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各論にこだわる日本、「しがらみ」を捨てたアメリカ

ロシアは日本を求めている?

 

“Putin: It’s important to look for Russia-Japan WW2 peace treaty, solution that would reflect the strategic interests of both. “

(プーチン大統領は、第二次世界大戦を解決した平和条約を見つめ、お互いの戦略的連携を見つめてゆきたいと表明)
Reuterより

モスクワの街を歩けば、スーパーマーケットに寿司が並んでいます。
この寿司を生産しているのは、日本企業ではないとのこと。アメリカで発案されたカリフォルニアロールがヨーロッパ経由でロシアにはいってきたのです。この日本とアメリカとロシアが関わって流通している寿司をみると、それが現在の極東情勢を象徴したものとして映ってくるのも事実です。
 
ロシアの広大な国土の半分以上はアジアにあります。
その国境の向こうには、モンゴルがあり、さらには中国があります。
1960年代、共産主義社会での覇権をめぐり、中国とソ連とが激しく対立しました。以来中国とソ連、そしてソ連の権益を引き継いだロシアとは、アジアのライバルとしてお互いを意識し続けてきたのです。
 
そもそも、中国とロシアとの対立は旧ソ連時代にはじまったことではありません。
帝政ロシアの頃、南へと利権の拡大を目論んでいたロシアは、当時中国を統治していた帝国への進出を目論みます。このロシアの南下に対して当時の日本(大日本帝国)が脅威を感じた結果勃発したのが、日露戦争であったはずです。
 
なぜロシアと中国との関係をここで解説する必要があるのかというと、そこには大きな理由があります。それが北朝鮮への日本のアプローチのヒントになるからです。
確かにロシアは、アジアにおいては常に中国を意識してきました。そんなロシアにとって、実は日本は極めて組みやすい相手なのです。
しかも、シベリアには日本が欲しがる膨大な資源が眠っています。そんなロシアがシベリアの開発のために日本の経済力に期待しているのも事実です。
こうしたお互いの利益を前向きに捉え、ロシアと強力なパイプを造ることができれば、中国とアメリカとの間で硬直した日本の北朝鮮政策に新たな可能性が生まれるはずです。ロシアのプーチン大統領は、日本のそうしたアプローチを強く望んでいることが、このヘッドラインからも見えてきます。
 
しかし、日本人には常にこうしたチャンスを見逃す弱点があります。
それは日本人の各論にこだわる癖に他なりません。つまり、日本人は各論にこだわりすぎ、大きな絵図面から外交問題を有利に解決するチャンスを何度も逸してきたのです。
ロシアとの間の北方領土問題、そして北朝鮮との間の拉致問題への日本の取り組み方は、そんな日本の弱点を象徴しています。不当に拉致された人々への家族の思いに疑問を抱いているわけではありません。拉致を解決するには、拉致からあえて離れた大きな視野と戦略が必要だと思うのです。
ロシアとの間も同様です。北方領土を解決するためには、日本とロシアとの経済協力が双方にとって無視できなくなるほど強くなることが大切なのです。
 
拉致問題一点に日本がこだわりすぎれば、北朝鮮への外交的な対応そのものが後手にまわります。そして北方領土にこだわれば、ロシアとの経済協力はなかなか進みません。そうした状況を一番利用できるのは中国であり、北朝鮮そのものなのです。
安倍首相は、トランプ大統領が金正恩との会談で拉致問題に触れてくれたことを、国民に強調しました。
しかし、トランプ大統領が、拉致問題に触れたというのは、日本のメッセージを伝えたよということに過ぎないのです。アメリカが積極的に日本の利益のために拉致問題に触れたのでない以上、それは何ら意味のない伝言ゲームにすぎません。
 
結局、日本は単独で北朝鮮と拉致問題について交渉をせざるを得ないわけです。そんな状況の中で日本が拉致問題を理由に北朝鮮との対話を進めないことは、北朝鮮からみるならば、日本を交渉相手からブロックし、中国を味方につけながらアメリカに対応するためには極めてありがたいことなのです。
 
