海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

朝鮮半島の緊張の中、アメリカも北朝鮮も、冷戦の論理が通用するか


【海外ニュース】

A US aircraft carrier group has been deployed to the Korean Peninsula after the regime’s recent missile test.
(CNN より)

北朝鮮の最近のミサイルテストを受け、アメリカの空母艦隊が朝鮮半島に展開

【ニュース解説】

砲艦外交という言葉があります。
英語では文字どおり、Gunboat diplomacy といいます。
近年になって、航海術や軍事技術が発達した中で、軍艦を派遣し、その威力を見せつけることで、相手国との外交を有利に展開しようというのが砲艦外交の意味するところです。

さらにその戦略が発展し、一般的な軍事力の誇示によって相手を威嚇しながら、平和を維持しようという考え方を、抑止戦略 Deterrence theory といいます。核抑止力などはその典型です。

日本は幕末に典型的な砲艦外交の影響を受けました。
鎖国政策の放棄を迫ったペリー提督の蒸気船による徳川幕府への圧力がそれにあたります。
そして、今年になって日本は日米合同演習 US Japan joint exercises (または joint drill) などを通して、米国の軍事力の傘の中で軍事的な圧力を北朝鮮にかけています。これも、砲艦外交であり、日本の背景にアメリカありという抑止戦略の行使に他なりません。日本も砲艦外交のれっきとした主人公であるということを、どれだけの日本人が意識しているでしょうか。

こうした抑止戦略は、冷戦時代にアメリカもソ連も常套手段として使用してきました。むしろ、抑止戦略が機能していることが、冷戦の冷戦たる所以であったといっても差し支えありません。
朝鮮半島は、そうした冷戦が熱い戦争になり、多くの血が流れた結果分断されました。北朝鮮と大韓民国は北緯38度線を非武装地帯として休戦状態 armistice にあるだけで、戦闘状態が終わっているわけではないのです。
冷戦は、ソ連崩壊後も朝鮮半島でそのまま継続しているというわけです。

さて、歴史を冷静にみるならば、冷戦を維持するためには、常に世界のどこかで実際の戦闘が展開され、そこでの駆け引きを冷戦の維持に利用するという外交戦略が機能していたことを忘れてはなりません。大国のエゴの影で、世界のどこかで人々が悲惨な戦争の犠牲になってきたのです。
今回、朝鮮半島での微妙な冷戦状態を維持するために犠牲になっているのは、シリアでのアメリカとロシアとの対立に他なりません、シリアではロシアが支援し反政府勢力への激しい空爆が続き、アメリカがそんなシリア政府の基地をミサイルで攻撃しました。この実戦をテコに、アメリカはロシアや中国と、北朝鮮への対応を「冷戦」として有利に進めようとしているのかもしれません。

注意を喚起したいのは、我々は日米合同演習などによって、北朝鮮を常に意識していますが、中東での出来事は、どこか遠い国のことのようにとらえがちだということです。

しかし、ヨーロッパからみれば、状況は全く逆なのです。
中東が不安定になれば、ヨーロッパはテロや難民の脅威に直面します。そして北朝鮮のことは、どこか遠いところでおきている緊張なのです。

アメリカもロシアも、伝統的に西欧での外交にプライオリティをおく傾向があります。第二次世界大戦でも、アメリカはヨーロッパの安定を軸に太平洋での戦争戦略を練っていました。
それが、もともとヨーロッパからの移民で国家を建設してきたアメリカの外交戦略の伝統なのです。
ですから、冷戦によるバランスを西欧で維持しながら、アジアでの実際の戦闘をその駆け引きに使うという意図が戦後は常に働いきたのです。それが、朝鮮戦争からベトナム戦争に至る戦後の歴史だったのです。

そんな歴史の流れの中で、中東も欧米にとっては西欧ではありませんでした。Orient (オリエント)という言葉は東方、すなわちアジアと訳されがちですが、つい最近までこの言葉の指す地域は中東だったのです。
しかも、アメリカがイラクに侵攻するに至って、その西欧重視という「西高東低」の戦略の維持が文字どおり崩壊し、ヨーロッパそのものが、脅威の対象となってしまったのです。中東では実際に毎日多くの人命が失われています。そして、朝鮮半島では皮肉なことに、ぎりぎりのバランスを維持しながら冷戦が継続されているのです。

しかも、現在が戦後という時代と大きく違うのは、中国が台頭していることです。今までの外交戦略の軸足だけでは、世界をマネージできなくなっていることを、アメリカも日本も改めて実感する必要があるはずです。

グローバルに大国の外交戦略をみてゆくことが、改めて必要になります。
EU がフランスやイギリス、そしてドイツの総選挙でどう変化するか。そして、シリアがどうなるかは、北朝鮮での緊張の行方とは無縁ではないのです。

とはいえ、問題は、北朝鮮もアメリカも先の読めない指導者によって動いているという現実です。北朝鮮は、先日アメリカ国籍の韓国系の市民を拘束し、アメリカに圧力をかけてきました。こうした、予測不能で世界の常識を逸脱した交渉術が、今のアメリカの指導者どこまで通じるのか。過去の冷戦の常識がどこまで通用するか、実は未知数というのが本音のようです。

「シリアの涙」山久瀬洋二・画

シリアの涙「それでなくても生きることは大変なのに、国際政治ぐらいまともにやってほしい」山久瀬洋二・画

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