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見えない組織から生まれたアメリカの新たなうねり

“The more you can make your organization invisible, the more influence it will have.”

「あなたの組織が見えなくなれば、より多くの影響を与えることができるようになる」
― Douglas Coeの講演より

Invisible organizationが思い描くキリスト教の再組成

 Invisible organization「目に見えない組織」という言葉があります。これは通常ビジネスなどで、バーチャルな連携によって発生する組織を意味する言葉です。
 しかし、この言葉は元々宗教活動などにおいても使用されていました。
 例えば、キリストが最初に伝道を始め、その後彼の弟子たちが教えを広め始めたとき、それは Invisible organization でした。しかし、その組織は確実に拡大し、やがてローマ帝国末期に国家の宗教として崇拝されるに至りました。
 
 この Invisible organization の運営者であることを自認した人物が主催し、大統領をはじめとするアメリカの政財界の大物が、任期中に必ず一度は参加するイベントがあるのです。それは毎年2月の最初の木曜日に、朝食からランチ、さらにはディナーに至るまで開催される ”National Prayer Breakfast” です。2017年の冬に他界したDouglas Coe という人物が運営する、The Fellowship というキリスト教系の組織がそれを主催します。Douglas Coe は、オレゴン州出身のプロテスタント系の伝道師で、終生自らのことを Invisible organization の主催者だと語っていました。実際、彼の主催する組織の活動に参加した政治家は民主党共和党を問わず、直近ではヒラリー・クリントンジョージ・W・ブッシュなど、アメリカのほとんど全ての指導者を網羅しています。
 そして、Douglas Coe はネットワークを通じて、世界中の政治家とアメリカの指導者とのミーティングをアレンジし、イスラエルやアフリカ諸国、ソビエト崩壊後のロシアなど、様々な地域とアメリカとの紐帯に貢献したのです。これは、日本ではあまり知られていない事実でしょう。彼はその組織を通じて一つの目論見を果たそうとしていたように思えます。それは、キリスト教の再組成という遠大なビジョンです。
 

アメリカで静かに進行するキリスト教の融和

 アメリカ人の多くはキリスト教を信仰しています。アメリカ人の最大多数が所属する様々なプロテスタント系の宗教組織に加え、アイルランドやイタリア系のアメリカ人を中心にローマ・カトリックも深く社会に浸透しています。
 今、そんなキリスト教を一つにまとめようとする動きが静かに進行しているのです。その輪は、キリスト教の母体として旧約聖書を共有するユダヤ教にまで及ぼうとしています。元々アメリカの友好国ではあるものの、トランプ政権はさらにイスラエルとの同盟関係を強化し、中東諸国に衝撃を与えています。さらに、アメリカとロシアも決して以前のように激しく敵対するライバルではなくなりました。ロシアがソ連の主軸国であったころ、アメリカは共産主義への脅威から、ソ連と激しく対立していたことは周知の事実です。しかしソ連が崩壊し、ロシアに伝統的に根付いていたロシア正教の活動が活発になると、アメリカとロシアは猜疑心を持ちながらも静かな接近を始めたのです。
 
 西暦395年にローマ帝国の国教となって以来、ローマ帝国に保護され、国家の精神的支柱となったキリスト教を、人々はローマ・カトリックと呼びました。そしてローマ・カトリックは、自らの教義に相容れないキリスト教徒を異端として追放し、以来長年にわたってそうした人々に厳しい迫害を加えてきました。そして、キリスト教ではないにしろ、キリスト教の母体ともいえるユダヤ教に対しても同様の迫害を加え、その伝統は近現代にまで至りました。帝政ロシアナチス・ドイツでのユダヤ人への迫害は、20世紀の記憶として人々の心に焼き付いています。さらにローマ・カトリックは、東ローマ帝国が主催するキリスト教に対しても、教義の違いをもって絶縁し、それがロシアやギリシャなどで信仰される正教会と呼ばれるキリスト教の母体となりました。
 16世紀以降、そんなカトリックの権威に対抗して広がったプロテスタント系の人々の活動も、神聖ローマ帝国とつながるカトリック系の国王や領主などからの厳しい弾劾を受け、プロテスタント系の人々の多くが新大陸に避難し、アメリカ合衆国成立の原動力となりました。このように、キリスト教の様々な分派は分裂と対立を繰り返し、お互いを強くけん制しながら、現代に至ったのです。
 