一方、ロシアは北朝鮮への影響力を維持するためにも、日本との連携を視野にいれたいはずです。しかし、何かを持ち出せば北方領土にこだわる日本の対応にロシアの幹部がうんざりしているのもまた事実でしょう。
 
北朝鮮問題は、単に北朝鮮に核を断念させて、国際社会の仲間入りをさせることを意味しているわけではありません。北朝鮮問題は、北朝鮮という扱いにくい国家の存在を利用して、極東の中でいかに自らの利益や影響力の伸長をはかろうかと模索する関係国同士の外交合戦なのです。
日本が、北方領土と拉致問題という「動かない石」にこだわればこだわるほど、そうした関係国の複雑な交渉の蚊帳の外に日本が置かれてしまい、最終的に拉致問題や北方領土問題自体の解決も遠のいてしまうのです。
 
どこの世界でも、政治は「しがらみ」によって動いています。
アメリカの歴代大統領も、支持母体の政党や有権者という「しがらみ」を常に意識して政権を維持してきました。それは日本でも中国でも同様です。ところが、トランプ大統領はそうした「しがらみ」が最も希薄な大統領として選挙に勝利しました。そして、金正恩も中国という「しがらみ」を離脱した指導者でした。ですから、この二人は様々なスタンドプレーが可能だったのです。
 
日本の場合、多くの政権は国内では自民党内部の「しがらみ」があり、国外ではアメリカとの強い「しがらみ」に左右されながら外交の舵をきってきました。そんな政治家の「しがらみ」が、拉致問題と北方領土問題への取り組みにも大きな影響を与えているようです。
しかし、今のアメリカは「America First」というスローガンを大きく掲げています。「しがらみ」よりも自国の利益を優先させようとするアメリカに最も翻弄されているのが、今でもアメリカを「しがらみ」と捉える日本なのです。
 
日本がこうした実態を改めて見直しながら、改めて中国とロシアとの立ち位置を冷静に見つめた独自のリーダーシップを取ることができれば、北朝鮮問題への日本の影響力にも大きな変化がおこるはずです。
 
 

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『海外メディアから読み解く世界情勢』山久瀬洋二日英対訳
海外メディアから読み解く世界情勢
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。

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Homo Sapiensは生き残れるのか

“Who was responsible? Neither kings, nor priests, nor merchants. The culprits were handful of plant species, including wheat, rice and potatoes. These plants domesticated Homo sapiens, rather than vice versa. “

(これは誰の責任なのだろう。王でもなければ、聖職者でもない。はたまた商人でもない。犯人は一握りの植物だった。小麦や米、そして芋といったような。これらの植物が人類を家畜化したのだ。我々が彼らをそうしたのではなく)
Yuval Noah Harari 著 Sapiens より

AIの進化に、哲学が追いつかない。
こういう風に懸念する人が多くいます。つまり、科学技術が進歩し、人々の生活様式が大きく変化し、人の寿命までも操作できるまでになった現在、はたして人類はその技術を深化させ、社会を維持してゆくだけの思索力と寛容力、さらに洞察力を獲得できたのだろうかということが問われているのです。
 
この見出しの一文が綴られているSapiensという書籍は、そんな人間の科学技術へのうぬぼれに鋭い視点で迫っています。
人類は自らの行動様式や社会を変革する大きな転機を幾度か経験してきました。
その一つが農業革命です。一万年以上前に人々は植物を栽培することを覚えました。多くの人は、それを大きな進歩と捉えます。ところが、著者はそうした我々の常識に鋭いメスをいれているのです。
 
