、マレーシアが独立した折に、その一部となりますが、元々中国系の住民が多いシンガポールと、マレー人が主力であるマレーシアとの政治的対立が続き、ついに 1963年に独立、現在のシンガポールとなったのです。

中国系、マレー系、インド系の人々が共存するシンガポールは、多言語がゆえにあえて公用語に英語をいれて民族間の意思疎通をはかります。そして、この国には今でも労働力としてインドやバングラデシュ、フィリピンなどから人が流入しているのです。例えば、富裕層はメイドとしてフィリピンなどからの労働者を雇います。シンガポールには、メイドを雇用する場合のメイド税という変わった税金もあるのです。

ところで、シンガポールは、同じ移民国家のアメリカとは異なり、中国系の人々が政治的には幅をきかせ、一党独裁に近い状態での厳しい規制の元で、経済発展をとげ、裕福な先進国になったというユニークな歴史をもっています。共産党が独裁体制をしく中国やベトナムが、自国の経済発展のモデルとして、シンガポールを参考にしているのはそうした背景によるのです。それだけに、シンガポール政府は、差別や経済格差からマイノリティ minority 移民の不満が爆発しないよう、常に気を配っているのです。この新聞の記事は、そうしたこの国の背景と深く関係した記事といえましょう。

この国は港湾都市、金融都市として、世界経済の影響を強く受けているだけに、常に世界の経済状況には敏感。実際ITバブルがはじけたとき、この国は厳しい不況に悩みました。また、最近のヨーロッパの経済危機、中国の輸出の鈍化は、シンガポールを直撃します。そうしたとき、最も被害を受けるのが、海外からの移民労働者の待遇というわけです。

実は、これは、中東から東南アジアにかけての共通したテーマなのです。こうした地域の裕福な国は、同じ地域での途上国の労働力に頼って成長を続けています。以前、マレーシアやサウジアラビアで、雇用者の不当な扱いや暴行に耐えかね、刑事事件をおこしたフィリピン人のメイドが極刑に処せられ、外交問題に発展した事例などもあり、これは単に外国人の労働条件を越えた国際関係にも影響を与える、課題なのです。そうした意味もあって、今回は、このヘッドラインを取り上げてみました。

話題は変わりますが、移民と外国人労働者の混在するシンガポールでの共通語は英語。その英語は Singlish シングリッシュといわれるほど、中国語などと混ざった混成表現があることで知られています。こうした混成語を英語ではピジン pidgin といいます。これは、様々な背景の海外の人が集まりビジネスをする上で、彼らが便宜上言語を簡素化したりして共通語を編み出してゆくことを意味した言葉。シンガポールでは、政府は通常の英語を話すように奨励し、Singlish 矯正の講座なども展開しています。しかし、pidgin の生まれる地域こそ、移民が集まり、人々がダイナミックに交流していった証拠であるともいえるのです。

山久瀬洋二の「海外ニュースの英語と文化背景・時事解説」・目次へ

山久瀬洋二の活動とサービス・お問い合わせ

PAGE TOP