 過去に一度、そんなキリスト教世界がまとまろうとする動きがありました。それは、イスラム教国であったセルジューク朝トルコが東ローマ帝国を圧迫したときのことでした。時の東ローマ帝国皇帝が、絶縁状態にあったローマ・カトリックの教皇に救援を求めたのです。それが世に名高い十字軍が始まった原因となりました。一瞬とはいえ、キリスト教が対立から融合に向かった瞬間です。1096年のことでした。
 それから1000年近くを経た現在、キリスト教の多様な組織が共存するアメリカ社会の中で、それまでの対立から融和へと向かう静かな活動が再び始まったのです。それは、共産主義の脅威に起因し、現在ではイスラム教との対立軸の中で政治とも融合する一つのうねりとなりつつあります。それがトランプ政権でのイランや中国との対立、さらにはイスラエルとの同盟強化の向こうにあるパレスチナの人々やアラブ社会との対立などを生み出しました。こうした静かな動きを支える組織こそが、Douglas Coe などに代表される Invisible organization なのです。
 

(左から) ポパイ,スーパーマン,トムとジェリー

日常の小さな営みから巨大なうねりへ

 人は、生まれながらにしてその地域の文化の影響を受けて育ちます。
 例えば、アメリカの漫画を思い出してください。スーパーマンでも、トムとジェリーでも、ポパイでも、そこには常に正義のヒーローと悪人とが存在し、正義が悪をやっつけるというテーマが底流しています。子供の頃から、人々は無意識に、この二元論を植え付けられてしまうのです。その背景には宗教での正邪の発想があります。この正義と悪との二元論は歴史を通して人々の心に刻まれ、人々を敵と味方とに引き裂きました。古くはキリスト教内での異端への弾劾に始まり、近年では第二次世界大戦において、ドイツ人が自らを正義として、ユダヤ人は悪人であるというレッテルを貼って虐殺しました。今、アメリカ社会の中には、共産主義を経て、イスラム教への脅威が新たな善と悪という対立項を人々の心の中に植え付けています。この善と悪という二元論が浸透する過程を見れば、最初の段階ではどこにもそれを指導するリーダーは存在しません。それは町の教会での日曜日の礼拝や、学校での道徳の授業、あるいは家庭教育などといったごく日常の中で培われてゆく価値なのです。そして、それがある程度社会の価値として認知されたとき、そこに指導者が現れ、一気に社会や国家を統率するようになるのです。Invisible Organization とは、そうした日常の小さな営みを巨大なうねりに変化させる見えない触媒の役割を担っていることになります。
 キリスト教が過去の対立から融合へと向かうのが良いことか、それとも新たな二元論へ向けて人々を駆り立てる危険な行為かは、我々一人一人がしっかりと判断しなければならないことでしょう。
 
 ただ、現在問題となっている政治の世界でのポピュリズムが、この日常の価値を巨大なうねりへと変化させる強力な触媒となっていることは事実です。日本と韓国との対立、中国とアメリカとの対立、イスラム社会でのシーア派スンニ派との対立、さらに宗教に起因するインドとパキスタンとの対立など、二元論が社会に浸透するとき、常にそこには Invisible Organization という触媒があり、それによりガスが充満したときの起爆剤の役割を担おうと、チャンスを狙う指導者がいることを我々は注視しなければならないのです。
 

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『アメリカ史 / A Short History of America』西海コエン (著)アメリカ史 / A Short History of America』西海コエン (著)
アメリカの歴史を読めば、アメリカのことがわかります。そして、アメリカの文化や価値観、そして彼らが大切にしている思いがわかります。英語を勉強して、アメリカ人と会話をするとき、彼らが何を考え、何をどのように判断して語りかけてくるのか、その背景がわかります。本書は、たんに歴史の事実を知るのではなく、今を生きるアメリカ人を知り、そして交流するためにぜひ目を通していただきたい一冊です。

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国際社会でシニカルに笑われる日韓論争

©時事通信社

“An official of South Korea’s foreign ministry told Reuters it has expressed regret over Kono’s ‘rude’ attitude. Anger over wartime history can stir nationalistic feeling in both countries.”

(韓国外務省の関係者は、ロイターの取材に対して河野外相の無礼な態度に遺憾の意を表明。先の戦争をめぐる怒りが両国のナショナリズムをかきたてる)
― ロイター通信より

とある立食パーティーにて、外交について思考する

 たまたまロサンゼルスで出席したある立食パーティーで、日本語で話しかけられました。「なぜ日本語を」と聞くと、横須賀の海軍基地将校として勤務していて、今は業務で帰国後の休暇中だからだということでした。
 そこで、はあえて「Thank you for defending us. (日本を守ってくれてありがとう)」と冗談っぽく話しかけました。相手の反応に興味があったからです。すると彼は、「Oh. It is a partnership. Sure it is. (我々はパートナーだよ。もちろん)」とニコリとして答えてくれました。
 
