ブログ管理人 のすべての投稿

ディフェンスに強い日本人、オフェンスに強いアメリカ人

“Not less difficult is it to make them believe, that offensive operations, often times, is the surest, if not the only (in some cases) means of defense.”

(多くの場合、そして場合によっては、攻撃こそが防衛手段ではないにしろ、最も優れた行為であると説得することは別に困難ではないはずだ。)
ジョージ・ワシントンの格言 より

オフェンスで発揮されるアメリカの「未来志向」

 アメリカ人のビジネス文化、そして行動様式について少し面白い視点で解説してみたいと思います。
 そもそも、アメリカ人は伝統的にディフェンス(防衛)に弱い国民なのです。
 もともとハングリーな移民が集まった国であれば、彼らはまず自分の未来を切り開くことに注力します。つまり、未来に向けて進むことしか道がありませんでした。過去の経験をもとに十分に反芻して、その経験値からしっかりと物事を準備することは、彼らのビジネス文化では伝統的にあまり存在しなかったのです。
 
 逆に、未来志向である彼らにとっては、見えない未来を切り開き、そこで新たな経験を積まなければなりません。ですから、彼らはオフェンス(攻撃)には極めて強く、エネルギーを集中できるのです。
 
 したがって、ディフェンスの弱さを突いて、アメリカに先制攻撃をかけたあと、彼らにオフェンスのためのエネルギーを充電させれば、それは甚大なる脅威となって攻撃者がつけを払わなければならなくなります。有名な歴史的事実を振り返ればわかります。パールハーバー(真珠湾攻撃)がそうですし、セプテンバーイレブン(アメリカ同時多発テロ事件)がそうなのです。今回のコロナウイルス騒動でも、アメリカの方では病原菌を水際で防ぐディフェンスには様々な課題があるでしょう。しかし、一度侵入し被害を与えられた後の、医療機関での対応や撲滅に向けた取り組みといったオフェンスサイドでは、アメリカは大きな力を発揮するのではないでしょうか。
 
 80年代、ソニーや日本車などで、アメリカは産業界の脆弱さをさらけ出しました。全く予期していない国から膨大な投資が行われ、アメリカの消費者をごっそりと持ってゆかれたのです。ディフェンスの弱さを見せつけられた一瞬でした。
 しかし、その経験を受けて、アメリカでは日本のバブルがはじけた後、ソニーなどをモデルにITの考えを組み込んで一気にオフェンスに移りました。そして、今ではITやコミュニケーション関連産業のほとんどをアメリカが席巻し、震源地になろうとしています。自動車業界も同様です。タイヤの製造や内燃機関の改善に日本が固執している間に、ITからAIに至る一連の先端技術をもって、彼らは自動車の中枢を構成する技術変換の先鞭をつけたのです。
 

ビジネスで見られるアメリカの「攻撃」スタイル

 そもそも「攻撃は最大の防御なり」という発想は、中国の『孫子』の兵法にそのルーツがあり、それを武田信玄が使ったことで有名になった言葉です。しかし、この発想を最も実践しているのがアメリカではないでしょうか。弱いディフェンスが故に、攻撃を受けたとき、彼らはその原因がどこにあったか、そして責任を誰が取るべきかなどといった、日本によくある反省を徹底させません。その代わり、この問題を二度と起こさないために、この経験を未来へと活かしてゆくにはどうすればよいか、という発想に切り替えます。彼らの意識の中では過去は小さく、現在が中程度、そして未来が大きいのです。日本はどちらかというとその逆です。過去をしっかりと検証することなく未来に進もうとするアメリカ人のことを、時には無責任だと批判さえするのです。
 
 ところで、アメリカ人はオフェンスのスタイルをよく見ると、そこにはいくつかの傾向があるようです。これは実際の戦争行為ではなく、ビジネスという戦場においても共通した法則です。
 一つは、ディフェンスで受けたダメージへのショックを利用し、オフェンスに移るときの迅速な決裁です。この決裁の速さは、日本のコンセンサスを取りながらじっくりと決裁へと持ち込む時間のかけ方とは対照的です。
 次に、オフェンスにおいては常に相手も抵抗します。その抵抗の様子に従って、オフェンスの戦略を変化させる柔軟性にもその特徴があるのです。時にはオフェンスのターゲット自体も変化します。例えば、ソニーのウォークマンに刺激を受けてiPhoneの開発までこぎつけたAppleでも、途中で何度も開発計画を見直し、プロジェクトを中止・変更しながら、現在に至っています。決裁、すなわち decision making に時間のかかる日本の場合、その後の計画の変更は極めて困難です。
 
