カテゴリー別アーカイブ: グローバルになれない日本の課題

山久瀬洋二の「グローバルになれない日本の課題」
英語を通した人と人とのコミュニケーションを追求し、4000人以上の国際企業エグゼクティブへのコーチングやコンサルティング活動を展開してきた、異文化ビジネスコンサルタント・山久瀬洋二が「グローバルになれない日本の課題」を探る。過去の連載「問われる日本の世界に向けた危機管理」目次もどうぞ。

権限委譲が求められる日本の今後

“Those men and women, to whom we delegate authority and responsibility, if they are good people, are going to want to do their jobs in their own way.”

(もし権限委譲をした人が優秀な人であれば、その人は彼ら独自のやり方で業務をやっていこうとするはずだ)
― William McKnightの言葉 より

ヒット商品誕生のウラに「権限移譲」の発想

 アメリカに本社のある3Mは、その卓越したマネジメント戦略でよく話題になってきた会社です。年商370億ドルを超え、世界に9万人以上の従業員を抱えるこの企業は、一般には「ポスト・イット」で知られる会社です。
 昔、この会社での研修を担当したことがありました。すでに20年以上前のことです。研修はアメリカやアジア各地、そして日本でも何度か実施しました。テーマは、異なる文化背景をもつ国々でどのように業務上のコミュニケーションを促進し、グローバルに活動をしてゆくかというノウハウについてでした。
 
 今、コロナウイルスの脅威に世界が怯え、マスクが不足しているというニュースが飛び交う中、防塵や空気清浄のための技術に同社が卓越していたことを思い出しました。確かに3Mの技術は多岐にわたります。ポスト・イットの糊といった各種化学製品にはじまり、道路標識などで使用される反射板やダクトなどの浄化装置に至るまで、3Mはその製品の幅広さで世界的に知られているのです。
 
 先週、ある日本の企業で研修を行ったとき、そんな3Mの社是を引用することがありました。それは3Mの中興の祖といわれる、ウィリアム・マックナイト(William McKnight)のスピーチの中にある「失敗に寛容であれ」という一言です。そして、現場にできるだけ権限を委譲し、社員の創意工夫を促進しようという考え方です。
 英語で「権限委譲」とは delegate responsibility と言います。3Mがその業績を伸ばしてきた要因は、一にも二にも、この権限委譲の発想にあります。
 
 その典型的な事例が、ヒット商品となったポスト・イットにあります。
 教会の聖歌隊で合唱の練習をしていた社員が、歌集を開くときに付箋が落ちてしまうことから、糊付きの付箋を作ろうと思いついたことがポスト・イットを生み出すきっかけとなりました。しかし、歌集に付箋が張り付いてしまえば意味がありません。そこで容易に剥がすことのできる糊を作ろうと思い立ったのです。剥がれる糊などとんでもない発想だと、周囲は反対し相手にもしなかったといいます。そこで彼は、会社の勤務時間の15%は自分が探求したい目的のために使ってもよいという制度を利用し、ポスト・イットを開発したのです。上司にも告げず、自分が信じた商品を開発できる制度は「密造酒造り」とも言われました。
 こうして出来上がったポスト・イットが今、世界中の文具店で売られているのです。日本では日本人の趣向に合わせて、ハートなど様々な形のポスト・イットが開発されました。
 
 そんな3Mが日本に初めて支社を開こうとしたときの逸話が残っています。都内のホテルでその準備をしているとき、アメリカから赴任してきた経営幹部たちが、準備に忙しい日本人社員のために飲み物を提供しようとしたというのです。本社から来た人々のその態度に驚いた日本人が恐縮すると、「日本の市場は日本人が一番よく知っている。我々にできることはこれくらいのことだから」と彼らが語ったというエピソードです。
 

中央集権・上意下達の日本に求められる転換

 こうした伝説が、今も新しい伝説を生み出す原動力になっているかどうかはさておき、今日本の多くの企業が世界に進出するときに、この「権限委譲」というテーマをしっかりと考えておく必要があることを、今回は強調しようと思います。
 