 Partnerという言葉は、同等の立場で平等の原則に従って一緒に仕事をしている、という前提に基づく発言です。彼はアナポリス(アメリカの海軍士官学校)を卒業した海軍の幹部の一人です。であれば、当然こうした質問にどう答えるかを心得ているわけです。私の質問が、トランプ大統領が「日本はアメリカを守ってくれない」と発言したことを前提とした皮肉であることを彼が理解していたかどうかはわかりませんが、この返答は極めて外交的で軽妙です。相手を尊重しながらも建前を話していることをほのめかした発言です。
 
 そして、日韓関係の話題に移りました。
「どうしてどちらの国も意地を張っているんでしょうね。極東の状況を知る多くの関係者は少々戸惑っていますよ。あなたはどう思いますか」
と質問を受けます。
「70年以上にわたって戦前の問題を引きずって、いまだに解決できないのは、双方に問題があると思いますよ。例え日本がすでに話し合いは済んでいるはずだと主張しようが、韓国がそんなことはないと反論しようが、事実として70年間何も進展しないこと自体問題ですね。おそらくお互いの外交力の欠如でしょう」
と私は答えます。
「いえね。アメリカはアメリカンインディアンへの過去の厳しい仕打ちなど、国内ですら様々な民族問題を抱えていますしね。その補償なんてこともあるんですよ。しかも、ベトナム戦争ときたら、アメリカがベトナムから何を言われても仕方がない部分もあるでしょう。でも、全てに言えることは、未来に向けて動かないことには、過去にこだわっていてもどうしようもないってことです。もっとビジネスライクにいかないものですかね」
横にいた、私の知人がそう言って話に加わります。
 それに対して私も「全く同感。これはどちらの政府にも問題を解決する能力がなく、その言い訳として国民を煽っているとしか言えないように思えますよ」とコメントしました。
 

©Nikkei Inc.

外相の「無礼」パフォーマンスに見る日本外交の落とし穴

 そんなとき、河野外務大臣が駐日韓国大使の発言を「ちょっと待ってください」と強く遮ったことをふと思い出したのです。これは韓国のナム駐日大使が、徴用工の問題で日本と韓国の企業が共同で賠償しようという韓国の提案を日本が拒絶したにも関わらず、それに再び言及したときのことでした。
 「日本の立場は伝えてあるのに、それを知らないふりをして再び持ち出すのは無礼でしょう」と外相が言及したことは、マスコミも大きく報道しています。
 
 そして、日本の世論のほとんども、煮え切らない問題に日本側がきっぱりと、かつ強く言明したことに喝采を送っているかのような論調が目立ちました。
 河野外相は参議院選挙の前に「怒れる日本」を強調したかったのでしょう。しかし、海外のマスコミの反応は極めてシニカルでした。海外の識者の多くはどちら側にも味方せず、少々あきれた反応をしています。それは今回のように、海外から日本を見ているとよくわかるのです。
 
 声を大きくして、感情的に相手に語ることと、しっかりと自らの意思や意見を伝えることとは、そもそも違います。外交のような知的なやりとりが要求される場であれば、なおさらです。日本が不満に思っていることをきっぱりと伝えることは構いません。しかし、冷静に理論立てて明快に伝えればいいものを、普段は曖昧で総花的で、行き詰まると感情的という物事の運び方は稚拙です。
 
 これは日本を含め、アジアの人々がよく陥る落とし穴なのです。
 はっきりとものを言う時に声が大きくなっても構いません。英語の場合であれば、相手が話しているときにそれを遮って、ちょっとコメントさせてくださいと言っても構いません。しかし、そのとき実は、彼らは冷静に自らのロジックを組み立てて、知的に話そうと努めるのです。決して感情的なものの言い方をしているのではないのです。それを、日本人も含め多くの人が勘違いして、強く感情的に話せばよいと思い、そうできた人にすばらしいと喝采を送るのです。これが、大きな誤解につながります。
 河野外相の発言は、日本人の外交力のなさを露呈しています。アメリカ人などと仕事をしたことがある人は、よくアメリカ人同士が意見を闘わせているとき、あたかも喧嘩をしているかのように見えると感想を述べます。しかし、それは喧嘩ではなく、意見をテーブルの上に乗せて叩き合っているのです。感情的なのではなく熱心なだけなのです。だからこそ、後で食事などをするときは、さっきの議論はなかったかのように和やかにしています。
 
