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文化に寄り添った言語がもたらす誤解とは

“We don’t see things as they are, we see things as we are.”

「物事を自分がみているように、彼らもみているとは限らない」
― Talmudic(ユダヤ教の聖典)より

 今年の3月のこと、私はある国際会議でファシリテーションをしました。
 その仕事の後、文化の違う人同士のコミュニケーションで起こりうる誤解のリスクについて、90分間の講演をしました。
 そこで、カナダの企業の幹部が私に質問をしたのです。

「我々は、同じ業界で、同じミッションを共有しています。しかも、同じ技術をもって活動している同志のようなものです。そんな間柄と信頼関係の中で、誤解が生まれるとは思えないのですが」

 そこで、私が一つの事例を示しました。

「なるほど。よいご指摘ですね。では、これから私が一つの短いスピーチをしてみます。もちろん言語は英語です。このスピーチを聞いた後で、皆さんに私が何を言いたかったかを尋ねてみたいのです」

 私はそう言って、さっそく英語でスピーチを始めました。

「今年の冬は、アメリカなどは強烈な寒波に見舞われ、被害も出たようです。冬の寒さは、アメリカだけではなく、モスクワでも記録的な寒さでした。しかし、逆に日本では今年の冬は雪も少なく、暖かい日々が続いています。世界中で様々な気候変動が起こっているようです。従って、これからは今まで以上に、異常気象にも耐えられる商品づくりについて考えなければなりません」

 こうスピーチをした後で、フランスとニュージーランド、そして先ほど質問をしたカナダの幹部に質問をします。

「さて、ここで私が言いたかったポイントは何でしょうか」

 すると、彼らは口を揃えて、

「よくわからなかったよ、ポイントが。でも、アメリカなどでの気候について話したかったんだよね」

「なるほど。では、韓国と中国の代表の方に聞きましょう。私のスピーチはいかがでしたか」

 すると彼らは答えます。

「非常に論旨が明快で、素晴らしいスピーチでした。異常気象に備えた商品づくりをしなければならないことには、我々は賛成ですよ」

「ありがとうございます。東アジアの人には、私の言いたかったことが通じました。しかし、欧米やオセアニアの人、つまり元々ヨーロッパ系の言語圏の人は皆、私のスピーチのポイントをつかめませんでしたね。同じ英語で話したのに、どうしてこのようなことが起きたのでしょうか」

 会場がざわめきます。
 しばらく間をおいて、私は問いかけました。

英語はあくまでも言葉にすぎません。その言葉をどう操るかのノウハウは、実は文化によって異なるのです。今回の私のスピーチは、ある文化圏の人には全く意味不明で、東アジアの皆さんにはよく理解されました。実は、私は日本を含む東アジアの人々のレトリックに従って英語を喋ったのです。だから、そうした論理展開が存在しない欧米の方々、あるいは英語圏の方々には、私の話のポイントが伝わらなかったというわけです」

 いうまでもなく、私は日本流の「起承転結」法を使って、英語でスピーチを行いました。そして、実際は私の予想以上にそのスピーチを理解できる人と、理解できない人とがくっきりと分かれたのです。これは驚くほどはっきりとした結果でした。

「なるほど、英語が喋れるだけでは、そして英語だけに頼っていては誤解が生じるということですね」

 カナダの代表は納得したように、私に話しかけます。

「そうなんです。実のところ、国際交渉の決裂の多くは、こうした誤解が原因なのです。悲しいことに、この結果が戦争につながることもあり、ひどい場合は人の命を奪うことも起こってしまいます。というのも、誤解が起きるとき、お互いが相手に不信感を抱き、そこから怒りや緊張が生まれるからです。ビジネスでも同様です。皆さんは大きな組織の幹部です。であれば、海外とのやり取りでこうしたリスクからプロジェクトを守ることも大切な使命なのです」