 現場で即断即決ができず、常に中央の判断を待つという体制は、今回のコロナウイルス騒動にも見られる対処の遅延にも繋がります。
 しかも、世界に拡大する日本企業にとって、これはさらに最も大きな課題なのです。経営体制がどれだけ多国籍化しているか。そして、現地の支社にどれだけ決裁権が与えられ、現地の会社の経営が現地の人材に任されているか。さらに、企業の生命線ともいえる研究開発部門(R&D)にどれだけ世界の血液が還流しているか、といったテーマを我々は考える必要があるのです。
 
 シリコンバレーなどの先端企業を訪ねると、若手社員がいきいきとしています。会議などでは上司を差し置いて、そうした社員が発言をしています。
 経営陣から見れば、新しく採用した人材が上司や顧客の前で黙っていると、かえって評価が落ちてしまうといいます。たとえ新人が会社や業務のことには疎くても、その発言から新しい発想が生まれることもあるからです。
 日本のように、新人は上司の横で黙ってメモだけを取っている、という状況とは対照的です。さらに、そうした企業に勤務する人の国籍も人種も多様で、我々がアメリカ人の典型と意識する白人系の人の方が少なく思えます。もちろん性別や肌の色への偏った見方は遠い昔のことのみならず、法律でも平等はしっかりと保証されています。
 
 実は、企業にとってR&Dは最も保守的なセクションであるといわれています。
 というのも、R&Dこそがその企業の個性や核となる技術が育まれる場所だからです。企業からしてみると、技術を現地支社に移すにあたって、そう簡単に安心して現地に任せることはできないのです。しかし、そうはいっても権限委譲を成功させない限り、コアテクノロジーの現地での進化は望めません。また、現地での新しい発想が本社のR&Dに新しいイノベーションを起こす可能性も潰してしまいます。
 
 「目から鱗」という発想の転換は、世襲のように日本人から日本人へと受け継がれるだけの組織からは生まれません。これからの企業は柔軟さと寛容さをもって、組織という織物の経(縦)糸と緯(横)糸の双方にメスを入れてゆく必要があります。縦糸の改革とは、世代間の民主化を意味します。若手とシニア層双方に発言の機会を与え、経営や戦略に積極的に参加できる組織をつくる必要があります。横糸は世界に広がります。人種や国籍を超えた人材の還流を促し、性別や学歴といった国内での横糸もしっかりと揉みほぐしてゆかなければなりません。
 

「ものづくり日本」の強さをグローバルレベルに

 日本の企業に来て働きたいという人が増え、働いてよかったという人がさらに増えるようにするには、まだまだハードルがたくさん残っているというのが現状です。このことが、日本の競争力そのものの将来にも影を落としているのです。
 日本の本社が10年後の目標としていることが、海外では来年には着手しようとしている、という現状に危機感を覚えるどころか、その情報すら掴んでいないと、ある大手自動車メーカーの駐在員がぼやいていたことを思い出します。
 グローバルレベルでの技術革新のスピードが加速しているだけに、そうした変化に迅速に対応できるアンテナを持ち、傍受した情報を即座に自らの業務に吸収できる組織の改革が急がれるのです。
 
 「ものづくり日本」の強さを活かし、世界に拡散させるためにも、企業の「日本色」「男性に偏った組織の体質」「若手に沈黙を強いる階層への固執」の三悪を、一刻も早く払拭する勇気が求められるのです。
 3Mでの「密造酒造り」の伝説は、そうした改革のヒントになるかもしれません。
 

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『英語の格言に学ぶグローバルビジネス』山久瀬洋二、アンドリュー・ロビンス (共著)英語の格言に学ぶグローバルビジネス』山久瀬洋二、アンドリュー・ロビンス (共著)
名言・格言から学ぶ、「ひらめき」を成功に導くグローバルビジネスの「発想法」
欧米の人がビジネスをする上で好む名言や格言。これを理解すれば、彼らのビジネスシーンでの物事の考え方、仕事のプロセスの背景が見えてきます。
「グループ志向で組織の構造を重んじる日本、個人のイニシアチブが評価される欧米」など、日本人がしばしば困惑してしまう“ 異なるビジネス文化” や、“ビジネスの進め方と発想法の違い”などについて、彼らが好む名言・格言から理解を深めることができる1冊です。

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パイロットの需要から見える日本に必要な進路指導とは

“The job market for pilots looks great. We have a lot of pilots that are going into retirement which means that it opens up for new up-and-comers in the industry.”

