カテゴリー別アーカイブ: ニュースの英語と文化背景・時事解説

山久瀬洋二の「ニュースの英語と文化背景・時事解説」
話題の海外ニュースから旬な英語表現をピックアップ。グローバルな視点で文化背景、歴史、時事を解説。過去の記事は「海外ニュースの英語と文化背景・時事解説」目次からどうぞ。

新元号の発表とイギリス王室のインスタグラムから見えることは

“Welcome to our official Instagram; we look forward to sharing the work that drives us, the causes we support, important announcements, and the opportunity to shine a light on key issues. We thank you for your support, and welcome you to @sussexroyal.”- Harry & Meghan

(我々のインスタグラムへようこそ。私たちを導く様々な事柄、そして育んでいること、重要な発表を共有し、大切な事柄に光をあててゆくことを楽しみにしています。皆さんのご支援に感謝します。我々の「サセックスロイヤル(インスタグラムのアドレス)」へようこそ。)
― ハリーとメーガン

「国民主権」の日本、「国王大権」のイギリス

 イギリスの王室がSNSを活用していることは昔から知られていました。
 今回、ハリー王子と結婚したメーガン妃が懐妊し、間もなく第一子が誕生することを受けて、ハリー王子がメーガン妃と一緒にインスタグラムを開設したところ、瞬く間に100万件を越すフォロワーが殺到し、ギネスブックを塗り替えたことも世界中で話題になっています。
 
 さて、同じ頃に、日本では皇位継承に伴う新しい元号が発表されました。
 元号は発表まで極秘にされ、一部の専門家や学者によって原案が作られ、内閣を通して発表されました。
 
 日本国憲法には、天皇の地位について次のような表記があります。それは憲法の最初の部分、つまり第一条にあります。
「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく」
 
 この条文の解釈は色々とあります。
 しかし、一つ確かなことは、国民に主権があり、天皇はその国民によって形成される国家の象徴である、ということです。
 つまり、日本の皇室は主権者である国民に対して開かれた存在で、主権者の上に君臨するものではないことになります。
 
 さて、イギリスは日本と比較すると、法的に国王は旧来の大権を有しています。国民の上に君臨し、法の網の目をくぐれば、君主として様々な政治的決裁を行うことも可能です。
 ただ、現実では国王の権限には様々な制限が課され、国王は内閣の助言によって国家運営への承認を行っています。
 そして、民主主義が浸透した現在、実質上は日本の天皇とイギリスの王室とは似通った存在になっているといっても過言ではありません。
 

帳の向こうに閉じられた皇室、ネット社会にも開かれた王室

 その上で、イギリス王室が開設したインスタグラムと、今回の皇位継承での元号制定の現実とについて比較してみましょう。
 そこに見えてくるのは、時代の変化に応じて、いまだに国王大権という大きな権限を背負いながらも自ら鎧を脱ぎ、国民のみならず世界に向けても開かれた存在となったイギリスの王室と、戦前戦後という大きな時代の節目を越えながらも、かつ主権者から象徴へと地位が変化しながらも、いまだに閉鎖的で世界から見ても帳の向こうで君臨する日本の皇室との違いです。
 
 日本で皇太子と皇太子妃とのインスタグラムが開設され、カジュアルに国民に情報が公開されるのはいつのことでしょうか。
 日本の皇室は日本人にとっても遠い存在で、海外から見れば、ミステリアスで理解できない存在です。
 ハリー王子とメーガン妃のインスタグラムには、今では400万人を超すフォロワーが世界中から殺到しています。しかも、そうしたフィーバーの向こうには、王室の国際結婚の是非を巡った政治的な論争までオープンに展開されているのです。
 
 そうした事情に程遠い日本の皇室。
 それは、そうした皇室をつくっている日本の政治、社会の問題でしょう。
 「令和」という元号が我々の知らない遠いところで考案され、あたかも国民に下賜するかのように発表される現実に疑問が湧かない、日本の社会そのものに大きな課題があるようです。
 雅子妃が長いこと精神的に苦しんできたことも、こうした閉鎖性が故であると欧米のメディアは批判してきました。それでも皇室は変化せず、あと僅かな日時で新しい元号の時代になろうとしています。
 