 そう私は説明しました。

 
 実際に、ビジネスなどの国際交渉は、お互いにより良い結果を共有するために行われます。誰も最初から決裂は望んでいません。それなのに、交渉やプレゼンテーションがうまくいかないのは、こうした異文化でのコミュニケーションスタイルの違いに起因することが多いのです。
 日本人も含めて、英語を喋るとき、それを自分の所属する文化で醸成されたコミュニケーションスタイルに則して使っていることに気づいている人は、そう多くはありません。そのことが、伝えたつもりが伝わっていないとか、合意したはずなのにうまく動いてくれないといった苦情の原因となっているわけです。
 

こうした誤解があるときに、まず柔軟に対応することが大切ですね。私の会社では、相手に緊張感を与えないように、相手の意図や言いたいポイントを確認するノウハウの研修をしています。現代のグローバルな環境でリーダーシップを取ってゆくには、こうした多様なコミュニケーションスタイルを受け入れ、それに応じた対応をお互いに心がける組織づくりが必要なのです」

 私のスピーチを受けて、異文化対応に詳しいオーストリアの専門家がこのようにコメントをしました。彼のコメントこそが、そのまま今の語学教育の現場や国際関係についての様々な教育関係者にも伝えたいメッセージであるといえましょう。

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ビジネスシーンの英語コミュミケーションに悩む、すべての人に!

『エグゼクティブ・コーチング~誤解される日本人~』山久瀬洋二エグゼクティブ・コーチング~誤解される日本人~』山久瀬洋二 (著者)
IBCパブリッシング刊
*TOEIC では高スコアを取っていても、実際のビジネスの場では役に立たないという人が多いといわれます。それは TOIEC で高得点を取る技能に走って、最も大切な異文化コミュニケーション力を培っていないからです。異文化コミュニケーションの本質を習得できれば、中学英語と、そこに自らの仕事に関する専門用語を加えるだけで自分の意思を理解してもらえます。本書では、日本人の思考やビジネス文化に基づいて英訳することで生じる誤解などを解説し、文化の異なる相手と交流するスキルを伝授します。

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新元号の発表とイギリス王室のインスタグラムから見えることは

“Welcome to our official Instagram; we look forward to sharing the work that drives us, the causes we support, important announcements, and the opportunity to shine a light on key issues. We thank you for your support, and welcome you to @sussexroyal.”- Harry & Meghan

(我々のインスタグラムへようこそ。私たちを導く様々な事柄、そして育んでいること、重要な発表を共有し、大切な事柄に光をあててゆくことを楽しみにしています。皆さんのご支援に感謝します。我々の「サセックスロイヤル(インスタグラムのアドレス)」へようこそ。)
― ハリーとメーガン

「国民主権」の日本、「国王大権」のイギリス

 イギリスの王室がSNSを活用していることは昔から知られていました。
 今回、ハリー王子と結婚したメーガン妃が懐妊し、間もなく第一子が誕生することを受けて、ハリー王子がメーガン妃と一緒にインスタグラムを開設したところ、瞬く間に100万件を越すフォロワーが殺到し、ギネスブックを塗り替えたことも世界中で話題になっています。
 
 さて、同じ頃に、日本では皇位継承に伴う新しい元号が発表されました。
 元号は発表まで極秘にされ、一部の専門家や学者によって原案が作られ、内閣を通して発表されました。
 
 日本国憲法には、天皇の地位について次のような表記があります。それは憲法の最初の部分、つまり第一条にあります。
「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく」
 
 この条文の解釈は色々とあります。
 しかし、一つ確かなことは、国民に主権があり、天皇はその国民によって形成される国家の象徴である、ということです。
 つまり、日本の皇室は主権者である国民に対して開かれた存在で、主権者の上に君臨するものではないことになります。
 
 さて、イギリスは日本と比較すると、法的に国王は旧来の大権を有しています。国民の上に君臨し、法の網の目をくぐれば、君主として様々な政治的決裁を行うことも可能です。
 ただ、現実では国王の権限には様々な制限が課され、国王は内閣の助言によって国家運営への承認を行っています。
 そして、民主主義が浸透した現在、実質上は日本の天皇とイギリスの王室とは似通った存在になっているといっても過言ではありません。
 