 では、ビジネスの上で、そんなアメリカ型企業とどのように付き合ってゆけばよいのでしょうか。もし、競争に勝ちたければ、まず相手のディフェンスを突き破らなければなりません。しかし、その後相手のオフェンスに対して、常に柔軟に対応する組織の改革が必要です。
 さらに、最も大切なことは、日本人はディフェンスが得意だという事実です。ディフェンスには、過去の経験に基づいた詳細で緻密な計画が必要です。見えない未来よりも、ディフェンスには過去の経験がものを言います。従って、アメリカのオフェンス力と日本のディフェンス力の双方を、柔軟に協力して活用できる新たな組織づくりもおすすめです。アメリカを競合として捉えるのではなく、チームに引き入れ、双方の強みをいかした人材活用ができるマネジメントスタイルを構築できれば、素晴らしいシナジー効果を発揮できる企業が創造できるはずです。
 

米進出する日本企業に求められるものとは

 アメリカに進出している日本企業は、オフェンスが得意なアメリカ人をうまく統率できず、むしろアメリカ人の中にあっても日本人とうまくやってゆける「おとなしい」人材を重用します。かつ、日本の経営層まで海外の人を昇進させている企業はあまりありません。
 充分に準備をしてオフェンス力を最大限に活用できる日本企業が生まれれば、それはまさに世界に羽ばたくグローバル企業に成長できるはずです。
 
 その戦略のために一つ知っておきたいこと。それは、いかにアメリカ人のオフェンス力を活用するかというノウハウです。彼らのオフェンスへのモチベーションを刺激するには、リスクや完璧さだけを求めるのではなく、彼らに未来のベネフィットをいかにしっかりと見せることができるかにかかっています。日本人はあまりにも完璧にこだわるため、相手から見るとそのプロジェクトを共にやるベネフィットや価値が見えなくなるのです。
 この異文化をコントロールできるマネジメントスタイルを学ぶことが、今の日本企業には強く求められているのです。
 

* * *

『英語の格言に学ぶグローバルビジネス』山久瀬洋二、アンドリュー・ロビンス (共著)英語の格言に学ぶグローバルビジネス』山久瀬洋二、アンドリュー・ロビンス (共著)
欧米の人がビジネスをする上で好む名言や格言。これを理解すれば、彼らのビジネスシーンでの物事の考え方、仕事のプロセスの背景が見えてきます。
「グループ志向で組織の構造を重んじる日本、個人のイニシアチブが評価される欧米」など、日本人がしばしば困惑してしまう“ 異なるビジネス文化” や、“ビジネスの進め方と発想法の違い”などについて、彼らが好む名言・格言から理解を深めることができる1冊です。

山久瀬洋二の活動とサービス・お問い合わせ

激動期と平和期のサイクルの中に日本を置けば

“The concept of innovation has entered a turbulent age.”

(イノベーション〈技術などの革新や刷新〉でいうならば、現在は激動期に入っている。)
― Springer より

海外との交流から見えてくる「日本」

 年末年始を含めた3週間にも及ぶアメリカへの長期出張を済ませ、さらに帰国早々、久しぶりに韓国フィリピンの友人と一緒に週末を過ごすことができました。
 海外の多くの人との交流を通して、日本を客観的に見るのも大切なことだと、つくづく思い知らされます。
 
 アメリカでは、イラン系の友人とも会食をしました。彼は去年の暮れに久しぶりに故郷を訪れる予定でした。しかし、その後のアメリカとの緊張関係の中、帰国を諦め、両国の狭間で故国の友人や親戚のことを心配していたのが心に残りました。
 そして、日本への帰国直前にイランとアメリカとの間に多くの悲劇が起こったとき、私は彼に連絡を入れ、彼と私とは宗教も文化も異なるものの、私は心から全てが平和になるよう共に祈っているよと伝えました。
 そして帰国すれば、軍事オタクともいえる人が、イランをめぐる様々な情勢について感想を述べているのを目の当たりにし、私はつくづく日本は平和な国だなと、皮肉なため息をつきました。
 

