山久瀬洋二「バッシングの目にさらされて」
海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

共和党の離反に苦しむトランプ陣営。その背景は?


【海外ニュース】

Billionaires back Clinton, Bash Trump. Kasich said “I can’t be enthusiastic about Trump”
(CNNより)

経済界の富豪がクリントン支持へ、トランプ批判へ。ケーシックもトランプには情熱がわかないと

【ニュース解説】

今、アメリカではトランプへの反撃が総がかりで行われています。
興味深いのは、共和党が分裂していることです。
ドナルド・トランプが共和党の正式な候補となって以来、党内での摩擦が表面化し、それに加えて何人もの経済界の重鎮が反トランプキャンペーンを展開しているのです。これには、トランプも苦しめられています。

なぜこうした現象が起きているかここで分析してみましょう。
アメリカでは長年民主党と共和党の2大政党が議会を2分し、歴代大統領を送り出してきました。この二つの政党の違いは、大きな政府か小さな政府かという政策論争でした。もともと労働組合なども有力な支持母体であった民主党は、どちらかといえば、連邦政府が国家の運営にもっと責任を持ち、格差問題などに取り組むべきだという基本姿勢を維持してきました。

典型的なケースが、今回民主党の大統領候補として台風の目となったバーニー・サンダースの考え方です。サンダースは、元々は民主党議員ではありませんでした。とはいえ長年民主党のバックアップも受けながら、無所属議員として活動し、最近になって正式な民主党員となり、大統領候補として名乗りをあげたのです。
彼は、最低賃金を引き上げ、公立大学の学費を無料にするといった、国家による積極的な経済改革を訴えました。オバマ大統領の肝いりで行われたオバマケアと呼ばれる健康保険制度などもそうした政策の一つです。
それに対して、共和党は個人の自由こそがアメリカの価値であるとして、国家の介入を基本的に嫌い、小さな政府を求めてきました。その一方で、共和党はアメリカを守り、アメリカ流資本主義をしっかりとサポートするために、民主党と比較しても外交的には積極的に他国にも介入し、アメリカが世界に影響を与え続けることにも肯定的でした。

このように、民主党と共和党はそれぞれ異なった政策をアピールすることで、2大政党としての機能を維持してきたのです。

しかし、2001年の同時多発テロの発生と、その後のリーマンショックを経て、共和党の中に二つの立場が生まれます。それは、小さな政府を通りこして、アメリカに古くからあった閉鎖的な価値観を支持するグループと、従来の保守政党としての共和党の価値を維持しようとするグループの対立です。前者は本音でいえば移民を排斥し、キリスト教の価値観に従った地方の再生を求めています。そして後者は、自由と平等とは国家の基本であるとして、こうした閉鎖的な考え方には異議を唱えているのです。
トランプは、前者の人々の本音を声高に支持しながら、彼流の「アメリカの価値」の再生を求めました。それがメキシコ系移民へのバッシングやイスラム教徒への差別発言となったのです。

この本音の表明に、従来の保守党としての民意を意識した後者のグループが反発したのです。そして、そうした動きに呼応して経済界も党派の違いをこえてトランプバッシングの狼煙を上げたのでした。ここに紹介したジョン・ケーシックは、現職のオハイオ州知事で共和党穏健派の大物です。また経済界ではジョージ・ソロスやマイケル・ブルームバーグといったオピニオンリーダーといわれる人々がトランプへの批判を声高にはじめたのです。

この動きは、民主党と共和党との対立を克服し、本来のアメリカの価値とは何かという議論をアメリカ国民に投げます。移民とその多様性をアメリカのパワーの基本とし、その基盤の上に経済活動や政治活動での論争をおこうとする人々が、こぞってドナルド・トランプへの批判にまわりはじめたのです。
この共和党内の分裂は、トランプ陣営にとって大きな痛手となりました。
一方、民主党の方は、バーニー・サンダースがヒラリー・クリントンへの協力を表明し、大統領候補からおりたのちは、大きな亀裂も生まれず、むしろ反トランプを表明する共和党支持者をも取り込もうとしています。

共和党は英語では the Republican Party といいますが、その別名を GOP、すなわち the Ground Old Party といいます。この古き良き保守の価値を守ろうとする人々にとって、海外との積極的な関係を否定し、移民を排斥しようとするトランプの発想は受け入れられないということになります。
世論の右傾化が進む中、いきすぎた感情的なナショナリズムに、従来の保守層が戸惑っている状況が世界各国で見受けられますが、アメリカも例外ではないようです。

大統領選挙は投票日の当日まで先が読めないといわれています。
しかし、現在のところはクリントン陣営がトランプ陣営に「有効」をとっているようです。

山久瀬洋二・画

「バッシングの目にさらされて」山久瀬洋二・画

「バッシングの目にさらされて」山久瀬洋二・画

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海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。

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