皇室に見える「変化」に消極的な日本の姿

 こうした違いの背景には、変化を良しとする社会と、変化を嫌う社会との異文化が存在するのかもしれません。変化することにブレーキをかける「正論」が山ほど語られる日本社会は、こと皇室のみならず、ありとあらゆる物事が極限まで追い詰められないと変化しません。
 黒船が来ない限り変わらない日本、マッカーサーが来ない限り変わらない日本と、多くの人が皮肉をいいます。ただ課題は、これからは黒船もマッカーサーも来ないだろうということです。であれば、自滅するか、長年の重みで制度そのものが壊滅しない限り、日本は変化しないということかもしれません。
 変化できない日本の象徴。それが日本の皇室の現実であるとは、極めて皮肉なことだと思うのです。
 

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『イギリス民話 English Folk Tales』エマ・サリー(リライト)イギリス民話 English Folk Tales』エマ・サリー(リライト)
イギリスという土地が別の名前で呼ばれていた古い時代から伝わる物語。おかしみのある小話『ゴッサムの賢人』、日本でもおなじみの『三匹の子豚』、『ジャックと豆の木』、そしてアーサー王も登場する冒険物語『ジャックと巨人』の4編を収録。ユーモア、メルヘン、不思議、わくわくする冒険、少しの残酷さで味付けされた、どれから読んでも楽しめる短編集。

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ニュージーランドの事件が日本に及ぼす危険性とは

写真:ニュージーランド総督府

“Indian newlyweds came to Christchurch with a dream. On Friday, that dream died.”

(クライストチャーチに移住してきたインド人の新婚夫婦の夢が、金曜日に死に絶えた。)
― CNNより

「若きウェルテルの悩み」から広がる連鎖反応の波

 このヘッドラインは、先週末に発生したニュージーランドでのテロ事件で犠牲になった、インド系の女性と彼女の夫の苦しみを報道した記事です。
 
 1774年に発表された「若きウェルテルの悩み」というゲーテの名作には、この作品にまつわる逸話が残されています。それは、主人公が自殺したことから、この小説を読んだ若者が共鳴して自殺をした、というチェーン・リアクション(連鎖反応)が起きたことです。
 このことから、例えば青少年の自殺事件が起こり、それが報道されると、その報道の影響を受けて同様の事件が拡散することを「ウェルテル効果」と呼ぶようになりました。
 
 シャンソンの中に、Sombre Dimanche「悲しい日曜日」という曲があります。この曲は1935年にレコーディングされ、世界中でヒットした名曲です。ただ、この歌詞が、亡くなった恋人を想って自殺を決意するまでの女性の気持ちを語っていることから、この曲を聴いた人の自殺が絶えず、曲が最初に発表されたハンガリーでは放送禁止になったといわれています。これも、「ウェルテル効果」の事例の一つです。
 

『若きウェルテルの悩み』初版(1774年)Wikipedia: Foto H.-P.Haack

テロリズムにも及ぶ「ウェルテル効果」が伝播するネット社会

 2011年7月、ノルウェーで政府庁舎が爆破され、その後近郊のウトヤ島で銃乱射事件が発生し、77名の命が奪われるというノルウェー史上最悪の事件が起こりました。アンネシュ・ブレイビク受刑者による単独犯行とされています。ブレイビク受刑者は、キリスト教を信奉し、イスラム教徒などの移民を許容する多文化共生に対して憎悪を抱き、犯行に及んだといわれています。
 今月15日にニュージーランドで発生した、イスラム教のモスクが襲われ、50人もの命が奪われた銃乱射事件は、このノルウェーのケースと似ていると指摘されています。
 ニュージーランドノルウェーも自然が豊かで移民にも開放的、そして社会制度も整った平和な国家です。人口も共に500万人前後という、こぢんまりとした国である点も共通しています。人々は、そんな平和で美しい国で起こった、人種偏見に基づく凄惨な事件にショックを受けているのです。
 
