カテゴリー別アーカイブ: ニュースの英語と文化背景・時事解説

山久瀬洋二の「ニュースの英語と文化背景・時事解説」
話題の海外ニュースから旬な英語表現をピックアップ。グローバルな視点で文化背景、歴史、時事を解説。過去の記事は「海外ニュースの英語と文化背景・時事解説」目次からどうぞ。

平昌での「民族意識」に当惑するアメリカ、日本、そして中国

“Kim Jong-un’s Overture Could Drive a Wedge Between South Korea and the U.S.”

金正恩の(雪解けの)提案は、韓国とアメリカとの関係を悪化させかねない。
(New York Timesより)

「民族」という言葉。これを翻訳すると race となります。同時に「民族」は tribe です。大陸の長い歴史を通して活動してきた部族tribe が、国家として自らを意識したとき、tribe race となりナショナリズムの原点へと成長したのです。
平昌オリンピックで、韓国と北朝鮮とが急接近したとき、韓国人の多くはこの「民族」という言葉を意識したのでしょう。
 
確かに韓国では「民族」という言葉をよく耳にします。
韓国はいうまでもなく Korean、つまり朝鮮民族による国家です。では、日本はというと、日本人という言葉はありますが、日本民族という語彙には馴染みません。民族という言葉を使用するときは、日本人は「大和民族」として自らを表現しますが、これは戦前の国粋主義への記憶と繋がってしまいます。
島国として戦後の一時期を除きほとんどの期間独立を維持してきた日本人は、自らのことを「民族」として意識するチャンスがなかったともいえましょう。
 
朝鮮半島の利害に絡むアメリカは、自らを多民族国家 multinational state と定義します。「アメリカ民族」という言葉はなく、多様な人種や宗教を持つ人々が共存する国家というビジョンを民族の代わりのスローガンとしてきました。
では、もう一つの当事者である中国はどうでしょう。中国もアメリカと同様に多民族国家です。しかし中国の歴史はその中心で活動する漢民族と、周辺の民族との対立と侵略の反復でした。漢民族が衰退したとき、満州族などの北方民族が常に中国に侵攻してきました。
逆に漢民族が繁栄したときは、周辺民族は服従を強いられました。朝鮮民族はそんな周辺民族の一つでした。
現在の中国では、社会主義を建前として民族の融合を唱えていますが、ウイグル族チベット族など少数民族との対立が国家の課題であることには変わりありません。北朝鮮との国境には朝鮮民族も活動しています。つまり、中国では、今でも漢民族と周辺の様々な民族との対立の中で、「民族」という意識が揺れ動いているのです。この状況は朝鮮半島の隣国ロシアでも同様です。ロシアでも多民族国家をスローガンとしながら、チェチェンジョージアなど、ロシア民族と他の民族との対立に揺れているのです。
 
さらにヨーロッパに目を向けると面白いことに気付きます。
フランスやドイツやイタリアなどは、それぞれの民族で成り立ってきた国民国家です。しかし、民族の対立の歴史の果てに、お互いに加害者と被害者との立場を繰り返した末に第二次世界大戦という破局を経験したヨーロッパでは、とりたて「民族」という言葉を意識しなくなりました。例えば、戦前ドイツ人は「ゲルマン民族」と自らを位置付け、独自のアイデンティティ(identity) を強調しました。
しかし、今ではヨーロッパの主要国は戦争の悲劇の教訓から、自らを多民族国家へと変化させてきたのです。その結果、パリでもロンドン、そしてベルリンでもアフリカや中東、アジアからの移民が目立つようになりました。もちろん、そうした動きに反発するナショナリズムが高揚していることも事実ですが。
 