 特に、アジアでは欧米と異なり、目上の人への配慮も必要です。ナム駐日大使が年長者であれば、そうした最低限の礼を尽くすことで、逆に日本のしっかりとした対応力が評価されるはずです。そうした意味では、英語ではない日本語と韓国語の会話の場で、相手の話を遮ることも無礼かもしれません。「もともと韓国の方が」と言う人もいるでしょう。その議論には今回は敢えて立ち入りません。仮にそういう人の立場を支持し、もし日本が毅然としたいのであれば、別の方法できっぱりと物事を言わない限り、世界注視の外交舞台ではお笑い種となり、結局どっちもどっちだという印象を与えてしまいます。おそらくあの場面がテレビ中継されたのは、日本の世論を意識してのことでしょう。日本という内側の世論だけを意識した行為は、国益を放棄した売名行為といわれても仕方ありません。それこそが世論を迎合させようというポピュリズムなのです。
 

©Sankei Shimbun

日韓対立の解決に向けて合理的な未来志向となれるか

 「Well, what can we do? I simply hope you guys can solve this awkward puzzle without wasting time. (我々には何もできません。日韓双方がこの気まずい課題を、時間の浪費なく解決できるといいのですがね)」とそのアメリカ将校はにこやかに語り、その後少々ジョークを交わしたあと、お互いに次の相手との話し合いに移りました。
 合理的な未来志向。アメリカ人は得意でも、日本人や韓国人はこうした発想に立つことは極めて苦手なことなのかもしれません。困ったことに、似た者同士が争うと自体がより深刻になるわけです。グローバルなレベルで課題が山積する現代にあって、二つの経済大国のこうした実りのない対立を何年も続けていること自体、大きな損失だと多くの人が思わないとしたら、それこそ極めて危険なことと言えるのではないでしょうか。
 

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『日本人が誤解される100の言動: 国際交流やビジネスで日本を再生するためのヒント』山久瀬洋二 (著者)、ジェイク・ロナルドソン (訳者)日本人が誤解される100の言動: 国際交流やビジネスで日本を再生するためのヒント』山久瀬洋二 (著者)、ジェイク・ロナルドソン (訳者)

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「キリスト教を卒業したアメリカ人」が創る未来とは

広大な大地の残るアメリカ

“The road to success is not easy to navigate, but with hard work, drive, and passion, it’s possible to achieve the American dream.”

「成功への航路は困難がつきもの。しかし、賢明に働き、仕事をマネージし、情熱を持っていれば、アメリカンドリームを達成することはできるはずだ」
― Tommy Hilfiger(アメリカの起業家)の言葉より

 アメリカに出張しています。
 こちらに来て飛行機の窓から下を見ると、いつも広大な大地に走る高速道路や貯水池、そしてその脇にブドウの房のように人工的に広がる住宅地などが目に留まります。
 特に、西海岸は開拓されて200年も経っていません。すでに3億2千万人を超える人口を有するアメリカは、これからも移民政策が大幅に変わらない限り、先進国の中でも人口が増え続け、その人口比に比例して経済も堅調であると言われています。

移民の力で成長を続ける経済大国・アメリカ

 確かにアメリカには広大な大地が残っています。その多くは地価もまだ安く、開拓されて以来さほど人口も増えていません。アメリカ市民の出生率は1.8人ということなので、それだけだと人口は減少傾向にあるはずで、こうした地方都市が全米に拡散しているのも現状です。そんなアメリカの人口増加を牽引しているのが、言うまでもなく移民パワーなのです。移民によって、アメリカの人口は驚異的に成長したといっても過言ではありません。
 なんとアメリカの人口が2億人を超えたのは、1967~68年にかけてのことです。そして、2000年の段階では2億8000万人強だったのです。この19年ですら4000万人以上の人口増加があったことになるわけです。ということは、この多くが新生児ではなく移民だったということになります。
 
 広大な土地が残り、人口が増え続けているとなれば、当然産業が育成され消費も伸び続けます。貧富の差や地域での経済格差が広がっているとはいうものの、IMF(国際通貨基金)の統計によれば、GDP(国内総生産)を総人口で割った一人当たりのGDPではアメリカは世界10位を維持していて、世界28位の日本とも大きく水をあけています。これを世界で最も人口の多い中国と比較してみると、さらに面白いことがわかります。
 中国は世界2位の経済大国であると言われますが、一人当たりのGDPは日本の半分以下で、世界でも73位に甘んじています。まだまだ豊かではないのです。
 しかも、中国の場合、最近まで実施してきた一人っ子政策の影響に加え、富裕層が増えたことで出生率が極度に低下し、これから貧しい人々が膨大な老齢者を支えなければならなくなります。これは、日本や韓国に対しても指摘されている未来の課題以上に重大な問題かもしれません。
 さらにインドのように、経済成長がまだまだゆっくりしているにも関わらず、人口が極度に増え続けている国も多くあります。
 それに反して、人口増加が低い国は、日本のように移民への門戸が狭く、膨大な人口増加に苦しむ第三世界の人々への受け入れ口にはなりにくいのです。
 
