山久瀬洋二の日常と旅日記

文化大革命と反日教育、そして次は


中国の南西部、貴州との州境に近い湖南省の辺境に、鳳凰県という県があります。ここにある鳳凰古城という街は、川に沿って中国の古い町並みがそのまま残され、そこで生活が営まれています。
遠隔地にあるため、観光に来る人はほとんどが地方の中国人で、日本人に会うことはほぼありません。明か清の時代に迷い込んだような木造建築が並ぶなか、露店や市場ではこの地方に多く住むミャオ族の人々も多くみかけます。

鳳凰県

そんな癒しの世界の人通りの多い路地を歩いているとき、加油中国(中国頑張れ)という看板を掲げた料理屋をみつけました。よくみると、「日本人は入るべからず」とその横に書かれています。また、大通りにあるもう一軒の店には「日本人と犬はそばにくるな」という中国語と英語併記の看板もありました。
無数にある料理屋の中のほんの数件でのことですが、以前北京の旧市街でも同様の看板をみたことがあり、反日デモ騒動から何年も経過した今でもこうしたことがあるのかと考えさせられたのです。

鳳凰県

1960年代後半、中国は文化大革命の嵐にみまわれました。経済政策に失敗した毛沢東が、自らの地位を守ろうと、青少年に中国での革命を意識レベルにしっかりと植えつけ、自らの支持母体を強化しようと呼び掛けたことが文化大革命の発端でした。
ところが、毛沢東のメッセージを受け取った人々は、その呼びかけに熱狂し、暴走をはじめました。反革命とレッテルを貼られた元地主や自営業の人々、知識人に憎悪の矛先が向けられました。それから10年近くにわたり紆余曲折はあったものの、数え切れない人々が迫害され、無数の犠牲者がでたのです。

単純なメッセージが人々に一方的に伝わり、そこに充満した憎悪や不満に火がついたとき、その勢いは為政者であっても止めることができません。文化大革命の恐怖は、その暴走が様々な意図の中で複雑化し、為政者の意図をも無視して国中を巻き込んでいったことです。中国経済は低迷し、生産技術や産業基盤にも甚大な影響をあたえました。

それから 30年。その後の中国の成長で生まれた格差への不満というガスが充満しているときに、為政者による反日教育が発火剤となり、2005年と 2012年の2度にわたって反日デモが中国全土で吹き荒れました。地方では、経済格差に加えて教育格差に苦しむ中、日本の位置もわからない人々が、デモに呼応して暴力を振るいました。
この民衆同士が呼応する様子をみたとき、為政者は自らの意図に反し、騒乱が文化大革命のように拡大することを恐れたはずです。

この数件の事例を除けば、鳳凰古城は美しく、人々も友好的な思い出深い町でした。ただ、そこにあった看板から、文化大革命の混乱につながりかねない人々のかくれた社会への不満を覗き見ることができました。日本というスケープボードが次の発火点にならないようにと思いました。

日本に帰国して、二人の大学生の若者と話をしました。彼らは中国や韓国での反日感情に対しての苛立ちを語ってくれました。
ところが、その二人ともが、高校での教育の過程で世界史や世界地理を十分に勉強していず、なぜこれらの国々で反日感情があるのかという戦前の歴史そのものへの理解もないことがわかりました。
台湾がどこにあって、なぜ台湾が中国と別の国家になっているのか全く知らない若者も多くいます。韓国と北朝鮮がどうして分断され、それ以前にどのような歴史があったのかも知らない子供たちが増えています。
この無知が、日本と中国、そして韓国との溝を深める悪循環となったとき、そこに新たな発火への導火線が設置されるのかもしれません。

2017年は、アメリカでは同じく経済格差の中で、移民や黒人、イスパニック系のマイノリティ重視の政策に反発した人々によって選ばれたドナルド・トランプ政権が発足します。ヨーロッパでは、戦前から戦後にかけての中東と欧米諸国との確執を実感できない人々が、最近のテロ行為を契機に反イスラム勢力となって政治に影響を与えています。そして、同様にイスラム社会にも反西欧の根強い怒りと不信感が渦巻いています。ちょうど日本と中国や韓国との関係と酷似した誤解の連鎖が世界中で見受けられるのです。

過去への記憶と知識が失われたとき、人々は寛容性まで葬ってしまいます。
鳳凰古城での看板による差別は、そのまま世界各地に点在する発火点でおきているメカニズムに共通している偏見なのです。文化大革命がどのように拡大し、中国国内が憎悪の嵐に蹂躙されたか。それと同様のことが過去に世界中で何度も繰り返され、どれだけの人が犠牲になったか。
2017年がそうした悲劇へとつながる年にならないことを祈りたいと思います。

山久瀬洋二・画

「中国の悩み」山久瀬洋二・画

「中国の悩み」山久瀬洋二・画

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