さて、こうした世界の動きをみながら、改めて韓国人にとっての「民族」という概念を考えてみたいと思います。
北朝鮮の脅威は、韓国人にとっても喫緊の課題です。実際、朝鮮戦争とのそこに至る過程で、民族を分断した対立を通して、家族が分断され、無数の血が流されました。その後も北朝鮮とは武力による小競り合いが頻発しました。
その悲劇の中で彼らは考えます。ドイツは戦後分断された。しかし日本は分断されずアメリカに保護された。でも東西対立の最前線に取り残された韓国は分断されたと。常に近隣の大国の脅威と植民地化、分断に晒されながらも、世界史の陰に置かれてきたことが、彼らの強い民族意識の原点となったのです。
従って、北朝鮮問題、日韓問題を語るとき、彼らは「朝鮮民族」として極めて複雑な心境を抱くのです。この複雑な意識が、国際関係に優先されるとき、日本やアメリカ、そして時には中国をも困惑させる事態がおきるのです。韓国はアメリカの保護によって朝鮮戦争を克服し、国家として自立してきました。ですから北朝鮮に対抗し、資本主義経済を守るにはアメリカとの同盟が必要です。しかしそれは日本も組み込んだ日米韓という連携へとつながります。しかもアメリカは東西対立を促進し、朝鮮半島を分断した片方の加害者でもあるのです。
 
こうした韓国の人々のアメリカと日本への意識が、平昌オリンピックというスポーツの祭典を利用した北朝鮮への接近に彼らを駆り立てたのです。
北朝鮮との問題は、過去から続く民族の悲劇を克服する問題として、自らの力で解決したいという強い意識が韓国の背景にあるわけです。
この民族意識を考えたとき、アメリカも日本も、当惑しながら、対応を考えざるを得なくなりました。これは中国も同様です。中国は2千年にわたって朝鮮半島に影響力を持ち続けてきました。しかし、このところ北朝鮮が中国に対して、「民族」として対抗するようになりました。中国からしてみれば、韓国がアメリカから自立することと、北朝鮮が中国から離反することをどう判断してよいか、文字通り困惑しているのです。
 

「民族」という概念の薄い日本。確かに日本人は、こうした激動の時代に翻弄された大陸国家の微妙な意識の機微には疎いようです。それだけに、アメリカと中国に挟まれた朝鮮半島の動向にはより繊細な対応が必要になるのです。

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アジアの人々と働くこと

『なぜ銀座のデパートはアジア系スタッフだけで最高のおもてなしを実現できるのか!?』千葉祐大 (著者)なぜ銀座のデパートはアジア系スタッフだけで最高のおもてなしを実現できるのか!?』千葉祐大 (著者)
価値観の違うメンバーを戦力化するための17のルール!
訪日外国人の数が、毎年過去最高を記録している現在の日本。お客さまが外国人であれば、接客する側も言葉や文化を理解している同国人のほうがいいと考えるのは当然のこと。
しかし、「はたして外国人に、日本人と同じレベルのおもてなしを実践することができるのか」「どうやって、外国人におもてなしの教育をすればいいのか」と、懸念や疑問を持つ現場関係者が多いのも事実です。
本書は、外国人とりわけアジア系人材を、おもてなし提供者として育成する教育方法について、銀座のデパートで実際に行われている事例を取り上げながら、詳しく解説します。

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フィリピン情勢からみえてくるアメリカのリベラルの内部矛盾

“Is there a more elastic word in the English language than the word liberal?”

英語の中でliberalという単語ほど、伸縮自在な言葉はないのでは?
(BBCより)

リベラル liberal という言葉は、寛大で心が広く、革新的、あるいは進歩的という言葉と共通しています。民主的で、人種差別などを否定し、人権を尊重する考え方を示します。
 
アメリカであの人はリベラルな人だといえば、基本的にその人は良い評価を得ていると考えられます。つまり、彼らは個々人の人権 human rights を尊重し、移民に対しても、他の文化にも寛容 tolerant で、自然や動物の保護にも積極的です。彼らの多くは比較的経済的にも余裕のある中産階級で、海外に居住した経験のある人も多くいます。もちろん海外を旅した経験も有している人がほとんどです。そんな彼らは一様にトランプ政権には批判的です。
 
そんな彼らが支持するオバマ前大統領のとき、フィリピンで大きな変化がありました。デュテルテ大統領が就任し、彼が麻薬との戦争を宣言したのです。デュテルテ大統領は、警察に対して抵抗する者は容赦なく殺害することを認め、麻薬や麻薬にかかわる組織の撲滅に乗り出しました。
フィリピンの刑務所は逮捕された麻薬中毒者で溢れ、劣悪な状態となりました。また、麻薬にかかわる人は容赦なく警察に殺害され、さらには賄賂を受け取る政治家にまで粛清の手が伸びました。
 