激動期と平和期とを繰り返す中で

 そんな「平和」という概念について、帰国後に夕食を共にした韓国の友人が面白いことを語ってくれました。彼は、日本と韓国との平和のサイクルの違いについて語ってくれたのです。
 彼によれば、今韓国は政治的に激動とも言える変化の最中にあると言います。1945年に日本から独立し、朝鮮戦争、独裁政権や民主化運動を経て現在に至る韓国は、試行錯誤を繰り返しながら、この75年間激しく変化を続け、今その動きが大きな波になっているのだと語ります。

「日本から見れば、韓国は約束を守らず、過去に取り決めたことをすぐに撤回すると思うかもしれないが、それは韓国の社会と政治がどんどん変化し、どこに向かうのか見当もつかないほどに人々の意識も左右に揺れているからなのです」

と、彼は語ってくれました。

 
 そこで振り返ってみると、日本にとっての激動期は1853年にペリーが来航し、明治維新を経て、その後西南戦争を含めると10年ごとに戦争を繰り返しながら、最終的に第二次世界大戦が終結するまでの90年間が激動期だったように思えます。
 それ以前の江戸時代も、その後の戦後から現在に至る時代も、社会の中に様々な出来事はあったものの、大きく見れば平和な時代です。

「明治維新前後の日本もそうですが、激動期には、人々は外からどんどん技術を導入し、なりふり構わずサバイバルへと奔走しますよね」

 私はそう応えます。

「そうなんです。別の例で言えば、日本の戦国時代は激動期ですよね。この時代、日本にはキリスト教も入れば、鉄砲も貪欲に取り入れました。でも、その当時の韓国は平和期だったんです。だから外の動きに鈍感だったし、海外から何かを取り入れる必要もないと鎖国をしていました。日本はそんな激動期の後、江戸時代に同様の平和期に入り、やはり鎖国しましたよね」

「そうそう。そして、今日本は戦後からの平和な時代の中で、外への関心が薄れ、ある意味で精神的な鎖国状態になっているかもしれませんね。韓国も今は経済が発展し、多くの人は日本人と同じようなメンタリティを持っているのかなと思っていましたが、違うんですね」

「韓国はこの75年間の激動期の中で、これからどこに行くのか全く未来が見えないんです。日本と同じように少子化で社会が衰退するのか、激動期特有のハングリー精神で今までにはない民主国家に成長するのか、誰もわからない。だから大統領も逮捕されれば、国家の方針もどんどん変わる。そんな韓国の方向を見極める意味でも、今年の選挙はとても大切なのです」

 我々のそんな会話を聞きながら、フィリピンの友人は、ここ数年フィリピンを揺るがしてきたドゥテルテ大統領の強権的な改革について語ります。フィリピンに代表されるアジア各地も、長い激動期の向こうにどのような未来が見えるか、これからどのような社会に成長するのか、韓国と同じような意識を共有できるのだと言います。

 

今の「平和」に迫り来る「激動」の波

 アメリカ滞在中には、日本のある大手自動車会社の駐在員が面白いことを語ってくれました。
 それは、彼らの掲げる10年後の目標についてです。

「今、車社会が大きく変化するときに、我々はどのような成長を遂げるべきか、10年後に向けた目標を会社は掲げています。しかし、こちらに来てみると、我々が10年後と思っていることが、実はすでにアメリカやヨーロッパでは数年後に実現可能なことと想定して多くの人が技術革新を進めている。これには驚愕させられました。ああ、このままではと思いながらも、日本の巨大な組織を見ると絶望してしまいます」

 平和期の中にいる日本人には、外を見る力と好奇心が薄れつつあります。表題に記したように、世界の産業技術界はグローバルなレベルで激動期に入っています。しかし、日本は変化しなくても、海外と交流しなくてもそれでやっていけると、平和な島国にいる多くの人は心の片隅で安心しきっているのです。

 

「そんな激動期にある社会と、平和の中で安心している社会の双方に、ポピュリズムが蔓延し、それがナショナリズムに変わりつつありますよね。この媚薬についつい手を伸ばしたがる人が、激動期にある国では外に敵をつくり、日本のようにそうでない国の人は、ただ自分の国を自画自賛して悦に入っているというのが今の世界の課題なのでしょうね」

 私がそうコメントしたとき、マレーシアで活動する日本人の若者が言っていたことを思い出しました。

「日本にいるとき、何が息苦しかったかって、多くの人が日本はとても素晴らしく、そこにいれば安全で豊かでいられると本気で思っていることでした。そして、海外と日本を比較するときは、日本は特殊だからとすぐにコメントして、現実を見ようとしない人ばかりでした。そんな社員が集まる大きな組織にいるのがいやで、こちらに飛び出したんです」