 トランプ政権によって、大きく移民政策にメスが入っているとはいえ、アメリカはそうした苦しむ国々からの移民の受け入れ口であることには変わりないのです。
 こうした根拠から、アメリカはいまだに極めて高い将来性を維持した国家であるということがわかってきます。
 飛行機の窓の下に広がる光景は、人が自然を変え、征服してゆくことを国是としてきたアメリカの姿に他なりません。であればこそ、経済成長が続くアメリカの課題は、むしろ自然との共存をいかに進め、移民による多様な社会をいかに前向きに育ててゆくかという課題に集約されるのです。
 

開拓されたアメリカ。この地域には中米やカリブからの移民が多く住んでいる

多様性の広がりと共に志向を変えてゆくアメリカ人

 ここで、「キリスト教を卒業したアメリカ人」というテーマに触れましょう。
 
 歴史的に見ると、アメリカはヨーロッパでの迫害を逃れて海を渡ってきたプロテスタント系の人々が中心となって開拓した国家です。
 そこに、カトリック系や様々なキリスト教の分派に属する人々、さらにはユダヤ系の人々がヨーロッパから流れてきました。
 彼らは自らの宗教にこだわり、そのライフスタイルをしっかりと守っていた人々でした。
 しかし、科学が進歩し、産業が発達すると状況が一変します。特に60年代から全ての人種や移民に平等の政治的権利を付与する公民権法が施行されて以来、宗教観による市民同士の軋轢がどんどん減少してきました。この世代以降、教会に通わない「元キリスト教徒」や「元ユダヤ教徒」とも言える人々が増えてきたのです。
 私の友人も、親は熱心なプロテスタントだったものの、自分は一切宗教とは関わりがないという人がほとんどです。彼らこそが、シリコンバレーなど都市部の先端産業を担う人々の中核なのです。多様性が拡大すればするほど、この「キリスト教を卒業したアメリカ人」が増えてきます。
 
 トランプ政権の支持層は、こうした新しい社会に対して危機感を抱く伝統的保守層に属する人々であるといっても差し支えありません。彼らはいまだにアメリカ市民の中核であるといっても過言ではないのですが。
 とはいえ今後、「キリスト教を卒業したアメリカ人」がどのように増加し、世界の多様な価値観と融合してゆくのか、それとも、いわゆる伝統的保守層の揺り戻しによって社会全体が閉塞してゆくのかは、未知数です。しかし、少なくとも30年というスパンで見るならば、伝統的保守層との人口比率も大きく変化してくるはずです。すでに、いわゆる白人系の人口を非白人系の人口が上回ろうとしている事実も忘れてはなりません。
 

Credit: Only in United States

 
 では、そんなアメリカのリスクはどこにあるのでしょうか。
 それは、変化を受け入れ、それを積極的な価値観としてきたアメリカ人の行動パターンそのものにあると言えます。
 よくアメリカ人を「反省をしない未来志向病」にかかっていると批判する人がいます。
 移民や開拓者の精神に支えられたアメリカでは、状況をどんどん変化させ、新しくしてゆくことへの躊躇が、日本などに比べて実に少ないのです。
 これはアメリカの強みでもあります。しかし、その強みというコインの裏側に、彼らのアキレス腱が潜んでいることも忘れてはなりません。
 そんな世界に対して躊躇なく自らの価値観をもってチャレンジするアメリカが躓いた典型的な例が、ベトナム戦争リーマン・ショックだったのです。
 
 技術革新に余念のない新しいアメリカ世代が生み出す社会が、あまりにもAIに頼り、利便性やデータ管理に依存しすぎた場合、それは未来の人類そのもののあり方にも大きな影響を与えてしまいます。自然との共存の課題も然りです。
 人類の力で何でも可能になると思うアメリカ人のたくましい意識が裏目に出ないよう、国家レベル、さらには世界レベルで見つめてゆくことが人類全体にとって大切なことになっているほど、これからもアメリカは成長を続けるのではないでしょうか。
 

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『英文快読 アメリカ歳時記』ニーナ・ウェグナー(著)、高橋早苗(翻訳)英文快読 アメリカ歳時記』ニーナ・ウェグナー(著)、高橋早苗(翻訳)
コンパクトにまとめたやさしい英文に、語注ルビと日本語訳がついているから、ビギナーでもストレスフリーでスラスラと英文が読みこなせる!英文多読初心者におくる英文快読シリーズ。
祝祭日と年中行事から見る、アメリカの歴史と文化。アメリカで公式に認められている11の「連邦祝日」にスポットライトを当て、詳しく解説。アメリカという多彩な文化に彩られた大国の歴史と文化を、身近に感じながら学べる1冊間違いなしです。

