「世界の心の交差点で」〜コミュニケーションと誤解の背景〜

日本人の文化や風習を海外の人に伝えるには色んな苦労が


Harmony is the key to the Japanese value system. Avoiding conflict, being mindful of the needs of others, creating a basis for mutual cooperation—these are the foundation of the Japanese approach.

(Japaneseness/Stone Bridge Press より)

日本のことをどう説明するか。
今回は、この課題について触れてみましょう。
日本独自の文化、風俗、そして風習を海外に伝えるのは簡単ではありません。そもそも、日本人にとって当たり前のことを、それを日常としていない外国の人に伝えるのですから。

「日本人には、謙遜という精神があってね。自分の能力を敢えて低く見せてこそ、相手から尊敬されるんだよ」

「なにそれ。全然わからない。自分のことをちゃんとアピールして、何ができるかしっかり説明しなければ、相手だって困惑するんじゃないの?」

「いえね。相手に私はこんなこともできるんですなんていうと、かえって本当なのと疑問に思われないかな」

「そうか、Talk is cheap. ということね。そんなことなら日本人だけの美徳じゃないよ。どこにでもあることさ。Don’t bite off more than you can chew ともいうしね」

「それってどういう意味?」

「自分が口にいれられないものを口にするな。つまりさ、能力以上のことをやろうとするとまずいよってこと」

「謙遜という概念はね。そんなことじゃないんだよ。たとえ自分にはこのことはできるって自信があっても、敢えてそれを口にせずに、へり下ることをいうんだよ」

「そう。でも考えてごらん。もし就職のために面接にいって、私は何もできませんっていうと、面接官は君と会うのは私の時間の無駄だと思わないかい。謙遜するって、相手に対しても失礼なことだと思うけど」

このように、日本人の価値観を相手に伝えようとすればするほど、うまくいかないことがあるかもしれません。

「日本にはね。和の精神というのがあってね。人とは争わず、平和に交流することが美徳だと思われているんだよ」

「あのさ。いい加減にしてよね。そんなの日本に限ったことじゃないよ。世界中どこだってあらそいは避けたいもの。どうして、日本だけ特別だというんだろう」

「そんな意味じゃないよ。例えば、あまり物事をはっきり白か黒かいうと、相手との関係がだめになることってないかな。それを避けるために、マイルドにアプローチするとか」

「それって変だよ。だって、議論したり、ブレストをするとき、ちゃんと自分の意見を言わないほうが、かえって相手から不審に思われる。相手とうまくやってゆく上でも、ちゃんと自分の意見は表明したほうがいいんじゃないかな。そのほうが正直だし、信頼関係を築けるんじゃないかな」

謙遜の精神も、和の精神も、日本人がとても大切にしている価値観です。しかし、それを説明しようとすればするほど、こうした気まずい会話になってしまうことがあるかもしれません。

これを避けるには、できるだけ客観的な行動様式の事例を相手に説明して、できればそうした価値観を生み出した文化背景などを自分なりに解説できるようにしておくことが大切です。

さらに、日本だけを特別扱いせずに、世界の多様な価値観の一つであるというスタンスで、相手に解説をするように努めましょう。

「ちょっと気になることがあるんだよ」

「というと?」

「この前、商談した日本人の顧客だけど。彼は特に我々のサービスに不満はないけど、ちょっといろんな事情があるからねと、穏便にこちらの提案を断ってきたよね」

「そうそう。なぜサービスに不満があるのに、断ったんだろう」

「いえね。もしかしたら、何か気になることがあったのかもしれないよ。実はね、日本人には古くからの習慣があって、問題点をストレートに相手に提示するのは失礼だという考えがあるんだよ。特に相手との人間関係が深くないうちはね」

「どういうこと?」

「お酒でも飲んで、人間関係が深くなれば、そこで本心を語り合うことができるんだけど。人間関係に距離がある段階では、敢えてオブラートにつつんだようなものの言い方をして、相手との和を保ちながら断ったり、意見の違いを説明したりするんだよ」

「そうなんだ。ややこしいね」

「確かに。これって何百年も日本人の間だけで作られた風習だからね」

「じゃあ、どうすればいいんだろう」

「そうだね。あのお客さんと親しい人を誰か知っていれば、そこを通して彼らの事情を聞き出したりできるかも。また、もしそうした人が間にたては、一緒に食事でもしながら、関係を縮めて、本当の情報を引き出すことも可能かもしれないよ」

「スパイ大作戦のようなはなしだね」

「その通り。でも、この和を保ちながら、本心を語り合う環境を設定することが、まず日本でビジネスをやってゆく上での最初のステップなんだ。しかも、あまりこちらから、何ができますからどうですかなどと強く押さずにね。こちらのサービスの内容も、できれば間に立ってくれる人を介したほうが、うまく伝わるかもね」

こうした会話を通して、謙遜や和の精神を、相手に押し付けることなく伝えるのです。

日本人が日本文化、そして日本の精神文化を客観的に相手に伝えるためには、時には語る本人が、日本人そのものから距離をおく必要もでてきます。
異文化でのコミュニケーションは、単一文化の中でのやりとりよりもエネルギーと時間を要します。しかし、それがうまくいきさえすれば、単一文化だけでは味わえない、多様で、多彩な知恵をグローバルに結集できるのです。

※冒頭で紹介した「Japaneseness」は、山久瀬洋二が最近アメリカの Stone Bridge Press から出版した書籍です。

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