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中国人の意識の変化こそが香港の人々の脅威を煽る

“Hong Kong endures 20th straight weekend of anti-government protests..”

(20週間絶え間なく続く反政府運動に苦しみ続ける..)
― South China Morning Post より

経済成長著しい上海に見える中国社会の変貌

 上海に滞在していると、中国が見えてきます。
 巨大な龍に成長した中国でも最も経済的な伸長が著しい上海では、今でも古い町並みが壊されて高層ビル街へと変化を遂げています。
 30年前にこの街を訪れたときは、中心街となる南京路から少し路地に入れば、そこには19世紀の住宅が広がり、庶民の生活が息づいていました。しかし、今ではそんな風情を楽しめる場所も限られてきています。
 南京路から地下鉄でほんの数駅行ったところにある老西門は、そんな古い町並みが息づく地域と言えましょう。昔ながらのマロニエの並木路の両側には様々な小売店が続き、その脇からは住宅街へと路地が伸びています。昔ながらの市場は今でも買い物客で賑わい、活気にあふれています。
 
 しかし、一歩大通りを隔てた地域は、すでにそんな町を取り壊し、巨大なアパート群が建設されようとしています。道路を隔てて二つの世界が存在するのです。一つは、住人のコミュニティ意識の強い伝統的な中国の社会。そして、もう一つは、隣に住む人が誰かもわからない大都会ならではの社会です。
 前者は前時代のものとしてどんどん縮小し、後者は所構わず拡大しています。すでに語り尽くされているかのような中国社会の激しい変貌が今なお続いていることが、上海に来れば否応無く実感させられるのです。
 
 そんな変化の中にあって、中国政府は治安の維持にも懸命です。地下鉄の駅でも空港さながらの荷物検査があり、通行人は検査の際に映像にも記録されています。街にはあちこちに警察官がいて、人々の動きを監視しています。
 しかも、新しく開発されたビルが常に商業施設で埋まっているかといえば、決してそうではありません。空きビルと化したところも多く、バブル経済に踊る中国の危うい一面も見えてきます。
 とはいえ、そんな矛盾が見え隠れはするものの、この街に住む人々が豊かさを謳歌していることは否めません。確かに、彼らの暮らしは過去に比べると大きく向上しているのです。
 

開発に晒される、古き良き上海

中国政府の強権と豊かな暮らしとの狭間に生きる

 そんな上海の人に今香港で起こっているデモや暴動のことを尋ねれば、ほとんどの人が理解できないと首をかしげるのも事実です。
 「デモを起こしている人たちは、国を裏切ったとんでもない人だよ」というのが、ほとんどの人の見方です。
 以前は報道されることも稀だった香港での事情も、上海の人の目には不可解を通り越した犯罪行為に映っているようです。
 それは、こと香港だけではありません。台湾での反中国活動に対しても、人々は同じように反応しています。
 
 確かに、この20年で中国経済は大きく成長しました。ですから、豊かな暮らしを維持するためには、今の政府を批判せず、その功績を称えていたいというのが人々の本音でしょう。国が豊かで生活の質が向上し続けている限り、あえて政治の問題には触れる必要がないと、中国の人は思っているのかもしれません。
 さらに、上海の街角に立てば、豊かになった中国を積極的に誇りに思い、そんな中国の一部であるはずの香港や台湾の人々が、どうして中国を批判しているのか理解できないと本気で思っている人が大半のように見えてきます。それだけ、中国は官民共に自信をつけてきたのでしょう。昔、天安門事件などで中国国内を大きく揺らした民主化への意識は、今では完全に過去のものとなってしまったのです。
 
 では、そんな中国で、どこまで政府は人々の自由を認めるのでしょうか。
 最近、原宿や秋葉原から来たのかと思うような、コスプレを楽しむ若者を上海でも見かけることがあります。ネットなどで拡散する新しいライフスタイルが都会生活の中に着実に浸透してきているのです。
 そして、そんな若者を交差点で見かけたとき、年配者や地方から来た観光客が驚きの目で振り返る光景も目にします。
 若者のこうした変化を中国政府がどこまで受け入れ、彼らが政治に口を出さない限り寛容でいられるのかはまだわかりません。
 そして、香港での騒動が中国社会に、岩から滲み出る水のようにじわじわと影響を与えることがあるのかどうかも未知数です。言論の自由が日々規制され、海外からの情報も制限されている中でもなお、中国の都市部ではコスプレが流行り、ホテルのテレビでは海外の情報もそれなりに得ることができるのです。
 それでも大多数の中国人は、そんな情報をあえて無視しながら、逆に成長著しい中国経済を誇りに思うというジレンマの中で生活しているのです。
 