 銃の乱射という意味では、同様の事件がアメリカでは極めて頻繁に起こっています。しかし、それらの全てが、人種的偏見や政治的動機によるものというわけではありません。ただ、銃を乱射するという行為が報道されるたびに、同様の事件が拡散することは事実です。
 「ウェルテル効果」は自殺だけでなく、他人を無差別に殺害するテロ行為にも当てはまるということが、今回の事件で浮き彫りにされたのです。
 
 この事件の背景を考えるとき、1774年、さらには1935年と現在との大きな違いを見せつけられます。それはいうまでもなく、現在がネット社会であるということです。インターネットを検索すれば、ほとんど全ての情報を得ることができます。今回のように、Facebookなどのソーシャルメディアが社会的な影響を危惧し、危険な情報を削除したとしても、一度ネットに上がった情報は瞬時に世界中に拡散します。
 また、よくいわれることですが、インターネットは個人が求める情報をどこまでも追求できるという特性があります。人々は、インターネットはインタラクティブ(双方向)な情報交換ができると評価しますが、実際は極めて一方的な情報の供給源なのです。自分にとって興味があり、心地よい情報のみを追いかけ、それを批判し、反対意見を掲載する情報源には立ち寄らなくても、自分の望む世界だけでネットワークが完成できるのです。
 こうしたインターネットの特性が「ウェルテル効果」をより活性化させ、人々の心に負の連鎖を引き起こすのです。
 

相対する価値観が共存し、狂気に打ち勝つ社会を育てるために

 皮肉な現実を知らなければなりません。
 それは、先に触れたニュージーランドもノルウェーも、似たような国家であるという現実です。風光明媚であたかも童話の世界のような二つの美しい国というイメージは、実は極めて対照的なリスクに直面しているのです。それは、美しく民主的であればこそ、そこに住む人々は世界の価値観に開かれた心豊かな人でありたいという理想と、美しい国であればこそ、そこは自分たちだけの国で、よその文化に汚されたくないというエゴイズムとが生み出す、対照的な価値観の相違が共存しているという現実です。
 
 これは他人事ではありません。日本人の中にも同様の二つの価値観が共存しているはずです。そのことが強い歪みとなったとき、こうした銃乱射事件のようなテロリズムが起こるのです。
 まさか日本では、と思う人も多いでしょう。しかし、これはニュージーランドでも同様だったのかもしれません。まさか自分の国では、とニュージーランドの人々の多くは先週までそう思っていたはずです。
 
 京都はもうすぐ桜に覆われます。日本の最も美しい瞬間です。そんな京都に、世界中から観光客が押し寄せます。そして、海外の人たちが着物を借りてコスプレを楽しみながら、京都を散策します。
 それを見たとき、京都の風情が損なわれると一瞬顔をしかめたとき、そのはるか延長に、今回と同様の事件が予想されるのです。労働者が不足する日本が門戸を海外に開き、世界中から労働者が日本にやってきたとき、そして、そうした人々が日本の静かな地方都市にも浸透したとき、「ウェルテル効果」の悪魔の手が日本のとある個人を掴み、同様の事件が起こらない保証はどこにもないのです。
 そして、日本人がそのような感情を抱いたとき、そこに来た移民にも同様の悪意が芽生え、同じようなテロリズムへと発展しないという保証もないのです。
 
 自分たちの文化を守り抜きたいという意識は、悪いことではありません。しかし、文化を守りたいという意識が、海外の文化や多様性を排斥したいという誘惑と隣り合わせになったとき、思わぬ狂気が社会を襲うのです。
 そんな狂気の誘惑に打ち勝つ、強い正義感を教育現場が育てることができるのかは、我々にとって今最も考えなければならない未来への課題といえそうです。
 

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『世界文学の名言』クリストファー・ベルトン (著者)、渡辺順子 (訳)世界文学の名言』クリストファー・ベルトン (著者)、渡辺順子 (訳)

