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北朝鮮問題と素人好みのポピュリズム政権が生み出す「脅威」の関係

©ロイター / Leah Millis

“With North Korea’s deadline for American concessions fast approaching, the North announced Sunday that it had conducted a ‘very important test’ at a missile-engine site.”

(アメリカとの譲歩の期限を目前に、北朝鮮はミサイルのエンジンに関する「極めて重要なテスト」を行ったと表明)
― New York Times より(一部編集)

プロの政治家たちが掲げる理想「ネオコン」とは

 先週末、自宅でケーブルテレビを見ていると、たまたま History Channel北朝鮮を特集した番組に出くわしました。そこで専門家が口を揃えて、すでに誰も北朝鮮を追い込むことができなくなった、と述懐しているのが印象的でした。
 トランプ政権の国家安全保障問題担当大統領補佐官として、北朝鮮問題にも深く関わったことのあるジョン・ボルトンも、そうしたコメントをした一人でした。彼は、歴代のアメリカの政権が現在の北朝鮮を育ててしまったと、アメリカの朝鮮半島への関わり方を厳しく批判しています。
 
 ジョン・ボルトンは、アメリカの政治家の中でも極めて保守色が強く、オバマ政権で進められてきたイランキューバなどとの融和政策を痛烈に批判していました。従って、彼がトランプ政権のチームに加わったときは、どこまでアメリカがイランに対して強硬な対応をとるのか、多くの人が危機感を抱いたものでした。しかし、ボルトン氏は、今年の秋にトランプ大統領とも袂を分かち、政権から離脱してしまいます。
 
 トランプ政権の不思議なところは、彼の政策を象徴するような右寄りの政治家が、政権のチームに加わっては去ってゆくことです。
 そのことを理解するには、トランプ政権の成り立ちを振り返る必要があります。
 まず思い出したいのは、今世紀初頭にアメリカで台頭し、世界の注目を浴びたネオコン(Neoconservatism)という考え方です。ネオコンは新保守主義とも呼ばれ、ジョージ・W・ブッシュ政権などを支えていた人々の多くがそうした主張をしていました。彼らはアメリカという国家の理想のためには、他国に対して軍事介入をも辞さず、強いアメリカとそうしたアメリカを支えてきたキリスト教的な価値観に回帰し、移民政策に対しても多様化するアメリカ社会にブレーキをかけようとしていました。
 
 従って、トランプ政権が誕生したとき、共和党支持者の中でネオコンの流れを汲む右派の人々は、トランプ大統領が表明したアメリカ・ファーストという政策を強く支持してきたのです。ジョン・ボルトンもその一人でした。
 しかし、トランプ大統領は、彼らから見るとあまりにも素人臭く、政策への一貫性が見えてきません。やがて、ネオコンの政治家たちは、トランプ大統領の個性について行けずに乖離し、政権チームから離脱し始めたのです。
 
 実は、トランプ政権は今までのプロフェッショナルによる政治を嫌っていた、ごく普通のアメリカ市民の支持によって誕生した政権なのです。一般の人々の中でも、リーマン・ショック以来失業に怯え、移民の流入で地域社会が変化してゆくことへの不安を抱えた、保守層の支持によって誕生した政権なのです。言葉を変えれば、素人臭さこそが、トランプ大統領の人気を支えてきたのです。それに対して、ネオコンを標榜する人々の多くは、トランプ政権が発信してきた考え方には共感しながらも、彼ら自身はプロの政治家だったのです。
 

©Oliver Contreras / Pool via Bloomberg

素人目線が生み出したトランプ「ポピュリズム」政権

 今、アメリカのみならず、世界中でプロの政治家への不信感が蔓延しています。
 前回の大統領選挙は、ヒラリー・クリントンというまさに政治、外交のプロと、素人で分かりやすい発言で有権者を取り込んだドナルド・トランプとの、プロ対素人の闘いでした。
 多くの有権者には、複雑な国際関係のしがらみや利害関係など、どうでもよいことです。自らの収入が安定し、地域社会が今までと同じように維持されれば、それでよしということになります。移民がアメリカにやってくる理由や、移民の多様性による社会の進化がアメリカを支えてきたと、プロの政治家が理想を語っても、自分たちの職や社会を守るためにはよそ者を安易に受け入れるべきではないと主張した方が分かりやすく、説得力があるように思えるわけです。この素人臭さこそが、ポピュリズム政権を生み出すエッセンスだったのです。
 