この状況をみたオバマ大統領は、フィリピンで人権が尊重されていないことへの懸念を表明しました。それはそれでアメリカのリベラルな人々の世論を代弁したコメントだったのです。確かに、麻薬犯とはいえ、裁判を受け、刑に服し更生される権利があります。警察はあくまでも行政組織です。そんな行政組織は余程のことがないかぎり、裁判にかけずに被疑者の命を奪う権利はないはずです。
 
しかし、オバマ大統領の指摘を受けたデュテルテ大統領は、強く反発しました。そしてデュテルテ大統領のオバマ大統領へのコメントが乱暴だったために、その表現がメディアに取り上げられ、アメリカではデュテルテ大統領は人権を無視するヤクザのような大統領というイメージが定着したのです。特にリベラルと呼ばれる人々にはデュテルテ大統領のやり方は異常だったのです。
 
では、フィリピンではどうだったのでしょう。フィリピンの人は、長年政府の腐敗と麻薬の弊害に悩まされてきました。デュテルテ大統領は強権ながら、その双方に鋭くメスをいれたため、多くのフィリピン人がデュテルテ大統領の手腕に賛辞をおくりました。実際、街角から犯罪や麻薬への脅威が払拭され、政治家の腐敗も少なくなりました。確かに、フィリピンでは腐敗と麻薬の被害は、我々の想像する以上に深刻だったのです。
 

 

フィリピンには以前、マルコス大統領という独裁者がいました。
彼に暗殺されたとされる、ベニグノ・アキノ氏の遺志を継いだとして大統領になった夫人(コラソン・アキノ)は、まさにフィリピンに民主主義をもたらした人として、そして女性の大統領としてアメリカのリベラルな人々の支持を受けました。アキノ大統領は、アメリカ軍基地を産業施設に変えて、アメリカ軍をフィリピンから締め出したことで、アメリカ政府との対立はあったものの、多くのアメリカ人は彼女を女性の民主化の旗手として応援したのです。その影響もあり、日本でも彼女は高く評価されています。

しかし、フィリピン人の中には、アキノ大統領への不満がくすぶっていました。彼女はフィリピンの中でも華僑系の富裕層の出身で、正に富と腐敗の上に成り立っている政権だと多くの人が思っていたのです。暗殺された夫のアキノ氏は、実は夫人の手にかかったのではないかという噂まで流れているのです。
マルコスは実はベニグノ・アキノ氏に政権を譲ることを意図していたともいわれています。こうしたことの真実はわからないものの、この二人の政治上のライバルが、以前は友人であったこともまた事実なのです。
 
アメリカのリベラルといわれる人の良心は、常に世界の人権と民主化の問題に目を向け、独裁者や強権を振るう政治家に懐疑的です。しかし、アメリカがそんな海外の政権を冷戦やその後の世界の覇権争いの中で自分の思うように操ろうとしてきたこともまた事実です。そうした国々の国民の多くは、アメリカのリベラルと呼ばれる人々に対して複雑な意識を持ちます。
植民地としての苦しい体験や、その後の冷戦の間での様々な矛盾にもがいてきたアジアやアフリカの現状を、アメリカの理想で一刀両断することへの憤りがそこにはあるのです。
デュテルテ大統領を支持しなければならないフィリピンの社会事情への無理解を糾弾したいのです。そして、なによりもアメリカはそんなフィリピンの宗主国であったことを、多くのアメリカ人が忘れていることも事実なのです。
 
世界をステレオタイプで型にはめてみることは、人々の心にお互いへの不信感を醸成します。
複雑に絡み合った世界の事情、そして背景や歴史をじっくりと見つめることが必要です。
アメリカのリベラルといわれる人々に求められていることは、自国になぜメキシコに壁をとまで言い切るトランプ政権が、彼らの意に反して生まれてしまったのか。そして、世界の人々がなぜアメリカのいう「民主化」や「自由」という呼びかけにアレルギー反応を起こすのかを、自分の尺度から距離をおいて見つめ直すことなのかもしれません。
 

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英語力だけじゃない、世界に通用するスキルを身につけるなら

