「ポピュリズムに注意喚起」
海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

外交戦略を対人関係の心理をもって分析すると


【海外ニュース】

Voters gave Tsai Ing-wen and her Democratic Progressive Party, which is skeptical of a closer relationship with China, control of Taiwan’s legislature for the first time.
(New York Timesより)

有権者は、中国との関係強化に懐疑的な蔡英文と彼女の率いる民進党が台湾議会を初めて支配することを選択

【ニュース解説】

人類始まって以来、世界の国々は外交によって繋がってきました。
外交が行き詰れば戦争になり、侵略され、経済的にも大きな影響を被ります。
日本は地勢的に、昔から中国や韓国との外交を軸にしてきました。そして、戦後は対米外交を軸に、こうした周辺諸国にも対応してきました。

今回は、台湾に蔡英文政権ができたことを踏まえながら、日本の外交について考えてみたいと思います。
蔡英文政権は、台湾を独立した国家として維持し、中国とは一定の距離をもって接してゆこうとしています。ただ、この本音をあからさまにしてしまえば、2つの国家の存在を認めない中国の強い反発を招くことは必至です。そんな台湾の新政権は親日政権だとマスコミは伝えます。実際、蔡英文氏は知日家として知られ、日本との政治、経済交流の促進を望んでいることは周知の事実です。

外交は対人関係の確執に似ています。AさんとBさんが親しくなれば、Cさんが嫉妬する。嫉妬心の裏返しとして、CさんはAさんかBさんに、あるいは双方に接近して、その存在をアピールしたり、二人の仲に割り込もうとしたり。国家間の関係とこうした実に単純な人間模様を重ねてみると、外交戦略のパズルを解くための思わぬヒントが生まれるというわけです。

アメリカの軍事抑止力の傘の中にある日本にとって一番嫌なのは、中国とアメリカとが蜜月になることです。そんな兆候がクリントン政権の頃からうかがわれました。ですから、Cさんの立場におかれた日本は、アメリカにさらに擦り寄りました。しかも、中国の経済力の伸長に乗って、この10年間、アメリカのみならず欧米各国もが中国にラブコールを送ってきました。中国は、そのことを利用して、日本に対して強硬な姿勢を貫いてきたわけです。

ところが、最近雲行きが変わってきました。中国の影響力が強くなりすぎたことを警戒するアメリカが、明らかに面舵 hard starboard をきろうとしているのです。南シナ海でのアメリカ海軍の示威行動などもそのあらわれです。そんなときに発足した蔡英文政権。果たして、中国は台湾に歩み寄る日本に強硬な楔を打つでしょうか。AさんとBさんが仲良くなった。つまり台湾と日本が仲良しになった場合、Cさんの立場となった中国は台湾か日本に歩み寄りたいはずです。しかし、中国からみれば台湾は建前上中国の一部。であれば歩み寄るオプションは日本ということになります。

そして、この状況をみながらピリピリしているのが韓国です。民主主義という基本理念を共有する日本と韓国、そして台湾でありながら、常に微妙な緊張関係に揺れていた3つの国家の中で、台湾に親日モードの大きな変化がおきたのです。アメリカは、当然この3つの国を自国の同盟国としてうまく活用したいはずです。であれば、日本にとって、アメリカをみても、中国をみても今は外交的にイニシアチブが取りやすい時期であるといえるのです。

ロシアをみましょう。ロシアは、ウクライナに親米政権ができたことに衝撃を受けながらも、したたかに中東でシリアと組みながら、アメリカを軸とした NATO に揺さぶりをかけています。ウクライナでの失点を、中東で取り戻そうというわけです。であれば、シリアのアサド政権とは手を組めないアメリカをCさんとすれば、ロシアとシリアの状況をみた場合、アメリカはロシアに接近するという、外交戦略の禁じ手を使ってくるかもしれません。
この逆説の発想をもって、極東情勢をみたときに、日本はロシアとの関係を改善するために、アメリカを利用できるチャンスがあるということになります。そして、台湾、韓国、アメリカ、ロシアという4つの拠点の微妙な動きの中で中国にみえてくるオプションは、やはり日本との関係改善ということになるわけです。であれば、日本はもう一つ、中国とアメリカの双方にCさんの立場になってもらうためになさなければならないことがあります。それは、日本をA、韓国をBとおいて、この両国の関係を思い切って強化することなのです。

以上、外交をAさんとBさんとの接近に嫉妬するCさんの心理をもって分析してみました。ただ、ここで不透明なのは、原油安や中国経済の減速による経済的な突発事項 unexpected incident、そして中東を震源地とするテロ活動などの影響です。そしてもう一つの不透明要因。それは他ならない日本の外交戦略の虚弱さです。世界が微妙に日本に向いているときに、イニシアチブをとれない日本の政府と官僚の「おぼっちゃんさ」が、実は最も不透明なリスクなのです。

今年、サミットが日本で開催されます。議長国である日本はこうした現在の国際環境の中で、経済的にも政治的にも思い切りのよいリーダーシップがとれるでしょうか。今解説した状況の中で諸外国が抱く「無意識の期待」に応えられないとき、この10年間を通して日本離れを鮮明にしてきた中国は、日本という外交の駒を最終的に投げ捨てるかもしれないのです。すると日本は永遠に「Cさんの苦しみ」を味わい続ける国家になってしまうのです。

山久瀬洋二・画

by Yoji Yamakuse

「どこに視点をもつかが大切」山久瀬洋二・画

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