帳の向こうに閉じられた皇室、ネット社会にも開かれた王室

 その上で、イギリス王室が開設したインスタグラムと、今回の皇位継承での元号制定の現実とについて比較してみましょう。
 そこに見えてくるのは、時代の変化に応じて、いまだに国王大権という大きな権限を背負いながらも自ら鎧を脱ぎ、国民のみならず世界に向けても開かれた存在となったイギリスの王室と、戦前戦後という大きな時代の節目を越えながらも、かつ主権者から象徴へと地位が変化しながらも、いまだに閉鎖的で世界から見ても帳の向こうで君臨する日本の皇室との違いです。
 
 日本で皇太子と皇太子妃とのインスタグラムが開設され、カジュアルに国民に情報が公開されるのはいつのことでしょうか。
 日本の皇室は日本人にとっても遠い存在で、海外から見れば、ミステリアスで理解できない存在です。
 ハリー王子とメーガン妃のインスタグラムには、今では400万人を超すフォロワーが世界中から殺到しています。しかも、そうしたフィーバーの向こうには、王室の国際結婚の是非を巡った政治的な論争までオープンに展開されているのです。
 
 そうした事情に程遠い日本の皇室。
 それは、そうした皇室をつくっている日本の政治、社会の問題でしょう。
 「令和」という元号が我々の知らない遠いところで考案され、あたかも国民に下賜するかのように発表される現実に疑問が湧かない、日本の社会そのものに大きな課題があるようです。
 雅子妃が長いこと精神的に苦しんできたことも、こうした閉鎖性が故であると欧米のメディアは批判してきました。それでも皇室は変化せず、あと僅かな日時で新しい元号の時代になろうとしています。
 

皇室に見える「変化」に消極的な日本の姿

 こうした違いの背景には、変化を良しとする社会と、変化を嫌う社会との異文化が存在するのかもしれません。変化することにブレーキをかける「正論」が山ほど語られる日本社会は、こと皇室のみならず、ありとあらゆる物事が極限まで追い詰められないと変化しません。
 黒船が来ない限り変わらない日本、マッカーサーが来ない限り変わらない日本と、多くの人が皮肉をいいます。ただ課題は、これからは黒船もマッカーサーも来ないだろうということです。であれば、自滅するか、長年の重みで制度そのものが壊滅しない限り、日本は変化しないということかもしれません。
 変化できない日本の象徴。それが日本の皇室の現実であるとは、極めて皮肉なことだと思うのです。
 

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『イギリス民話 English Folk Tales』エマ・サリー(リライト)イギリス民話 English Folk Tales』エマ・サリー(リライト)
イギリスという土地が別の名前で呼ばれていた古い時代から伝わる物語。おかしみのある小話『ゴッサムの賢人』、日本でもおなじみの『三匹の子豚』、『ジャックと豆の木』、そしてアーサー王も登場する冒険物語『ジャックと巨人』の4編を収録。ユーモア、メルヘン、不思議、わくわくする冒険、少しの残酷さで味付けされた、どれから読んでも楽しめる短編集。

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異文化対立への模索にゆれるアメリカ社会

“Inclusive leadership is a process of bridge-building. It involves careful listening, outreach to people with different perspectives, and persistent, stubborn efforts to find common ground.”

(インクルーシブ・リーダーシップとは、人々に橋をかけるプロセスのことだ。それは、異なるものの見方に対して粘り強く、かつ諦めずに耳を傾け、その人たちの言葉をしっかりと聴きながら語りかけ、共通項を見出すための努力を意味している。)
― Ernest Gundling・Aperian Global から

人々の語りから聞こえる閉鎖的なアメリカの軋み

 アメリカに到着した二日後、アメリカの真ん中にあるオクラホマのイラン系のレストランで、仕事相手の一家と夕食を共にしました。
 彼はアメリカ中西部で、留学生に向けた英語学校を9校運営する事業家です。出身はイラン。若い頃に祖国の混乱に追われてアメリカに移住してきた彼は、自らの経験から子供の頃に多言語に接することがいかに人の頭脳に良い影響を与えるか話してくれます。