『日本人がグローバルビジネスで成功するためのヒント Tips for How to Succeed in a Global Business Context』ジョン・K・ギレスピー (著)、小野寺粛 (訳)日本人がグローバルビジネスで成功するためのヒント Tips for How to Succeed in a Global Business Context
ジョン・K・ギレスピー (著)、小野寺粛 (訳)
グローバルビジネスのスキルを学びながら、英語学習にもなる。ビジネスパーソンのための対訳読み物。
20年間で、海外の日系企業の5000人を超えるビジネスパーソンと面談を行ってきた著者が教える、「日本人のためのグローバルビジネスで成功するためのヒント」。日本人以外の人々とのコミュニケーションやビジネスに対する見方を説明しながら、日本人の問題点を指摘し、その解決方法を伝授。グローバルに成功したいビジネスパーソンのみなさんに、英語力よりももっとはるかに大事なことをお教えします。

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「アメリカの裏庭」という意識を嫌うメキシコとは

Latin America is no longer the “US’ backyard” and the US shouldn’t be “lecturing less developed countries” on “rights and freedoms,” while breaching international law with massive surveillance campaign itself.

(ラテンアメリカはもはやアメリカの裏庭ではない。アメリカは新興国に対して人権と自由について講義するなんておこがましい。自分こそ他国を自らの思い通りに管理しようと国際法を常に無視しているにもかかわらず)
RT Newsより

トランプ政権になって、メキシコからの移民の問題が話題となっています。
我々は、メキシコのことを考えるとき、アメリカの存在があまりにも大きく、経済格差もあることから、メキシコをアメリカから切り離してみることを忘れがちです。
 
先日カリフォルニア州からのメキシコの玄関口ティワナに出張しました。車で国境を越えてメキシコに入れば、確かにそこがいかにアメリカにぴったりとくっついた場所であるかを実感します。
 
しかし、日本に帰国しようと、ティワナからロサンゼルスに飛んで、日本への帰国便に乗り継ごうとアレンジ(arrange)を試みたとき、ロサンゼルスまでの旅客機がないことに気付きます。ティワナからはメキシコの首都メキシコシティに飛んで、そこから日本への帰国便に乗り継がなければなりません。
そうなのです。アメリカに接しているとはいえ、メキシコは独立した大国です。ティワナに住む人の目は、アメリカではなくメキシコに向けられていて当然なのです。移民問題等で、我々がついつい誤解しがちな中南米のもう一つの顔。つまりアメリカとはまったく異なるラテンアメリカの文化圏がそこにあり、メキシコシティはその核の一つであるということを、忘れてはならないのです。
 
ティワナからメキシコシティまでは空路で3時間かかります。アメリカの側にある国としてついつい捉えがちなメキシコは、実は国土は日本の5倍以上と広大で人口も日本と同規模。経済的潜在力もGDPでいえば世界11位という大国なのです。メキシコの人がトランプ政権の処置に憤りを感じる理由の一つは、不公正な移民政策への抗議ではないのです。豊かなラテンアメリカの伝統を引き継ぐメキシコという国家のプライドを踏みにじったからなのです。
 
16世紀以降にマヤ文明アステカ文明といった先住民の国家群のあったメキシコはスペインの侵略を受け、その後先住民の文化とスペイン文化が融合します。我々はともすれば、スペイン側が侵略者であると一方的に考えがちですが、当時の中南米はそもそも先住民同士でも勢力争いが続いていました。そうした彼らの目からみれば、スペインの侵攻も、ヨーロッパの中南米の植民地化ではなく、単に今までみたことのない別の部族の侵略と捉えたはずです。
 
いずれにせよ、メキシコをはじめ中南米の広範な地域では、それ以来アングロサクソンのプロテスタントによって開拓されたアメリカとはまったく異なる文化圏が形成されたのです。
メキシコの中央部には、そうした文化の香りが漂う美しい街並みを残す都市が点在しています。銀山の街として、過去にはスペインに収奪されたこともあった古都グワナファト。そこから車で1時間半ほどのところにあるサンミゲル・デ・アジェンデなどを訪ねると、古い教会や昔から変わることのない街並みが旅人を魅了します。中南米の街はどこにいっても中心街に大きな教会と広場があり、そこを核に旧市街が広がります。その風景は、メキシコからアルゼンチンやチリに至るまで、どこの地域にも共通しています。
 