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京都アニメの惨劇と世界の反応に触れて

“Kyoto Animation is home to some of the world’s most talented animators and dreamers — the devastating attack today is a tragedy felt far beyond Japan. KyoAni artists spread joy all over the world and across generations with their masterpieces. 心よりご冥福をお祈りいたします。”

「京都アニメーションは世界で最も才能のあるアニメーターと、その夢を追いかけている人々のふるさとだ。今日起きた破壊と悲劇は日本だけの損失をはるかに超えている。京アニのアーティストたちはそんな作品を通して、世界に世代を超えた楽しみを拡散している。心よりご冥福をお祈りいたします」
― Tim CookのTwitter(@tim_cook)より

世界に流通する日本の「Manga」と「Anime」

 京都アニメーション(以下、京都アニメ)の放火事件が海外メディアの注目を集めていることは、様々な報道機関が伝えています。
 私個人としては、あまり京都アニメについて詳しくはありませんでした。
 しかし、ヘッドラインに記したように、アップルのCEOティム・クック氏が哀悼の意を日本語で伝えるなど、世界中が今回の悲劇に反応している背景はよく理解できます。
 
 80年代のこと、出版メディア大国アメリカでは、コミックは一ランク下の出版物とみなされていました。
 バットマンなどのコミックはコレクターの特殊な読み物で、出版社がそれを扱うことはありませんでした。私がニューヨークで最初に日本の漫画を英文で紹介しようとしたときも、出版社のセールスマンの激しい抵抗にあったことを覚えています。
 しかし、そんな状況が次第に変化してゆきました。日本の漫画の質の良さ、ストーリー展開の面白さが少しずつアメリカでも浸透し始めたのです。それは「グラフィックノベル」と呼ばれ、90年代には書店でも堂々と置かれるようになったのです。
 
 その頃、フランスのグルノーブルで開催されたヨーロッパの書籍フェアに参加したことを覚えています。たくさんのフランスやドイツの版元が、日本発のグラフィックノベルの版権を購入しようと日本の作品を見ている様子に接し、初めて日本の漫画が世界を席巻するのではと本気で考えたものでした。当時すでに「漫画」は「Manga」として英語化していました。
 とはいえ、アニメーションの世界でいうならば、映画と合体した映像産業で圧倒的な強さを誇っていたのはディズニーなどアメリカの大手に他なりませんでした。ですから、日本でも英語のAnimationをカタカナで「アニメ」と訳し、次第に漫画と映像文化との融合が始まったのです。
 
 その後、「マンガ」は世界に輸出されました。
 当時、私も出版人としてそんな「マンガ」の英文書化に何度か関わったことがありました。やがて、「マンガ」が世界で市民権を得るのと並行して、今度はさらに進化した日本の「アニメ」が「Anime」という日本語のまま世界で流通するようになったのです。
 それから10年以上、私は国際出版事業から離れていました。そして、先週の京都アニメの事件に接したのです。
 

日本の顔「ビジュアルアート」を襲ったテロ行為

 京都アニメの損失は世界的な損失であると、海外の人は思っています。今年フランスでノートルダム大聖堂が消失したときと同様、世界中の人が人類の貴重な遺産が失われたことに涙したのです。京都アニメに代表される日本のアニメ産業は、日本の顔として世界で評価されていたのです。
 
 もっとも、こうした日本のビジュアルアートへの評価は今に始まったことではありません。
 実は、世界で最も有名な日本人は誰かという問いに対して、海外の多くの人が思わぬ答えをしてくれています。それは葛飾北斎なのです。
 葛飾北斎に代表される浮世絵が、19世紀終盤のヨーロッパで印象派に大きな影響を与えたことは周知の事実です。そんな浮世絵は日本では全く評価されず、明治初期には輸出用の包み紙として使用されていたといわれています。日本政府が世界に紹介しようとした工芸品などを包んでいた紙に描かれていた版画に、ヨーロッパの人々が注目したのです。皮肉かつ痛快な話です。
 それから100年以上の年月を経て、全く新しくなった日本のビジュアルアートが再び世界に紹介されたのです。
 