「今、トランプのために留学生にビザがおりにくくなっているね。だから国内での多言語教育に力を入れなければならないんだよ」

 彼はそう語ります。確かに、留学生に関係する教育機関は、どこもトランプ政権の閉鎖的な政策の影響が自らに及ぶことを懸念しています。

 
 次の日の夕方、3時間のフライトの後、ロサンゼルスに着きました。ロサンゼルスの西、太平洋に面したサンタモニカにあるビーチクラブには富裕層が集まり、夕食を楽しんでいます。

「おい。俺たちの中ですら、トランプを支持している奴がいるそうだ。大きい声では言えないけど。あいつもしかすると再選されるかも」

「そんなことがあったら、俺はカナダ人になるよ。この国に未練はないさ」

「それよりお前の持っているメキシコの別荘、どうするんだよ。メキシコとの国境がいよいよ閉鎖されるかもしれないって言っているよ。週末向こうで遊んでると、帰れなくなるぞ。気をつけろよ」

「かまわんさ。やれるものならやってみろ」

目指すべきは異なる宗教や人種、価値観の融和

 さらに次の夜、サンタモニカの別のレストランで、シアトルから出張してきている会社の社長と夕食を共にしました。最後にコーヒーを飲みながら、彼は自分の身の上についてぼそぼそと語り始めました。

「俺はなあ。11歳のとき、エリトリアからスーダンまで11日間歩いて亡命したんだよ。エリトリアって知っているかい?」

「ああ、エチオピアの北にある小さな国だね。その頃何があったんだい」

「エリトリアは当時エチオピア領だった。そして独立運動が起きたとき、運動を起こした青少年に対して凄惨な虐殺があったんだ。子供にも容赦なかった。だから父親は俺を守るために、エリトリアからスーダンに密かに亡命させたのさ」

「なるほど。それからサウジアラビア経由でアメリカに移住してきたわけだね」

「そうだよ。ところで、日本ではニュージーランドでおきた惨劇はどう報道されている?」

「一応、ショッキングな事件なので報道はされているけど、日本は平和だよ。大きなリアクションがあるわけではない。君の住むシアトルではどうなんだい」

「シアトルでは皆がモスクに集まった。それもムスリムだけじゃない。キリスト教徒もユダヤ教徒も、様々な心ある人がね。そして、人種や宗教による対立をなくそうと話し合ったよ。この動き、アメリカの各地で起きてね。一つのムーブメントになっている。俺もムスリムだから、ニュージーランドのことは人ごとじゃない。この動きをしっかり支援しているよ」

「そうか。今度シアトルに行ったら、一緒に連れて行ってくれよ」

 翌日のこと、同じ会社のオーナー夫婦に誘われました。彼らは悠々自適な生活を楽しむ70代後半の夫婦です。

「ヨウジ。お前マリファナショップに行ったことがあるかい」

「ないよ。いきなりなんだい。確かカリフォルニアでは合法になったとは聞いているけど」

「面白いよ。身分証明書を提示して、20歳以上であることを証明すれば誰でも入れる」

「なるほど。でも連邦政府は違法だって言っているだろ」

「そうだ。でも州は認めている。皆で合法にするか否かの投票をしたからね」

カリフォルニア州で合法で、連邦政府で違法だとは奇妙だね」

「まあ、その奇妙なところがアメリカさ。だからトランプがいても、ここではしっかり移民が働いている」

 彼に連れられてマリファナを購入する店を見学してみると、店内は思いの外モダンで、アップルストアか何かのようでした。様々な商品があり、店員が説明をします。

「あそこにATMがあるね」

 私はオーナー夫婦に質問します。

「デビットカードかキャッシュでしか購入できないからね。連邦政府と対立しているから、銀行が支援しないんだよ。だから常にキャッシュ商売というわけだ。でも、このビジネスに将来性があるからと投資する金持ちは多いんだよ」