©NIKKEI(ロイター)

薄れゆく香港への関心、迫りくる情報管理社会

 先週から今週にかけては、チリレバノン、さらにはスペインのカタルーニャでの暴動やデモ、加えてブレグジットの可否に揺れるイギリスなどのニュースの中で、香港情勢はそれほど報道されることはありませんでした。日本でも、台風や皇位継承のニュースなどの影響で、香港での緊張への関心が希薄になりつつあるようです。
 そんな状況の中で上海に来てみれば、日本以上に香港も含む海外の情報から隔絶されてしまいます。
 上海の繁華街を歩く人々は、自らの生活を守るために中国政府が「違法行為」に監視の目を光らせ、街のあちこちで個人情報を管理していることは仕方のないことだと信じているのです。そして、豊かであれば国家は維持できると、国の舵を取る指導者や政府の末端で働く警察官も実感しているのでしょう。
 
 こうした中国国内の環境がさらに整い、上海に見られるバブル経済の危うさを強引にでも封じ込めたとき、中国は香港や台湾に対して本格的に腕力を誇示してくるのかもしれません。
 上海の街で輝くネオンの洪水の中に立っていると、その秒読みが始まっているのではないかという恐怖が、逆に香港などでのデモの背景にもあるのではと気づかされるのです。
 

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中国語を学ぶのに、英語を使わない手はない!

『中国語は英語と比べて学ぼう!初級編』船田秀佳 (著)中国語は英語と比べて学ぼう!初級編』船田秀佳 (著)

SVO型で似ていると言われる2大言語、「英語」と「中国語」。本書では、英語と中国語の厳選した 80の比較項目から、似ている点と違う点に注目し、ただ英語と中国語の羅列や併記をするのではなく、しっかりと比較しながら学べるようになっています。中学·高校でせっかく学んだ英語の知識を活用し、日本語·英語、そして中国語の3カ国語トライリンガルを目指しましょう!

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チョ・グク氏法相就任と日韓関係の今後との関係

Lee Jae-Won / アフロ

“As Japan and South Korea Feud Intensifies, U.S. Seems Unwilling, or Unable to Help”

(日本と韓国との確執は加速。アメリカはそれを懸念、とはいえ手も出せず)
― New York Timesより

チョ・グク氏の法相電撃辞任に際して

 日本と韓国との関係が冷え込む中で、その経済的な損失もかなりのものになろうとしています。実際、日本と韓国とを結ぶ定期航空便も運休が続き、人々の行き来も大幅に減少していることは周知の事実です。
 
 そんな韓国で最近話題になっていた、チョ・グク氏の法務大臣(韓国では法務部長官)指名にまつわる一件は、日韓関係の今後を考える意味でも極めて重要です。日本では、なぜ身内のスキャンダルに揺れるチョ・グク氏が、文在寅(ムン・ジェイン)大統領によって法務大臣に指名され、かつその後電撃辞任に追い込まれたのか、そしてそのことと日韓関係の問題とがどのようにつながっているのか、冷静に報道しているマスコミが少ないように思えます。
 

©NIKKEI

文在寅と韓国がたどってきた道筋

 この問題を理解するためには、まず文在寅という人物をもう一度見つめてみる必要があります。
 彼は、朝鮮戦争で分断された貧しい家庭に生まれます。そして、若い頃は軍事政権下で民主化運動に携わり、投獄された経験もありました。
 韓国は、南北に分断された後、民主化運動を抑え込む形で、軍事クーデターを経て、1963年に朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領による軍事政権が発足したのです。世界的に見るならば、当時は冷戦の最中でした。キューバ危機からベトナム戦争へと、冷戦が実際の戦争へと拡大しつつある時代でした。南北に分断された朝鮮半島での危機も、今以上に緊迫していたのです。
 そうした状況の中で、朴正熙政権は、外交的にはアメリカや日本との関係を軸に韓国経済の強靭化を推し進めようとします。
 