 「君は本気でバットマンやスーパーマンを書店で売りたいのか。冗談じゃない」
 ニューヨークのセントラル・パークに面したホテルのカフェで、現地の出版社の営業担当者に初めて「日本の漫画に興味はないか」と問いかけたときに返ってきた言葉を私は今も忘れません。京都アニメの再生に向け、海外の有志によるクラウドファンディングが立ち上げられ、二日間で180万ドルもの基金が集まった事実をみるとき、まさに隔世の感を覚えるのです。
 
 一方、京都アニメの消失事件は、日本で起こったテロ事件であるという認識をどれだけの日本人がもっているでしょうか。
 テロは海外でのこと、日本は安全な国なのでそんなことはありえないと、日本人の多くは日本の安全神話を信奉しています。放火事件はテロ行為以外の何物でもないことを、メディアはちゃんと伝えているでしょうか。海外の多くの人は、京都アニメは非道なテロ行為の犠牲になったと思っているはずです。
 

左) 葛飾北斎『北斎漫画』十一編(部分)刊年不詳 右) エドガー・ドガ《踊り子たち、ピンクと緑》1894年

世界に広がり続ける日本の「文化」

 今回紹介したTim CookのTwitterを検索すると、事件が起こる前日に彼がSNSなどで使用される絵文字について語っていることに気づきます。彼はTwitterで、多様な絵文字が作成されていることを賛辞していました。そのメッセージの中で彼は「Emoji」という言葉を使い、日本語の絵文字が「Emoji」として世界で通用していることを奇しくも我々に伝えてくれたのです。
 
 「Manga」、そして「Anime」から「Emoji」に至る世界で市民権を得てきた日本語を並べてみると、そこに一つの共通項が見えてきます。官制の「おもてなし」や「匠の世界」などといった肩を張った日本文化の押し売りとは違い、人々が権威とは関係なく、本当に面白いと思い、没頭し、苦労を重ねながらも、じわじわと市民権を得たものが、まさに文化として世界に拡散するのだということが。
 Tim Cookと同様、犠牲者、そして失われた作品や才能に向け、心を込めて合掌したく思います。
 

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『英語で読むアラジン』牛原眞弓(翻訳)谷口幸夫(英語解説)英語で読むアラジン』牛原眞弓(翻訳)谷口幸夫(英語解説)
ペルシャのシャフリアール王のもとへ嫁いだシェヘラザードは、千夜一夜にわたり、さまざまな物語を王に話して聞かせる。『アラビアン・ナイト』の名でも知られる、中世イスラムで集められた説話集『千夜一夜物語』の中から、魔法のランプを手に入れたぐうたら息子が、ランプの精の力をかりて幸せをつかむ『アラジン』、「開けごま」の呪文でおなじみの『アリババと40人の盗賊』、そして若い商人が7つの冒険を経て莫大な富を手に入れる『船乗りシンドバッド』の3篇をやさしい英語と日本語訳で収録。

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対韓輸出規制が批判される本当の理由とは

Photographer: Kim Kyung-Hoon/Pool

“A trade dispute rooted in WWII history is heating up between Japan and South Korea. From today, Tokyo is restricting exports of equipment needed to make semiconductors and computer displays. The move is intended to hurt South Korea’s hightech industry.”

(日韓の第二次世界大戦の歴史問題が過熱し、貿易論争の原因に。東京は半導体やコンピュータディスプレイに必要な製品の輸出規制を。これは、韓国のハイテク産業への痛手を意図したものだ)
― DW Newsより

関係が冷え込む日韓に共通のコミュニケーション文化

 日本と韓国との関係が冷え切っています。
 そもそもこの二つの国は、距離を取って観察すると、極めて似た文化やコミュニケーションスタイルを持っています。
 よく韓国のコミュニケーション文化は、日本のより感情に訴えて激しいものがあるといわれますが、感情移入や物の言い方といった表層面をとやかく言っても始まりません。ここで解説したいのは、ロジックの作り方の問題です。
 
 今回、輸出規制を発動した後になって、日本政府は慌てて規制は韓国での徴用工問題慰安婦問題とは関係なく、純粋な貿易管理の問題に起因するものであると発表しました。確かに、それはその通りかもしれません。しかし、そうした日本側の説明も甲斐なく、韓国では日本製品の不買運動が起こるなど、状況は楽観を許せません。また韓国は韓国で、貿易問題においては福島県などの水産物への輸入規制をいまだに続けています。
 
 第三国からこうした状況を見ると、日本も韓国も共にお互いをターゲットにしたハラスメントを繰り返しているように見えてくるのは残念なことです。
 そこに見えるのは、「団子型コミュニケーション」という、日韓に共通したアジア独特のものの言い方や対応方法です。
 つまり、様々な事象を一緒に団子にして相手にぶつけ、その応酬によって双方が負のスパイラルを導いてしまうのです。
 