農業を発明する前、人々は狩猟生活をしていました。
自然の中を、小さな集団で移動しながら食物を得て、共同体を維持していました。では、そんな折に人類を見舞った天敵や天災の脅威や、部族同士の争いを農業が解決し、人々はそれ以上に豊かな生活を満喫できるようになったのかと著者は問いかけます。
農業によって社会が生まれます。そして、人類は豊作不作によって自らの運命が左右されるとき、神に祈り、宗教が規模の上でも組織の上でも影響力を持つようになります。
そして、分業と階級が生まれ社会が膨張します。すると、ほとんどの人は必死で育てた作物を税金で権力者に奪取され、宗教的儀式にも捧げるようになります。以前は獲物を追って必要なときに食事をとっていた人々が、飢饉となるとなす術もなく飢餓の犠牲になるのです。狩猟採集生活をしていた人々より豊かになった人は、ほんの一握りの権力者だったというわけです。
とはいえ、生産は増え、人口も増えますが、その需要に追いつくために、労働はさらに過酷になり、豊かで人口の多い地域は他の部族からの侵略の危機にもさらされました。
 
これが農耕の発明の所産というわけです。
そして、人口が増えるに従って、この負の歯車の回転が加速するために、社会が進化してゆき、それを停止させることが不可能なまま、世の中は変化を続けていったというわけです。
 
しかも、面白いのは、農耕によって、人類が穀物を支配し、自然を支配したように我々は考えがちですが、本当の勝者は穀物の側だったというのです。
例えば、小麦は中東北部に群生していた植物に過ぎないのに、人類によって世話をされ、雑草や害虫を駆除してもらい、収穫のあと種まで保存され翌年に再びよく肥えた土地にそれを撒いてもらいます。種としての小麦はこのように人々を家畜化し、奴隷のように働かせることで、世界中に拡散し、繁茂することができたというわけです。
 
農業革命のあと、18世紀以降の産業革命を経て、さらに人類はIT革命を経験します。人類は今までに到達したことのない文明の渦に巻き込まれています。300年以前の人は、1000年以前の人とそう変わらない生活様式の中で生きていました。しかし、300年前と現在とを比較すれば、その違いは明白です。
 
さて、ここで我々が考えなければならないことは、文明の進化と共に、これからも人類は幸福な発展を遂げられるのかということです。著者は、人類が今や神の領域に至りつつあると強調します。つまり、19世紀の小説『フランケンシュタイン』がAI技術の進歩で可能になろうとしているのです。また、遺伝子などの操作によって、まったく新しい、ホモ・サピエンスではない人類が誕生する可能性もあるのではといわれています。
 
人類がどこまで神の領域に入り込むことができるのか。また、利便性を追求し、情報も電子信号で簡素化された人類同士が、お互いの背景をしっかりと理解し、何か課題がおきたとき、理性と洞察力、そして愛情によってものごとを解決することができ続けるのか。我々に突きつけられた課題は、人類の存続に関わる重大な課題というわけです。
 
人類の誕生以来、地球は過去に経験をしたことのない生命体の大量絶滅に関わってきました。乱獲や家畜化、そして自然破壊は、人類が言葉を操り、社会を形成し始めた頃から加速したといわれています。そうしたツケをこれから人々はどのように支払ってゆくのか。
 
Sapiensの著者ハラリ氏は、中世の軍事を専門とした歴史家です。そんな彼が記した本書は、従来の歴史的事象を細かく記述するのではなく、Homo Sapiensという人類の数万年に及ぶ歩みを鳥瞰し、そこから大胆に歴史そのものを見つめ直すことで、未来学へと視点を拡大してゆきます。
歴史から何を学ぶか。年号や英雄の名前を覚えることが歴史を学ぶことではないことを著者は明白に語っているのです。
 

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先人たちから学ぼう!