 
 確かに、日本は海外とは異なる特殊な国です。でも、どこの国も他の国と異なる特殊な国だということを忘れてそうコメントするのが、平和期の中にいる日本人のくせなのかもしれません。
 次の激動期が、すぐそこまで迫っているかもしれないのです。未来を見るとき、自分の都合の良い未来を描きながら、そこで安心できているのは、この現在の一瞬だけかもしれないのです。
 

* * *

『対訳 日本小史 JAPAN: A SHORT HISTORY』西海コエン (著)対訳 日本小史 JAPAN: A SHORT HISTORY』西海コエン (著)
古代から現代まで、日本の歴史を大きな流れで、かつコンパクトで分かりやすい英語と日本語の対訳で解説。理解を深めるためカラー写真や図版を豊富に使って、日本史の全体像を把握することに主眼を置いた作りとなっています。また歴史事項の英語表現も同時に学べ、教養を高めたい学習者におすすめの一冊!

山久瀬洋二の活動とサービス・お問い合わせ

ウクライナ航空だけではない民間航空機撃墜という悲劇

AFP via Getty Images / ©2020 Cable News Network

“Protesters take to streets in Tehran, furious at their government for shooting down Ukrainian passenger plane.”

(イランでは、政府がウクライナ航空機撃墜事件を起こしたことに強く憤った人々が、抗議のためテヘランの通りを埋め尽くしている。)
― CNN より

高まるイランとアメリカとの緊張感

 イランで発生したウクライナ航空機の墜落事件で、イラン側が誤射により同機を撃墜したことを認めたことは、世界に大きな衝撃を与えました。
 このことが、意図的な行為ではなかったにせよ、罪もない民間人が殺害されたという事実は重いものです。イラン国内でも、軍が誤射した上に、政府がそれを即座に認めなかったことへの怒りの声が人々の間に上がっているようです。
 この事件の背景には、アメリカとイランとの長年にわたる緊張関係があったことは否めません。しかも、イラン軍の指導者バクダッドでアメリカ軍によって殺害された報復攻撃の連鎖が、この悲劇の原因であることは誰もが知るところでしょう。
 
 実は、イランとアメリカとの緊張による民間航空機への誤射は、今回だけではないのです。すでに32年前に全く同じことが、しかもアメリカ側の誤射によって発生し、290名もの命が失われた事件があったことを忘れてはなりません。
 それは、テヘランからドバイに向かったイラン航空655便をアメリカ海軍が撃墜した事件です。この航空機には6カ国の乗客290名が搭乗しており、全員が死亡しています。
 従って、今回の事件が報道された直後、私はもしかするとアメリカ軍からテヘランにある空港へミサイルの発射があり、そのミサイルが誤ってウクライナ機を追尾してしまったのではと思ったほどでした。
 
 イランとアメリカ双方の関係者の心の中には、その時にアメリカが行なった行為と今回の悲劇とが、複雑に交錯していたことでしょう。アメリカは事件発生後9年経って、犠牲者への賠償金の支払いには応じたものの、それは犠牲者を含む人的物的被害の全てをカバーするものではなかったのです。
 
 今回、イラン側は相当動揺したようです。アメリカによる戦闘行為に怒りの拳を振り上げた直後に起きた誤射だけに、世界に対してどのように説明すればよいか、発表までにあれこれと考えたことでしょう。もともとの原因となったアメリカによるイラン軍責任者の殺害行為が世界から懐疑的に見られていた時だけに、誤射事件でアメリカへの非難自体がしにくくなることを懸念したはずです。
 ただ、起こったことはできるだけ透明に迅速に対応することが、国際間での信頼関係を維持するためには絶対に必要です。そうした教訓を我々に伝えるためにも、今回の事件はしっかりと調査するべきであることは言うまでもありません。
 

繰り返される民間機撃墜の悲劇

 国家間の緊張や戦闘行為が、こうした思わぬ惨事へと繋がった事例は、他にも多々あります。代表的な事件としては、冷戦の緊張の最中の1983年に、誤って領空を航行していた大韓航空機が旧ソ連軍によって撃墜された事件や、最近では2014年に紛争地域であったウクライナ上空を航行していたマレーシア航空機が、親ロシア派とみられる戦闘員のミサイル攻撃で撃墜された事件が記憶に新しいはずです。いずれも愚かなことです。
 