 朴正熙元大統領は、維新の名の下に様々な経済改革を断行しますが、一方で言論も激しく弾圧します。秘密警察や検察官の権限が強化され、拷問などによる過酷な取り調べも横行しました。
 そんな朴正熙元大統領の政策に対して、各地で民主化運動が起こり、その最中の1979年に彼は側近に暗殺されてしまいました。
 しかしその後、韓国が民主化するまでに8年の年月がかかります。この期間に政府は何度も民主化運動に対して厳しい弾圧を行い、実際に多くの血が流れました。その過程で、韓国国内では政府以上に強い権限を持っているとされた検察に対して、多くの人が不信感を抱くようになったのです。実際に、1987年に起きた民衆の抗議行動は、民主化運動をしていた学生が検察官の取り調べによって死亡したことに端を発していました。その年にやっとのことで、韓国政府は言論の自由を認め、民主的な選挙を約束します。
 
 その後、それ以前の政権の流れをくむ保守と、民主化運動を進める革新という二つの勢力が、韓国の政界では常にライバルとして対立します。文在寅大統領は、革新側を代表し大統領になった盧武鉉(ノ・ムヒョン)氏によって引き上げられた人物だったのです。彼は民主化運動を進める弁護士として活動していました。
 しかし、そんな盧武鉉元大統領も退陣後、汚職疑惑によって検察の取り調べを受ける前に自殺してしまいます。こうした経緯から、文在寅大統領は、検察制度の改革こそが、韓国の民主化の最終目標だという政治理念を抱いてきたのです。そして、検察権力へ対抗する切り札だったのが、文在寅大統領の側近で、彼の後継者とされていたチョ・グク氏だったのです。
 そして、チョ・グク氏が今日になって電撃辞任をした真相はまだこれから明らかになるにしても、その事件と盧武鉉元大統領が追い込まれた一件とに共通する、生々しい韓国での政治闘争があるように思えるのも事実でしょう。
 
 革新側につく人々は、チョ・グク氏への汚職容疑での取り調べは、そうした民主化への道を閉ざそうとする検察権力の陰謀だと指摘します。
 それに対して、朴正熙元大統領の娘として大統領になりながら、権力を私的に乱用したことで弾劾された、朴槿恵(パク・クネ)前大統領を支持する人々は、容疑をかけられているチョ・グク氏を法務大臣に抜擢する行為自体、大統領の横暴だと批判します。さらに、朴槿恵前大統領が裁判にかけられていることに対しても、現政権の陰謀ではないかと疑念を抱いているのです。今韓国では、チョ・グク氏への処遇を巡って、このように国内の世論が二つに分かれているのです。
 

左:朴正熙 / 右:盧武鉉

チョ・グク問題と日韓関係との関わり

 では、このことと徴用工慰安婦問題をもって日本を糾弾する行為とは、どのように関連しているのでしょうか。
 それは、戦後になって日本との国交を正常化させたのが、朴正熙元大統領による軍事政権下であったことと深く関係しています。
 経済復興を優先する当時の政権が、過去に日本が韓国を植民地にし、戦前戦中に韓国の人々に加えた様々な人権侵害についての微妙な解釈を先送りにしたままで、日韓基本条約によって日本と国交を正常化させたことが、その後の韓国での民主化運動の中で問い直されたからに他なりません。
 民主化運動の弾圧の中で交わされた日本との取り決めそのものが、民意を反映していない政策の象徴となっていったわけです。であればこそ、革新の流れをくむ民主党から大統領になった文在寅氏にとって、この問題は法的にも再検討すべき課題という立場を取り続けているのです。
 では、朴槿恵前大統領などが率いてきた、保守の流れをくむセヌリ党はどうかと言えば、これはこれで、民主化によって改めて指摘されるようになった「日本とのねじれた関係」を日本の謝罪という形で収束させることが、民意を得る上では欠かせないまでになってしまったのです。つまり、日韓問題にけじめをつけることが民主党にしても、セヌリ党にしても、政権を維持する上で唯一共通して合意できる外交政策になってしまったのです。
 
 韓国の中では、民主化をさらに進めてゆこうとする人が、チョ・グク氏を次期大統領へ推す動きも出てきています。
 残念なことは、民主化というある意味で未来に向けて社会を変えてゆこうとする動きが、その過程の中で日韓関係の過去の問題と絡んで、もつれてしまったことです。韓国は植民地時代、そして朝鮮戦争での惨劇を経て、軍事政権の時代に経済成長を始めました。民主化運動はその経済成長に遅れをとる形で、人々が豊かになる過程でうねりが大きくなり、そこで日韓関係の課題が公に論議されるようになったのです。そして、その矛盾に対して、日本側の対応も感情的であったことは否めません。
 