『Inspirational Proverbs and Sayings (心に響く英語のことわざ・名言100)』 レベッカ・ミルナー(著)Inspirational Proverbs and Sayings (心に響く英語のことわざ・名言100)』 レベッカ・ミルナー(著)
庶民の生活や知恵から出た社会常識を示す言葉。ビジネスやスポーツ選手の経験からくる事柄の本質をうまくとらえた言葉。そして人生の真実や機微を端的にまとめた先人の言葉。本書で集めた100の名言・ことわざは、現代の生活にも通じ、我々にその教訓や戒めを再認識させてくれるものばかり。100の言葉には意を汲んだ和訳つき。

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ニューヨークでのユダヤ系のパレードから世界をみれば

イスラエルの建国を祝うユダヤ系の人々

“More than 1,000 police officers will secure the Israel Day Parade in New York City. The annual event will make its way up Fifth Avenue on Sunday.”

(ニューヨークでのイスラエル建国記念日のパレードを1000名以上の警察官が警護。日曜日の五番街で記念行事が敢行。)
JTA(Jewish Telegraphic Agency)より

6月3日の日曜日にニューヨークでは、ユダヤ系の人々の大きなパレードがありました。
五番街を中心に道路を封鎖して、ニューヨーク各地のユダヤ系のコミュニティの人々が、イスラエルの独立70周年を祝ったのです。
パレードはお祭り気分で、ニューヨーク選出の議員やテレビの著名なコメンテーターまで、様々な人がマーチに加わります。
ニューヨーク市警は、パレードの妨害を警戒してバレードの現場のみならず、その周辺の道路まで車の立ち入りを規制。その地域のホテルにチェックインする人も、タクシーを途中で降りて荷物を運ばなければなりません。
 
先日、アメリカはエルサレムに大使館を移動させることを決め、エルサレムがイスラエルの首都であることを公認しました。この決定にアラブ系の人々が猛反発。流血騒動にまで発展したことは記憶に新しいはずです。
 
「ニューヨークの人はトランプ嫌いが多い。でも、今回のエルサレムへの大使館の移転には賛成している人が多いのです」
そう私の友人はコメントします。
「でも、今回のパレードはそのこととは関係ないはず。70周年の記念行事は相当前に予定していたはずだから」
 
実は、私の友人にもユダヤ系の人がいます。エルサレムからカナダのトロントに移住し、英語関係のオンライン教育の分野で活躍するその人は、「これでよかったんだ。テルアビブが首都だというのは単なる外交上の妥協だった。ユダヤ系の人は皆エルサレムに首都があってこそのイスラエルだと思っているさ」というのです。彼も確かにトランプ政権には懐疑的な人だったのですが。
 
アメリカの世論は複雑です。トランプ政権の政策に不満をもっている人でも、各論の中では様々な意見が飛び交います。そして、ユダヤ系の人々のスタンスは、当然世論に大きな影響を与えるはずです。
「ニューヨークタイムズは、リベラルな新聞だというけれど、ことユダヤ系の人々に関する論調となると慎重になるんだよ」
とニューヨークの友人は指摘します。
そうした背景を証明するかのような今回の大掛かりなパレードをみたときに、その盛況の背景には、やはりエルサレムが首都としてアメリカに承認されたことがあるのではと疑ってしまうのです。
 
ところで、北朝鮮がミサイルでアメリカや日本を威嚇していた頃、アメリカにとってはイスラエルが絡む中東問題が外交の基軸で、中東での火種がおさまらない限り、北朝鮮と交戦状態になることはないのではと解説したことがあります。
そんなアメリカの心理をついて、韓国が北朝鮮にアプローチをかけ、トランプ政権はその機会を逃さずに行動にでようとしたのです。そして、同じタイミングで、エルサレムへの大使館の移転を発表します。これは偶然の一致ではなく、アメリカの世界戦略を考えれば当然の帰結といえましょう。
 
このパズルを日本が把握できずにいることが、今回の北朝鮮問題で日本が蚊帳の外におかれている理由でもあるのです。ニューヨークを意気揚々とマーチするユダヤ系の人々と、北朝鮮問題とは、アメリカの外交政策の中でのコインの表と裏だということがお分かりになったと思います。
 
