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IT社会のプログラムで融合する漢詩的発想と欧米型ロジック

Since then, these and many other areas have shown to be successful application niches, such as end user programming, the related area of programming by example and programming by demonstration and intelligent tutoring systems.”

以来、エンドユーザー向けのプログラミングや、それと関連して例示型プログラミング、デモンストレーションや知的教育分野など多くのニッチな領域で帰納プログラミングが応用されるようになった。
(ウィキペディアより)

論理的な思考方法に、演繹法 deductionと帰納法 inductionがあることを聞いたことがあるかと思います。演繹法とは、大きな前提や仮定を定めて、そこから各論を導き出そうとする発想法です。それに対して、帰納法は各論や個々の事象から最終的に全てに共通した結論を導き出してゆこうとする考え方を示します。
 
この発想法の違いを欧米型の文化とアジア型の文化に当てはめるといろいろなことがわかってきます。
例えば、キリスト教のような一神教 Monotheismの文化では、神は絶対であるという大前提があり、そこから人々の行動規範が導き出されてきました。こうした価値観は演繹法で容易に組み立てられます。演繹法は元々ギリシャやそれを継承したローマ文化の中で、物事を正当化してゆく論理展開の方法として確立されました。いわゆる三段論法がその基本です。
そして、欧米では、キリスト教がこうした古来の修辞法を活用して体系化され、社会規範の土台となって以来、欧米の人々はロジックを語るときはこの演繹法を使用してきたのです。
 
それに対して、多神教 Polytheismを信奉する人々は、様々な各論から自然や宇宙について考えます。日本は伝統的に多神教の国でした。
神道はその典型です。神道は元々樹木や水、そして岩や山など、自然の中に宿る様々な力を敬う宗教でした。そうした様々な精霊などのパワーを、自然界を司る共通の力として崇拝するために、神社が造られました。これは帰納法的な発想に他なりません。
 
そして、この帰納法的な発想は、そのままアジアに共通したコミュニケーションスタイルを生みだしました。
漢詩の世界に五言絶句という形式があります。これは5文字の漢文を起承転結の順に並べて心情を表現するもので、これは五言絶句が生まれて以来1400年以上を経た現在でも、実際に我々が日常使用している修辞法の原点となったのです。
それは、まず自然界の中に感じたものについて語り、次に、その感じたものをさらに進めて描写します。そしてふと自らが気づいたことを「転」として記述した後、自分の思いを最後に訴えて結論とする、というのが五言絶句での修辞法でした。これも帰納法的アプローチです。
日本や韓国、そして東南アジアといった中国の周辺の国々の人は、中国からこうした論理展開の方法を学び、その思考方法を自らの遺伝子として現在まで継承してきたのです。
 
そして、この演繹法と帰納法的な発想の違いが、欧米とアジア社会でのコミュニケーション文化の違いとなり、今なお交渉や商談での行き違いの原因となっているケースがあることを考えてみたいのです。
 
演繹法を重んずる文化背景を持つ人々は、交渉をするときに、まず「大前提」を定めようとします。ルールや法律、さらには大きな建前への合意がない限り、各論には進もうとしません。
それに対して、帰納法を重んずる人々は、各論を積み立てて、一つ一つパズルを合わせながら全体の図面を最終的に造ろうとします。例えば、ルールを決める前に人間関係を構築し、その証として起承転結にも通じる「起こり」となる何かを共有し、そこから先に物事を進めたがります。
 
従って、帰納法を重んずる人々は、演繹法を重んずる人々より、過去の事例にこだわり、過去に起きた特定の詳細を解決しない限り前に進みたがりません。それに対して、演繹法を重んずる人は、新たな前提さえ合意できれば、大きな絵図面をそこで策定し、どんどん未来へ進もうとします。さらに、一度決めたルールを常に重んじることが、お互いの信頼関係の前提となるのです。
一方、帰納法を重んずる人々は、個々での「融通」がいかに効くかに注目し、相手との信頼関係を構築します。例えば実社会では演繹法で考える人が賄賂だと思うことが、帰納法的な発想からしてみれば「便宜」として捉えられるのです。
 
従って、グローバル化の波は、この演繹法的な発想と帰納法的な発想との摩擦を生みだします。そもそも、「グローバル」という考え方自体が極めて演繹法的な発想法だということに、欧米の人々は気付いていません。アメリカと中国との貿易摩擦、覇権をめぐる論争、さらにはアメリカによる中国社会への民主主義がないことへの批判とそれに対する中国の反発の背景には、こうした発想法の違いが歴然とあるわけです。
 
もちろん、この意識的な摩擦は日本人が欧米社会と接するときにも起こっています。海外との交渉で、常に過去を検証して先に進もうとする日本と、過去を捨てて未来を見つめようとするアメリカとの摩擦は、企業同士の交渉などでも日常におきているのです。
 
最後に、21世紀になって、この演繹法と帰納法との融合の試みが必要とされていることを強調します。それはITやAIでのプログラムの問題です。個々の事象への理解がなければ、コンピュータ上でトータルなソリューションとしてのプログラミングをすることは不可能です。帰納法的発想がどうしても必要なのです。アジア系のプログラマーがシリコンバレーで活躍できるのは、こうした思考方法を彼らが伝統的に抱いているからなのです。
 
こうして、グローバルなビジネスニーズに対応するために必要な演繹法と、そのソリューションとしてのノウハウを確立するための帰納法とが、双方に影響を与え、シナジーを生み出すのです。
 
交渉やコミュニケーションの分野での摩擦と、IT社会でのシナジーという二つの現象が、現在の国際社会を理解するためのヒントとなるのです。
 

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