 もちろん、私は日本で違法なマリファナを買えません。その後、夫婦に連れられて映画を見た後、夜遅くまで世界情勢など様々な話題について語り合いました。

多様性が広がる世界、そして日本に求められるものは

 それから二日経った夜。私はサンフランシスコ郊外の海辺のレストランにいました。古い友人との夕食です。彼は、国際企業でのリーダーシップやコミュニケーションに関するコンサルティング会社を経営しています。

「最近どうだい」

「会社の人事部門から、いかに社員間の対立をコントロールすればいいか相談がひっきりなしだよ」

「いざこざって?」

「考えてもみな。アメリカの会社では多様な背景を持った人が働いている。考え方も様々なんだよ。そこにトランプ政権ができて、移民政策をコントロールし始めた。職場でいきなりトランプを支持する野球帽をかぶったクレイジーな奴が立ち上がって、他の人たちを非難しかねないだろ。そうしたことを防ぐにはどんな研修が必要かっていうことさ」

「そうか。オクラホマで打ち合わせをした奴も、サンタモニカで出会った社長も皆中東からの移民だった。彼らも苦労しているようだよ。でも、カリフォルニアはマリファナを合法化するぐらいだから、まだリベラルな人々の聖域じゃないのかな」

「そんなことはないよ。ここだってどうなるかわからない。大切なのは inclusive leadership(インクルーシブ・リーダーシップ)を誰がとれるか、ということだね。つまり、人々の違いを受け入れながら、それをまとめてゆく力をリーダーが持たなければ、これからの組織での前向きなチームワークは難しくなる」

「なるほど。異文化でのコミュニケーションをさらに掘り下げているわけだ」

「ああそうさ。すでに多様性にさらされている世界企業で働く人々が、政治や一部のポピュリズムによって分断されてはまずいからね」

 
 多くの人が、今の世界の状況を憂いています。しかも、アメリカではそれが自分自身の仕事や生活と深く関わっていることが、こうした会話から理解できます。さて、日本人はこうした会話に接して何を感じ、どう思いを馳せるのでしょうか。
 

* * *

『アメリカ史 / A Short History of America』西海コエン (著)アメリカ史 / A Short History of America』西海コエン (著)
アメリカの歴史を読めば、アメリカのことがわかります。そして、アメリカの文化や価値観、そして彼らが大切にしている思いがわかります。英語を勉強して、アメリカ人と会話をするとき、彼らが何を考え、何をどのように判断して語りかけてくるのか、その背景がわかります。
本書は、たんに歴史の事実を知るのではなく、今を生きるアメリカ人を知り、そして交流するためにぜひ目を通していただきたい一冊です。

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新しい組織と個人のあり方を求めて

“New technology will not necessarily replace old technology, but it will date it.”

(新しい技術が古い技術に取って代わる必然性はない。ただ、古い技術がそのまま古くなるだけのことだ)
― Steve Jobs

グローバルな人材とネットワーク構築力に乏しい日本企業

 Googleが新しいインタラクティブなゲームのサービスを開始するというアナウンスは、任天堂ソニーといった、ゲーム機器を販売している企業に大きな衝撃を与えました。
 今、世の中は、パソコンあるいは手に取って移動できるiPhoneのような端末と、インターネットで稼働するソフトウェアがあれば、ほとんど全ての情報や学習、そして娯楽が楽しめるようになってきています。これによって失われ、時代遅れになる機器やサービスが、今後10年の間にどんどん増えてくるのではないかといわれています。
 
 この現象を日本の将来に当てはめたとき、「ものづくり」という言葉に依存しすぎてきた日本人のおごりが、日本の凋落の原因となることを危惧する人も多いはずです。
 以前、日本の自動車業界を見舞うことになりそうなリスクについて触れたことがありました。そこでも解説したように、日本の多くの企業はいまだに組織という縦社会のピラミッドを大切にしすぎて、横のネットワークをグローバルに広げることに長けていないのです。もっといえば、国際的な人材を育成するノウハウに劣っているといえましょう。
 そこで今回は、そうしたノウハウを育成するために、海外のビジネスの現場ではどのような行動が求められているかをまとめてみたいと思います。