 ネオコンの政治家は、同じ考え方を持っていたとしても、その底流には伝統的なアメリカの政治のあり方へのイデオロギーがありました。合衆国憲法独立宣言に端を発し、強く大きな政府が良いのか、地方分権が良いのかという、アメリカの伝統的な政治理念における対立の一つの極に、ネオコンの存在がありました。彼らは世界情勢にも目を向け、その上で、アメリカの利益を守るためには強硬な手段も必要だと主張しました。その結果、ジョージ・ブッシュ元大統領はイラクと戦争を始め、サダム・フセイン政権を崩壊させました。
 
 しかし、トランプ大統領を選んだ人々は、こうした世界におけるアメリカのあるべき姿などに興味を持ってはいないのです。むしろ、アメリカは強くて当然で、世界一のアメリカであるはずなのに、自分たちの地域社会は経済的に困窮し、治安の上でも混乱していると考えます。ですから、トランプ大統領の単純明快な発言が彼らの心の琴線に触れたのです。そして、仕事を守るためにメキシコとの国境に壁を作ろうと思ったのです。ネオコンブームとポピュリズムとの違いは、このプロと素人との発想の違いや溝を見ればよく分かってきます。
 
 トランプ政権の誕生と、その後の様子に目を向ければ、ポピュリズムが一般大衆の政治不信を源流として、次第に大きな濁流へと発展してゆく様子が見えてきます。今、この濁流が世界中を席巻しそうな勢いです。そして、日本も例外ではありません。アメリカの場合、共和党民主党がお互いをチェックすることで、どちらから大統領が選ばれても、そこには一定のバランスが保たれていました。そうしたバランスそのものが政治の醜い取引であると、多くの人々の目には映っていたのでしょう。
 

©2019 Dow Jones & Company, WSJ

世界秩序を保ってきたパワーバランスの崩壊を前に

 トランプ大統領は、自らがそうした背景で誕生した素人出身であるということを否定するために、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)と電撃的な会見を実現させました。しかし、現時点でそうした政治ショーはその後の成果とはなっていません。
 北朝鮮が核を保有する以上、彼らを追い詰めすぎるとまずいものの、彼らの政策を容認するのも危険であると専門家は見ています。だからこそ、そもそも核を持たせるまで傍観していたアメリカの歴代政権を、ジョン・ボルトンは厳しく批判したわけです。政治的立場への是非はともかく、そこに見えてくるのは妥協と謀略とを繰り返してきたプロの政治家を、ネオコンのプロが批判したという皮肉な現実です。
 
 ちょうどアメリカが、共和党と民主党という二つの政治プロ集団によってバランスを保っていたように、20世紀後半は米ソ冷戦による政治的駆け引きが、皮肉にも世界のバランスを維持していました。
 しかし、冷戦終結後、そのパワーバランスが崩壊した隙をついて、中東には過激なテロ集団が、極東には北朝鮮という核保有国が生まれたのです。彼らには通常の国際常識にのっとった交渉が機能しません。
 世界は、ポピュリズムとテロ集団という、極めて対処が困難な政治的環境の中でもがいているのです。
 

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グローバルに生きるってこういうことだ!

『GOING GLOBAL: Beyond Japan and the U.S.』河北常晴 (著)GOING GLOBAL: Beyond Japan and the U.S.』河北常晴 (著)
30年にわたり米国企業でアメリカ内外の戦略業務を展開後、国連ボランティアとしてアジア諸国を回った日本人の冒険譚。
世界的規模の競争と共生が進む現代社会において、グローバルな生き方を目指す人々の「生きた教科書」となる体験談を英文で楽しむ1冊。

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世界を気にしなくなったアメリカと、その波紋に揺れる世界の今後は

“Trump’s trade war spooks markets as White House waits for China to blink.”

(トランプの経済戦争に市場はおどおど。ホワイトハウスは中国が混乱することを期待しているのか。)
― New York Times より

石油にわくアメリカ経済と中東情勢

 イラクアブドルマハディ首相が辞意を表明したことが、中東の新たな不安要因として注目されています。治まらないテロや貧困、イスラム教内の宗教上の対立、そして政府の腐敗などに、市民がしびれを切らしてデモを起こしました。そのデモの鎮圧によって、400人近くの犠牲者が出ていると言われています。
 
 本来、戦後から何度となく続く中東での戦火に常に翻弄されてきたのは、石油資源を中東に頼る、日本をはじめとしたアジアの国々でした。
 それでいて、中東で政治的なつばぜり合いをしてきたのは、常にアメリカとロシア、それに元々の宗主国ともいえるイギリスやフランスでした。
 