(パイロットの雇用機会は素晴らしい状況だ。今、多くのパイロットが定年を迎えようとしている。つまり、業界で新たな人材の需要が生まれているのだ)
― OSM Aviation Academy より

パイロット養成に見る米日キャリアプランの違い

 マーカスという私の知人は、ドイツはマンハイムの生まれです。
 今、彼は沖縄の那覇の北、海辺に近いのどかな町に住んでいます。そしてマーカスは週に一度、香港に飛びます。
 そして、香港の航空会社の機長として、香港を起点にアジア各地へのフライトで勤務します。フライトは全てが国際線ということもあり、2週間に4回ほどです。規定により、フライトのない日はホテルで待機。そして、2週間の勤務が終わると香港から沖縄に戻り、残りの2週間は休暇というわけです。
 
 世界の航空業界は今、深刻なパイロット不足に悩んでいます。
 日本でも8000人、アメリカでは数万人のパイロットが必要とされているといわれています。
 拡大する航空業界では、人材の供給が需要に追いつかないのです。
 従って、アメリカの航空業界では、高校卒業後にパイロット養成校で経験を積み、自らがセスナなどのパイロットのトレーナーとなった段階で学費に見合う収入を得ながら、本格的な大型ジェットのパイロットを目指してキャリアを積むコースが組み立てられています。
 自らへの投資の期間を短くし、投じた資金の回収をできるだけ迅速に行えるように、業界全体で取り組んでいるわけです。
 驚いたことに、一般の高校でフライトシュミレーターを数台設置して、生徒が授業で航空機の操縦を学べるようにしているところもあるのです。航空機の操縦を学ぶことで、生徒は気象や流体力学など様々な科学的知識を得ることもできます。
 また、アメリカにはパイロットになるための年齢制限もありません。増える需要に応えるように、極めて合理的に人材育成のシステムが機能しているのです。
 
 マーカスは、日本の航空会社もパイロットの不足に悩んでいるといいます。しかし、30歳を過ぎてパイロットのキャリアを始めることは、日本の会社では実質的に無理だとのことです。日本では、いまだに大学卒業直後の「新卒」を雇用し、社風に合った人材を育てようとするので、30歳を超えた人の雇用は稀だというわけです。
 また彼は、一つの航空会社で採用を拒絶された人を、別の航空会社が雇用することもまずないのではないかと語ります。もちろん、高校教育にフライトシュミレーターを導入する事例など聞いたことはありません。
 

海外も視野に自分のキャリアを「操縦」するには

 マーカスのように海外の航空会社に勤務し、パイロットとしてのキャリアを積んでゆくには、まず英語の学習が必要です。
 語学留学、Skypeレッスンなど様々な方法で英会話の基本を学び、そこから海外のパイロット養成校などで訓練を受けるわけです。学費は地方から東京に出て私立大学に入学し、そこを卒業する場合とさほど変わりません。留学はお金がかかると思い込んでいる人が多いようですが、それほど困難なことではないのです。
 問題は、日本ではいまだに、日本国内と海外とを分け隔てし、海外に留学することが何か特別なことだという潜在意識を人々が持っていることです。
 さらに、高校や家庭において、海外に向けてチャンレンジしようという気持ちを持たせるような後押しがなく、人生には様々な進路があるという意識や情報が日本の教育界には欠如しているのです。さらに、まずは4年制大学に行って卒業し、就職をしなければ何も始まらない、という固定観念を抜け出せない人も多くいます。海外に出たいと子供が思っても、高校の進路指導や両親の理解を得ることができないのです。
 
 また、成人してからの進路への観念にも転換が必要です。
 アメリカなどでは、選択した職業が自分に合わないと思った場合、キャリアを180度変えてゆくことはそれほど難しいことではありません。30代になってパイロットを目指したとしても、誰も何も言いません。しっかりとキャリアを積めば就職も可能でしょう。
 確かに日本でも、転職は昔ほど困難ではなくなりました。
 大学を卒業して就職した後で、会社を辞めて別の人生を目指す人も増えてきました。そうした人々にとっては、人生の再出発のための留学も一つのオプションになっています。
 また、外資系企業などでは、そうした海外で学歴を積んだ日本人を雇用するために、海外で日本人の留学生を直接リクルートするケースも増えています。こうした現実を日本の教育界が実感し、進路指導の一つの選択肢としてゆけばよいのですが、そうした意識を教育現場の人が持つことはまだなさそうです。
 