個人の「ひらめき」から始まるネットワークと戦略の進化

 全てのビジネスはそれが大きな組織であろうと、個人企業であろうと、「ひらめき」から始まります。要は、この「ひらめき」を組織がつぶすことなく促進し、さらにそこから新たな機能のネットワークを構築することが必要なのです。
 
 欧米流の発想では「ひらめき」に続くプロセスは、大まかにいえば以下のようになります。
 
ひらめき(Inspiration
→プラン二ング(Planning
→ビジョンの創造(Vision
→イニシアチブ(Initiative
→ネットワーキング(Networking
→説得と議論(Presentation and Brainstorm
→チームワークの創生(Creating teams)
→目標設定(Goal setting)
→異なる意見や発想(Counter opinions and ideas)
→顧客のニーズの査定(Customer needs assessment
→試行錯誤(Trial and Error)
→調整(Adjustment
→最終目標(Final Goal setting)
→完成(Completion)
→イノベーション(Innovation
→新たなひらめき(New Inspiration)
→さらなるネットワーキング(New networking)
→成長(Business development)
 
 一見すると日本も同様に思えるかもしれませんが、このプロセスの中に散りばめられた発想法を見てゆくと、そこにいかに異なるビジネス文化が潜んでいるかがわかってきます。
 そして、物事は最初の「ひらめき」から始まる一連の事業で求められる完成では終わりません。完成のあと、常に完成品の刷新が求められます。このとき、再び新たな「ひらめき」によって開発がはじまるのです。
 
 グループ志向で、組織の構造を重んずる日本と異なり、海外ではより個人のイニシアチブが評価されます。そして、個人が組織の縦ではなく、横のネットワーク、時には組織を超えたネットワークを通じて戦略を進化させてゆくことが求められます。
 組織が「ひらめき」を促し、個人がいかにそれをプレゼンし、チームワークを創生し、チームの中でブレンストーミングを重ねながら「ひらめき」を具体的な計画に発展させてゆくかが大切です。
 
 日本の組織に欠けているのは、Individual Initiative(個人のイニシアチブ)を奨励し、育てることです。日本ではとかく「出る杭は打たれる」といわれますが、グローバルな競争に晒されて生き残るためには、まず、この「ひらめき」をいかに育ててゆくかという価値観が大切なのです。
 日本の社会では、自らの発想や意見を直截に発言することを避ける風習があります。しかし、世界中の人が寄り添う環境では、遠慮することなく自らの気持ちを述べ、提案する行動が必要です。その時には assertive、つまり堂々と自信をもった対応をしなければなりません。上下関係や横の関係を気にかけて引っ込み思案になってはいけないのです。
 

グローバル競争が激化する今、日本のビジネスに求められること

 そして、Inspiration「ひらめき」を組織としての目標というVision(ビジョン)に高め、そこで生まれるリスクを検証するために立ち止まるのではなく、リスクを冒しながら、失敗から学び、常に前に進む迅速さとしたたかさが求められます。そのためには、失敗したら責任を取らなければならない、という発想自体を変えなければなりません。
 現在のリーダーに求められるのは、この個人の「ひらめき」をみんなが共有し、その「ひらめき」の向こうにある大きな「貢献」、そして「あるべき姿」をビジョンとして皆が心の中に抱けるよう、情報を共有してゆくファシリテーション力とネットワーク力なのです。そして失敗を責めず、責任を追及することに終始せず、むしろ失敗を奨励し、そこから学べる環境を整えることなのです。
 
 グローバルな環境では、様々な人が世界中から集まり共同作業を行います。このときに、お互いの difference(違い)を尊重し、様々な異なる発想や考え方が集合する diversity(多様性)を受け入れ、そうした環境を積極的に創造しなければネットワークは成り立ちません。常に日本ばかりに目を向け、他者を排除してはいけないのです。
 
 ありとあらゆるビジネスにおいて、世界からプレイヤーが参入し、競争はますます激しくなってきています。
 ここに挙げたグローバルでのビジネスの基本に加え、迅速にadvantage(有利な状況)を獲得し、他者より少しでも先に新しい製品やサービスを提供することが、我々に今求められています。ソニーや任天堂が受けた衝撃は人ごとではありません。日本の産業界全体が取り組まなければならない、喫緊の課題を突きつけられているのです。
 