 今回の場合、イランが今後被害者の所属する国や遺族にどのような対応をするかは、これから見つめていかなければなりません。ただ、それと同時に、過去に同様の事件が何度も繰り返されている事実を、もう一度検証するべきではないでしょうか。
 紛争地域や国際間の緊張が高まっている地域を全て回避して民間航空機が航行することは、事実上不可能かもしれません。それだけに、テロを事前に防止するのと同様の注意や管理が、当事国となる国々の中で行われるように要望したいものです。
 
 アメリカの場合、今回の事件とイランとの緊張とを混同して、ただイランを一方的に責めることは慎むべきかと思います。実際、アメリカの場合、これ以上イランとの緊張が高まれば、ロシアなどイランと緊密な関係にある国家との関係はもとより、ヨーロッパなど多くの国々との信頼関係にも影響が出てくるでしょう。それはイランにとっても同様です。
 
 一般的に言って、現在の武器は小型化かつ無人化しています。アメリカがイランの軍事関係者を殺害したときは、ドローンが使用されました。また、ターゲットを破壊するときは弾道ミサイルが使用されます。スピードやサイズからして、レーダーによってそれが民間機のような大型で多人数が搭乗しているものか否かは見分けられるはずです。特に、アメリカやロシアといった防空に長けた大国は、そうしたレーダーをはじめとする察知機能は充分に進化しているはずです。それでも民間機が撃墜されるということは、軍隊の現場が本当にそうした先端技術にしっかりと依拠し、かつ指揮命令系統が徹底しているのかどうかをしっかりと調査する必要があることを物語っています。
 

すべての失われた命に祈りを

 実は、イランとアメリカとの緊張が高まり、こうした事件の連鎖が起こったとき、私はちょうどロサンゼルスからの帰国便で太平洋の上空を飛んでいました。
 太平洋はその名前の通り、最も安全な公海かもしれません。それでも、今回のフライトは気流が悪く何度も大きく揺れ、嫌なものでした。ウクライナ航空に搭乗していた犠牲者の恐怖と苦痛がどれほどのものだったかと想像するだけで、心が痛みます。
 
 そして成田空港に到着後、車で帰宅するときにラジオをつけると、なんとあるFM局で株の専門家が、音楽を交えたカジュアルな番組の中で、今アメリカとイランとの間の戦争によって、軍事物資を生産する企業の株が買いだという解説をしていました。
 思わずなんと酷い解説だと怒りを覚えました。人が死に、傷つくことと、株価の上下との関係が無縁ではないことは充分に理解していても、そうした解説をFM局のカジュアルな番組で平気でする人と、そんな株の売買に熱を上げる人がいること自体が、現在の世界の危機の象徴なのではと思ってしまいます。
 
 これ以上、イランとアメリカとの関係が悪化しないよう、宗教や思想信条を超えて一緒にお祈りをしようよと、帰宅後アメリカに住むイラン系の友人と、スカイプを通したビジネスの打ち合わせで語り合ったのは、ほんの数日前のことでした。
 

* * *

『アルゴリズム音読』鴨井 智士 (著)アルゴリズム音読』鴨井 智士 (著)
1日10分、1ヵ月の“音読”で英語の基礎を徹底マスター!
英語を学ぶ上で「音読」は学習効果が非常に高いため、「音読」を中心としてプログラム化された英語学習法が“アルゴリズム音読”。一つの英語の文章につき、4種類の音読方法を実践することで、【正しい発音】【英文のストック】【瞬間翻訳】を習得。 さらにオプションコンテンツで単熟語や文法項目などを強化し、“英語の文構造を意識した語順感覚”を身に付けます。手順をシンプルにし、ルーティンとして毎日実施できる、1カ月間の集中トレーニング!

山久瀬洋二の活動とサービス・お問い合わせ

ニューヨークの年末はカオスと好景気

“Some folks like to get away. Take a holiday from the neighborhood. Hop a fight to Miami Beach or to Hollywood. But I am taking a Greyhound on the Hudson River line. I’m in a New York State of mind.”