宝石のような名文に学ぶ、美しい英語のリズム。古典文学の名著から、現代人のこころに響くことばを精選。受検のためだけでなく、大人の教養としての英語を身につけたい方にオススメの1冊。
イギリスで最も権威のある文学賞「ブッカー賞」にノミネートされたこともある英国人作家ベルトン氏が、226もの文学作品の中から「こころに響く名文」を入念に選び、60のテーマにまとめました。古典文学の選りすぐりの名文を、じっくり堪能してください。

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トランプ大統領にノーベル賞という「冗談」の裏の「真実」とは

“On Friday, Trump said Abe had nominated him for a Nobel Peace Prize with a five-page letter. Abe has been one of Trump’s most stalwart allies in the two years since he took office.”

(金曜日にトランプは、安倍が5枚の手紙で彼をノーベル平和賞に推薦すると語る。安倍はトランプが大統領に就任して以来2年間、最も熱烈な支持者であり続けている。)
― CNNより

報道にみるアメリカの分断と日本の対米追随外交

 北朝鮮との緊張緩和に協力したとして、安倍首相がトランプ大統領をノーベル平和賞に推薦したという報道があったことは、記憶に新しいはずです。
 
 そこで、この情報のインパクトの大きさについて考えてみます。
 よく言われることですが、現在アメリカでは世論が二つに分断されています。
 メキシコとの国境に壁をつくり、「アメリカ・ファースト」をスローガンにするトランプ大統領を支持する人と、非難する人との間には、埋めがたい溝ができているのです。
 日本の指導者がそうしたアメリカを直視した場合、そのどちらかに味方するような行動は極めて危険です。リベラル派と呼ばれるアメリカの都市部に住む人々は、多くがトランプ氏に対して批判的です。
 ということは、安倍首相の今回の行為は、そうしたアメリカの知識人に不信感を与える行為となりかねないのです。
 アメリカの大統領との蜜月を、イニシアチブをとる外交上手な首相としてイメージ付けようというのが本音であれば、それは大きな過ちです。というのも、その行為でアメリカ人の半数が日本に対してマイナスのイメージを抱き、アメリカの世論やメディアがバイアスをもって日本を見るリスクがあるからです。
 
 では、このニュースを一つの情報として捉えたとき、我々はそれをどう分析すればいいのでしょうか。まずは、ニュース自体が事実かどうか検証することです。実際、このニュースが事実であるという裏付けは取れていません。トランプ大統領がメディアにそう語った、ということだけが報道されているからです。
 では、それがもし事実であるならば、ここに指摘したように、安倍首相は対米外交において、揺れるアメリカの世論を意識できないという極めて初歩的なミスをしたことになります。そして、もし事実でなかった場合は、事実ではないことを公表したトランプ大統領に対する抗議ないし日本政府のあり方が問われなければなりません。かつ、なぜそのようなことが起こったのか、アメリカ側でも背景の検証が必要です。
 
 ということは、今回のニュースを見た場合、それが事実であろうがなかろうが、日本政府が極めてお粗末な対米追随外交を強いられている様子が浮き彫りにされてきます。
 

背景にある情報収集能力の欠如と対米政策における誤解

 では、なぜそんなニュースが飛び交ったのでしょうか。
 一国の首相が他国の大統領をノーベル平和賞に推薦することは、明らかな外交的行為で、決して私的なこととはいえません。外交的な行為である以上、そこには誰かからの推薦、助言があったはずです。あるいは、首相がそのようにしたいと語ったとしても、それに対してアドバイスがなかったとしたら、それこそ日本の政府と、それを支える官僚の質を疑うことになります。
 