☆ ☆ ☆
 
 先日、アメリカのオクラホマ州に出張しました。
 同地の空港に降り立ったとき、滑走路の横で石油の掘削が行われていたことに驚かされました。30年前にオクラホマシティを訪ねたときとは打って変わり、街には新しい高層ビルが建ち、さびれていた中心街も綺麗に整備されています。石油景気なのです。
 この石油景気は、アメリカにトランプ政権が誕生したことと無縁ではありません。そして、中東の今後の不安要因とも無縁ではないのです。
 
 2014年3月28日の記事で、私はアメリカの未来を変えるフラッキングと呼ばれる新しい掘削技術で、アメリカが世界有数の産油国に変貌する可能性を紹介しました。そのときはロサンゼルス・タイムズの記事を参照しました。
 今、アメリカは石油の需要を自国の生産で補えるのです。フラッキングによる安価な掘削技術が、オクラホマやテキサスなどで油田ブームを巻き起こしているのです。
 言葉を変えれば、アメリカは中東の産油国を気遣う必要がなくなり、過去に中東戦争での悪夢となったオイルショックに怯える必要がなくなったのです。
 
 このことは、アメリカが中東において軍事的、政治的なプレゼンスを維持する根本的な動機が希薄になったことを意味します。それが、トランプ政権が「アメリカ・ファースト America First」と豪語し、諸外国の秩序維持に介入することの愚かさを強調して、大統領に当選した背景の一つとなったわけです。リーマン・ショック以来、長くアメリカを覆っていた不景気から脱却し、中国に堂々と貿易戦争を仕掛けるまでに経済が回復した背景も、石油や天然ガスといった国家の基盤となる資源供給の構造の変化が、大きく後押ししていたことは言うまでもありません。これは、日本ではあまり知られていない事実です。
 
 中東の不安が他人事となったことは、アメリカの極東政策にも影響を与えるでしょう。石油の供給ルートであるアラビア海からインド洋、そして南シナ海に至る公海を、アメリカが高額な経費を支払って守る意味も少なくなります。アメリカが日本をはじめとしたアジア諸国と、「石油」という絆で結ばれた同じ利害を共有する仲間ではなくなるからです。
 

バブルの波が押し寄せるアジアの国々

 このアメリカでの景気回復によって生まれた資金は、様々な金融商品として世界を貫流します。日本のような低金利政策の続く国にとって、高い利子での資金の運用は魅力的です。世界中で、以前リーマン・ショックを生み出した構想に似た資金供与が行われています。業績の悪い企業に対して、利息を高くしてリスクヘッジしながら資金を融資する「低格付け債権」が流通しているのです。こうした不安定なバブルが、石油によって生まれた富の運用先として活用されていることは、低金利政策をとる日本にとっては極めてリスクの高いことなのかもしれません。
 
 オクラホマで目の当たりにした景気は、トランプ政権にとっても追い風です。しかも、ウクライナなどが絡んだスキャンダルにトランプ大統領がどれだけ耐えられるかは未知数です。もしも大統領の弾劾が行われ、上院で共和党に造反組が現れたとして、実際に大統領を失職させるだけの票数が集められるかはまだまだ何とも言えません。
 その中で、大統領としては、新たなリーマン・ショックだけはなんとか避けたいと思っているはずです。そのために America First という政策をどう他国に押し付けてくるか。日本にとっても韓国にとっても、はたまた台湾や東南アジアにとっても先の読めない状況が続いているのです。
 
 一つだけ期待したいことは、アメリカは基本的にキリスト教と民主主義の二つのモラルによって政治が左右されている国であるということです。その側面から見た場合、最も右寄りにあるトランプ政権でも、香港での混乱、そして香港市民を不安に陥れている中国の強大化に対して、有権者レベルで強い反発意識があることを無視はできないはずです。このアメリカ人の価値観が、中東や極東からの急速なアメリカのプレゼンスの退潮にブレーキをかけるのでは、と楽観する声があることも事実なのです。
 
☆ ☆ ☆
 
 そんな様々な世界の要因を、今マニラのホテルの一室からCNNなどのニュースを見ながら考えています。
 マニラにあるモール・オブ・アジアという巨大なショッピングモールは、クリスマス商戦初日ともいえる週末を迎え、買い物客でごった返していました。このモールで売られる家電や衣料品は、フィリピンのほんの一部の人しか購入できません。彼らはいまだに月収3万円から5万円という賃金で働いています。しかし、そんな実態が嘘のように、人々はマニラを代表する海辺のショッピングモールに繰り出しています。
 