 アジアの文化は、もともと過去の土台の上に未来を見ようとします。それは、過去は過去として切り離し、未来への利益のために妥協してゆこうとするアメリカなど欧米の発想とは大きく異なります。
 この発想の違いが、韓国の国内事情、さらには日本の反発に拍車をかけていることを、どこかで双方が気づく必要があるのではないでしょうか。
 

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『30秒でできる!ニッポン紹介 おもてなしの韓国語会話』IBCパブリッシング (編集)、リムワン (訳)30秒でできる!ニッポン紹介 おもてなしの韓国語会話』IBCパブリッシング (編集)、リムワン (訳)
シンプルだけれどしっかりと伝わる、韓国語の日本の紹介!
双方向に活発な交流がある、おとなりさん、韓国。ビジネスやプライベートでも韓国語の習得を目指す学習者が急増しています。本書では、韓国人がよくする質問への回答や、おもてなしに欠かせない表現を30秒以内のシンプルな韓国語で学べます。日本人と似ているけど、微妙に違う韓国人の文化についてのコラムも充実。この本で韓国語をマスターして、ニッポンナビゲーターになりましょう!

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トランプ大統領の弾劾と選挙の行方

Shealah Craighead / White House / ZUMA Press / アフロ

“President Trump must turn over eight years of his personal and corporate tax returns to Manhattan prosecutors, a federal judge ruled.”

(トランプ大統領は、過去8年間の個人と法人の税務申告書を、連邦裁判所が管轄するマンハッタンの検事に提出しなければならない)
― New York Times より

米史上初の大統領「弾劾」となるか

 最近”impeach“(告発する・弾劾する)という言葉をよく耳にします。
 まず、韓国の前大統領であるパク・クネ氏が弾劾され、2017年2月に大統領の座を追われました。
 そして今、アメリカのトランプ大統領も、ウクライナに政治的圧力をかけ、次回の大統領候補でライバルのバイデン氏に不利となる証拠を捏造しようとしたとして、弾劾を受けようとしています。この審問がうまくいくかどうかはまだ分かりません。ただ、もし弾劾が成立し、トランプ氏が大統領の座を追われるようになった場合、それはアメリカ政治史上初のケースとなります。以前、ニクソン元大統領が「ウォーターゲート事件」で、政敵の情報を盗聴していたとして、弾劾勧告を受けました。
 しかし、彼は失職する前に自ら辞任したのです。従って、アメリカで実際に大統領が弾劾されたケースは今までにはないのです。
 この弾劾の動きに刺激されて、最近にわかに大統領に関する様々な疑惑や調査が目立っています。今回のヘッドラインは、以前に大統領によるニューヨークでの脱税行為疑惑が持ち上がった際の調査に関する記事です。この調査に、大統領とはいえ協力しなければならないという連邦裁判所の裁定が下されたというわけです。
 

©NHK

来年の大統領再選を見据えて

 来年は、大統領選挙の年にあたります。
 アメリカの場合、大統領選挙は現職の大統領が圧倒的に有利です。
 現職の大統領は、様々な政治的成果を最大限に利用して自らの行政力をアピールすることができ、それによって、その能力が未知数である対立候補を追い込めるからです。
 とはいえ、現職の大統領がいかに有利であるといっても、選挙に勝利するには自らの成果をどのようなタイミングでアピールするか、慎重に判断しなければなりません。
 例えば、今好景気であったとしても、大統領選挙の年、しかも選挙のある11月に向けてその好景気を維持できるかどうか、慎重に判断しなければなりません。もし、景気が追い風にならない場合は、外交などその他の成果を強く印象付ける必要に迫られるのです。
 
 現在、アメリカは中国と貿易戦争を繰り広げています。外交面では、トランプ大統領は華やかで豪快なアクションで、ライバルである中国に強い圧力をかけているように国民にアピールします。一見素人っぽい外交であっても、要は一般の有権者に「かっこよく」映ればそれが票に繋がるのです。
 しかし、中国との貿易戦争はお互いにとって消耗戦となります。その結果、じわじわとアメリカ経済にもヒビが入り、その悪影響が大統領選挙のときにピークとなれば、彼は経済と外交の双方で失敗したことになり、再選への大きなハードルができることになるのです。
 
