ブログ

オバマ陣営 中産階級のケアを反撃の材料に

【海外ニュース】

If you believe that new plants and factories can dot our landscape, that new energy can power our future, that new school can provide ladders of opportunity to this nation of dreamers, if you believe in a country where everyone gets a fair shot, and everyone does their fair share and everyone plays by the same rules, then I need you to vote this November. (オバマ大統領の民主党大統領候補受諾演説より)

もし、皆さんが、未来を支える新しいエネルギーによる施設や工場が点在する風景を、国の夢へ向けての階段を提供できる新たな学校を、そして、もし全ての人が公平に扱われ、努力に従って公平な分配を受け、同じルールの元で頑張れるような国を確信するならば、11月に是非投票していただきたいのです。

【ニュース解説】

今日は、民主党大会でオバマ大統領が次期選挙の大統領候補に指名されたときの受諾演説を、直接抜粋してみました。この文章は45分に渡った演説の締めくくりの部分を、そのまま書き写した transcript ものです。

オバマ大統領が、今回の演説で、長引く不況に苦しむアメリカで、失業率が改善しない国民の苛立ちにどのような処方箋 prescription を提供するか。それは、民主党のみならず、アメリカ国民が注目する演説でした。
自らの再選が阻まれるのではという危機感の中、オバマ大統領は民主党の原点に軸足をおいたスピーチに終始しました。
民主党が主張する、自由をビジョンとするアメリカにあって、自由を守るために、ある程度政府によるコントロールが必要であるという立場に、オバマ氏はぴったりと寄り添います。小さな政府によって、国民の自由を最大限尊重しようとする共和党の立場との違いを明確に確認したのです。

ともかく深刻な課題である失業率を改善すると彼は何度も強調し、クリーンエネルギー産業の育成を軸に、中産階級が損をしない、公平な社会の創造を訴えます。その矛先には、行き過ぎた自由経済がもたらした金融至上主義への批判があり、共和党政権時代に発生したリーマンショックの原因をしっかり見据え、ウォールストリートのマネーゲームの結果、無責任な住宅ローンを提供し、庶民を苦しめた金融資本を非難する立場を鮮明にしたのです。

自らの支持母体を中産階級と移民などを中心としたマイノリティと設定し、こうした人々が不況を克服するために、政府がイニシアチブをとることを約束したのです。演説の中で、彼は何度も middle class を意識した表現を使っています。
中でも強調したかったのは、ゼネラルモーターズを再生させ、多くの雇用を守った実績でした。元々自動車産業などで、労働組合を支持母体に持つ民主党にとって、これは特にアピールしたい成果であることは、前回にも解説しました。

オバマ大統領は、演説のほとんどを国内問題に向け、「自由」というアメリカの基本的価値を維持するためにも、自由な人間の「責任」というテーマにこだわります。その延長として、政府がなすべき責任について語ったのです。政府が様々な制度を導入して大きくなれば、それだけ国民の自由を奪うことになるとする共和党に対し、政府主導で国民健康保険を導入し、全ての人が公平にチャンスに挑戦できる「自由」を確保したのは自分だと強調します。そして、これからの4年は、この路線をさらに維持し、経済の低迷というアメリカの重い病を治癒するのだと宣言しました。

I never said this journey would be easy.
(私はこの旅が容易なものであるとは決して言っていないはずです)
と最後に強調するオバマ大統領。過去のブッシュ政権の時にアメリカが陥った病巣がいかに深刻で、治癒に尋常でない努力と時間が必要であるとし、まだ実績が少ないという批判をかわしています。

オバマ攻撃を追い風として、攻勢を強める共和党が、自由の旗手である「偉大なアメリカ」のビジョンへの回帰を訴えるなか、オバマ大統領はむしろ一つ一つ具体的にアメリカの課題を説いてゆくことで防戦に着手したのでしょう。
自分が大統領になったとき、勤勉な労働者を抱える重工業が瀕死の状態で、ビジネスが海外にアウトソースされ空洞化が深刻になったこと、そして生活費がかさむなか収入が追いつかず、人々が支払いに苦しんでいたこと。これらの課題を確認し、この問題はまだ完全には解決されていないことを彼は敢えて認めます。そして返す刀で、そこを批判する共和党こそ、長年の使い古した対策に終始し、効果的な治療方法 remedy を提供していないと非難したのです。

大統領選挙の行方は最後までわかりません。しかし、アメリカのみならず世界が出口の見えない経済問題に苦しむ中、民主党、共和党共に、国民にいかに自らのビジョンをアピールするかという課題は簡単ではありません。
ただ、このところ、以前批判のあった民主党も共和党も同じという政治不信を受け、双方が立場の違いを鮮明にし、論点を明快にしつつあることは注目です。
この問題、大統領選挙が近づくなか、節目毎に何度か触れてみたいと思います。

山久瀬洋二の「海外ニュースの英語と文化背景・時事解説」・目次へ

山久瀬洋二の活動とサービス・お問い合わせ

PAGE TOP