 裁かれるトランプ政権、安定しない中東情勢、デモや騒乱に揺れる香港や南米各地の政治情勢が、新たに世界的な信用不安が顕在化することで、一つのベクトルに収れんしたとき、フィリピンのような発展途上国は、その影響を国家レベルで受けてしまいます。そうなれば、世界中の人々が一層内向きになり、自国の利益を優先したブロック経済が横行するかもしれません。
 

モール・オブ・アジア

来る混乱の予兆を前に我々が考えるべきことは

 2019年はこれから起こる様々な混乱の予兆の年だったのかもしれません。
 人々は、ほんの数年先の世界すら予測できない状況にあるのです。その点では、我々は中世や近世からほとんど進化していないといっても過言ではないのでしょう。
 フィリピンから帰国したら、再びオクラホマを含むアメリカ中西部への出張が待っています。
 

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『A Short History of America アメリカ史』西海コエン (著)A Short History of America アメリカ史』西海コエン (著)
アメリカの歴史を読めば、アメリカのことがわかります。そして、アメリカの文化や価値観、そして彼らが大切にしている思いがわかります。英語を勉強して、アメリカ人と会話をするとき、彼らが何を考え、何をどのように判断して語りかけてくるのか、その背景がわかります。本書は、たんに歴史の事実を知るのではなく、今を生きるアメリカ人を知り、そして交流するためにぜひ目を通していただきたい一冊です。

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日韓の切ることのできない関係を見つめ直して

日韓GSOMIAが締結されたソウルでの署名式の様子 (2016年11月23日、South Korean Defense Ministry via AP, File)

“Under intense pressure from the United States, South Korea reversed itself at the last minutes Friday and extended an intelligence-sharing pact with Japan, a sign that the Seoul government wanted to halt fraying relations with the two countries.”

(アメリカの強い圧力を受け、韓国が金曜日のぎりぎりの段階で日本との機密情報共有についての条約の延長へと方向転換したことは、綻びた二カ国の関係改善への兆候か)
― New York Times より

日本と韓国、双方にとって大切な隣人

 日本と韓国との関係は、どうしてここまで悪化したのでしょうか。
 ぎりぎりのところでGSOMIA破棄は回避されたものの、隣国同士の国民に生まれた不信感を拭うことはできないようにも思えます。
 
 先日、韓国に出張しました。ソウルの仁寺洞(インサドン)という観光地の近くの建物には「独島(竹島)は韓国固有の領土」という看板があり、そこからさほど遠くない広場には、徴用工の被害者の連名による抗議の看板が掲げられていました。
 
 その翌日から、知人の出版社を数件訪ねました。すると、そうした政治的スローガンとは対照的に、私と応対する人は誰もが明るく日本語で交流してくれました。日本語が話せない人とは英語で、様々な商談を行いました。それは、仁寺洞で見た光景とはまったく異なる暖かい歓迎でした。その席でお互いに政治とビジネスとを一緒にすべきでないことも確認できたのです。
 
 この二つの事実は、日本と韓国との状況をそのまま物語っています。
 実は、日本にとって韓国、そして韓国にとって日本は、失うことのできない大切な隣人なのです。正直なところ、その現実を冷静に見ることのできない双方の政治の世界の貧困さに、思わず絶望してしまいます。
 
 実に単純なことです。
 経済的に、日本も韓国も、中国とアメリカという巨大なIT大国に挟まれています。どのようにもがいても、GAFAと呼ばれるアメリカの巨大IT企業、さらには中国のアリババテンセントといった同様の企業の間に置かれ、二つの国は連携をすることでかろうじて自国の経済的利益を守れるのが実情です。
 軍事的にも同様です。日本と韓国とが分裂した瞬間に、どちらもアメリカに対して強いカードを切れなくなるのみならず、中国の拡張政策にも抗えなくなるのです。今回、GSOMIAの破綻を一番気にしていたのは、実はアメリカでした。日韓関係が破綻すれば、アメリカにとって極東への軍事的な傘の骨を失うことになりかねないからです。
 

隣国の捉え方を狭めるナショナリズム

 さて、ここで日本と韓国とがいかに似た状況に置かれているかを、列挙してみましょう。

1) どちらも経済的には先進国でありながら、人口減少による将来への不安を抱えている。
2) どちらも、高齢化社会への傾斜を危惧しながら、基本的に単一民族国家としての意識が強く、移民政策には慣れていないため、将来の労働力欠如、知的生産物の瑕疵への不安を抱えている。
3) どちらも、旧来の学歴社会への歪みを抱えていて、格差社会の拡大に悩んでいる。
4) どちらも、北朝鮮や中国への脅威にさらされ、同時にアメリカの傘下の中で軍事的に自立できずにいる。
5) どちらも、直接国境を通して人々の行き来のない地理的に孤立した国家である。
6) どちらも、資源に乏しく伝統的に貿易立国として成長しなければならない運命にある。
7) どちらも、漢字文化圏に属し、多くの伝統と文化を共有している。
8) どちらも、アメリカと中国という超大国の間の微妙な環境の中で、政治的にも経済的にも生き抜かなければならない運命を背負っている。