安倍政権は外交でかなりの成果を上げていると自民党の中では評価されていますが、実際はその逆なのではと考えてしまいます。まず、第一にアメリカの生々しい民衆の感触に対して安倍政権はあまりにも鈍感です。トランプ政権ができる前、外務省はヒラリー・クリントンが当選するものと決め込んで、トランプ側の人脈とはほとんどコンタクトを持たなかったといわれています。先ほど解説した、アメリカの世論の複雑さを考えたとき、それはあり得ないアプローチです。そしてトランプ大統領が登場したとき、慌てて安倍首相はアメリカを訪問したわけです。
こうしたボタンの掛け違いがなぜ起こるのか。
それは、政治家の無知と官僚のおごりのせいかもしれません。しかし、さらに言えることは、海外の人と庶民レベルのネットワークができていない日本の外交戦略に瑕疵があることをここで指摘したいのです。
 
そんなことを思いながら、パレードを見ていると、人々がひときわ熱狂してきます。みると、ニューヨーク出身の上院議員チャック・シューマーがパレードに加わって歩いていたのです。ニューヨークのブルックリン地区には大きなユダヤ系コミュニティがあります。彼はそこで生まれ育った生粋のユダヤ系移民の子孫なのです。そして、彼は民主党の上院議員。共和党の保守派が地盤のトランプ政権とは対立した存在です。
しかし、そんな彼でも、エルサレムへの大使館の移転の決定には強い支持を表明したのです。この複雑さを理解できない限り、そしてこうした人々とのネットワークをしっかりと維持しない限り、日本はアメリカの世界戦略に翻弄され続けるのかもしれません。
 
午後4時、パレードの喧騒が一段落し、週末のニューヨークに静けさが戻ってきました。
私は、ある友人の家を訪ねるためにタクシーに飛び乗ります。タクシーの運転手は運転中ずっと無線を使ってウルドゥ語で友人と話しをしています。彼は明らかにパキスタンから移住してきたイスラム教徒です。ニューヨークのタクシーの運転手にはそうしたイスラム系の人々が多くいます。彼らは今回のパレードを複雑な気持ちでみていたはずです。
 
ニューヨークから世界情勢が見えてきた一瞬です。
 

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外国人とビジネスをするためのテクニックを学ぶなら

『異文化摩擦を解消する英語ビジネスコミュニケーション術』山久瀬洋二異文化摩擦を解消する
英語ビジネスコミュニケーション術

山久瀬洋二、アンセル・シンプソン (共著)
IBCパブリッシング刊
*山久瀬洋二の「英語コミュニケーション講座」の原稿は本書からまとめています。文法や発音よりも大切な、相手の心をつかむコミュニケーション法を伝授! アメリカ人のこころを動かす殺し文句32付き!

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アメリカの中間選挙にも影響を与えるアイルランドの動向とは

Irish Timesで取り上げられているPro Choice運動勝利の瞬間(Irish Timesインターネット版より)

“Ireland Votes to End Abortion Ban in Rebuke to Catholic Church”

(アイルランドはカトリック教会を非難。中絶の権利を国民投票で認める)
New York Timesより

ニューヨークは今メモリアルデイ Memorial Day の連休 long weekend で、多くの人が街を離れています。
そんな郊外に向かう渋滞を整理する警察官の多くはアイルランド系です。彼らの祖先は、19世紀中盤以降、本国の飢饉や貧困に追われて海を渡ってきた人々でした。彼らはほとんどがカトリックで、元々プロテスタント系の人々の多いアメリカでは社会の底辺で、一時は差別に苦しみました。
現在アメリカにはアイルランド系の移民が3600万人も生活しています。そのため、多くのアメリカ人がアイルランドの動向には敏感です。
 