 
そして、ラテンアメリカの国々のほとんどがスペイン語圏です。
英語はなかなか通じません。英語は一部の人がビジネス上のニーズで話す言葉にすぎないのです。そして、ラテンアメリカの人々の多くは敬虔なカトリック信者です。プロテスタントの常識や宗教観が席巻するアメリカとは対照的です。
その昔、これらの地域は、中南米の鉱物資源の恩恵を受けようと、スペイン人が現地の人々を奴隷として酷使した過酷な歴史を経験しています。メキシコの場合、19世紀初頭から独立運動の波が高まり、現在のメキシコに至りました。
 
 
メキシコにディエゴ・リベラという画家がいました。今では世界的に有名になった女流画家フリーダ・カルロとの愛憎劇でも知られる人物です。
1930年代、ニューヨークにロックフェラーセンターが建設されたとき、その中心となるビルの壁画の制作をロックフェラーは彼に依頼しました。ディエゴ・リベラがその壁画にレーニンを描き入れたことから、反共の砦アメリカを代表する資本家ロックフェラーは激怒。壁画は破壊され、ロックフェラーは別の画家にその制作を依頼し直すというハプニングがありました。
以来、ディエゴ・リベラはロックフェラーを堕落した資本家の象徴として風刺したといいます。メキシコ人のアメリカへの意識を垣間見るエピソードです。今、ロックフェラーセンターに描かれている壁画を仰ぎ見れば、リンカーンがそこに登場し、その後マテリアリズムで世界を凌駕したアメリカの栄光を象徴するような風景に圧倒されます。その壁画の場所に、ディエゴ・リベラ のレーニンがあったことなどなかったかのように。
 
アメリカとメキシコ。この二つが対等な、それでいて切ってもきれないアメリカ大陸の大国であることを、アメリカ人の多くはロックフェラーのように、気づいていないのです。
トランプ大統領に代表される多くのアメリカ人が、中南米やカリブ海諸国を「アメリカの裏庭」(America’s backyard)と意識して、思うままに操ろうという意識が横行する現実にそろそろメスがはいってもよいのかもしれません。
 

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アメリカ人と文化の壁を超えてビジネスをするために!

『トランスナショナル・マネジメント:アメリカ人に「NO」と言い、「YES」と言わせるビジネス奥義』山久瀬洋二 (著)トランスナショナル・マネジメント:アメリカ人に「NO」と言い、「YES」と言わせるビジネス奥義
山久瀬洋二 (著)
国家・民族・言語・宗教の境界を超えてアメリカ人と対等にわたりあう、80の絶対法則!
欧米をはじめ、日本・中国・インドの大手グローバル会社で100社4500人の異文化摩擦を解決してきたカリスマコンサルタントである山久瀬 洋二氏が、トランスナショナルなアメリカ人を正しく理解し、対等にビジネスするための奥義を、豊富な事例と図解でわかりやすく説明します。英語よりも、MBAよりも、もっとずっと大切なものがここにあります。

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メキシコでの日米談義はグローバルなコメントから

“Car plants from Michigan to South Carolina could pay more for the steel used to make engines and auto parts. Farmers across the Midwest would be a prime target for China, the biggest buyer of some American crops.”

(今回のトランプのアメリカの産業を保護するという関税は)ミシガン州やサウス・カロライナ州の自動車製造業はエンジンと部品の調達コストがあがるだろう。そして、中西部の農家も、最大の作物の買い手である中国の輸入制限という報復の対象になるはずだ。
CNNより