 こうした事例を挙げれば、きりがありません。
 そしてこの二つの国は、狭い海峡を挟んだ隣国なのです。
 
 それでいて、日本は過去に戦争責任について交わした取り決めを盾とした原則論に固執し、韓国は民主化運動の後の韓国の事情に合った戦後処理への対応をしない日本を嫌悪します。どちらが良いか悪いかの問題ではなく、その対立が論理的にお互いの政治的経済的な利益に合わないことは明らかです。双方が偏狭なナショナリズムにそれぞれ縛られていることの不利益の方が、どれだけ大きいかをもっと考えるべきなのです。
 
 韓国を訪ねていつも感じること。それは韓国人の対日感情は決して一色ではないという事実です。これは日本も同じかもしれません。
 しかし、日本語を話せる韓国人の方が、韓国語を話せる日本人よりはるかに多いことは、我々は認めなければなりません。さらに、決して流暢とは言えないまでも、英語でコミュニケーションのできる人口も韓国の方がはるかに多いように思われます。
 これは韓国だけではなく、台湾に行ったときも感じる、日本にとっては悲しい事実です。過去に日本がこれらの国々を植民地にしていたから日本語ができて当然と思う人がいるとすれば、それは時代錯誤も甚だしい愚かな感想と言えましょう。
 

韓国がGSOMIA延長を発表した翌日、名古屋で開かれたG20外相会議にて、茂木敏充外相と康京和・韓国外相(©YONHAP NEWS/アフロ)

日韓の未来のために今、求められること

 今、日本も韓国も、共に経済大国からの凋落の危機感にさらされています。
 それは、一歩海外に出てみれば誰でも感じることのできる現実です。そんな将来の不安を解消し、自らの未来の生活を守るために日本と韓国とが連携してゆくことが必要だと気づかないとすれば、それは国の将来に対する無責任な誤認であるといっても過言ではありません。
 
 日本も韓国も、アジアにある様々な格言を共有しています。
 特に大切なことは、お互いにへりくだって相手を見つめ合うという伝統的な美徳です。声を張り上げて相手を中傷する行為は、日本人の本来の伝統や美意識にも反する行為です。もし、百歩譲ってナショナリズムを肯定した場合でも、冷静に考えれば相手をなじる行為は日本人としての美意識そのものを傷つけているのだということに、我々は気づくべきなのです。
 その上で、未来の日韓関係をもう少し合理的な方向から見つめ直してゆくことが必要です。20年、30年先のお互いの生き残りのためにも、目先の感情に流されず、心を開き合う勇気が今、求められているのです。
 

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『30秒でできる!ニッポン紹介 おもてなしの韓国語会話』IBCパブリッシング (編集)、リムワン (訳)30秒でできる!ニッポン紹介 おもてなしの韓国語会話』IBCパブリッシング (編集)、リムワン (訳)
シンプルだけれどしっかりと伝わる、韓国語の日本の紹介!
双方向に活発な交流がある、おとなりさん、韓国。ビジネスやプライベートでも韓国語の習得を目指す学習者が急増しています。本書では、韓国人がよくする質問への回答や、おもてなしに欠かせない表現を30秒以内のシンプルな韓国語で学べます。日本人と似ているけど、微妙に違う韓国人の文化についてのコラムも充実。この本で韓国語をマスターして、ニッポンナビゲーターになりましょう!

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今や世界最貧国となった日本人の英語能力という「貯金」

©EF Education first 2019

“English language rank is low again. Japan’s English language proficiency is falling behind China’s owing to an education system that doesn’t prioritize real life communication skill, according to a survey that comes days after a political row over the issue erupted in Tokyo.”