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『日本人がグローバルビジネスで成功するためのヒント Tips for How to Succeed in a Global Business Context』ジョン・K・ギレスピー (著)、小野寺粛 (訳)日本人がグローバルビジネスで成功するためのヒント Tips for How to Succeed in a Global Business Context
ジョン・K・ギレスピー (著)、小野寺粛 (訳)
グローバルビジネスのスキルを学びながら、英語学習にもなる。ビジネスパーソンのための対訳読み物。
20年間で、海外の日系企業の5000人を超えるビジネスパーソンと面談を行ってきた著者が教える、「日本人のためのグローバルビジネスで成功するためのヒント」。日本人以外の人々とのコミュニケーションやビジネスに対する見方を説明しながら、日本人の問題点を指摘し、その解決方法を伝授。グローバルに成功したいビジネスパーソンのみなさんに、英語力よりももっとはるかに大事なことをお教えします。

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ニュージーランドの事件が日本に及ぼす危険性とは

写真:ニュージーランド総督府

“Indian newlyweds came to Christchurch with a dream. On Friday, that dream died.”

(クライストチャーチに移住してきたインド人の新婚夫婦の夢が、金曜日に死に絶えた。)
― CNNより

「若きウェルテルの悩み」から広がる連鎖反応の波

 このヘッドラインは、先週末に発生したニュージーランドでのテロ事件で犠牲になった、インド系の女性と彼女の夫の苦しみを報道した記事です。
 
 1774年に発表された「若きウェルテルの悩み」というゲーテの名作には、この作品にまつわる逸話が残されています。それは、主人公が自殺したことから、この小説を読んだ若者が共鳴して自殺をした、というチェーン・リアクション(連鎖反応)が起きたことです。
 このことから、例えば青少年の自殺事件が起こり、それが報道されると、その報道の影響を受けて同様の事件が拡散することを「ウェルテル効果」と呼ぶようになりました。
 
 シャンソンの中に、Sombre Dimanche「悲しい日曜日」という曲があります。この曲は1935年にレコーディングされ、世界中でヒットした名曲です。ただ、この歌詞が、亡くなった恋人を想って自殺を決意するまでの女性の気持ちを語っていることから、この曲を聴いた人の自殺が絶えず、曲が最初に発表されたハンガリーでは放送禁止になったといわれています。これも、「ウェルテル効果」の事例の一つです。
 

『若きウェルテルの悩み』初版(1774年)Wikipedia: Foto H.-P.Haack

テロリズムにも及ぶ「ウェルテル効果」が伝播するネット社会

 2011年7月、ノルウェーで政府庁舎が爆破され、その後近郊のウトヤ島で銃乱射事件が発生し、77名の命が奪われるというノルウェー史上最悪の事件が起こりました。アンネシュ・ブレイビク受刑者による単独犯行とされています。ブレイビク受刑者は、キリスト教を信奉し、イスラム教徒などの移民を許容する多文化共生に対して憎悪を抱き、犯行に及んだといわれています。
 今月15日にニュージーランドで発生した、イスラム教のモスクが襲われ、50人もの命が奪われた銃乱射事件は、このノルウェーのケースと似ていると指摘されています。
 ニュージーランドノルウェーも自然が豊かで移民にも開放的、そして社会制度も整った平和な国家です。人口も共に500万人前後という、こぢんまりとした国である点も共通しています。人々は、そんな平和で美しい国で起こった、人種偏見に基づく凄惨な事件にショックを受けているのです。
 
 銃の乱射という意味では、同様の事件がアメリカでは極めて頻繁に起こっています。しかし、それらの全てが、人種的偏見や政治的動機によるものというわけではありません。ただ、銃を乱射するという行為が報道されるたびに、同様の事件が拡散することは事実です。
 「ウェルテル効果」は自殺だけでなく、他人を無差別に殺害するテロ行為にも当てはまるということが、今回の事件で浮き彫りにされたのです。
 
