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「中世」が今に影響する宗教と政治の関係とは

【アメリカ独立宣言より】

We hold these truths to be self-evident, that all men are created equal, that they are endowed by their Creator with certain unalienable Rights, that among these are Life, Liberty and the pursuit of Happiness.

全ての人は平等に創造されているということは、冒すことのできない権利として創造主から与えられた自明の真実である。その真実の中には、生命、自由、そして幸福の追求という権利が含まれている

【解説】

冒頭の英文は、アメリカの独立宣言の最も有名な一節です。
突飛なようですが、ここでちょっと面白いことを考えます。
それは「中世」とは何かということです。退屈な歴史の講義ではありません。今の我々が直面している社会を理解する方途の一つとして考えてみます。

そもそも、中世が始まったのはいつでしょう。
歴史の教科書などによれば、封建制度 feudal system という国王の統治する国家があって、そこに仕える貴族や領主が土地を封土として使用し、農民を耕作させていた土地所有制度と深く関連づけて、この時代を語っています。

しかし、ここでもう一つの見方をしてみたく思います。古代ローマ帝国でキリスト教が国教 state religion になった 392年を考えてみましょう。
それまで、ヨーロッパ世界には多様な「神」が存在しました。例えば古代ギリシャでは神話に残るように、ゼウスやプロメテウスなど、無数の神が地球の運動を司り、人間さながらの愛憎も持っていました。
日本でも同様です。須佐之男命や大国主命など、様々な神があり、自然界にはそれぞれの自然現象や岩や滝などに神が宿っていました。
ヨーロッパ世界では、そうした多彩な宗教が、キリスト教が国教になることで淘汰され、さらにキリスト教の中でも様々な分派が異端 paganism とされてきます。多神教 polytheism から一神教 monotheism への変革 reform が行われ、宗教の「大量絶滅」mass extinction がおきたことになります。
これは、旧約聖書 the Old Testament まで遡れば、キリスト教と同じルーツを持つイスラム世界でも同様です。
7世紀に勃興したサラセン帝国以来、イスラム教が中東世界の支柱となる中で、それ以前の時代にあった多彩な神々は異端となり、殆どが消滅します。
このように、文明と、宗教、そして世俗の政治権力が一元化して出来上がったのが中世という時代なのです。
この時代は、宗教の優位性を求めて一神教同士の凄惨な争いが展開された時代でもあり、人々は盲目的に国家が支持する宗教権威に追従していたのです。

近世はどうでしょう。やがて人々に人権への感覚が目覚めるなか、信教の自由が求められるようになります。
キリスト教の中で旧教と新教が対立する過程で、まずそうした変化が始まります。そして、次第にあらゆる宗教への信仰の自由が保証されてゆくのです。
その過程でどうしても必要だったのが、世俗の政治権力と宗教との分離という改革でした。政治権力が個々の信仰に介入しないことが、人々の信仰の自由を保証し、言論や移動の自由という基本的人権の獲得へとつながったのです。

中世はカトリックという厳格な一神教によって全てが規定された時代でした。
そして、近世から現代は、その束縛を解放してゆくための闘いの時代でした。
しかし、その過程を人類が進んでゆくといっても、人々の意識は即座には変わったわけではありません。このアメリカの独立宣言で、画期的な「人々の自由」が保証されながらも、それは「神」によって与えられたものとされ、そこにはキリスト教の影響が強く認められています。
今でも大統領選挙で聖書に宣誓する風習など、キリスト教の影響が圧倒的に強く残っているのがアメリア社会の実態でもあるのです。
そして、イスラム社会では、時代に逆行する ISIS などの原理主義者が他の価値観を排除し、世界を脅威に陥れています。彼らの考え方は、政治権力と宗教、そして文明の統合を目指す中世への復古主義でもあるのです。

日本ではどうでしょう。日本もアメリカ同様、宗教と政治が完全に分離しているのでしょうか。靖国問題などはその代表的事例といえるわけです。明治時代に神道を国家の宗教として統合してゆく過程で、地方にあった無数の信仰形態が国家神道の元に統合されていった過程も思い出すべきです。
また、沖縄問題は、一見基地問題だけで片付けられがちです。しかしよく背景をみると、戦前、戦後を通した沖縄の多彩な民俗文化の「日本化」の過程の上に、基地問題が重なったことが問題の根を深くしていることも否めないのです。

ヨーロッパ、アメリカなど、多数の移民を受け入れている国家は、信仰の自由を保証しない限り、国家運営は不可能です。そうした地域では、信教の自由が他宗教と自らの宗教との比較を通して、社会の進化の中で競争に晒され、自らの宗教の変革への原動力を産み出していることも事実です。カトリック教会が、男女平等、司祭のモラルなどの試練にさらされて、変革への課題を突きつけられているのはその典型的な事例といえましょう。

中世が何かを考え、アメリカの独立宣言などを契機に変化した近現代社会を見詰めるとき、常に監視しなければならない一点は、この宗教と世俗権力との一体化へと逆行する症状が社会に現れていないかどうかということなのです。
ヨーロッパやアメリカ社会、そしてイスラムの混乱などから現代社会の進化と退潮を観察するポイントとして、「中世」を見直してみようというのが、ここでのテーマです。さらに折に触れてこの問題を掘りさげてゆきたく思います。

【山久瀬洋二・画】

by Yoji Yamakuse

「宗教」山久瀬洋二・画

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