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TCK を知っていますか? 彼らは未来への贈りものです

まず、フロリダでおきた、悲惨な銃撃事件への悲しみをここに表明します。ちょうど、この原稿を書き始めたときに、ニュースが飛び込んできました。

さて、原稿に戻ります。
TCK という言葉を知っていますか。Third Culture Kid の略なのです。
定義は、両親が国籍を置いている国とは異なる場所で育った子供のことを意味します。わかりやすくいえば帰国子女ということになりますが、それよりは若干複雑です。

ある学生が私のところを訪ねてきたことがありました。
その人は、両親の仕事で南米で育ちました。現地には日本語学校があり、子供の頃は日本語の環境で育ちます。しかし、その後、いわゆる現地に駐在する子供たちなどが通う国際学校に転校します。アメリカンスクールのような学校と思ってください。そこに集まる子供達は、世界各国の子供で、共通の言語は英語です。この学生の場合、日本語、英語、そして南米に育ったことによるスペイン語を話すことができるわけです。

しかし、彼はいいます。僕は日本人ほど日本のことは知らないし、かといって住んでいた国の中でも国際環境にいたために、ある意味で中途半場なんですと。
彼は、その後日本の大学に留学しました。世界各地の留学生とはそれなりにうまくやっていくのですが、日本人と深い付き合いができないのは悩みのたね。
そして、日本人が留学生と交流するとき、彼らが積極的にコミュニケーションをしてこないことにも違和感を感じているのです。

彼のそうした話を聞いて、私は思いました。
自らのアイデンティティを一つの国家に求めることしかできない人が多いなか、彼はTCKとして、世界と交流できるわけです。日本にも育った国にも中途半端な地盤しかないというものの、複数の国にまたがる自分を持っていることは素晴らしいことです。TCKという新しい「国籍」が、つまり「アイデンティティ」がそこにあるわけで、その「国籍」を大切にして、自らのキャリアとして育てていってほしいのです。
よりグローバルな交流が進むなか、このアイデンティティこそが、未来の社会が求める理想へ繋がるアイデンティティのではないでしょうか。TCK が増えれば増えるだけ、人々のグローバルレベルでのコミュニケーションや情報共有が進み、世界は一つになってゆくのではないかと思うのです。

TCK のリスクは、母国から、そして時には育った国から拒絶されることです。それは帰国子女へのいじめの問題などで、日本でも話題になりました。
そのことからくる疎外感から、逆に母国を嫌いになったり、すべてが中途半端なままどっちつかずの人生を送ってしまったりという現象がおきるかもしれません。
TCK のカテゴリーに属する人は、逆に自らが未来の世界を造れるコアになれるんだということを自覚し、自信を持つ必要があります。TCK という新しい「国籍」を意識した瞬間に、世界に貢献できることが多々あることに気付くはずです。おそらく、TCKの人々はモノカルチャーで育った人々が気付かないことへの研ぎ澄まされた感性を持っているはずです。
そうした視点や感性を世界に発信すれば、多くの人々にとって、それが「eye opening アイオープニング」、すなわち素晴らしい発見になるはずです。

グローバルな行き来が増えれば増えるほど、TCK の人口は増えてくるはずです。例えば、ここに紹介した学生のように、TCK の人々は通っていた学校自体が国際環境にあり、そこに集まる子供達が多国籍であることから、2カ国ではなく、多数の文化の影響を受けているケースが多々ありまます。多くの人々の共通語は英語で、さらに2ヶ国語、時には3カ国以上を操ることができるはずです。
反面、それぞれの母国で子供達が受けている教育は受けていないことから、母国の子供にとっての様々な常識が理解できていないケースもあります。このことが、子供の間でのいじめに発展したり、時には教師による評価に影響を与えたりしてしまうというリスクにも見舞われます。

どのような人間にも、強い分野と弱い分野がありますが、TCK の人々は、自らの強いところが何なのか、まずしっかりと理解し、そこにアイデンティティを確認するべきです。

グローバルな未来への架け橋になる TCK といわれる人々が、さらにネットワークしてその知識によって社会に貢献できる環境を作ってゆければと思っています。

山久瀬洋二・画

「Third Culture Kid を想って」山久瀬洋二・画

「Third Culture Kid を想って」山久瀬洋二・画

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