 ですから、トランプ大統領としては保険をかけなければなりません。
 保険のかけ方には、いくつか方法があります。
 まず、貿易戦争の波紋がこれ以上拡大しないよう、中国以外の国とは穏便に事を進め、アメリカ経済に悪影響が出てくるスピードを減速させることです。
 次に、トランプ大統領を支持している層が注目している、移民政策への過激な戦略アピールです。メキシコとの壁が実際に完成しつつあることを強調し、その一方でその費用はメキシコ側へと息巻いていた発言を控えながら、メキシコとの政治的緊張はうまく回避することです。
 当然、中国が香港の問題などで四苦八苦している状況を見極めながら、中国との貿易戦争をできるだけ有利に終結できるか、模索しなければならないことは言うまでもありません。
 
 以前の選挙公約のうち、選挙のために「フライング」した発言はうまく軟着陸させ、実践しているセグメントは強調します。同時に、大統領選挙の直前に国民が納得するように、そうした成果をアピールするタイミングを計ってゆかなければならないのです。
 一般的に、現職が二期を終えて、民主党からも共和党からも新しい候補が立候補する場合は、その勝敗は直前まで分からないというのが実情です。ヒラリー・クリントン有利と言われながら、当初は泡沫候補と目されていたトランプ氏が勝利したのは、それを象徴する現象でした。こうした実例はケネディ元大統領が当選した時など、過去にも何度かありました。しかし、一度当選を果たせば、二期目を狙うハードルはぐっと低くなるのが通例です。あとは、ここに記した通り、滑走路にしっかりと安全に着陸するパイロットのように、こうした政策の瑕疵を目立たせないようにしながら、スムーズなランディングのタイミングを見極めなければならないのです。
 

US Embassy and Consulates in Japan

世界に影響する米大統領の動き

 そんな大統領選を見据えているのは、アメリカ国民だけではありません。
 世界の指導者たちが超大国であるアメリカの大統領選の行方を見極め、自国に降りかかるリスクを最小限に抑えようとしていることも忘れてはなりません。
 例えば、イランの場合は、トランプ氏の票集めのための華やかな外交ショーの犠牲にならないよう、慎重に時間を稼がなければなりません。ロシアやトルコなど、アメリカと過去に強く利害が対立した国も同様です。
 通常、大統領は二期目に入ると、より自分の理念に従った政策を実行したがります。それは慣例として、大統領は二期より長く務められないからです。従って、最後の4年間は、政治的な駆け引きなく、自分の理想を追い求め、歴史に名を残したいというわけです。
 であればこそ、それぞれの国が、自らの事情でトランプ政権が存続するか否かを見極めたいというのが、これから12か月の世界の動きと言えましょう。この影響は、そのまま直近の日中関係にも、日韓関係、さらには香港情勢にとっても大きな要因となるはずです。
 
 以上の事情を考えた上で、トランプ大統領にとって、最大のアキレス腱が今回の弾劾の動きなのです。
 この動きによって指摘されることが、それまで圧倒的に彼にとって有利とされた次回の選挙に影響を与えるかは未知数です。
 しかし、この弾劾の動きが、それに付随して大統領の様々な過去を暴くことになることは、今回のヘッドラインからしてみても明白です。
 世界中がこうした弾劾活動の推移に注目し、それが今後の国際間の駆け引きにも影響してくることは、紛れもない事実なのです。
 

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『A Short History of America アメリカ史』西海コエン (著)A Short History of America アメリカ史』西海コエン (著)
アメリカの歴史を読めば、アメリカのことがわかります。そして、アメリカの文化や価値観、そして彼らが大切にしている思いがわかります。英語を勉強して、アメリカ人と会話をするとき、彼らが何を考え、何をどのように判断して語りかけてくるのか、その背景がわかります。本書は、たんに歴史の事実を知るのではなく、今を生きるアメリカ人を知り、そして交流するためにぜひ目を通していただきたい一冊です。

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異文化での誤解は喜劇そのもの、そしてそれは深刻な悲劇

“Life is a tragedy when seen in close-up, but a comedy in long-shot.”