(休暇を取って逃げ出す奴もいるね。マイアミビーチやハリウッドに。でも俺は、グレイハウンドに乗って、ハドソン川に沿って走ればいい。だって、ニューヨークに俺の心はあるんだから)
ビリー・ジョエル ”New York State of Mind” より

マンハッタンを走り抜けるタクシーの車中にて

 年末、ニューヨークに到着して、マンハッタンイーストリバー沿いに通るFDRと呼ばれる高速道路を走っていました。
 といっても、タクシーの後部座席に座って、渋滞の中、雨にくすむ川を眺めながら、この原稿を書いていたのです。
 タクシーの運転手は、渋滞にため息をつきながら、電話で仲間と話しています。言語は分かりません。英語ではなく、おそらくバングラデシュかどこかのローカルな言葉なのでしょう。彼らには、彼らの移民ネットワークがあるのです。
 
 ニューヨークは、いつ訪れても相変わらずの印象です。車の渋滞、空港の混雑と、様々なトラブル。クレイジーな街だと多くの人が批判します。
 しかし、なぜかそんなニューヨークに戻ってくるとほっとするのは、ここに16年間住んでいたためでしょうか。
 それだけではないかもしれません。この街は、表向きは何も変わっていないようですが、その内側は常に変化しています。ちょうど、人間の外見は変わっていなくても、内臓は常に進化しているような、あるいは頭脳がどんどん変化しているような、極めて特別な印象をニューヨークは持っているのです。
 
 これは大きな視野で見れば、アメリカ一般にも言えることでしょう。
 几帳面な日本の社会から見れば、大雑把で、この国のサービスは決して良いとは言えません。自分から激しくアピールしない限り何も動きませんし、ある面ではとても理不尽なことも起こります。
 しかし、アメリカの内臓や頭脳は常に進化を続けています。それは、たとえトランプ大統領が移民を制限しようが、世界との関わり方を変えようが、一時的なインパクトはあるものの、大きな流れを変えることはできません。
 
 相変わらずだなと思う背景には、この街では常に大きな工事があちこちで行われ、交通が制限され、そのために渋滞などの不便がつきまとうからかもしれません。無秩序に古いものが新しいものへと変わるため、歪みがあちこちに出るわけです。
 しかし、このことからもお分かりのように、それは常に新しいものがそこに生まれている証拠なのです。
 
 我々日本人は、ともすればこうしたアメリカの姿を見過ごしてしまいます。
 整然と物事が進化するのではなく、各々がそれぞれのニーズと欲望、そして期待によって勝手に変化を続けるのです。そして、その変化に対して、公はそれに沿った法則を作り、政策を発議するのです。民間の方が官より常に先に進み、国を変えてゆくのが、この国の特徴とも言えましょう。
 

好景気に沸くニューヨークのホテルでの一幕

 さて、そうこうしているうちに、ニューヨークのホテルに到着しました。
 ホテルは、アメリカの景気の良さでごった返しており、チェックインにも長い列ができています。こちらのニュースによれば、クリスマスシーズンから年末にかけて家族旅行に出かける人は過去最高とのこと。
 
 これは、中国との摩擦などが続きながらも、アメリカの経済状態が最高潮であることを物語っています。当然、この景気が続くならば、今年の大統領選挙でトランプ大統領に追い風となるはずです。とはいえ、それを防ぎたい人が多くいることは、アメリカに来れば肌感覚で分かってきます。今回の弾劾裁判の後の審判がどうなるか、上院の中で共和党がどう反応するか。大半の人は、大統領は失職しないと言い切っています。ただ、共和党の中でどのような風波が起こるかは、興味深いものです。
 
 さて、そんな好景気に揺れるニューヨークのホテルで、幸い私はメンバーなので、チェックインの長い列に並ばなくてもよいはずだと思って安心していました。私と数人の顧客はそれを期待して、メンバーの特別ラインに並びます。ところが、いつまで経ってもその列が進まず、メンバーの人はむしろ置き去りにされているのです。
 やっと自分の番になって、フロントに問題点を指摘すると、「私は今、ランチが終わって戻って来たばかりだから、そんなこと言われてもどうしようもないわよ」という応対です。
 やれやれ、やはりニューヨークは変わらないなと思いながら、それでもチェックイン後、マネージャーを呼んで、起こった事を冷静に時間軸に沿って説明しました。
 そして、「これはホテルのサービスのためにお話ししていることだし、私のメンバーとしてのプライドのためにもお話ししていることです。特別なことをお願いしているわけではないのですよ」と丁寧に話します。そして最後に、冷静な落ち着いた言葉で「でも、これには怒りを感じました」と説明します。
 するとマネージャーは、「お客様のおっしゃることはごもっともです。我々はフロントの誰がお客様の応対をしたか、調べればすぐに分かります。ちゃんとフィードバックをしておきます。それから、この部屋に移動していただけますか」と言って、24階のスイートルームを用意してくれたのです。
 