アイルランドは、長い間隣国イギリスの植民地でした。
その後、過酷な独立運動の過程を経て、1931年に主権を回復します。
現在のアイルランドの人口は459万人。ということは、アメリカに住むアイルランド系の人口の方が、本国の総人口よりもはるかに多いということになるのです。面白い事実です。
 
そんなアイルランドで2017年5月に首相に就任したのが、レオ・バラッカー Leo Valadkar でした。
彼は、首相に選出される前に、自らがゲイであることを公表していました。
彼の父親は、インドからイギリスに移住してきた移民で、イギリスでアイルランド人の母親と結婚しました。バラッカーは幼い頃は両親の合意の元、カトリックとして育てられたといいます。
 
移民、そして国際結婚という背景を持つバラッカーが首相となったアイルランド。その社会の変化に多くの人が注目しました。
アイルランドは元々カトリック教会の影響の強い保守的な国家でした。そしてイギリスからの独立の経緯からみても、民族意識の強い国だったのです。そんなカトリック教会は、今でも同性愛や妊娠中絶に対して否定的です。
従って、バラッカーの首相就任はアイルランドのみならず、カトリック界全体の注目するところとなったのです。
 
そんなアイルランドで先日、妊娠中絶を違法とする憲法改正の是非を問う国民投票が実施されました。もちろん、カトリック教会はこの国民投票にも激しく反発。多くの人がその経緯を見守りました。
結果は、中絶を合法とする人々が勝利。
 
中絶容認を求める運動は、Pro Choice movement と呼ばれています。
欧米では、中絶は女性が出産という自らの運命を決める自由を保証する権利として、常にその是非が問われてきたのです。しかし、アイルランドでは、カトリックの信条からみて、中絶は胎児への殺人行為であるという見解が支持されてきたのです。
 
このアイルランドの変化はアメリカにも大きな衝撃を与えました。
ニューヨークの主要メディアは、昨日からその結果を大きく報道。北朝鮮とアメリカとの首脳会談の行方よりも、アメリカ人には注目されたニュースとなりました。
 
それには背景があります。
まずは、この結果がトランプ政権にもダメージとなるからです。
トランプ政権が成立し、アメリカをはじめ世界中が右傾化の潮流にさらされました。その中で、フランスやオランダなどで極右政権が成立するのでは、と危惧されます。しかし、選挙の結果はリベラル派がことごとく勝利。そしてアイルランドでも、中道左派を進む39歳という若手のレオ・バラッカーが首相となったのです。少なくともヨーロッパでは、トランプ政権に異論を唱える国家が増えていることになります。
そして、トランプ政権はカトリックではないものの、プロテスタント系保守派を支持母体としています。彼らの中でも特に保守色の強い人々がPro Choiceへ異議を唱えているのです。トランプ大統領は彼らに支えられているわけで、アメリカでのPro Choice movementにも懐疑的です。
 
アイルランドでは、同性の結婚も合法化されています。そして、今回憲法までも変えて中絶を合法化したことは、世界中の注目する大きな変化だったというわけです。
 
こうした欧米の動きが今秋のアメリカでの中間選挙にどのような影響を与えるかは未知数です。しかし、極端な保守化への警戒の波が逆流となって、欧米の政界を揺るがしていることは動かせない事実です。
トランプ大統領としては、華やかな外交舞台で北朝鮮との会談を成功させ、追い風となっているアメリカの好景気を自らの政策の勝利として強調することで、支持率を固めてゆきたいところです。
 
とはいえ、伝統的にアメリカに友好的なアイルランドで、トランプ政権に対しても批判的だったバラッカー首相の主張が国民投票で追認されたことは、アメリカの世論にも少なからぬ影響を与えることは間違いないのではないでしょうか。
 

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アメリカ人と文化の壁を超えてビジネスをするために!