(統計によれば日本人の英語能力は、東京での政治問題となりながらも、実際の生活の場でのコミュニケーション力を重視しない教育制度のせいで中国よりも低下し続けている。)
― Wall Street Journal より

情報共有を阻害する日本の「プロトコール」

 この記事は、今年にスイスで世界をネットワークし、2300万人を対象にオンラインで実施された英語能力ランキング調査の結果、中国での英語力は伸長しているのに対し、日本はそのレベルが4年連続で低下し、アルバニアやベトナムにも追い抜かれ、世界でも極めて低いレベルになっているというショッキングな報道の一部です。
 
 日本人とのビジネスコミュニケーションは、他の国々と比較しても困難が多いと、海外でよく指摘されます。
 その理由は、何と言っても《情報共有ができない》ことだと彼らは語ります。実は、日本側は日本側でしっかりと情報を共有しているつもりなのです。しかし、日本人同士では理解できているプロトコールが、海外の人々には伝わっていないことが多いのです。
 
 例えば、「会議」という言葉があります。これを訳せば meeting でしょうか。規模の大きな会合であれば、conference と訳すこともあるでしょう。
 しかし、meeting で海外の人が期待するのは、議論をし、アイディアを出しあって、そこから何らかのアクションプランやソリューションを導き出すことです。この行為は、日本では「打ち合わせ」です。そして、打ち合わせから会議に至って決済するまで、日本では日本人にしかわからないプロセスがたくさんあります。
 
 ですから、海外で打ち合わせをしてきても、それがそのまま日本で全てが承認されたことにはなりません。しかも、この日本でのプロセスのメカニズムは、日本の内部でしか共有されていないことが多いのです。「ミーティング」という簡単な言葉一つとっても、このように文化の違いによる期待感や常識の相違があるのです。
 

「ミーティング」に見る日本のコミュニケーション文化

 そもそも、日本の組織での「ミーティング」は、すでに根回しされたことを確認するために開催されることが多く、その場での発言もそれほど多くはありません。
 では、根回しのタイミングはと言うと、これは海外の人にとって極めて予測困難です。日本ならではの「場」に対する感覚や、「間」、さらに「空気」があるからです。「空気を読む」などと言えば、日本人同士ならまだしも、海外の人から見れば至難の技です。
 
 しかも、「場」について言うならば、それは常に変化します。
 例えば、オフラインで打ち合わせをしようと思っていても、そこへ予想に反して上司がやって来れば、上司の立場や顔を立てて、情報共有が曖昧になるかもしれません。そんな微妙な空気を読めずに思っていることをはっきりと表明すれば、かえって前に進むものも進まなくなるかもしれないのです。
 このような複雑なプロトコールが存在するがゆえに、日本人とのコミュニケーションはやっかいだと感じる外国の人が多いのです。
 
 しかし、これは日本にとっては大きなリスクです。
 相手側に日本のこうしたコミュニケーション文化が伝達され、理解されていない以上、日本内部での状況が見えないままに、相手側は日本側が積極的ではないと判断したり、信頼関係が持てないと誤解したりすることで、逸失利益につながるケースが多いからです。
 
 このコミュニケーションギャップを是正する方法は、まず相手のビジネス文化に対する理解を促進すること。そして、学校レベルで子供の頃から、コミュニケーションができる英語力の育成を行い、社会科教育などと英語教育とを連携させ、世界に通用する発信力を持った人材を育成しなければなりません。
 

グローバル社会から置き去りにされる日本の未来

 であればこそ、今日本で英語教育の変革が叫ばれているわけです。
 グローバルなニーズに応えられる人材を育成できなければ、日本の将来はないというのがその背景にあるわけです。
 しかし、残念なことに、従来の文法と読解中心の英語教育から、コミュニケーションできる人材育成のための英語教育へと大きく舵を切らなければならないと言われて、既に何年もの月日が経過しているのも事実です。
 要は、大学入試制度を変革しなければ、何も前に進まないということが、全ての変革のスピードを遅くしているのです。
 そして、最近になって、外部試験の導入は受験生にとって不公平であるために、それを延期すると文科省が発表したのです。
 
 世界からコミュニケーションが困難だと指摘される日本の中で、やはり根回しや「場」や「間」の感覚に翻弄され、英語教育改革のアクションプランもソリューションも明快に打ち出せないでいるわけです。
 そもそも大学受験での外部試験導入の可否のみに全ての議論が集約され、肝心な世界に通用する人材を育成するための4技能(聞く、書く、読む、話すといった4つの英語能力)の育成、というテーマ自体までもが置き去りにされています。
 そして、外部試験の導入にまつわる愚かな失言や、行政と政治との癒着に批判が集中し、政治家のあくなき政争と無能な官僚の対応に、肝心な若い人材が犠牲になっています。
 
 一方、大学側にも問題が山積みです。大学自体が、大学の自治を忘れ、横並びに外部試験の導入の可否を文科省に預けている様子も奇妙なものです。
 大学がそれぞれ、自らの大学がどのような人材を育てたいのかという独自の指針を出し、それぞれの個性をもって受験制度を考えようという意識が希薄なのです。
 