 背景にあるのは、外務省北米局の情報収集能力の欠如かもしれません。
 外務省は伝統的に、アメリカの共和党政権に好意的です。その背景には、民主党政権の支持母体がアメリカの労働組合にあり、労働組合が日本の高度成長期に起こった貿易摩擦に対して不利益な団体であったという判断があるからかもしれません。さらに、日米の蜜月期の多くが共和党政権のもとで推進されたという事実もあるでしょう。
 また、とかくぎくしゃくする日韓関係を意識して、北朝鮮問題で日本がイニシアチブをとろうという思惑もあったかもしれません。
 
 しかし今、民主党も共和党もそうした単純な図式で判断できない複雑な支持層の上に成り立っていることを、我々は知らなければなりません。ユニオン(労働組合)に所属している労働者の多くは、格差に苦しみ、錆びついた産業構造の中で失業の危機に怯えています。トランプ政権はそうした人々の不安を煽って選ばれた、共和党政権です。
 そして現在、アメリカ経済を牽引しているシリコンバレーに代表される東西両海岸の都市部で活動している人々は、伝統的な企業構造を否定し、ネットワークの中からグローバルに成長しようとしている企業に勤めています。こうした人々の多くは、逆に民主党の支持者か、仮に共和党の支持者であってもトランプ政権の支持者ではないのです。
 
 外務省北米局が過去の対米政策のいわゆるステレオタイプに固執して、共和党と民主党を単純に色分けしているとすれば、それは極めて稚拙な誤解なのです。
 そんな誤解の上に、安倍政権の対トランプ外交が立案されているとしたら、これは日本にとって大きなリスクとなるのです。我々はノーベル平和賞への推薦といった、わざわざしなくてもよいことをして外交能力をアピールすることがいかに愚かなことか、ということをしっかりと理解する必要があるのです。
 

日本人に足りない「情報」を多面的・多角的に捉える力

 日本人は「情報」という概念に対して鈍感なところがあります。
 日本向けに日本語で発信される海外の情報を受け取っているだけでは、情報の本当の意味は伝わりません。日本で発信される情報を鵜呑みにすることには注意して欲しいのです。日本にニュースが伝えられ、それが報道されるとき、そのニュースはすでに日本人向けに脚色されているケースが多いのです。
 もちろん、同様のことは海外でもいえるでしょう。しかし、この脚色のプロセスを理解しないことのリスクは、我々が思っている以上に大きいはずです。
 
 問題は、脚色された情報を鵜呑みにして育った人が、再びそうした情報を信じ、脚色して発信する張本人になることです。残念なことに、こうした張本人たちを育成するのが、教育というシステムなのです。
 日本人が日本で成功するには、日本の教育システムに順応し、そこで優等生にならなければなりません。そこでの成功者はすでに、その脚色の過程に対して自らこそが鈍感になっていることを忘れているのです。外務省北米局は、そうした「エリート」の集団なのではないかと思われます。
 
 情報とは、決して一つの面だけでは構成されていません。それは重層で複雑、かつ多様です。アメリカで何かが起こったとして、そのニュースだけを日本に報道すれば、日本人はその背景にある複雑な側面を理解することなく、表層の事実からアメリカという社会そのものを判断してしまいます。こうしたリスクを、日本人は官民そろって冒しているように思えるのです。
 
 トランプ大統領へのノーベル平和賞、というコミカルな報道の背景にある深刻な課題。それは、日本人の情報収集能力の欠如という課題と無縁ではなさそうです。
 

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『英文快読 アメリカ歳時記』ニーナ・ウェグナー(著)、高橋早苗(翻訳)英文快読 アメリカ歳時記』ニーナ・ウェグナー(著)、高橋早苗(翻訳)
コンパクトにまとめたやさしい英文に、語注ルビと日本語訳がついているから、ビギナーでもストレスフリーでスラスラと英文が読みこなせる!英文多読初心者におくる英文快読シリーズ。
祝祭日と年中行事から見る、アメリカの歴史と文化。アメリカで公式に認められている11の「連邦祝日」にスポットライトを当て、詳しく解説。アメリカという多彩な文化に彩られた大国の歴史と文化を、身近に感じながら学べる1冊間違いなしです。

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ドナルド・キーンの死が語るものとは

“Donald Keene died today in Tokyo. He would have been 97 in June. He is without question the most important person ever in purveying proper understanding of Japan and the Japanese to the rest of the world….”

