英語コミュニケーション講座・最終回

【最終回】フィードバックのスキル(6): テーマを絞って、そして自主性を尊重して


まず以下の例文を読んでください。これは、実際に日系企業でおきたケースです。

デリバリーの遅れで顧客を怒らせてしまったクレイグが依頼していた提案書をもってきたときの会話です。田中さんはクレイグによるデリバーの遅れで顧客が怒ったことが不満で、提案書どころではありません。

Craig: Here’s my proposal, let’s do&#8230

(これが私の提案です。是非—)

Tanaka: Well, what you propose is quite a bit different from what I had expected.

(うーむ。君が提案は、考えていたものとかなり違うようだが)

Craig: Take a look at this chart&#8230

(このチャートを見てください)

Tanaka: But last time your delivery was late.

(でも、この前、君はデリバーを遅らせてしまった)

Craig: I apologize for that, but the delivery instructions were unclear.

(そのことは謝ります。しかし、デリバーの指示が明解ではなかったので)

Tanaka: You need to consider my client.

(もっと顧客のことを考えなければ)

Craig: Okay, I’ll do my best to see that it doesn’t happen again. So back to what I was saying&#8230

(わかりました。こうしたことが起きないようベストをつくします。それで、この提案のことですが)

Tanaka: Well, let me think about it.

(そうね。ちょっと考えさせてくれないか)

この会話で、クレイグは提案書について話そうとしています。しかし、田中さんは、その前にデリバーの遅れについて問いただそうという気持ちで一杯です。

そこで、クレイグの提案をほとんど無視しながら、デリバーの問題を突きつけるのですが、クレイグからしてみると、田中さんの意図が曖昧でよくわかりません。唐突に But last time your delivery was late. といわれたために、それはそもそも指示が不明瞭だったと弁明します。

これが田中さんをさらに怒らせます。「もっと顧客のことを考えなければ」とクレイグを責めますが、これもまた、クレイグには不満です。彼は彼なりに、ちゃんと顧客のことは考えているからです。しかも、この一言は、step8-5 で示した精神論以外の何ものでもなく、そこになんら具体的な助言やノウハウが見いだせないのです。

しかも、怒りに任せて田中さんは、クレイグの提案についての説明を最後まで曖昧なまま無視しました。

これは、クレイグのモチベーションを極端に低下させます。彼からしてみると、一方的に拒絶されたことになり、提案書自体のことが宙に浮いたままであることに、戸惑いを覚えてしまいます。

ここでの問題は、二つのことを一つのバスケットにいれて、フィーッドバックしようとしたことです。欧米でフィードバックを行うときは、テーマをちゃんと分けて整理して、別々に語ることが求められます。提案は提案でちゃんと対処し、デリバリーの問題は、そのあとでしっかりと別途フィードバックするべきなのです。

田中さんは、クレイグが提案書を持ってきた機会を利用して、デリバーについての不満を表明しました。まず、提案書について話し、その上でデリバーについて、フィードバックを行うか、事前に、提案書の前に話したいことがあると表明してフィードバックを行うべきだったのです。

Well, what you propose is quite a bit different from what I had expected. But, before we continue discussions on it, let me mention an issue that hasn’t been quite cleared up satisfactorily.

(そうだね。君の提案はこちらが考えていたことと、かなり違うところがあるようだね。しかし、そのことについて話す前に、まだ満足のゆくように解決していない問題について話し合おうよ)

このように、主題をはっきりとデリバリーの問題に向け焦点を合わせるようにする必要があります。その上で、以下の事例のようにフィードバックを行います。

Tanaka: In fact, the client is happy with your arrangement. It meets their needs perfectly. However, last time your delivery was late and it caused a huge problem. It delayed things on their end in a big way, they were&#8230 angry for that fact.

(実のところ、顧客は君のアレンジにはとても満足だった。彼らのニーズにちゃんと合致していたしね。しかし、前回デリバーが遅れたことが大きな問題になったんだ。そのことによって相手の側でのプロセスに遅れが出たからね。彼らはそのことに腹を立てている)

Craig: I apologize for that, but the delivery instructions were unclear.

(それは申し訳ありませんでした。でも、手配書が不明瞭だったので)

Tanaka: Alright, I can appreciate that. If the instructions were perceived as being unclear, what can be done to avoid this type of situation in the future? My client has reason to be concerned&#8230

(なるほど。そのことは理解できる。でももしそうであるなら、こうした問題が今後おきないようにするにはどうすればいいか考えなければ。顧客が気にすることは当然だろ)

Craig: I’m sorry. We will create new review and reporting process with shipping department. I will get back to you once I make it by the end of this week.