「メキシコ人はプライドが高いんだよ。実は本音でいえば、多くの人はアメリカ嫌い。トランプ政権のメキシコ蔑視の発言はそれに拍車をかけたことになるさ。でも、とはいえ、経済的にはアメリカは大きな影響力を持つ。だから、多くのメキシコ人は英語も勉強しようとしているし、アメリカに移住した親戚や友人にも期待しているんだ。」
メキシコ中部の中核都市グアダラハラのレストランで、そこに暮らすマイケルというアメリカの仕事仲間と夕食を共にしました。
「実はね。メキシコ人で英語をしゃべれるのは人口の5%に過ぎない。その5%の中に英語の初心者もいれば、上級者もいる。いかにこの国で英語が通じないかということがわかるだろう。」
すると、アメリカから一緒にグアダラハラに飛んできて夕食に同席したもう一人の知人が私に質問します。
「でも、メキシコ人はトランプ政権に強く反発しているよね。声にだして。日本ではどうなんだい。今回、鉄鋼やアルミにアメリカは関税をかけると発表したろ。日本人は黙ってそれを受け入れるのかねえ。」
これを受けて、もう一人のアメリカ人が言います。
「あれって確か中国に向けられたものだよね。日本も対象なんだ。でもさ、日本は軍事でもアメリカにタダ乗りしているし、まあ関税でもかけないとバランスが取れないんじゃない。」
「それって、事実に反するんだよ。」
私はそう言って反論しました。
「日米安保条約があって、アメリカ軍は日本に駐留しているけど、その経費のかなりは日本がもっているんだよ。むしろアメリカはその経費によって日本に軍隊をおいて極東でのプレゼンスをもつことができるという利益を受けている。知らなかったの。」
「そんな事実アメリカ人は誰も知らないよ。なぜなら日本はそのことを全然主張しないから。主張しなければアメリカの世論に届かないじゃない。」
確かに彼らのいう通りです。我々が思っているより強く主張して、初めて海外にはじんわりとメッセージが伝わるのだということを、日本人は知らなすぎます。日本人の考え方やスタンスについて、自分たちはちゃんと言っているというものの、実際はそのほとんどが的確に伝わっていないことがあまりにも多すぎるのです。
「じゃあ今回の関税の問題も、日本の声はアメリカには届いていないようだね。」
「そうだよ。韓国やヨーロッパ諸国はアメリカに強く反発した。でも、日本からの声は届いていないよ。韓国やヨーロッパ諸国もアメリカにとっては大切な友好国だろ。でも彼らはいうべきことははっきりいうさ。日本人って何か遠慮しているのかな。それともはっきり言いすぎることは美徳じゃないと本気で思っているんだろうか。だから日本だけはしごを外されたんだよ。」
 
このアメリカ人のコメントには確かに耳を傾ける必要があります。
こちらでは、親しい友人が様々なことで口角泡を飛ばすように議論します。横でみていると喧嘩をしているように見えることも。でも、彼らはそうした議論をしてこそ、相手との理解を深めることができるというスタンスを持っていることを忘れてはなりません。異なる意見を戦わせることは、むしろ良いことなのです。
日本人で流暢に英語をしゃべり、海外通と呼ばれ教養もある人が、この一点を理解していないために、海外との交渉で思わぬ失敗をする場面が多いのです。
軍事や経済での日米の交渉も例外ではありません。正直なところ、こうした点を踏まえることのない、日本の官僚、大企業の幹部の交渉力のなさには苛立ちを感じるほどなのです。
ですから、今でもアメリカでは、日本に対する様々なステレオタイプが横行しています。ここで取り上げた日本タダ乗り論に加え、日本では女性が奴隷のように差別されている。ほとんどの日本人は内気ではっきりものを言わない。日本人は中国や韓国へ戦争責任について何も謝罪していない。日本には言論の自由がないなどなど。
 
確かにこれらのステレオタイプ(Stereotype)には、それなりの原因があるかもしれません。しかし、はっきりと英語で自らのスタンスを語ることのできない日本人が得る不利益は思っているよりも大きいのです。
「おいおい、アメリカ人は利益があると思えば、平気でスタンスを変えるよ。例えば、関税のことでも同様さ。トランプは今ひどい支持率だろ。だからアメリカの産業を自分が支えていることを強調するために、日本をスケープゴート(scapegoat)にするなんて当たり前のことなんだ。事実に反してもね。俺は中東の出身だからよくわかるけど、アラブ系の人がどれだけそんなアメリカの政策の被害にあってきたことか。トランプ政権はその最たるもの。知ってるかい、中東の混乱のため、俺の親戚の住むレバノンには、シリアから200万人の難民が流れ込んでいる。日本はこうしたことに何もしていない。俺たちからみても日本人は大人しすぎる。大人しければ、アメリカはこれ幸いにアドバンテッジ(advantage)をとってもいいと彼らは思っているんだ。」
同じテーブルにいたイラン系のアメリカ人が話し出します。
「いいかい。なんだったっけ今の日本の首相。」
「安倍首相かい。」
「そうそう、アベ。彼がトランプとゴルフをしたから大丈夫だって。馬鹿な話だよ。結果としてヨーロッパの多くの国はトランプを強く批判して、自分の国の利益を守ったじゃない。仲のいいことと、ビジネス上の利益とは違うんだよ。そこのところがどうしてわからないんだい。」
 
