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混迷するエジプトで揺れるアメリカの本音と建前

【海外ニュース】

Egyptians braced for new violence Tuesday as the Muslim Brotherhood called for an uprising after the killing of 53 backers of deposed President Mohamed Morsi.
(UPI.com より)

ムハマンド・ムルシー大統領の支持者 53人が殺害されたことを受け、火曜日にイスラム同胞団が蜂起を呼びかけたことで、エジプトの国民は新たな争乱に見舞われる

【ニュース解説】

私は長年アメリカで生活をし、アメリカの素晴らしいところも沢山みてきましたが、反面、アメリカの外交政策には一つの「仮面」があることも、見せつけられてきました。今回のエジプトへの対応には、正にそんな仮面をかぶったが故のアメリカの当惑が見えてきます。

アメリカは、常に FreedomDemocracy の旗手 standard bearer としての立場を鮮明にしてきました。そして、その価値を脅かす国に対して経済、軍事双方の圧力を持って対応してきました。
しかし、そんなアメリカが本音では自らの利益を守るため、国際社会でしたたかに独裁政権を支援したり、意図的に国家を分断させたりしてきた事実を見せつけられます。ベトナム戦争中にラオスへ極秘に介入し、国内に反共軍団を組織して国家を分断したり、アルゼンチンの社会主義政権を、軍部を支援して転覆させ、軍事政権を擁立したりと、例を挙げればきりがありません。

アメリカは戦後世界中に自らの影響力を拡大し、それに伴って膨大なアメリカの民間資本も世界に浸透しました。そこで得た利益をいかに守るかという視点に立ったとき、アメリカ的な資本主義の価値観を否定する国家や組織の成長には、常に神経を尖られてきたのです。

今回、エジプトでおきていることは、こうしたアメリカの政策の矛盾を皮肉にも暴くことになりました。

アメリカはどのようなことがあっても、建前上海外に対して「自由の旗手」でなければなりません。「自由の旗手」である以上、民主主義こそがアメリカが世界に売り出す価値となるわけです。
アラブの春の巨大なうねりの中で、エジプトでムバラク政権が崩壊したとき、アメリカは戸惑いながらもエジプトの民主化を支持しました。戸惑いながらというのは、対イラク、対パレスチナという構造の中、アメリカにとってのムバラク政権は中東で要となる同盟国だったからです。そして、そのムバラク政権の中で、利権を拡大し、なんとエジプト経済をも左右する圧力団体となったのが、今回クーデターを起こした軍部だったのです。

アラブの春 Arab Spring は、アメリカにとっては戸惑いの連続でした。
民主化が保証され民意が解き放たれたとき、人々が選んだのがイスラム回帰の道だったからです。アラブに産まれた民主主義が新たなイスラムパワーを産み出したのです。民主的な選挙によってムルシー政権がエジプトに産まれたとき、アメリカの戸惑いは不安に変わります。
過去に、王政が革命で転覆し、シーア派イスラム教集団が実権を握り、親米であったイランがアメリカの宿敵へと変質した事例など、過去の様々な悪夢がアメリカの指導者の脳裏をよぎります。
そうなのです。王政や独裁政権が崩壊したからといって、世界の国々がそのままアメリカ型の民主主義国になるという保証はどこにもないのです。

アメリカは、ムルシー政権を支持するイスラム同胞団 Muslim Brotherhood には強い反米感情を持っている人々がいることも知っています。だからといって、ムルシー政権が民主的な選挙によって選ばれた以上、アメリカは建前としてそれを歓迎せざるを得ませんでした。しかし、その行為はアメリカの本音との確執を顕在化させます。
一方、エジプトの軍部には、アメリカとの繋がりを持つ人々も多くいます。ムルシー政権がそんな軍部を嫌い、軍部の利権の排除に動き出したとき、アメリカと軍部との利害が一致します。低迷する経済と、過度なイスラム化への傾斜に反発した人々が反政府活動を展開し、それが拡大しはじめると、軍部はその動きを巧みに利用してクーデターを起こしたのでした。

しかし、アメリカにとって、民主的に産まれた政権を軍が転覆させたことは、「自由の旗手」としての建前と矛盾します。アメリカは頭を抱え考えます。しかし、妙案は浮かばないまま、軍の行動をクーデターであると認定することだけはせず、アメリカにしては珍しく曖昧な対応に終始せざるを得なくなったのです。
エジプトの国民はそんなアメリカの動きを見逃しません。オバマ大統領自身への失望感がエジプト国民に広く浸透し始めるという、これまたアメリカが望まない方向に事態は動こうとしています。

White House spokesman called on Egypt’s military to use maximum restraint responding to protesters, just as we urge all those demonstrating to do so peacefully. He also condemned the explicit calls to violence made by the Muslim Brotherhood.
(ホワイトハウスのスポークスマンは、エジプト軍がデモを行う人々に対する対応を出来る限り抑制するように、同時にデモは平和的に行うことを強く望んでいる。彼はまたイスラム同胞団が争乱をあからさまに呼びかけていると非難した–英文は一部編集)
と UPI の記事は、ワシントンの対応を紹介しています。explicit (明らかに) という言葉によってイスラム同胞団を非難しつつ、軍やデモをする群衆双方には抑制を求めるという、正に本音と建前にゆれる曖昧さに終始するアメリカの姿がみえてきます。
今、第二次世界大戦後、世界の GDP の 50%以上を独占していた頃に培ったアメリカの利権が、世界中で脅かされようとしています。なりふり構わずそれらを守ろうとするのか、あくまでも建前の「自由と民主主義の輸出国」という「善玉」として機能しながら、したたかに利権も守るのか。
エジプトの混迷に直面したアメリカは、自らの外交政策のあり方について、重大な選択を余儀なくさせられているのです。

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