 アメリカでは、何か起こったとき、感情的に話すより、事の経緯を冷静に描写する方がはるかに相手を動かすことができるのだということを実感しました。というのも、私はマネージャー個人を責めているのではなく、ホテルのサービスの課題を指摘しているのだ、というものの言い方が相手に伝わった方が、相手もしっかりとビジネスとして受け取って対応してくれるからなのです。
 

進化を続けていくニューヨークの街並み

 こうして、ニューヨークの夜は更けてゆきます。
 今、ニューヨークはハドソン川に面した地域の開発が進み、昔はヘルズ・キッチンと呼ばれ恐れられていた地域が、モダンなショップやビジネスセンターが立ち並ぶエリアに様変わりしているとのこと。景気の実態を調べに、その辺りを散歩しようかと思っています。
 

* * *

『心が伝わる英語の話し方』しゅわぶ 美智子 (著)心が伝わる英語の話し方』しゅわぶ 美智子 (著)
英語でコミュニケーションするということは、頭の中で日本語を英語に置き換えるだけでなく、「文化の違い」や「思考・行動システムの違い」、そして「言語構造の違い」を理解することが必要になってきます。
本書では、多文化コミュニケーションで実行すべきポイントや準備を詳細に学ぶことで、英語文化の中での表現方法や行動様式に適応する力を身に付けます。
日本文化の影響を色濃く受けている日本人が陥りやすい外国人とのコミュニケーションの問題点を、グローバルな視点で見つめ直せる一冊です。

山久瀬洋二の活動とサービス・お問い合わせ

アグレッシブに見える海外での様々なコミュニケーション

“Every person has a unique communication style, a way in which they interact and exchange information with others. There are four basic communication styles: passive, aggressive, passive-aggressive and assertive.”

(全ての人は、他人とやりとりをするときに、それぞれ独自のコミュニケーションスタイルを持っている。それは大きく「受動的」、「積極的」、「その双方」、あるいは「断定的」といった4つに分類できる。)

「自分」を主張するコミュニケーションスタイル

 中東の人はコミュニケーションスタイルが強いとよく言われます。
 商談などをするときに、強く相手に迫り、激しいやりとりを繰り返すので、周りにいる人がびっくりすることもよくあるようです。
 私の友人にイラン系でアメリカ人の女性と結婚して、アメリカに移住した人がいます。
 彼の奥さんは最初、夫がイランで何かものを買うとき、あまりに大きな声で怒鳴り合うために、喧嘩をしているのではないかと誤解し、時には涙を流すこともあったと話します。
 
 ところが、そういうアメリカ人が仕事などで白熱した議論をするとき、日本人からすると、彼らもあたかも喧嘩をしているかのように見えるのです。アメリカ人も自分の意見を語ることに躊躇しません。日本人的に考えれば、もう少し空気を読んだり、他人のことを考えたりして発言してはどうかと思うわけです。
 基本的にアメリカでは、何か言わなければならない人は、そのニーズを口にして語らない限り、誰も相手にしてくれない文化があると言われています。ですから、ニーズを察してもらえると期待する日本人の気持ちは、相手になかなか伝わりません。
 
 では、そうした文化があるのはアメリカだけかというと、そうではなかったわけです。冒頭で紹介した中東の人のコミュニケーションスタイルが、アメリカ人よりも激しいものだと聞けば、それはそれで興味深い発見です。
 そこで思い出すのが、インドです。
 インド人は自分たちのことを、極めて Individualistic(個人主義的)であると表現します。Individualistic な人といえば、誰もがまずアメリカ人を想像するのですが、インド人は自分たちの方がその点では上を行っていると言うのです。
 

文化で異なる「Individualistic」な行動様式

 ここで、面白いエピソードを紹介します。
 それはすでに20年ぐらい前のことです。当時、私はニューヨークに住んでいました。カリフォルニアまで出張し、夜遅くニューヨークに戻ってタクシーに乗ったときのことです。忙しい出張を終えた後の長いフライトだったこともあり、タクシーの中ではただぼんやりと窓の外を流れる景色を眺めていたかったのです。
 ところが、タクシーに乗るや否や、運転手さんが話しかけてきます。