「人生は近くで見れば悲劇だが、遠目に見れば喜劇である」
Charles Chaplin(1889-1977)

 文化が異なれば、人は異なる行動様式を持ちます。
 ですから、そんな行動様式に支えられたコミュニケーションスタイルも、自ずと文化によって異なってきます。
 そこから発生する摩擦は、このチャップリンの言葉の通り、一見滑稽でそれをネタにすればジョークにもなり、一人でクスクスと笑ってしまうこともあります。しかし、そんな摩擦に見舞われた本人にとっては、それが実に深刻なケースとなっていることも多いのです。

* * *

ケース1:アメリカ人彼氏と日本人彼女

 ここに一つの事例を紹介します。
 
 私のアメリカ人の友人が、日本に滞在していたときのことです。彼は一人の日本人の女性と仲良くなり、付き合うようになりました。
 ある日、二人はビーチに行き、夏の海を楽しみます。そして夕暮れ時に、彼はちょっとムードを盛り上げようと、夕日を見ながら、

「こんな美しい夕日をずっと一緒に見ていたいね」

と彼女に語りかけました。
 彼女は「うん」と頷いて、彼の肩に寄り添います。
 その翌週のこと、彼女は両親に会って欲しいと彼に言うのです。
 どうしてだろうと彼は思い、彼女に聞いてみると、彼からプロポーズをされたものと彼女は思い、両親に相談をしたと言うのです。
 私の友人は、そこまで真剣に彼女と付き合ってはいませんでした。それで、戸惑いながら「ちょっと待ってよ」と言うと、彼女は当惑して目からは涙。結局、二人はその行き違いがもとで別れてしまいます。これは実話です。

 ここで、問題になった「こんな美しい夕日をずっと一緒に見ていたいね」の一言は何だったのでしょう。
 日本人はコミュニケーションをするとき、とかく婉曲になってしまいます。直截に物を言うよりも、一呼吸置いて、比喩や周辺の様子などを語りながら、言いたいことを間接的に伝えることが多いのです。むしろ、そのようにした方が言葉に重みがあると思う人がいるほどです。
 それに対して、英語を母国語とする人は、直接語る内容をそのまま相手に伝える習慣があります。ですから、「夕日を見ていたい」というのは、本当に「一緒に美しい夕日を見て、またいつかこんな機会があればいいのに」と、言葉通りに自分の思いを直接伝えたに過ぎないわけです。
 しかし、日本人のガールフレンドはそのようには受け止めませんでした。彼が婉曲にプロポーズをしたと思い込んだのです。
 
 この話を聞いたとき、そこに集まった友人はみんな大笑いをしました。そして、お前は悪い奴だよねと彼をからかいました。そう、このエピソードは遠くから見れば喜劇なのです。しかし、彼女は傷ついたはずです。もしかしたら、私の友人に裏切られたと思ったかもしれません。彼女にフォーカスしてこのエピソードを見れば、それは深刻な悲劇です。
 

ケース2:ドイツ人上司とアメリカ人部下

 もう一つの実話を紹介しましょう。
 
 これは、アメリカに駐在したドイツ人マネージャーの話です。ドイツではビジネスとプライベートを、アメリカ人よりもはっきりと区別します。よほど気の合った相手でもいない限り、ビジネス上の関係者と食事に行くことはありません。ビジネスはビジネス、プライベートはあくまでもプライベートなのです。しかも、ドイツ人はアメリカ人のようにあまりジョークを言わず、ビジネス上のミスに対して細かく指摘しがちです。
 そんな異なったビジネス文化があるために、そのドイツ人マネージャーはどうしてもアメリカ人の部下とうまくコミュニケーションがとれないのです。その悩みを友人に相談すると、友人はアメリカでは相手に注意をするときでも、まず相手の良いところを褒めなければダメだよとアドバイスしたのです。それは確かに正しいアドバイスでした。
 
 しかし、問題はその翌日に起こります。
 彼は、出社してきた彼の秘書に、彼女がアレンジをしたスケジュールのミスを注意しようと思っていました。しかし、アドバイスの通りにまずは褒めようと思い、

「今日はとても綺麗なスカーフをしているね。素敵だよ」

と言って、にこりとしたのです。

 さて、アメリカ人の秘書からしてみれば、普段仕事で褒められることもなく、嫌な上司だと思っていたわけです。しかし、彼は彼女の服装のことを褒めました。ということは、彼は彼女にビジネスのパートナーではなく、女性として接しているか、あるいは別の意図があってそんな風に言ってきたのではないかと思います。その翌週、彼女は会社を辞めてしまいます。その後、ドイツ人のマネージャーに対してセクハラ訴訟を起こしたのです。
 
 この話も、アメリカ人とドイツ人の行動様式をよく知っている人から見れば、滑稽極まりない喜劇です。しかし、本人たちにとって、これほど深刻な悲劇はありません。
 

 我々は、文化の違いに起因する習慣やコミュニケーションスタイルの相違から、多くの誤解を相手に与えています。それはお互い様ですが、問題はどちらもそれが文化の違いだと気付かずに、相手の性格や悪意と解釈して、相手を誤って評価してしまうことにあるのです。
 国家間の摩擦の多くは、こうした行き違いに端を発して、それが深刻な誤解へと繋がってしまうのです。
 確かに、喜劇こそは、最も深刻な悲劇なのです。
 