(ドナルド・キーンが東京で亡くなりました。彼は今年の6月に97歳になるはずでした。いうまでもなく、彼は日本、そして日本人を世界に向けて適切に紹介することのできた重要な人材でした。)
― アメリカの友人からのメールより

 一人の知日家が他界しました。ドナルド・キーン。96年の生涯でした。
 ニューヨーク・ブルックリンのユダヤ人街に生まれた彼は、『源氏物語』との出会いをきっかけに日本文学に傾倒し、日本語を習得。戦争中は情報士官として、日本人捕虜の訊問などを行いました。
 戦後来日し、その後生涯をかけて日本文学、さらに日本文化を世界に紹介してきたことは周知の通りです。

「人材のプール」の完成と日本文化紹介の広がり

 アメリカと日本との関係は、ペリー提督が浦賀に来て以来、明治時代から現在に至るまで、基本的には良好でした。
 第二次世界大戦前夜、日米が中国での利権を巡って対立していた時代は、それ以前の良好な関係の中で育てられた知日派と呼ばれる「人材のプール」が完成した時代でもありました。
 そしてこの「人材のプール」こそが、戦中戦後を通して、アメリカの対日政策の意思決定に大きな影響を与えてきたのでした。
 戦後に駐日大使を務めたエドウィン・ライシャワー川端康成などの作品を翻訳し世界に紹介したエドワード・サイデンステッカーなどは、そうした人々を代表する知日家だったのです。
 
 戦争が日本とアメリカとの交流を促進したという皮肉はあったものの、戦後彼らは積極的に日本文化を海外に広めていったのです。
 日本文化の紹介は、その後出版ビジネスとしても拡大しました。
 アメリカのバーモント州出身のチャールズ・E・タトルなどによって、日本に英文出版を専業とする会社が設立され、そこから日本を紹介する英文書がどんどん出版されたのです。
 さらに、そうした動きに呼応し、日本文化を英語で紹介しようと積極的に活動した日本人も多くいました。講談社の4代目社長となった野間省一などは「日本文化を海外に」を合言葉に、講談社インターナショナルを設立し、さらに大掛かりな英文出版事業を展開させたのです。
 
 ドナルド・キーンは、こうした時代の流れと共に活動し、志賀直哉谷崎潤一郎三島由紀夫などに代表される戦後日本の文壇との交流を深め、それを海外に発信してゆきました。
 ある意味で、現在世界の文化人が見つめる日本の素材の多くが、ドナルド・キーンをはじめとした人々によって海外に植えつけられてきたといっても過言ではありません。
 

(左から)川端康成、志賀直哉、谷崎潤一郎、三島由紀夫

知日派の終焉と「人材のプール」の枯渇

 彼の死によって、こうした戦後の知日派の世代が終わりました。
 そして、キーンに代表される知日派が他界したことは、日本に今後の課題を残すことになったのです。
 今、日本を知る「人材のプール」が枯渇しようとしています。ライシャワーやサイデンステッカー、そしてキーンといった、日本人の行動様式の機微を知り尽くし、日本文化の深みと共に生きる人が老齢化し、一人また一人とこの世を去ってゆく中で、同じレベルで日本を語れる人が育たないままに、プールが枯渇し始めているのです。
 
 その背景には、コンテンツビジネスを見舞った環境の変化もありました。
 チャールズ・E・タトルが他界したのは、1994年のことでした。その当時から日本は出版不況に苛まれ、英文出版に資金を投じる余裕もなくなりました。
講談社インターナショナルも今では閉鎖され、英文出版を専門に続ける版元はほとんどなくなりました。
 その影響で、日本文化を海外に紹介できる編集者や翻訳者も次第に高齢化する中で、後継者が育成されずにいるのです。
 