 この事件の背景を考えるとき、1774年、さらには1935年と現在との大きな違いを見せつけられます。それはいうまでもなく、現在がネット社会であるということです。インターネットを検索すれば、ほとんど全ての情報を得ることができます。今回のように、Facebookなどのソーシャルメディアが社会的な影響を危惧し、危険な情報を削除したとしても、一度ネットに上がった情報は瞬時に世界中に拡散します。
 また、よくいわれることですが、インターネットは個人が求める情報をどこまでも追求できるという特性があります。人々は、インターネットはインタラクティブ(双方向)な情報交換ができると評価しますが、実際は極めて一方的な情報の供給源なのです。自分にとって興味があり、心地よい情報のみを追いかけ、それを批判し、反対意見を掲載する情報源には立ち寄らなくても、自分の望む世界だけでネットワークが完成できるのです。
 こうしたインターネットの特性が「ウェルテル効果」をより活性化させ、人々の心に負の連鎖を引き起こすのです。
 

相対する価値観が共存し、狂気に打ち勝つ社会を育てるために

 皮肉な現実を知らなければなりません。
 それは、先に触れたニュージーランドもノルウェーも、似たような国家であるという現実です。風光明媚であたかも童話の世界のような二つの美しい国というイメージは、実は極めて対照的なリスクに直面しているのです。それは、美しく民主的であればこそ、そこに住む人々は世界の価値観に開かれた心豊かな人でありたいという理想と、美しい国であればこそ、そこは自分たちだけの国で、よその文化に汚されたくないというエゴイズムとが生み出す、対照的な価値観の相違が共存しているという現実です。
 
 これは他人事ではありません。日本人の中にも同様の二つの価値観が共存しているはずです。そのことが強い歪みとなったとき、こうした銃乱射事件のようなテロリズムが起こるのです。
 まさか日本では、と思う人も多いでしょう。しかし、これはニュージーランドでも同様だったのかもしれません。まさか自分の国では、とニュージーランドの人々の多くは先週までそう思っていたはずです。
 
 京都はもうすぐ桜に覆われます。日本の最も美しい瞬間です。そんな京都に、世界中から観光客が押し寄せます。そして、海外の人たちが着物を借りてコスプレを楽しみながら、京都を散策します。
 それを見たとき、京都の風情が損なわれると一瞬顔をしかめたとき、そのはるか延長に、今回と同様の事件が予想されるのです。労働者が不足する日本が門戸を海外に開き、世界中から労働者が日本にやってきたとき、そして、そうした人々が日本の静かな地方都市にも浸透したとき、「ウェルテル効果」の悪魔の手が日本のとある個人を掴み、同様の事件が起こらない保証はどこにもないのです。
 そして、日本人がそのような感情を抱いたとき、そこに来た移民にも同様の悪意が芽生え、同じようなテロリズムへと発展しないという保証もないのです。
 
 自分たちの文化を守り抜きたいという意識は、悪いことではありません。しかし、文化を守りたいという意識が、海外の文化や多様性を排斥したいという誘惑と隣り合わせになったとき、思わぬ狂気が社会を襲うのです。
 そんな狂気の誘惑に打ち勝つ、強い正義感を教育現場が育てることができるのかは、我々にとって今最も考えなければならない未来への課題といえそうです。
 

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『世界文学の名言』クリストファー・ベルトン (著者)、渡辺順子 (訳)世界文学の名言』クリストファー・ベルトン (著者)、渡辺順子 (訳)

宝石のような名文に学ぶ、美しい英語のリズム。古典文学の名著から、現代人のこころに響くことばを精選。受検のためだけでなく、大人の教養としての英語を身につけたい方にオススメの1冊。
イギリスで最も権威のある文学賞「ブッカー賞」にノミネートされたこともある英国人作家ベルトン氏が、226もの文学作品の中から「こころに響く名文」を入念に選び、60のテーマにまとめました。古典文学の選りすぐりの名文を、じっくり堪能してください。

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