 この「団子型コミュニケーション」というのは、我々日本人、そして韓国や中国などの人々がともすれば陥りがちな癖ともいえます。
 そこには、極東を中心としたアジアに共通した発想法が潜んでいます。専門家はこの発想法に基づくコミュニケーション文化を「Polychronic(複合的)なアプローチ」と呼んでいます。それは、様々な背景を一緒にして、一つのテーブルで論じようとする文化です。
 安倍首相が今回の半導体材料の輸出規制を発表したときの発言が、その典型です。
 「国と国とが約束を守らないことが明確になった。貿易管理でも恐らくきちんと守れないと思うのは当然だ」というこの発言で、安倍首相は元徴用工への賠償問題を念頭に、韓国が日本との国同士の約束を守らないことを批判したのです。
 このロジックがPolychronicなのです。つまり、二つの課題を団子にして、過去の事例や背景を元に相手を批判した上で、輸出規制の問題をコメントしたことが、海外での誤解の原因になったのです。なぜでしょうか。
 

日本の外交が苦しむ欧米社会とのロジックの違い

 欧米の人々のコミュニケーションの方法は「Monochronic(単色型)」であるといわれます。彼らは、課題を一つ一つに分け、混ぜることなく別々に処理して交渉するアプローチをとるのです。
 ですから、何か規制について発動するときは、決してその他の理由には触れず、規制そのものの理由を明快に解説します。しかも、発動の前には問題を指摘し、事前に警告などを行い、交渉を示唆した上で相手の動向に対応しながら規制を発動します。
 例えば、アメリカと中国との間には様々な政治課題がありますが、中国への関税の引き上げ措置についてアメリカが言及したときは、その問題のみに終始し、中国との軍事的緊張など、その他の課題には触れません。「それはそれ、これはこれ」というアプローチが徹底しているのです。
 
 日本の場合、確かに輸出規制については、安倍首相の発言の後に世耕経済産業大臣が、これは安全保障に関わる韓国側の貿易管理の問題が原因と発言し、純粋に貿易の問題で、他の事柄とは関係ないかのように説明はしたものの、それはすでに安倍首相の発言に海外メディアが反応した後のことでした。
 仮に世耕発言に正当性があったとしても、規制の発動があまりにも突然で、かつ安倍首相の「信頼問題」発言と絡んでしまったことは、日本のイメージを大きく毀損する原因となったのです。日本側の真意や「本当の理由」、さらに日本の言う「正当性」が海外に届くことなく、ただ「嫌がらせ」をしている国なのではという誤解を与えてしまったわけです。
 
 そもそも、段取りが悪すぎます。
 政府は、海外にもしっかりと説明をしていると言ってはいるものの、メディアや国民などへの情報開示が充分でなく、あまりにも閉鎖的です。だからこそ、事前の警告や問題提起はもとより、それまでの慰安婦問題や徴用工問題、さらには海上自衛隊の航空機へのレーザー照射問題など複数の課題が解決していない中、今回の唐突な規制の発表は、大人の国としての対応から見れば稚拙なやり方だと映るのです。
 
 では、韓国側の反応はどうでしょう。
 これもまたPolychronicな対応と言えましょう。政府も国民も、日本との複合的な課題を一緒にもつれた糸のままで捉え、感情的に対応しています。ただ、彼らに有利なのは、常に韓国が被害者の立場で叫び続けていることです。アメリカの世論などは、日本と韓国双方のPolychronicなアプローチに戸惑いながらも、結局日本が第二次世界大戦とそれ以前に韓国に与えたダメージを謝罪していないからだと思っています。双方ともPolychronicであれば、声を大きく感情に訴えた方が届きやすいのかもしれません。
 
 こうした日本側の意図がうまく伝わらない事例は、日韓問題だけではありません。例えば、日米安保条約で日本側が大きな経済負担を負いながらも、日本はタダ乗りをしていると多くの人が考えていることも、こうした日本の情報伝達における技術不足の結果なのです。
 明快な説明や、欧米の人が物事を受け取り理解するロジックに沿ったアプローチができない日本が常に貧乏くじを引いてしまうのは、日本の外交力の脆弱さによるものだと批判されても仕方がないのかもしれません。
 

問題提起に必要なのは、Monochronicなアプローチだ

 Monochronicなコミュニケーションスタイルを持つ欧米社会にものを言うときは、最初の発言が最も大切です。
 最初に、今発言すべき問題を明快に提起し、その理由を絞り込んでしっかりと話すことができない限り、どんなに教養のある英語で語ったとしても、同じ誤解のプロセスに日本は常に苛まれることになるはずです。
 

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