『トランスナショナル・マネジメント:アメリカ人に「NO」と言い、「YES」と言わせるビジネス奥義』山久瀬洋二 (著)トランスナショナル・マネジメント:アメリカ人に「NO」と言い、「YES」と言わせるビジネス奥義』山久瀬洋二 (著)
国家・民族・言語・宗教の境界を超えてアメリカ人と対等にわたりあう、80の絶対法則!
欧米をはじめ、日本・中国・インドの大手グローバル会社で100社4500人の異文化摩擦を解決してきたカリスマコンサルタントである山久瀬 洋二氏が、トランスナショナルなアメリカ人を正しく理解し、対等にビジネスするための奥義を、豊富な事例と図解でわかりやすく説明します。英語よりも、MBAよりも、もっとずっと大切なものがここにあります。

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パレスチナの人々と黒人、そして一人の日本人

“Israel and Evangelicals, New U.S. Embassy Signals a Growing Alliance”

(イスラエルと福音主義者、新しい大使館の設立はその緊密な同盟を示唆している)
New York Timesより

久しぶりに、大分県の杵築(きつき)に里帰りをしました。
そこは、松平家が治めていた3万2千石ほどの静かな城下町です。
ここの家老職を勤めた中根家に、明治になって中根中(なかねなか)という人が生まれました。彼は明治時代のキリスト者として、この地に今も続く杵築教会の創立にも深く関わっていました。
 
そんな彼がアメリカに渡り、黒人運動の指導者へと変身します。
1930年代、FBIは彼がデトロイトなどで黒人運動を組織し、暴動を煽動したとして、彼のことを厳しくマークしていました。一度は国外退去処分になり、日本に帰国しますが、すぐにカナダに渡り、そこからアメリカの同志と連絡をとり、運動を継続したのです。その後偽名を使ってアメリカに潜伏し、FBIに逮捕され、第二次世界大戦が始まる頃は獄中の人だったのです。
彼は釈放後デトロイトで余生をおくり、1945年に他界したといわれています。面白い人物です。
 
中根はその奔放な性格から、厳格な生活を要求するメソジスト派の教会から破門されたといわれています。
渡米した中根は、西海岸やハワイを中心に戦前日本から移住してきた貧しい日系移民に接します。彼らは、アメリカで厳しい偏見と差別に晒されていたのです。中根はそんな日系人と共に、アメリカで同様の状態にあった黒人系の人々の生活に興味をもったのでしょう。やがて彼は社会運動へ身を投じるようになったのです。
戦前日本でキリスト教を伝道した人々の多くはアメリカのプロテスタント系の牧師でした。そんなキリスト教を信ずる人々が、アメリカでは日本人や黒人を差別しているという矛盾を突きつけられたわけです。
 
戦争中、中根はアメリカで暴動を組織するように、日本軍から密命を受けていたのではという嫌疑を受けます。
実際、彼は日本の国粋主義団体と関係があったといわれていますが、軍部とどのようなつながりがあったかは定かではありません。
しかし、彼が黒人暴動を何度も組織し、それがアメリカ中西部の都市部の不安定要因となったのは事実です。
 
そして、彼と接触した多くの黒人の活動家が、その後の黒人運動を担ってゆきました。その一人が、Nation of Islamという組織を育てたエライア・モハメド Elijah Muhammadです。Nation of Islamは、アメリカの黒人はイスラム教徒の子孫だという信条をもち、白人への激しい憎悪を表明した団体でした。
Nation of Islamの影響を受け、戦後に黒人の地位向上のために活動した人物にはマルコムXモハメド・アリなどがいるのです。
 
アメリカでは、移民同士の確執と摩擦がその歴史を作ってきました。
差別や偏見を克服するために社会運動がおこり、法制度が整備され、教育活動が進化します。その進化のサイクルがアメリカ社会を形成しました。その過程で、差別する人と差別を受けた人々の憎悪が人種対立の原因ともなりました。
Nation of Islamの活動は、そうした憎悪を助長し、白人系の人々への逆差別や偏見を助長したという批判も多くあります。人によっては彼らのことをテロリストだと糾弾します。中根中の行動もそうした批判の対象となりました。
 