(そうですね。すみません。シッピング部門と改めてチェックとレポートのプロセスを見直し、よいシステムを構築します。今週末までにこのことを報告します)

Tanaka: Well, sounds like you have it under control. Let me get back to the client with this information and let’s reschedule the meeting on the proposal. They are still interested, don’t worry about that but we need to be certain that late shipments don’t occur again.

(そう。どうやらちゃんと処理できそうだね。僕の方から顧客にはそのことを連絡しておこう。そして、君の提案書の件は、改めて別の時間に話し合おう。心配するなよ。顧客は今でも、我々との仕事に興味をもっている、でも、もう二度と発送の遅れがないことを確認しなければね)

Craig: Fair enough, let’s reschedule it. How about tomorrow morning at 9:30? Is that okay with you?

(そうですね。提案書の件は改めて。明日の朝9時半ではどうですか)

Tanaka: Sounds fine. Let’s do it.

(いいねえ。そうしましょう)

会話例は多少高度になりますが、ここでのポイントは、問題点はちゃんと厳しく指摘しながらも、クレイグのモチベーションは尊重し、彼が自発的に解決をしてゆくように指導していることです。

怒りを覚えているとき、それを唐突に表明したり、いくつかのことを混ぜてついでに話をしたりした場合、それがフィードバックにならないばかりか、相手にそのメッセージさえ伝わらず、お互い不愉快な思いのみが残ってしまいます。この事例のように、怒りをロジックに転化させ、冷静に対応することが、何より大切なのです。

以上のように、フィードバックのこつは、相手の持ち場や自発性を尊重し、つねに具体的なロジックをもって問題点の解決を共同して行うことにあります。もっといえば、相手から提案をもらい、アグリーする方式をとれば、目的を達成するためのプロセスは本人に任せるべきなのです。

日本人は、とかくプロセスにこだわる文化背景をもっていますが、山の頂上への登りかたにいくつもの方法があるように、結果を重視し、そこに至るプロセスは本人にまかせ、プロセスの過程でつまずいたときなど、必要なときに適宜助言を与えることは問題ないはずです。そして、異文化による誤解を避けるためにも、合意に至るときは、必ず確認をし合うことをお薦めします。

Are we all on the same page?

(同じように理解しているよね?)

Are we all looking at the same thing?

(同じ方向をちゃんとみているよね?)

などと言って確認をとりましょう。また、意見が異なっていると思われるとき、

What are the pluses and minuses?

(何がプラスで何がマイナスなのでしょう?)

What is the upside? (Positive)

(よいことは何ですか?)

What’s the downside? (Negative)

(まずいことはなにでしょう?)

などといって確認をしてゆきます。

さらに

Then, what do you think the best solution is?

(では、何が最もよい解決方法だと思いますか?)

といって、再度提案を促しても構いません。その上で、最終的には、

Great! It seems like we’re in agreement!

(よし。これで合意だね)

などといって、お互いに納得したことを確認します。

また、相手を一方的に批判したり、決めつけたりする表現、または抽象的な精神論になるような表現を使わないように気をつけましょう。具体的には、

  • Shouldや Have to, Must といった (—しなければならない) といった表現。あるいは Should not などといったその否定形。
  • Never や Always といった、相手を決めつけるような言い方
  • Mindset (こころがけ)、Sense of responsibility (責任感)、Professional way (プロとしての考え方) などといった抽象的な精神論

は避けて、事実を冷静に語り、描写し、その事実への相手の意見を求めながら、解決してゆくわけです。その際、二度同じことが起きれば、それだけ相手の責任が問えるように、既に説明した通り、アクションプランへの合意を欠かさないようにします。

そして常に、相手の自発性、自立性、すなわち Autonomy を尊重するスタンスは、単に一度のフィードバックのみならず、欧米でのマネージメント全般についていえる鉄則なのです。

Thank you and good luck!!

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長らく連載した英語コミュニケーション講座はこれで終了。

この内容は、「異文化摩擦を解消する英語コミュニケーション術」というタイトルで、IBCパブリッシングから出版されています。是非ご一読ください。

次回からは、「その一言が!乗り越えよう異文化摩擦」という連載を始めます。異文化間コミュニケーションのなかで起こった様々な誤解や摩擦のエピソードを英語表現という形からアプローチして連載してゆきます。ご期待ください。

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英語ビジネスコミュニケーション術

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*山久瀬洋二の「英語コミュニケーション講座」の原稿は本書からまとめています。文法や発音よりも大切な、相手の心をつかむコミュニケーション法を伝授! アメリカ人のこころを動かす殺し文句32付き!

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