海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

消え行く English Gentleman??


【海外ニュース】

Who said the English gentleman was extinct? Bowler-hatted members of In and Out club celebrate 150 years
(Mail Online より)

誰が英国紳士は消滅したと言ったのだい?イン・アンド・アウトクラブでは山高帽のメンバーが創立150年を祝ったのに

【ニュース解説】

ロンドンオリンピックが開催され、多くの人がイギリスに興味をもっていますね。そんな人々が特にあこがれるのがイギリスの伝統。その伝統の核となる象徴的人格は、なんといっても English Gentleman (英国紳士) です。

私は、イギリスの出版界に多くの友人がいます。出版界の中にもそうした伝統を受け継ぐかのような人もいないわけではありません。
でも、この記事のように、世の中の変化に伴って、伝統的な英国紳士がいなくなりつつあることも事実でしょう。見出しでは、英国紳士が絶滅危惧種でもあるかのように extinct (絶滅する) と表現しています。ユーモアでしょうか。

では、英国紳士とは、どんな人なのでしょう。
まず、Gentleman ですから、gentle、すなわち温和で優しい人格でなければなりません。また gentleman のもう一つの語源は gentry、つまり昔は王族や特権貴族の下でイギリス社会を担う、いわゆる「上流階級」の人々であることも、gentleman の条件の一つでした。
高貴が故に、教養があり、洗練された趣味や服装をしていることも大切。記事にある Bowler-hat は山高帽のことで、これも上流階級の人が乗馬のおりに梢などから頭を守るために造られた帽子が流行したもの。
この記事は、ロンドンでも最も由緒ある会員制クラブ In and Out のメンバーが3月に行った恒例の正装でのパレードについてのニュースです。ところで、その4ヶ月後、7月になってさらに次のようなニュースが注目されました。

Oxford University students will no longer have to ware gender-specific academic clothing after concerns it was unfair to the transgender community.
(オックスフォード大学の学生は、性別を明確にできない学生を考慮して、男女を規定する服装をしなくてもよくなった)BBCより

ニュースいわく、男性がスカートをはき、女性が紳士風のズボンにネクタイということが、ドレスコードにうるさかったオックスフォードで許されるようになるのだと。English gentleman を排出してきたオックスフォード大学の伝統、つまり昔流の English gentleman のドレスコードは通用しなくなるわけです。

カントリーライフというイギリスの雑誌の編集者いわく、gentleman という考え方も進化していると。
The modern gentleman is someone who displays discretion, courtesy and kindness but also who has discernment and displays understatement.
つまり現代の gentleman は、分別があり礼儀正しく、親切で、さらには洞察力が豊かで慇懃さを兼ね備えた振る舞いができる人であれば、それでいいのだと彼はいいます。身分や人種には捉われないのだと。
ちなみに、ここにちりばめられた discretioncourtesykindness、discernment、そして understatement といった単語は、そのままイギリス人が伝統的に望ましいとしてきた価値観ですね。
これらは、少なくとも、同じ英語圏でも、アメリカ人が望む価値観のトップには上がってきません。直裁ではっきりとものをいうことをよしとするアメリカ人は、directness (直裁さ) や frankness (率直さ)、そして casualness (気軽さ) といった価値観を代わりに持ち出すのではないでしょうか。Cowboy (カウボーイ) こそがアメリカ人があこがれてきた男らしさなのですから。

いずれにせよ、世界からその国の文化を象徴する人格が消え去ろうとしているように思われます。アメリカ人も最早 Cowboy はいなくなったよとぼやいているのですから。

日本人はどうでしょう。Samurai という人格も、今では小説やテレビドラマの中でのことなのではないでしょうか。

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