『異文化摩擦を解消する英語ビジネスコミュニケーション術』山久瀬洋二異文化摩擦を解消する
英語ビジネスコミュニケーション術

山久瀬洋二、アンセル・シンプソン (共著) IBCパブリッシング刊
*もう2度と外国人から誤解されたくないあなたへ贈る究極の英語コミュニケーション術。出会いの挨拶から、フィードバック、交渉、プレゼンまで、日本人が陥りやすい異文化コミュニケーションの罠を丁寧に解説。文法や発音よりも大切な、相手の心をつかむコミュニケーション法を伝授! アメリカ人のこころを動かす殺し文句32付き!

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サウジアラビアとイランの対立と日韓関係といえば?

“Saudi Arabia and Iran – two powerful neighbours – are locked in a fierce struggle for regional dominance. The decades-old feud between them is exacerbated by religious differences. They each follow one of the two main branches of Islam…”

(サウジアラビアとイラン。この隣国、そして強国は宗教上の支配を巡り常に激しく対立している。何十年にもわたる彼らの確執は今さらに悪化。彼らはイスラム教を代表する二つの宗派に支えられながら…)
― BBC より

サウジアラビアとイラン、対立の根源は

 イエメンフーシ派と呼ばれる組織が発射したドローンがサウジアラビアの石油施設を攻撃したことから、中東の緊張がにわかに高まりました。
 ここで注意したいことは、「フーシ派」という名前はあくまでも西欧世界がテロ組織であると認定し、蔑称として使用していることです。
 彼らの正式名称は「アンサール・アラー Ansar Allah」と言います。
 イランが、このフーシ派と呼ばれる組織を支援していたということから、サウジアラビア、さらにイランと対立するアメリカが、イラン政府を強く非難します。
 
 そもそも、なぜイランとサウジアラビアとは、これほどまでにお互いを嫌うのでしょうか。教科書的には、サウジアラビアにはイスラム教スンナ派の人々が多く、イランはスンナ派と宗旨を巡って対立するシーア派の国家であるからだとよく言われます。そしてフーシ派ことアンサール・アラーは、シーア派の反政府組織で、そこにイランと彼らとの繋がりがあるというのが表面上の解説です。今回紹介しているBBCのヘッドラインもそのように解説しています。しかし、本当にそれだけなのでしょうか。BBCの解説よりさらに根の深いものはないのでしょうか。
 

©THE MAINICHI NEWSPAPERS

歴史的・政治的背景から見る対立の原点

 ここで、歴史にスポットを当ててみます。
 その昔、イランは伝統的に帝政ロシアの南下政策の脅威に晒されていました。イランの西にあって、ロシアのライバルであったオスマン帝国は中東一帯を支配していたため、ロシアの南への出口として、ロシア帝国は常にイランへの利権の確保を画策していたのです。そんなイランに油田が見つかり、イランはロシアのみならず、西欧列強全ての注目するところとなりました。
 20世紀になってオスマン帝国が衰微すると、その支配地に独立運動が起こります。この独立運動を画策しながら、中東での権益の拡大を模索したのは、他でもないイギリスでした。あの有名なアラビアのロレンスなどの活動で、サウジアラビアは分断と併合を繰り返し、現在の王国となったのです。
 
 しかしイランの状況は、オスマン帝国が衰退しても変わりませんでした。彼らは、ロシアへの対応を模索しつつ、中東に勢力を伸ばしてきたイギリスの進出にも晒されます。そして、第一次世界大戦の最中にロシアで革命が起こり、社会主義国となってソ連と国名を変えた旧ロシアは、イランに維持していた権益を放棄しました。イランは、そのままイギリスを中心とした西欧の傘下に入ることになったのです。戦後の冷戦の影響で、ソ連の隣国であるイランは、アメリカとイギリスにとって欠くことのできない戦略拠点となります。当然、油田の権益もイギリス、そしてアメリカに受け継がれ、彼らが支援する新しい王朝のもとで、イランは近代化を進めようともがいたのです。
 しかし、こうしたイランで、アメリカやイギリスの利権を排除しようというスローガンのもとに民族運動がおこります。パーレビ王朝革命で倒され、イスラム教の原理によって国を統治する反米政権が誕生したのは1979年のことでした。イランに莫大な投資をしていたアメリカは、この革命に強く反発します。
 