 留学した後、将来は日本に帰って就職を考える人も多いでしょう。
 実際、マーカスの事例を見れば、パイロットの場合、例えば東京に居住して毎月グアムに飛んで、そこを起点に太平洋のいろいろな場所を繋ぐ路線で勤務することも理論的には可能です。もちろん、パイロットに限ったことではありません。現在は、人材がグローバルに環流する時代です。かつ、組織は日々バーチャルになり、フラットになろうとしています。従来のピラミッド型の組織図から、平面を流れる水のようにグローバルに拡大する組織図へと、海外の企業は変化しようとしています。
 そうした変化を、固定観念を外して注視すれば、日本であろうが海外であろうが、自らの判断でキャリアを磨く拠点を見つけることはできるはずです。
 

今こそ日本型の進路を見直そう

 外資系企業と比較した場合、日本企業は海外の人材を本社に還流させ、日本で雇用した人材と平等に活用しようという意識がまだまだ希薄です。
 海外の人材を育て、日本人と同様に役員まで昇進させている事例は、日本企業の場合まだまだ稀なようです。こと航空業界に限らず、海外との激しい競争を勝ち抜くためにも、高校から大学へ進学し、そこから新卒の雇用へという日本型進路の変革が今必要なのです。
 

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留学で成功するために!

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今や世界最貧国となった日本人の英語能力という「貯金」

©EF Education first 2019

“English language rank is low again. Japan’s English language proficiency is falling behind China’s owing to an education system that doesn’t prioritize real life communication skill, according to a survey that comes days after a political row over the issue erupted in Tokyo.”

(統計によれば日本人の英語能力は、東京での政治問題となりながらも、実際の生活の場でのコミュニケーション力を重視しない教育制度のせいで中国よりも低下し続けている。)
― Wall Street Journal より

情報共有を阻害する日本の「プロトコール」

 この記事は、今年にスイスで世界をネットワークし、2300万人を対象にオンラインで実施された英語能力ランキング調査の結果、中国での英語力は伸長しているのに対し、日本はそのレベルが4年連続で低下し、アルバニアやベトナムにも追い抜かれ、世界でも極めて低いレベルになっているというショッキングな報道の一部です。
 
 日本人とのビジネスコミュニケーションは、他の国々と比較しても困難が多いと、海外でよく指摘されます。
 その理由は、何と言っても《情報共有ができない》ことだと彼らは語ります。実は、日本側は日本側でしっかりと情報を共有しているつもりなのです。しかし、日本人同士では理解できているプロトコールが、海外の人々には伝わっていないことが多いのです。
 
 例えば、「会議」という言葉があります。これを訳せば meeting でしょうか。規模の大きな会合であれば、conference と訳すこともあるでしょう。
 しかし、meeting で海外の人が期待するのは、議論をし、アイディアを出しあって、そこから何らかのアクションプランやソリューションを導き出すことです。この行為は、日本では「打ち合わせ」です。そして、打ち合わせから会議に至って決済するまで、日本では日本人にしかわからないプロセスがたくさんあります。
 
 ですから、海外で打ち合わせをしてきても、それがそのまま日本で全てが承認されたことにはなりません。しかも、この日本でのプロセスのメカニズムは、日本の内部でしか共有されていないことが多いのです。「ミーティング」という簡単な言葉一つとっても、このように文化の違いによる期待感や常識の相違があるのです。
 

「ミーティング」に見る日本のコミュニケーション文化

 そもそも、日本の組織での「ミーティング」は、すでに根回しされたことを確認するために開催されることが多く、その場での発言もそれほど多くはありません。
 では、根回しのタイミングはと言うと、これは海外の人にとって極めて予測困難です。日本ならではの「場」に対する感覚や、「間」、さらに「空気」があるからです。「空気を読む」などと言えば、日本人同士ならまだしも、海外の人から見れば至難の技です。
 
 しかも、「場」について言うならば、それは常に変化します。
 例えば、オフラインで打ち合わせをしようと思っていても、そこへ予想に反して上司がやって来れば、上司の立場や顔を立てて、情報共有が曖昧になるかもしれません。そんな微妙な空気を読めずに思っていることをはっきりと表明すれば、かえって前に進むものも進まなくなるかもしれないのです。
 このような複雑なプロトコールが存在するがゆえに、日本人とのコミュニケーションはやっかいだと感じる外国の人が多いのです。
 