グアダラハラの夏の夜は、メキシコの話題から日本人論へと移りながらふけてゆきました。
その話題に加わる私の複雑な気持ち。それが、海外を実感したときに抱くやるせなさなのです。この気持ちを一人でも多くの人が共有できるようになったとき、日本は少しずつ変化してゆくはずです。そんな未来が来ることを祈りたいものです。
 

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外国人とビジネスをするためのテクニックを学ぶなら

『異文化摩擦を解消する英語ビジネスコミュニケーション術』山久瀬洋二異文化摩擦を解消する
英語ビジネスコミュニケーション術

山久瀬洋二、アンセル・シンプソン (共著)
IBCパブリッシング刊
*山久瀬洋二の「英語コミュニケーション講座」の原稿は本書からまとめています。文法や発音よりも大切な、相手の心をつかむコミュニケーション法を伝授! アメリカ人のこころを動かす殺し文句32付き!

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アメリカ人の意識にある頑なさとは

“Christians remain by far the largest religious group in the United States, but the Christian share of the population has declined markedly. In the past seven years, the percentage of adults who describe themselves as Christians has dropped from 78.4% to 70.6%. “

(アメリカでは今でもキリスト教徒が最大多数を占めているがその比率の減少が顕著。この7年間で自らをキリスト教徒であるという成人は78.4パーセントから70.6パーセントに減少した)
Pew Research Centerの報告書より

アメリカの社会を理解するには、最初にアメリカにやってきた移民集団の背景を理解することが極めて大切です。なぜ、今この話題に触れるかといえば、それが現在のトランプ政権を産みだし、右傾化するアメリカ社会のメカニズムを解き明かす鍵になるからです。
 
よくアメリカはプロテスタントの国だといわれます。1620年にピルグリム・ファーザーズ(Pilgrim Fathers)と呼ばれる人々が、メイフラワー号に乗ってアメリカに移住してきたことが、現在のアメリカの起源であるかのようにいわれていることもその原因でしょう。それは的外れな感想ではありません。
 
アメリカにはバイブル・ベルト(Bible belt)と呼ばれる地域があります。アメリカの東西両海岸に挟まれた内陸、東はインディアナ州あたりから西はコロラド州やネブラスカ州あたりに至る中西部と呼ばれる広大な地域がそれにあたります。ここでは、様々なプロテスタント系の人々が独自のコミュニティを維持しています。また、アメリカ南部からテキサス州に至る地域も同様です。
 
宗教改革ののち、ヨーロッパは旧教であるカトリックと新教と呼ばれるプロテスタントとの確執で長年にわたり戦火が絶えませんでした。こうした混乱や迫害を逃れ、多くのプロテスタント系の人々が、新天地を求めてアメリカにやってきたのです。彼らにとって未開の地であったアメリカは文字通り神によって与えられた地promised landということになります。17世紀から19世紀にかけて、イギリス系のみならず、オランダ系、ドイツ系、フランス系など、ヨーロッパ各地からそうした人々が海をわたってきたのです。
 
やがて彼らの宗教観がアメリカ人の価値観となり、後からきた移民もそうした価値観や道徳心に馴染むことによってアメリカ人となっていったのです。
ヨーロッパからの移民が奴隷として酷使した黒人や、同じく迫害によって海をわたってきたユダヤ系、さらにヨーロッパではプロテスタントと対立していたカトリック系の人々も例外ではありません。アメリカ社会に溶け込むには、そうした人々もマジョリティとしてアメリカ社会の礎を築いてきたプロテスタント系移民の抱くモラルや価値観を受容することが必要だったのです。
 