 どこの国にせよ、自国の文化を海外に伝えるためには、その国の文化に興味を持つ海外の人々の協力が欠かせません。
 そうした人々との協働によって、文化のエッセンスが海外に紹介され、吸収されてゆくのです。そうした人材を育てられなくなった日本がどうなるのか。未来の状況が気になります。
 

質の高い貴重な「人材のプール」の再生を

 確かに、インターネットの普及によって、日本の情報は今までにないボリュームで海外に流れ出ているかもしれません。しかし、じっくりと原稿用紙を睨み、翻訳し、推敲を重ねた質の高い情報は、その量に反比例するかのように希少になりつつあります。
 また、壮大な構想による重厚なコンテンツも少なくなってきています。ドナルド・キーンに代表される人々は、そうしたコンテンツを海外に紹介し、自らも解説し、描いてきたのです。
 
 日本のために、その文化を紹介するという地味ながら貴重な仕事を引き受けてくれる海外の人が、いかに大切な人材か。ドナルド・キーンは日本に帰化し、日本で生涯を終えました。そうした日本人にとってありがたい「人材のプール」の再生をいかに手がけてゆくか。今後、我々は本気で考えなければならないのです。
 

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『日本を語る英語』浅井雅子(著)日本を語る英語』浅井雅子(著)
欧米文化との違いを自覚することで、日本の文化が鮮明に見えて来る!

今、求められているのは「日本文化や日本人の特質を深く理解し、そのエッセンスをわかりやすく伝えることができる日本人」です。日本人は、英語で日本の文化や社会を語るとき、もっと自国に対して自信と誇りを持って説明できるようになりたいもの。そのためには他国と比較した日本文化の独自性や、その理由について言葉として発信する訓練が必要です。本書では、ネイティブと日本人との会話を通して日本文化のエッセンスをユーモア溢れる表現で説明できるよう、会話形式でトレーニングします。グローバルな視点で、“日本”をわかりやすく、かつ面白く伝える言葉を身につけるための1冊。

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自動車業界からみえる日本人の未来への強烈な課題とリスクとは

Photo by Justin Sullivan / Getty Images

“Amazon leads $700M funding round for Rivian.”

(アマゾンはRivianに700万ドルの大型出資を行う)
― Automotive News より

日本の競争力低下の根本にあるものとは

 今、日本の競争力の低下が問題になっています。
 バブル経済がはじけて、失われた10年と呼ばれる不況の後、少し持ち直した景気もリーマン・ショックで再び低迷し、その後目立った進捗もないまま現在に至っています。
 
 再生のために必要な処方箋については、これまで様々な議論がなされてきました。
 しかし、日本社会は根本的な変革を経験することなく、ずるずると続く国力の低下に悩まされているのが現状です。
 そこで、敢えてこの問題の本質にメスを入れてみたいと思います。そもそも、日本という国を構成している人々、つまり我々日本人一人ひとりのいわゆる人間力、組織力には問題がないのでしょうか。
 

日本の自動車産業を脅かす海外のベンチャービジネス

 自動車業界を例にとってみます。というのも、日本の産業を支えている重要な柱の一つだからです。
 日本企業を代表する自動車業界。そこには、日本の技術やものづくりのノウハウが集積されています。ところが、そんな日本の技術を学んだ海外の技術者たちが今、起業して新たなネットワークを元に、将来の日本の自動車産業を脅かそうと挑戦してきています。
 それら一つ一つを見るならば、今は小さな動きです。しかし、どんな変化も小さな芽から生まれ、それが繁茂し始めたときは大きなうねりとなって、業界の優占種に成長します。
 ここで見つめなければならない課題は、「ネットワーク力」です。
 
 去年から今年にかけて、二つの事例が自動車業界で注目されています。
 一つはByton(バイトン)、そしてもう一つはRivian(リビアン)です。この二つは対照的な経緯で業界にデビューしました。
 Bytonは、技術とマーケティングのプロがグローバルに結集、ネットワークして創生されました。Bytonは未来型のAI技術をもって、運転空間が快適な居住空間となるよう設計された新型車です。そしてRivianは、日本企業からの出資もあるとはいえ、アマゾンから大型の投資を受けて大衆向けの電動車を製造しました。
 