 しかし、これは日本にとっては大きなリスクです。
 相手側に日本のこうしたコミュニケーション文化が伝達され、理解されていない以上、日本内部での状況が見えないままに、相手側は日本側が積極的ではないと判断したり、信頼関係が持てないと誤解したりすることで、逸失利益につながるケースが多いからです。
 
 このコミュニケーションギャップを是正する方法は、まず相手のビジネス文化に対する理解を促進すること。そして、学校レベルで子供の頃から、コミュニケーションができる英語力の育成を行い、社会科教育などと英語教育とを連携させ、世界に通用する発信力を持った人材を育成しなければなりません。
 

グローバル社会から置き去りにされる日本の未来

 であればこそ、今日本で英語教育の変革が叫ばれているわけです。
 グローバルなニーズに応えられる人材を育成できなければ、日本の将来はないというのがその背景にあるわけです。
 しかし、残念なことに、従来の文法と読解中心の英語教育から、コミュニケーションできる人材育成のための英語教育へと大きく舵を切らなければならないと言われて、既に何年もの月日が経過しているのも事実です。
 要は、大学入試制度を変革しなければ、何も前に進まないということが、全ての変革のスピードを遅くしているのです。
 そして、最近になって、外部試験の導入は受験生にとって不公平であるために、それを延期すると文科省が発表したのです。
 
 世界からコミュニケーションが困難だと指摘される日本の中で、やはり根回しや「場」や「間」の感覚に翻弄され、英語教育改革のアクションプランもソリューションも明快に打ち出せないでいるわけです。
 そもそも大学受験での外部試験導入の可否のみに全ての議論が集約され、肝心な世界に通用する人材を育成するための4技能(聞く、書く、読む、話すといった4つの英語能力)の育成、というテーマ自体までもが置き去りにされています。
 そして、外部試験の導入にまつわる愚かな失言や、行政と政治との癒着に批判が集中し、政治家のあくなき政争と無能な官僚の対応に、肝心な若い人材が犠牲になっています。
 
 一方、大学側にも問題が山積みです。大学自体が、大学の自治を忘れ、横並びに外部試験の導入の可否を文科省に預けている様子も奇妙なものです。
 大学がそれぞれ、自らの大学がどのような人材を育てたいのかという独自の指針を出し、それぞれの個性をもって受験制度を考えようという意識が希薄なのです。
 
 こうした行政と教育界での混乱に、海外とのコミュニケーションの課題で最も苦しんでいる実業界も翻弄されています。
 実業界で言うならば、新卒を採用することを基本方針とする業界のあり方も、若者が海外で経験を積む機会を摘み取っているのです。
 新卒採用の風習は、高度成長期の終身雇用の常識から一歩も出ておらず、ダイナミックに変化するグローバル経済の現状から見れば、余りにも型にはまり錆びついた制度といえましょう。しかも、その制度がゆえに、大学入試と入社試験とが一本の糸でつながり、学生は大学に入っても世界情勢や海外の多様な文化に触れる時間と機会を短くしています。
 
 英語教育改革の遅延は、そのまま日本という国の未来への対応の遅延という国家的損失に直結します。
 この課題にかかわっている人の多くが、自分の世代での状況にこだわり、それに固執、維持しようとして、未来の人材への配慮を怠っている実情には、悲しいものがあるのです。
 

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英語力だけじゃない、世界に通用するスキルを身につけるなら

『日本人がグローバルビジネスで成功するためのヒント Tips for How to Succeed in a Global Business Context』ジョン・K・ギレスピー (著)、小野寺粛 (訳)日本人がグローバルビジネスで成功するためのヒント Tips for How to Succeed in a Global Business Context
ジョン・K・ギレスピー (著)、小野寺粛 (訳)
グローバルビジネスのスキルを学びながら、英語学習にもなる。ビジネスパーソンのための対訳読み物。
20年間で、海外の日系企業の5000人を超えるビジネスパーソンと面談を行ってきた著者が教える、「日本人のためのグローバルビジネスで成功するためのヒント」。日本人以外の人々とのコミュニケーションやビジネスに対する見方を説明しながら、日本人の問題点を指摘し、その解決方法を伝授。グローバルに成功したいビジネスパーソンのみなさんに、英語力よりももっとはるかに大事なことをお教えします。

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新しい組織と個人のあり方を求めて

“New technology will not necessarily replace old technology, but it will date it.”