「お前はどこから来たのか」

という質問から始まって、いろいろなことを聞いてくるのです。私はとっさに、この人はバングラデシュからの移民だなと思いました。言うまでもなく、バングラデシュはインドの隣国で、住んでいる人の多くはインド系です。どうしてそう思ったかといえば、彼の風采はもちろんですが、なんといっても私に対して話しかけてくるそのスタイルがヒントだったのです。
 そして、ついに彼は私に対して、

「日本人はお金持ちで羨ましい」

と話してきます。
 やれやれと思って適当に受け流していると、

「お前の月収はどれくらいなんだい?」

と聞いてきます。
 これには流石にうんざりして、

「Well. I think it is not your business…right?(それって君には関係ないことだよね?)」

と答えたのです。
 すると、彼はとたんに不機嫌な声で、

「わかったよ」

と言うと、そのまま黙り込んでしまいます。私はもちろん、そのまま彼をほったらかしにして、こちらも黙って窓の外を眺めます。ほっとしたのを覚えています。

 
 とはいえ、このように自分の好奇心をそのまま表現するインド系の人々のコミュニケーションスタイルは、確かに特異です。おそらくこの運転手さんは、どうして私が自分の月収を尋ねられたことにうんざりしているのか、理解していないのかもしれません。
 言い換えれば、インド系の人々の Individualism とは、自分の好奇心や、自分がやりたいこと、あるいは人にやってもらいたいことを、はばかることなく表明するコミュニケーションスタイルを意味しているのかもしれません。
 
 しかし、こうしたコミュニケーションスタイルは、当然アメリカでは摩擦を起こします。アメリカの Individualism は個人と個人が別々で、それぞれにプライバシーがあることを前提としているからです。月収を尋ねることは、日本ではもちろんですが、アメリカでもタブーなのです。しかし、インドではこうしたやりとりがよくあることは、インドに行ったことのある人ならおわかりでしょう。
 そして、彼らは自分の思い通りの反応を得られなかったときは、実に残念そうな、あるいは不満そうな表情をします。しかし、それが本当に彼らの心を傷つけているのかと言えば、そうとも言い切れず、単純に思い通りにいかなかったことへの不服の気持ちだけなのだと、あるインド人は語ってくれました。
 Individualism と一口に言っても、その単語の意味する行動様式は文化によってかなり異なるのです。
 

主張せず「空気を読む」日本人のコミュニケーションは…?

 昨日、イラン人の友人に、明日は彼の知っている二人の人物に会いに行くんだよと話しました。まさに Individualistic なキャラクターを象徴する二つの民族、アメリカ国籍のイラク系の人と、アングロ・サクソン系のアメリカ人にこれから会いに行くのです。彼らは仕事の上でも個人的にも深い絆のある友人です。
 しかし、彼らは二人でいると、いつもお互いに自分のニーズを主張し合い、なかなか譲りませんいつ二人が大げんかを始めるのかとハラハラします。
 
 「いえね。彼は特に自分と違う意見をどんどん言って切り込んでくる人の方を、むしろ信用するんだよ」と、イラン人の友人は、そのアングロ・サクソン系のアメリカ人のことを解説します。
 
 日本人は、人と意見が異なれば、あえてそれを口にせず、波風を立てません。自分のニーズが相手に伝わらなければ、泣き寝入りすらして、自分だけが犠牲になることもしばしばです。このイラン人の友人との会話を通して、そんな日本人のコミュニケーションスタイルの方が、世界的に見れば奇異なのかもしれないなと、つくづく思わされたのでした。
 

* * *

『30歳高卒タクシードライバーがゼロから英語をマスターした方法』中山哲成(著)横山カズ(監修)30歳高卒タクシードライバーがゼロから英語をマスターした方法』中山哲成(著)横山カズ(監修)

タクシー乗務員の中山哲成氏は、英語の接客を競い合う『英語おもてなしコンテスト』の最優秀賞受賞者。さらにプロの通訳者や有名予備校の講師らが参加する国内最高峰の英語スピーキングコンテスト「ICEE 2018」では、決勝トーナメ ント進出の大活躍。
英語力が限りなくゼロで、留学経験はおろか大学受験の経験すらない高卒のタクシー乗務員が、「英語を自由に話すこと」を目標に試行錯誤し、四年間で英語がペラペラ話せるようになった英語学習法のすべてを大公開!

山久瀬洋二の活動とサービス・お問い合わせ