東京医科大学とカトリック、そこにおきた「大人の問題」


 

“Japan University Admits Altering Test Scores to Keep Women Out.”

日本の大学が、女性を締めだそうと、テストのスコアを操作していたことを認める。
(Bloombergより)

昨日、ヘルシンキからストックホルムまでのフライトで、横に座っている乗客が読んでいた現地の新聞に、大きく東京医科大学での女性差別の記事が掲載されていることに気付きました。
日本と女性差別、なんとクラシックな、しかも新聞社にとって格好の記事でしょうか。そこで改めて、飛行機でみたメディアとは異なりますが、ブルームバーグでのヘッドラインを紹介しました。
ブルームバーグはご存知の通り、世界の経済情報を取り扱うメディアです。
経済と女性や人種への差別。さらには移民への偏見。これらは、現在ではその国の将来を占う上での格好の指標です。つまり、どれだけ女性や多様な人々が社会に進出し、平等、公平に扱われているかを示すことは、いうまでもなく、その国の将来性に大きく関わっているからです。
ですから、東京医科大学で、入学試験の結果にかかわらず、女性の入学者を制限していたことは、もともと日本に根強く残る女性への偏見や差別がやはり今尚しっかりとあるのだということを世界に知らしめることになったわけです。
これは、日本が未だに移民に対して門戸を閉ざしているという印象と共に、日本そのもののイメージに大きな影を落としているのです。
 
私がヘルシンキとストックホルムに滞在したときに、こんな遠い外国でもこうした記事が取り上げられているのかと印象をもったのですが、ここで同地での女性差別の課題について、もう一つ興味深い話題を紹介しましょう。
 
それは、ローマ法王フランシスコが、2016年にスウェーデンを訪問したときのことです。
首都ストックホルムに限らず、スウェーデンは元々ルター派の教会の多いところです。ルター派はいうまでもなく、プロテスタントの一派で、16世紀にローマ・カトリックの権威と特権を否定することで宗教改革をおこして以来、常にカトリックと政治的にも激しく対立してきた組織です。
 
現在では、そうした対立は過去のこととなり、ストックホルムではルター派教会の代表が教皇を出迎えました。そして、その代表は女性でした。彼女の名前はエバ・ブルンネ。日本ではほとんど知られていませんが、彼女は自らが同性愛者であることを公表し、スウェーデン社会の民主化にも積極的に取り組んでいる人物として国際的に著名な人物です。
そんな彼女が法王と面会したあと、スウェーデンの記者が法王に、カトリックでは女性の司祭をこれからも認めないのかと質問をしたのです。
それを受けて法王は、男性の司祭はカトリックの伝統を継承したもので、女性を任命することは今後もありえないことを明言します。
 
つまり男女の平等をどのように実現してゆくかということは、日本に限ったことではなく、世界共通の課題なのです。
しかし、日本のケースはカトリックのケースと共に世界のメディアで頻繁に取り上げられます。同時に、人権や平等という課題について最も斬新な試みをしている地域として、頻繁に取り上げられるのが北欧なのです。
 
では、なぜ日本とカトリックなのでしょうか。
それは、平等と人権について日本人のスタンスが不透明だからでしょう。
今回の東京医科大学の件も、本音と建前があまりにも異なる日本社会の曖昧なスタンスが批判の対象となったのです。
さらに、表面では男女差別をなくそうとアナウンスしながら、日本には女性にはこれは無理だろうとか、これは女性には向かないだろうというステレオタイプが、今でも厳然と残っていることが挙げられます。育児は女性が、という前提での就業規則がまかり通っている企業。医学の分野でも、外科などはどちらかというと男性向きの仕事という前提が今でもまかり通っているとコメントする人もいます。それは男女差別の問題だけではありません。日本の企業や公的機関に定年制度が残る中、それを年齢に対する差別として国際社会が批判している事実はあまり日本では報道されません。
また、男女の職業差別については、トランスジェンダー(日本語では性同一性症候群とされていますが)の人々への差別などとも無縁ではなく、職業と性別の課題は、今でも日本のあちこちに残っているといえるのです。
 
では、カトリックの場合はどうでしょう。
それはいうまでもなく、世界最大の宗教団体のスタンスとして注目を集めています。しかし、その背景には司祭によって頻発する性的犯罪の問題が隠れていることも忘れてはなりません。
司祭は結婚できず、女性との付き合いも厳しく制限されています。
その中で、自らの欲求に負けて性的な犯罪へと走るケースがアメリカなどでよく報道されるのです。
8月にはいってからも、アメリカのペンシルバニア州で多くの聖職者が多数の子供に性的な行為に及んでいたことが報道され、その犠牲者は1000人を超えるのではといわれています。
男性優位のシステムで、禁欲を求められる聖職者の生々しい実態がマスコミに暴かれているのです。
 
日本の東京医科大学のケースは、systematic manipulation (制度的、構造的に状況を操作していた)ケースであるとブルームバーグは解説しています。カトリックのケースとは異なるものの、そのどちらにも共通しているのは、民主化されてゆく社会の中で、過去の因習に固執する権威ある「大人の世界」の醜さかもしれません。
 
「白い巨塔」と「バイブルの聖域」とに起きた事件。
日本人としては、組織に対してものを言えず、長いものに巻かれる風習を考えてゆく必要があります。こうした「大人の世界」に従うことが「大人らしい」行動とされている日本特有の風土こそが、問題の根源にあるのではないでしょうか。
 

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