 こうした行政と教育界での混乱に、海外とのコミュニケーションの課題で最も苦しんでいる実業界も翻弄されています。
 実業界で言うならば、新卒を採用することを基本方針とする業界のあり方も、若者が海外で経験を積む機会を摘み取っているのです。
 新卒採用の風習は、高度成長期の終身雇用の常識から一歩も出ておらず、ダイナミックに変化するグローバル経済の現状から見れば、余りにも型にはまり錆びついた制度といえましょう。しかも、その制度がゆえに、大学入試と入社試験とが一本の糸でつながり、学生は大学に入っても世界情勢や海外の多様な文化に触れる時間と機会を短くしています。
 
 英語教育改革の遅延は、そのまま日本という国の未来への対応の遅延という国家的損失に直結します。
 この課題にかかわっている人の多くが、自分の世代での状況にこだわり、それに固執、維持しようとして、未来の人材への配慮を怠っている実情には、悲しいものがあるのです。
 

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英語力だけじゃない、世界に通用するスキルを身につけるなら

『日本人がグローバルビジネスで成功するためのヒント Tips for How to Succeed in a Global Business Context』ジョン・K・ギレスピー (著)、小野寺粛 (訳)日本人がグローバルビジネスで成功するためのヒント Tips for How to Succeed in a Global Business Context
ジョン・K・ギレスピー (著)、小野寺粛 (訳)
グローバルビジネスのスキルを学びながら、英語学習にもなる。ビジネスパーソンのための対訳読み物。
20年間で、海外の日系企業の5000人を超えるビジネスパーソンと面談を行ってきた著者が教える、「日本人のためのグローバルビジネスで成功するためのヒント」。日本人以外の人々とのコミュニケーションやビジネスに対する見方を説明しながら、日本人の問題点を指摘し、その解決方法を伝授。グローバルに成功したいビジネスパーソンのみなさんに、英語力よりももっとはるかに大事なことをお教えします。

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「個人主義」を「利己主義」と訳す文化背景とは

©FEE

“Individualism is the principle that the single person is more important than the group and that people should work and own things for their own advantage.”

(Individualism インディビジュアリズムは、集団よりも個人が大切で、その個人が自らの意思に従って、自らの利益を求めて活動するべきだとする価値観を指す)
― Cambridge Dictionary より

文字より「語る」西欧文明の遺伝子

 先週のブログで、アジア、特に日本人が物事を表現するときの修辞法について、古代中国までそのルーツを遡ってみました。
 そこで今週は、欧米流の修辞法について考えてみます。
 
 欧米では表音文字が発達しました。
 それは、物を表現するときに、その形状や意図を描写する形で発展した漢字などとは全く異なる体系です。
 「はじめに言葉ありき」というのは聖書の有名な一節ですが、実際に欧米では長きにわたって、言葉が文字に優先したコミュニケーションのツールでした。
 古代ギリシャで現在のアルファベットの祖先ともいえるギリシャ文字が使われていたころ、人々はアゴラと呼ばれる広場に集まって、都市国家の運営などについて話し合っていました。古代ギリシャ哲学も、こうした環境の中で、対話を通して思索を深めていったのです。その伝統は、のちのローマにも受け継がれます。そもそもローマ自体が、ギリシャと同様の都市国家として誕生していました。
 やがてローマが超大国に成長したとき、その運営に携わった元老院の中でも、同様の議論によって国家の方針が討議されていたのです。語ること、つまりディベートが西欧文明の遺伝子の中に組み込まれていったのです。
 ローマ帝国が超大国として西欧社会に拡大したとき、その遺伝子も各地に拡散していったはずです。
 
 一方、中国では、まずは文字によって物事をしっかりと表現することが政治、そして文明の基本となりました。
 その伝統は、漢字が普遍的な文字として中国世界に広く拡散した古代から、脈々と受け継がれてゆきました。
 元々、中国流の「起承転結法」は、皇帝という絶対的な権力者へのプレゼンテーション技術としては最適でした。権力に対する恐怖を人々がくぐり抜けるとき、自らが言いたいことのポイントを最初に語ることには常にリスクが伴います。遠回しに表現しながら、次第に核心に近づけば、そうしたリスクを軽減しながら提案や諫言を行うことができたはずです。
 