(新しい技術が古い技術に取って代わる必然性はない。ただ、古い技術がそのまま古くなるだけのことだ)
― Steve Jobs

グローバルな人材とネットワーク構築力に乏しい日本企業

 Googleが新しいインタラクティブなゲームのサービスを開始するというアナウンスは、任天堂ソニーといった、ゲーム機器を販売している企業に大きな衝撃を与えました。
 今、世の中は、パソコンあるいは手に取って移動できるiPhoneのような端末と、インターネットで稼働するソフトウェアがあれば、ほとんど全ての情報や学習、そして娯楽が楽しめるようになってきています。これによって失われ、時代遅れになる機器やサービスが、今後10年の間にどんどん増えてくるのではないかといわれています。
 
 この現象を日本の将来に当てはめたとき、「ものづくり」という言葉に依存しすぎてきた日本人のおごりが、日本の凋落の原因となることを危惧する人も多いはずです。
 以前、日本の自動車業界を見舞うことになりそうなリスクについて触れたことがありました。そこでも解説したように、日本の多くの企業はいまだに組織という縦社会のピラミッドを大切にしすぎて、横のネットワークをグローバルに広げることに長けていないのです。もっといえば、国際的な人材を育成するノウハウに劣っているといえましょう。
 そこで今回は、そうしたノウハウを育成するために、海外のビジネスの現場ではどのような行動が求められているかをまとめてみたいと思います。

個人の「ひらめき」から始まるネットワークと戦略の進化

 全てのビジネスはそれが大きな組織であろうと、個人企業であろうと、「ひらめき」から始まります。要は、この「ひらめき」を組織がつぶすことなく促進し、さらにそこから新たな機能のネットワークを構築することが必要なのです。
 
 欧米流の発想では「ひらめき」に続くプロセスは、大まかにいえば以下のようになります。
 
ひらめき(Inspiration
→プラン二ング(Planning
→ビジョンの創造(Vision
→イニシアチブ(Initiative
→ネットワーキング(Networking
→説得と議論(Presentation and Brainstorm
→チームワークの創生(Creating teams)
→目標設定(Goal setting)
→異なる意見や発想(Counter opinions and ideas)
→顧客のニーズの査定(Customer needs assessment
→試行錯誤(Trial and Error)
→調整(Adjustment
→最終目標(Final Goal setting)
→完成(Completion)
→イノベーション(Innovation
→新たなひらめき(New Inspiration)
→さらなるネットワーキング(New networking)
→成長(Business development)
 
 一見すると日本も同様に思えるかもしれませんが、このプロセスの中に散りばめられた発想法を見てゆくと、そこにいかに異なるビジネス文化が潜んでいるかがわかってきます。
 そして、物事は最初の「ひらめき」から始まる一連の事業で求められる完成では終わりません。完成のあと、常に完成品の刷新が求められます。このとき、再び新たな「ひらめき」によって開発がはじまるのです。
 
 グループ志向で、組織の構造を重んずる日本と異なり、海外ではより個人のイニシアチブが評価されます。そして、個人が組織の縦ではなく、横のネットワーク、時には組織を超えたネットワークを通じて戦略を進化させてゆくことが求められます。
 組織が「ひらめき」を促し、個人がいかにそれをプレゼンし、チームワークを創生し、チームの中でブレンストーミングを重ねながら「ひらめき」を具体的な計画に発展させてゆくかが大切です。
 
 日本の組織に欠けているのは、Individual Initiative(個人のイニシアチブ)を奨励し、育てることです。日本ではとかく「出る杭は打たれる」といわれますが、グローバルな競争に晒されて生き残るためには、まず、この「ひらめき」をいかに育ててゆくかという価値観が大切なのです。
 日本の社会では、自らの発想や意見を直截に発言することを避ける風習があります。しかし、世界中の人が寄り添う環境では、遠慮することなく自らの気持ちを述べ、提案する行動が必要です。その時には assertive、つまり堂々と自信をもった対応をしなければなりません。上下関係や横の関係を気にかけて引っ込み思案になってはいけないのです。
 