 それ以前に、自動車業界の新たな動きとして注目されてきたのはTESLAでした。しかし、今ではTESLAを開発した技術者の中に、新たなネットワークをもってこのようなベンチャーに挑戦している人々が多数います。
 Bytonの場合、BMWやTESLA、そして日産に勤務していた人々が結集し、さらにホンダでアメリカの生産ラインをデザインしていた人物が製造に加わり、新車を発表しました。そして、その市場の中に日本は含まれていないのです。
 
 では、Rivianはどうでしょうか。Bytonが最初の市場を中国と欧米に設定しているのに対して、Rivianはもともと三菱自動車クライスラーとが合弁で運営していたイリノイにある工場を買収し、ピックアップと呼ばれる自家用トラックや、ハッチバック車をアメリカで売り出そうとしています。
 これに投資しているのは、GMとアマゾンです。錆びついた自動車産業の象徴であるかのように言われていたGMも、こうした新たな動きに活路を求めているのです。そして、アマゾンに集積された膨大なデータベースが、大衆車の未来の動向に大きな影響を与えるはずです。
 ちなみに、TESLAが生産ラインとして使用しているのは、GMとトヨタが合弁で使用していたカリフォルニアの工場です。
 
 こうした新しい動きが、日本の自動車業界のみならず、世界の大手の市場をじわじわと侵食し始めていることに気付いている人は多くありません。
 

NUMMI plant in Fremont with Mission Peak behind it. (Joint venture between General Motors and Toyota.)

「個人」の力と「ネットワーク」の構築力を育てられない日本の教育

 さて、主題となる日本人の「人間力」について解説します。
 問題は、こうした自動車業界の新たな動きに、積極的に関係している日本人が極めて少ないことです。日本企業はピラミッド型の指揮系統と重層構造の硬直した組織の中で、社員を育てています。社員は社内の人間とは交流しても、他の業界や他社のエキスパートとの交流はほとんどしません。会社の人間としては力があっても、個人としてのネットワーク力は極めて低いのです。
 データベースとAIによって車を設計・マーケティングする時代に、このフラットなネットワーク力を構築できない日本人と日本企業が置き去りにされるのは、ごく当然のことといえましょう。
 
 では、どうしてそのような現象が起こっているのでしょうか。
 その背景には、日本の教育そのものの課題が見えてきます。学校単位、教室単位、そして企業においても、部門単位の集団内でしか生きられない人間を育て続けている日本の教育制度の課題が、そこにはあるのです。
 “Individual”、すなわち「個人」を集団とは分けて、その能力や個性を育て、その個人の強い部分を他の個人の強い部分と結びつけることで発熱させるエネルギーこそが、未来の産業を引っ張る新たなビジネスモデルとなるはずです。そうした個人の能力を育てる教育という理想と最も遠いところに、集団で同じことを学ぶことによって、”Japan Inc.”を創造し続けてきた日本の教育制度があるのです。
 
 “Difference”、つまり「異なること」を良しとする教育によって育てられた人が、その異なる才能をネットワークできるようになることが必要です。日本人はこうした個人プレーが極めて苦手です。同時に、日本人は与えられた課題をこなすことは上手くても、ネットワークによって無から有を生み出すことが、なかなかできません。
 
 日本の重厚な産業と技術が世界に吸収され、新たなネットワークによって消化されたとき、日本に何が残るのか。そのことを考えたとき、今の日本で議論されている教育改革の悠長さに苛立つ人も多いのではないでしょうか。
 

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『日本人が誤解される100の言動: 国際交流やビジネスで日本を再生するためのヒント』山久瀬洋二 (著者)、ジェイク・ロナルドソン (訳者)日本人が誤解される100の言動: 国際交流やビジネスで日本を再生するためのヒント』山久瀬洋二 (著者)、ジェイク・ロナルドソン (訳者)

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