海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

ロドニー・キングの死がもたらす一つの感慨


【海外ニュース】

Rodney King’s death: The end of an era.
He was one of four iconic figures in the violent chapter that changed Los Angeles. He may have done the least, yet he symbolized the most.(LA Times より)

ロドニー・キングの死。それは一つの時代の終わりである。
彼はロサンゼルスを変えたあの暴動を思い出させる4人の象徴的人物の一人。その中で最も少ない役割を担ったかもしれない。しかし、彼こそがあの事件のシンボルとして知られた人物であった

【ニュース解説】

1992年4月29日、黒人、すなわち African American アフリカン・アメリカンの被害者 Rodney King ロドニー・キングを集団で暴行した警察官への無罪評決が陪審員によって下されました。その結果、黒人を差別した不当な裁判だと怒りをあらわにした人々が暴徒と化し、全米を震撼させた LA Riot ロサンゼルス暴動がはじまったのです。私はあの頃、ニューヨークに住んでいました。暴動が全米に拡大するのではという懸念から、ニューヨークも異常な緊張に包まれていたことを覚えています。あれから20年。被害者であったロドニー・キングが、今月17日に自宅のプールで溺死したというニュースに接したとき、当時の様々な記憶がよみがえってきました。

あの暴動の一年前、私はジャーナリストとして、1991年8月19日から21日にかけてニューヨークのブルックリンにある Crown Heights クラウン・ハイツでおきた同様の暴動の取材をしたことがあります。そこは、ユダヤ系住民と黒人とが混在する地域でした。交通事故の被害者の救助にあたって、ユダヤ系の負傷者の救助を優先させたとして、黒人が暴徒と化したのです。夜のクラウン・ハイツは、戦場での戒厳令さながら。サーチライトのもと、完全武装した警察官があちこちに配備され、その側には火をかけられ黒こげになった車が放置されていました。この時、私はアジア系である自分が、韓国系の移民と間違えられ、攻撃の対象となることを恐れながら取材をしたことを覚えています。というのも、黒人居住区に進出していた Korean Grocery 韓国系食料品店で頻発する万引きや恐喝に怒りをあらわにした韓国系の商店主が、犯人と誤解してアフリカン・アメリカンを射殺したり、殴打したりしたケースが何度かおこり、人種対立が激化していたからです。
ロサンゼルスでの暴動は、正にそうした背景から韓国人居住区が襲われ、韓国系の店舗などの多くに火がかけられ、街は騒然となりました。

日本からロサンゼルスにやってくる飛行機が到着する、国際線専用のターミナル。そのターミナルの名前は Tom Bradley トム・ブラッドレーといいます。あの暴動の頃の市長の名前です。黒人奴隷の孫、そして貧しい小作農の息子として生まれ、ロサンゼルス市長となった苦労人です。そのブラッドレーがロサンゼルスの暴動の原因となった警察官の暴行を非難し、警察長官に辞任を促しました。その勧告を拒否して話題となった当時の長官が、Daryl F. Gates ダリル.F.ゲイツ。モルモン教とカトリックの両親を持ち、当時の犯罪捜査、特に麻薬問題などへの容赦ない対応で知られる人物です。そして、そんな当時の警察の捜査のあり方に疑問を投げかけ、強く改革を押し進めた人物が、その後クリントン政権で国務大臣を勤め、NATO の拡張や中東問題に取り組んだ Warren Christopher ウォーレン・クリストファーだったのです。
LA Times のこの記事は、ロドニー・キングの死で、あの暴動に最も深く関係し、話題となった4人の人物が全て他界し、一つの時代が終わったのだと報じたのです。ちなみに、暴動の後、FBIが事件を再調査し、ロドニー・キングに暴行を加えた二人の加害者は有罪となり、被害者にも多額の賠償金が支払われました。

多様な人種が混在するロサンゼルス。その玄関となるロサンゼルス国際空港の Tom Bradley International Terminal には、今日も世界中から飛行機が到着します。その乗客の多くがアジアや中南米からの移民です。彼らが街の混沌の中で生き抜いてゆく過程にある人種間の対立の火種。それはあの暴動から20年経った今でもアメリカ各地にくすぶっています。そんなアメリカの素顔を象徴する事件の当事者が他界したことは、アメリカに住み、アメリカとかかわってきた多くの人に一つの感慨を抱かせているはずです。

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