グローバル競争が激化する今、日本のビジネスに求められること

 そして、Inspiration「ひらめき」を組織としての目標というVision(ビジョン)に高め、そこで生まれるリスクを検証するために立ち止まるのではなく、リスクを冒しながら、失敗から学び、常に前に進む迅速さとしたたかさが求められます。そのためには、失敗したら責任を取らなければならない、という発想自体を変えなければなりません。
 現在のリーダーに求められるのは、この個人の「ひらめき」をみんなが共有し、その「ひらめき」の向こうにある大きな「貢献」、そして「あるべき姿」をビジョンとして皆が心の中に抱けるよう、情報を共有してゆくファシリテーション力とネットワーク力なのです。そして失敗を責めず、責任を追及することに終始せず、むしろ失敗を奨励し、そこから学べる環境を整えることなのです。
 
 グローバルな環境では、様々な人が世界中から集まり共同作業を行います。このときに、お互いの difference(違い)を尊重し、様々な異なる発想や考え方が集合する diversity(多様性)を受け入れ、そうした環境を積極的に創造しなければネットワークは成り立ちません。常に日本ばかりに目を向け、他者を排除してはいけないのです。
 
 ありとあらゆるビジネスにおいて、世界からプレイヤーが参入し、競争はますます激しくなってきています。
 ここに挙げたグローバルでのビジネスの基本に加え、迅速にadvantage(有利な状況)を獲得し、他者より少しでも先に新しい製品やサービスを提供することが、我々に今求められています。ソニーや任天堂が受けた衝撃は人ごとではありません。日本の産業界全体が取り組まなければならない、喫緊の課題を突きつけられているのです。
 

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『日本人がグローバルビジネスで成功するためのヒント Tips for How to Succeed in a Global Business Context』ジョン・K・ギレスピー (著)、小野寺粛 (訳)日本人がグローバルビジネスで成功するためのヒント Tips for How to Succeed in a Global Business Context
ジョン・K・ギレスピー (著)、小野寺粛 (訳)
グローバルビジネスのスキルを学びながら、英語学習にもなる。ビジネスパーソンのための対訳読み物。
20年間で、海外の日系企業の5000人を超えるビジネスパーソンと面談を行ってきた著者が教える、「日本人のためのグローバルビジネスで成功するためのヒント」。日本人以外の人々とのコミュニケーションやビジネスに対する見方を説明しながら、日本人の問題点を指摘し、その解決方法を伝授。グローバルに成功したいビジネスパーソンのみなさんに、英語力よりももっとはるかに大事なことをお教えします。

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組織とリーダーシップの取り方への意識変革にさらされる日本企業の未来とは

leadership

“The global economy requires a new set of leadership skills-imbued with a global mindset, multi-functional and effective across cultures and nationalities-that were not as critical even a decade ago.”

(世界経済は、地球規模の意識によりそい、文化や国境を越え、あらゆる状況で機能でき効果的に活動できる、10年前ですら求められなかった新たなリーダーシップを必要としている)
Nicholas Brealey社刊行『What is Global Leadership?』より

前回(2018年1月9日号)、コア・コンピタンス(Core Competence)の新たなあり方に日本企業が晒されている状況を、自動車業界を例にとって解説しました。

今回は、さらにこの問題を「系列」という日本企業のピラミッド構造を見つめながら掘り下げたいと思います。
日本の大企業は、長年下請けのピラミッドに支えられてきました。
自動車業界を例にとると 1st tier から 3rd tire さらにはその下に至る下請けの重層構造の上に大手と呼ばれるメイカーが君臨しています。
そして、エンジンの製造者やブレーキの部品製造者などの大型の下請け企業の規模は、ともすれば自動車を販売する会社よりも大きい場合もあるほどです。