面白いことに、大正時代の作家有島武郎など、日本の文化人で元々はキリスト教の影響を受けながら、渡米後アメリカ社会の矛盾を見つめるうちに社会主義国家主義へと転身した人は少なくないのです。
 
ところで、60年代から70年代にかけて、黒人の活動家がキリスト教を棄て、イスラム教に転身していることは、中東の人々の間にも少なからぬ影響を与えました。
戦後アメリカは、中東問題でイスラエル側に立ち、混迷するイスラム社会の憎悪の標的となりました。そして今ではアメリカは、イスラム教過激派のテロの対象となっています。Nation of Islamとこのテロ活動とは全く無縁です。しかし、奴隷としてアフリカから強制移住させられた人々の子孫である黒人が自立するとき、白人系の人々から伝道されたキリスト教を否定した経緯と、イスラエル建国後に土地や財産を失ったパレスチナ難民が、イスラエルに対して憎悪を抱き、イスラム教徒としてのアイデンティティにこだわるようになった経緯を比較すれば、そこにアメリカに対する人々の共通した意識がみえてきます。
 
今、トランプ大統領は、アメリカ国内の福音主義者 Evangelicalと呼ばれるプロテスタント系保守派の意向に支えられながら、エルサレムにアメリカ大使館を移動させ、イスラエルのパレスチナへの支配を事実上公認する政策を打ち出しています。それが今回紹介したヘッドラインです。
そうした状況下で、ガザ地区に押し込められ、経済的にも苦しむ人々が、イスラエルに向け抗議行動を起こし、イスラエル軍の発砲に遭い犠牲者がでたことが大きく報道されました。中根中が現在のアメリカのこうした政策をみたとき、同じように暴動やテロを煽動したでしょうか。
 
この問いこそが、今の国際政治の狭間に置かれた犠牲者や、アメリカ社会の格差に苦しむ人々のことを考えるとき、常に考えさせられる課題です。
暴力やテロを憎むのみではなく、その原因となった歴史と社会の矛盾に光をあてることが必要なのです。
 
九州の静かな城下町に生まれ、明治から昭和へと生きた一人の破天荒ともいえる活動家が、アメリカでのアジア系や黒人系の人々の置かれていた状況を目にしたときに感じたこと。それは戦前のみならず、今のアメリカの動向を見つめるヒントをも与えてくれるのです。

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あの名演説からアメリカを学ぼう!

『I Have a Dream!』マーティン・ルーサー・キング・ジュニア (著者)、山久瀬洋二 (翻訳・解説)I Have a Dream!』マーティン・ルーサー・キング・ジュニア (著者)、山久瀬洋二 (翻訳・解説)
1955年、バスの白人優先席を譲らなかったという理由で逮捕された男性がいた。この人種差別への抗議運動として知られるモンゴメリー・バス・ボイコット事件を契機に、自由平等を求める公民権運動がにわかに盛り上がりを見せた。マーティン・ルーサー・キング・ジュニアはこの運動を舵取りし、そのカリスマ的指導力で、アメリカ合衆国における人種的偏見をなくすための運動を導いた人物である。「I have a dream.」のフレーズで有名な彼の演説は、20世紀最高のものであるとの呼び声高い。この演説を彼の肉声で聞き、公民権運動のみならず、現在のアメリカに脈々と受け継がれている彼のスピリット、そして現在のアメリカのビジネスマネジメントの原点を学ぼう。山久瀬洋二による詳細な解説つきで、当時の時代背景、そして現代への歴史の流れ、アメリカ人の歴史観や考え方がよく分かる1冊。
* アメリカ人が最も愛するスピーチを対訳で展開
* スピーチの「歴史背景」と使われている「英語表現」の意味を徹底的に解説!
* 特別付録:「アメリカ独立宣言」全文対訳
* ワードリスト付きだからストレスフリーで読み通せる

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