 それに対して、西欧では「語ること」を文字で補足する意識が育てられたのです。
そうした伝統が、長い年月の中で形骸化した時期もありました。中世から近世にかけて、権力に対する恐怖の構造がヨーロッパにもあったからでしょう。
 しかし、ルネサンスを経て、市民階級が育成され、やがて彼らが王権などの絶対的な権力に挑戦してゆく過程の中で、彼らの中に眠っていた「語ること」の遺伝子が活性化されます。
 特に、大西洋を隔てた新大陸において、人々が入植地であたかも古代ギリシャの都市国家のように街をつくり始めていたアメリカでは、その傾向が顕著でした。
 

©SSP

“Individualism”を受け入れられないアジア

 古代ギリシャ以来、効率的に語り、相手を説得するにはどのようなレトリックが有効かという発想のもとで、様々なロジックの構成方法が進化し、それが近代国家の中で急速に成長したのです。イギリスの議会での議論の模様などを見ると、いかにその伝統が彼らの遺伝子に中に組み込まれてきているかが理解できます。
 まず自らが言いたいことをしっかりと表現し、その理由を述べ、次にそれをサポートする実例を列挙し、その上で改めて結論をしっかりと表明する修辞法が、市民革命を経たヨーロッパや北米では、有効的なディベート術として育成されたのです。
 
 それに対して、皇帝が君臨する中国、あるいは日本のように士農工商という身分制度で固められた社会では、ディベートを行うこと自体が不可能でした。
 あくまでも、文字文化に則したレトリックを使い、過去の事例などを挙げて背景から語ることで、権力の脅威に対応するということが常識となっていったのです。それは、時とともに人々の「礼節」という価値観に直結しました。
 身分制度という枠の中で、相手をいかに立てながら自らの意思を伝達するかという修辞法が、社会を運営するための礼儀作法となり、人々の心の中に根強い価値観として定着していったのです。
 
 例えば、日本人は立場が上の人の発言に対して、最初から反論することを嫌います。また、自らの意見や好悪をはっきりと表明する人を「身勝手な」、あるいは「自己中心的な」人と認識して、受け入れません。
 それは、「カニの横這い」のようなもので、表向きはどんどん意見を表明してほしいと言っている人でも、実際に欧米流で単刀直入に切り込まれるとムッとするケースが多いはずです。
 
 欧米のディベート文化で培われた「自己や自我を大切にする」という発想法を端的にサポートしている価値観は、インディビジュアリズム “Individualism”です。
 この単語にはほとんどネガティブな意味合いはなく、アメリカ人などにとっては最も大切にする価値観です。しかし、この単語を日本人が英和辞典を作る過程で翻訳したとき、そこに「個人主義」という意味と共に「利己主義」という訳を加えました。面白いことに、アメリカやヨーロッパの辞書には Individualism を selfishness と同義で扱う辞書はまずありません。いかに欧米流の語り方が、日本などアジアの国々で不協和音となっていたかが想像できます。
 
 ここで忘れてはならないことは、ディベートに依拠する欧米のコミュニケーション文化の基本にある《「言葉」は「心」とは異なる 》という発想です。
 言い換えれば、言葉はあくまでも人にロジックを伝達するためのツールであり、相手とディベートをするときは、そのことによって相手の心を攻撃しているのではないという暗黙の了解があるのです。この了解を踏襲すれば、たとえどんなに激しい議論をしたとしても、個人と個人とが傷つけ合うことはないのです。
 しかし、この発想はアジアではなかなか受け入れられません。はっきりと反対意見を言われれば、礼節を逸し、相手を攻撃していると受け取られるのです。攻撃されたと思う相手は面子を保つために、その攻撃に対して厳しい拒否反応を示します。
 
 そして最近では、欧米流にはっきりと物事を表現しなければと考えた人が、このロジックの背景にある「ツール」として言葉を使うという了解を知らずに、強い言葉で自己を表現することがはっきりとものを言うことだと誤解することもあるようです。
 

 古代ギリシャと古代中国。2000年以上前に分岐したこのコミュニケーション術の相違が、異文化での最も深刻な行き違いの原因になっていることに気づいている人はまだまだ少ないようです。
 

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母国語は、一番近くにいる人の言葉を繰り返し聞いて、ものと状況を目で見て体験しながら自然に身に付けていきます。このことは英語を学ぶ時も同じです。できる限り文字を見ずに、イメージを見たり、思い浮かべたりしながら音を聴くことを中心にトレーニングしていく必要があります。本書は、英語の語順や表現をイメージと音に集中しながら繰り返しトレーニングすることで頻出表現を頭の中に確実に定着させる《インプット》パートと、インプットした表現を自在に組み合わせて長く話すためのトレーニングを行う《アウトプット》パートで構成。30日間のトレーニングで誰でも英語が話せるようになるスピーキング入門プログラムです。

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