これは、単に自動車業界に限ったことではありません。全盛期の家電業界をはじめ、ありとあらゆる製造業がこの構造に支えられてきました。この下請けに支えられる重層構造を系列とよび、世界の人々はその言葉をそのまま “Keiretsu” と呼んできたことはよく知られた事実です。日本企業でのリーダーシップはこの縦社会でいかに舵をとるかというノウハウそのものだったのです。
バブルの頃、この Keiretsu こそが日本企業のパワーであると多くの人は思っていました。ところが、バブルがはじけ、日本企業が苦境にさらされると、海外の人はこの Keiretsu の閉鎖的な構造が、日本の経済力を世界から孤立させているのだと批判しました。そして、その頃から国際企業でのリーダーシップの取り方そのものが変化をはじめました。
日本企業にとってみれば、ある意味で Keiretsu は便利のよいものでもあったのです。長年の付き合いの中で、かなりの仕事が ”阿吽の呼吸” でできたのです。「いつものようにお願いします」といえば、相手は即座に対応でき、「このあたりを去年のモデルより滑らかに」といえば、過去から累積された経験に基づいて、下請けはメイカーが満足する部品を即座に調整してもくれました。
ところが、IT技術の進歩によって、このピラミッド型の構造だけに頼っていては物事が進まなくなりました。ITの業界ではシリコンバレー( Silicon Valley )を中心に多くの企業がM&A( merger and acquisition )を重ね成長しました。そして、製造業の多くはこれら巨大化した新たな企業の技術を取り入れてゆかなければならなくなったのです。
もともと日本のような強力な下請けの絆のなかった海外の企業は、部品の調達や技術の移管をフラットなネットワークの構築によってまかなってきました。自動車業界でいうならば、例えばフォード( Ford Motor )は世界中から部品を調達し、部品の製造者は常に価格や技術の競争を通して、自らを売り込んできました。
一方、日本の企業は海外に進出する場合でも下請けに助力してもらいました。また、海外に進出したときも、常に本社が主導して海外の拠点を自らのピラミッドの中に取り込んでゆきました。日本から常に管理者を送り込み、日本のやり方を現地に移植することが、海外との付き合い方であると考えてきました。
そんな日本企業が、IT技術など先端のテクノロジーを導入するために、M&Aや世界とネットワークして成長した海外の企業と付き合い始めたとき、状況が一転したのです。
点と点とを繋ぎながら、フラットで交錯した組織構造をもって成長した海外の企業と、縦社会のシンプルなピラミッドに頼ってきた日本企業との発想の違いが、様々な摩擦を生み出したのです。フラットで世界に拡散する新たなネットワークに対して、いわゆるプロアクティブ( proactive )で、インタラクティブ( interactive )なリーダーシップを発揮するノウハウを日本企業は育てていなかったのです。
例えば、日本企業が海外に発注した商品が、その企業のM&Aによって、それを生産する部門がいきなり売却されたために、部品調達そのものの機会が消滅することもありました。
開発がいきなりストップしたり、納期が大幅に遅れたりということも日常茶飯事となりました。そして、こうした課題が顕在化したときに、それを解決してくれる人的組織的ネットワークを海外に有することもできないまま、グローバル経済の変動に翻弄されることが日常となったのです。
得てして海外の企業はマトリックス型の組織で運営されます。日本語に訳せば交錯型組織とでもいうのでしょうか。
この組織構造では、レポートラインや製造開発のラインが上に向かって一直線に伸びるのではなく、例えば財務上の決裁は香港で行い、人事はシンガポール、そして開発の責任はその製品ごとに最も優秀な組織が存在する世界各地に点在といったように、組織の指示系統やレポートライン( reporting line )が複雑に交錯しているのです。日本企業は下請けも含めて、こうした企業構造をハンドルできないままに翻弄されるのです。
さらに、日本企業はピラミッド型の重層構造が厚くなればなるほど、カジュアルにネットワークする海外の企業と比較すると決裁(decision making)にも時間がかかり、様々な根回しを経てやっとGOサインがでたときは、海外の企業はそのプロジェクトそのものに対してとっくに興味を失っているということがしょっちゅう起きるのです。
今、日本企業はこうしたグローバル企業のネットワークや、新規ビジネスを生み出すフラットな組織構造への対応を迫られているのです。1st tier の下請けの持つ重層な組織が、こうした情報のメイカーへの伝達の阻害要因になっていることも考えてゆかなければならないのです。
より早い情報の入手と、その情報への対応、そしてそこからいかに迅速に舵をきることのできる柔軟な組織を創造できるか。これを怠るとき、日本企業の将来は暗雲に覆われるのです。

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