 さて、サウジアラビアは、イスラム教の聖地メッカを抱えるイスラム教徒にとって極めて大切な地域を支配しています。しかも周辺はといえば、戦前はイギリス、戦後はアメリカを中心とした西側諸国と、それに対抗するソ連に支援されるアラブ社会との狭間で常に政変が絶えません。それだけに、サウジアラビアの中には過激派から穏健派まで、様々な人たちが交錯し、さらに隣国での政変や戦争のたびに政権維持への危機感に晒されます。サウジアラビアの王室はそうした足元の危機を回避するために、湾岸戦争以来アメリカ軍の駐留を許すことで、政権の安定を図ったのです。
 こうした歴史的、政治的背景の違いが、この二つの隣国の対立の原点なのです。
 

©世界の歴史まっぷ

列強諸国のトラウマに悩まされる現代世界

 隣国同士が敵対するという図式は、決してサウジアラビアとイランに限ったことではありません。イランの東隣のパキスタンは、インドと袂を分かって独立して以来、インドとの緊張関係が現在まで続き、いまだにこの二つの国の間には、民間航空すら就航していないのです。インドを統治していたイギリスは、インドでの独立運動を抑えるために、インド国内のイスラム勢力とヒンドゥー教徒との対立を巧みに利用したと言われています。こうして深まった亀裂がインドとパキスタンとの分断を生み出しました。
 
 ところで、もし今海外にライターがいて、ここでの分析と同じ視点に立って、日本と韓国との対立を描こうとしたらどうするでしょうか。
 その人はきっと、このように書くでしょう。
 
「オスマン帝国によって南下政策を阻まれたロシア帝国は、19世紀の末には極東に目をつけた。そして、衰退している清帝国とその影響を強く受けていた朝鮮の李王朝に向け南下政策の矛先を定める。
 中国への権益を維持していたイギリス。さらに、積極的に中国進出を目論んでいたアメリカは、ロシアの南下政策を恐れる日本に接近。イギリスの後押しで日本はロシアと開戦。アメリカの仲裁もあって、日露戦争は日本に有利な条件で終結。やがて、朝鮮半島は日本が支配することになった。アメリカは、日本が朝鮮半島を支配することを前提に、スペインとの戦争で奪い取ったフィリピンの支配を日本が承認することを密約。
 その後、ロシアには革命がおこる。そして、新生ソ連は中国や朝鮮半島への南下政策を正式に断念。そのことで、日本が本格的に中国に進出できるようになると、イギリスやアメリカはそれが新たな脅威に。やがて、その対立が太平洋戦争に発展し、戦後に朝鮮半島は南北に分断
 冷戦の中で、アメリカは韓国を重要な戦略拠点と位置付けた。そんな韓国に民主化の動きが高まり、独裁政権が崩壊。しかし、北朝鮮との緊張関係が続く中、韓国にはイランのような反米政権は生まれず、いまだにアメリカ軍が駐留。これは日本も同様。
 ただ、民主化した韓国の人々は、過去の歴史的経緯から、西欧列強に変わって朝鮮半島を自国の安全のために支配した日本に対して強い敵愾心を抱き続ける」
 
 こうライターが書いたとして、私が先に解説したイランとサウジアラビアとの対立の図式と比較したとき、最後の部分、つまり韓国も日本もアメリカ軍に依存している状況を除けば、様々な類似点が発見できるはずです。
 
 隣国はよく対立するものです。そして、その対立の背景は、民族同士、宗教上の分断だけが原因ではないことが、これでお分かりになるかと思います。
 我々は、西は中東やアフリカ、東は朝鮮半島まで、いまだに19世紀から20世紀にかけての西欧、そして最終的にそれに追随した日本を含めた、当時の強国の利権争いの後遺症から抜け出せずにいるのです。
 

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『日本現代史【増補改訂版】』ジェームス・M・バーダマン (著)、樋口謙一郎 (監訳)日本現代史【増補改訂版】』ジェームス・M・バーダマン (著)、樋口謙一郎 (監訳)

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いったい日本はどこに流れてゆくのか? 日本の現代史 (マッカーサーからアベノミクスまで) に対する海外の見方を説明し、海外の類似した状況と比較することによって、日本が今どのような状況にあるかを簡潔に解説。

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