では、そもそもプロテスタントとはどういう人々であったのかを我々は理解する必要があります。プロテスタントとは文字通り「抗議protestする人々」です。ヨーロッパ社会に君臨していたローマカトリックが長年にわたって築き上げた権威や儀式を放棄し、本当の信仰は個人と神との関係によるもので、儀式や権威に従えばそれでよいというのはおかしいのではと抗議した人々がプロテスタントと呼ばれる人々です。
 
ですから彼らはローマ教会の拘束から自らを解き放ち、自活するために勤勉に労働をし、神に対して直接責任をもって信仰を貫こうとします。彼らにとっての教会とは、そうした思いを抱く人々が集う場所で、ローマカトリックのような権威の象徴としての教会は排除されるべきだと主張します。もっといえば、プロテスタントの人々は、原点的な信仰に回帰しようとした人々なのです。
 
長年彼らはそうした宗教観を堅持してきました。その結果、皮肉にも彼らはアメリカ社会の土台を形成する最も保守的な人々となったのです。勤勉、貞節、聖書への無条件の服従など、現代社会を造ってきたアメリカの多くの人々が、我々が考えるより遥かに頑なに自身の価値観に固執しきたのです。
 
そんな価値観を維持する人々が、グローバル化の波の中で、社会そのものが変化し、今回紹介したヘッドラインのようにキリスト教への信頼そのものが揺らぎつつあることへ危機感を抱いたことが、アメリカの右傾化の背景にあるのです。日本がアメリカと付き合ってゆくときに、この点を見落とさないようにすることが大切です。トランプ大統領自身、プレスピテリアンPresbyterianというスコットランド系のプロテスタントの伝統をルーツに持っています。共和党、民主党を問わず、歴代の大統領のほとんどが彼と似た背景をもっていることを理解しておかなければなりません。
 
そんなアメリカと対立するイスラム社会。実は、イスラム教もその起こりはプロテスタント活動と似ていました。キリスト教と同じルーツを持つ神への信仰を重んじ、個人個人が敬虔に宗教行為に勤しもうという宗教改革運動がイスラム教の起源だったのです。個人の信仰を大切にするために、偶像崇拝を拒否し、祈りと節制を重んじたイスラム教と、プロテスタントとは極めて似た行動様式をもっているといっても過言ではありません。それゆえに、お互いに対立したときには頑なに相手を排除しようとしているのでしょう。
 
アメリカは多様な移民によって成り立つ多民族国家です。
それだけに、彼らをまとめる国家としてのビジョンが求められました。それゆえにアメリカ人はプロテスタント的なモラルを善悪の基準とし、それを普遍的な意識へと育てあげたのです。
一見自由でカジュアルなアメリカ人の行動様式の内側にこの頑なさがあること。これに気づくと、アメリカ社会のメカニズムがより明快に見えてくるのです。
 

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ビジネスシーンの英語コミュミケーションに悩む、すべての人に!

『エグゼクティブ・コーチング~誤解される日本人~』山久瀬洋二エグゼクティブ・コーチング~誤解される日本人~
山久瀬洋二 (著者)
IBCパブリッシング刊
*TOEIC では高スコアを取っていても、実際のビジネスの場では役に立たないという人が多いといわれます。それは TOIEC で高得点を取る技能に走って、最も大切な異文化コミュニケーション力を培っていないからです。異文化コミュニケーションの本質を習得できれば、中学英語と、そこに自らの仕事に関する専門用語を加えるだけで自分の意思を理解してもらえます。本書では、日本人の思考やビジネス文化に基づいて英訳することで生じる誤解などを解説し、文化の異なる相手と交流するスキルを伝授します。

外国人とビジネスをするためのテクニックを学ぶなら

『異文化摩擦を解消する英語ビジネスコミュニケーション術』山久瀬洋二異文化摩擦を解消する
英語ビジネスコミュニケーション術

山久瀬洋二、アンセル・シンプソン (共著)
IBCパブリッシング刊
*山久瀬洋二の「英語コミュニケーション講座」の原稿は本書からまとめています。文法や発音よりも大切な、相手の心をつかむコミュニケーション法を伝授! アメリカ人のこころを動かす殺し文句32付き!

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