カテゴリー別アーカイブ: ニュースの英語と文化背景・時事解説

山久瀬洋二の「ニュースの英語と文化背景・時事解説」
話題の海外ニュースから旬な英語表現をピックアップ。グローバルな視点で文化背景、歴史、時事を解説。過去の記事は「海外ニュースの英語と文化背景・時事解説」目次からどうぞ。

歴史の重みに悩む社会の世直しに強権は必要か

“A Philippine President had an approval rate of just 48% — the first time his popularity has dipped below 50% during his 16-month presidency.”

(フィリピンの大統領の支持率は48パーセントと、就任後16ヶ月にしてはじめて50%を割り込んだ)
CNNより


【ニュース解説】

フィリピンとサウジアラビアの共通点

今回は、先週解説したサウジアラビアでの改革の旋風を思い出しながら、フィリピンの現状を考えてみます。
というのも、フィリピンにもサウジアラビアにも共通していることは、長年の汚職や不公正に対して、強いリーダーによる強権政治が必要かどうかの是非が問われているからです。
サウジアラビアは、皇太子モハメッド・ビン・サルマンに権力が集中する中で、王家も含む伏魔殿にメスがはいろうとしています。そして、フィリピンでは、逆らう者を射殺してでも麻薬と賄賂を撲滅するとしたドュテルテ大統領が話題になって、すでに1年以上が経過しています。

フィリピン人のルーツ

「フィリピンの人の顔をみるとね、いろいろなルーツがあることがわかるんです」ルソン島の中部にある町を仕事で訪れたとき、現地の友人がそうかたってくれました。
私の前に座る5人のフィリピン人。彼らの顔をみると、確かにそれぞれ異なったルーツがあることが確認できます。ヨーロッパ系、アメリカ系、中国や日本系などなど、多様な民族の血がそこに流れているのです。

フィリピン人の英語が堪能な背景

まず、フィリピンはに16世紀スペイン領になっています。ですから、今でも町や通りの名前などにその名残があるだけでなく、彼らがローカルに話す様々な言語の中にもスペイン語が混ざり込んだりしています。
そして、1898年にアメリカとスペインが戦争をしました。その戦争にアメリカが勝利した結果、アメリカはスペインからフィリピンを譲渡されます。アメリカの植民地となったことが、フィリピン人が他の地域より英語に堪能になった原因となりました。また、フィリピンが近代法を導入するときなどに、アメリカの法律が参考にされました。

フィリピンの戦い

そして、1941年のこと、アメリカと日本が戦争になると、フィリピンは激しい戦場になりました。スペインやアメリカ領の時代にも、現地のフィリピン人への差別や虐待は多くありました。独立運動もおき、その犠牲になったフィリピンの人も多くいました。そして残念なことに、フィリピン人に対する対応は、日本が数年間フリピンを占領したときも同様でした。日本の占領政策に不満を持った多くのフィリピン人が、アメリカが日本に反撃し、フィリピンに再上陸したときに、アメリカ側に協力しました。その結果、密林の中で、飢えや疫病で数えきれない日本兵が命を落とし、戦後になっても戦犯として裁きを受けたことはよく知られています。

独立後のフィリピン

戦後にフィリピンは独立しますが、貧困や政変が続き、国は荒廃します。そして多くのフィリピン人が家政婦などになって海外で働きました。
この経緯から、フィリピン人にはスペイン、アメリカ、そして日本や中国の血の混じった人が多くいるのです。

フィリピンの学校ではもちろん、こうした過去の悲劇について教えています。日本人が忘れている日本軍の占領時におきたことも教わっています。不思議と彼らはそのことを公の話題にはしません。でも、彼らに深く聞けば、歴史の授業で日本のことをどのように勉強したかがわかってきます。
そんなフィリピンが独立以来悩み続けてきた社会の混乱。特に蔓延するドラッグと賄賂を一挙に撲滅しようと、強硬策を実施したのがドュテルテ大統領でした。しかし彼の人気に今陰りがでているといわれます。裁判なしで、警察がどんどん容疑者を射殺し、刑務所に送り込んだことが、人権侵害と三権分立の原則に反すると攻撃されているのです。ある人によれば、スペインの占領政策の影響で、フィリピンには多くのカトリック信者がいることも大統領の人気の陰りの原因であるといいます。教会が大統領が麻薬撲滅政策の中で、人命を軽視した改革を断行していると批判しているからです。
長い歴史の重圧を克服し、国家を成長させることは並大抵のことではありません。フィリピンに限らず、中東やアフリカなど、近世から現代にかけて植民地として収奪された地域の多くが、その影響から抜け出し社会を発展させることができず、今でも政情不安や貧困に悩んでいることはいうまでもありません。
先週紹介したサウジアラビアのように、そうしたジレンマを解決するためには強権的な改革も必要なのかもしれません。そして、サウジアラビアでのニュースが流れたとき、真っ先に思い出したのが、ドュテルテ大統領の政策でした。サウジアラビアの場合も、女性に対する不公平など、様々な社会問題を解決するときに、つねに課題となったのが、イマームと呼ばれる宗教的な権威による抵抗でした。
フィリピンの場合、人権問題という課題を克服しながら、教会や司法との対立を乗り越えて改革を続行できるか、今大統領の手腕が問われているのです。
国が未来に向けて過去の汚泥を捨て去るとき、どこまで強権を行使できるのか。あるいはどこまで強いリーダーシップが許されるのか。
サウジアラビアとフィリピンのケースが、世界から注目されているのです。

* * *

『海外メディアから読み解く世界情勢』山久瀬洋二日英対訳
海外メディアから読み解く世界情勢
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。

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2000年の歴史の鏡に映る中東の要、サウジアラビアの異変とは

ムハンマド・ビン・サルマン

“Crown Prince gains power after sweeping purge of Saudi officials”

(皇太子はサウジの高官を一掃して権力を集中)
ワシントンポストより


【ニュース解説】

サウジアラビアの異変

サウジアラビアに異変がおきています。日本からは遠い話かもしれません。
しかし、石油を通して中東問題は日本経済に直結しています。サウジアラビアは、「斬首による処刑」や「女性の社会参加への厳しい規制」など、イスラム教の最も保守的な価値を政策にも導入している王国として知られています。この国は日本とは石油で結ばれながらも、イスラム教の保守的なイメージを象徴する国家として、中世さながらのミステリアスな王国として多くの人の目に映ります。一方、同国は長年動乱の続く中東の中にあって親米国家としても知られています。

しかし、新たに王権を継いだサルマン国王の皇太子ムハンマド・ビン・サルマンへの権力集中が進む中で、そうしたサウジアラビアがより開かれた国家に変貌しようともがいているのです。
そして今、長年石油の利益を独占し、富豪として君臨していた王家のありかたにもメスがはいります。皇太子は昨日、世界のメディアやTwitterなどの株主としても知られるアルワリード王子などの王族とその取り巻きを逮捕、追放という大鉈をふるったのです。世界経済にも大きな影響が考えられます。

今回の改革の背景を知るには、サウジアラビアに異変がおきています「そもそもイスラム社会にとってのサウジアラビアとはいったいどのような国家なのか」を知っておく必要があります。

古代ローマ帝国にとっての脅威

ここであえて古代史に目を向けます。
古代ローマ帝国以来、西欧社会の脅威は常に中東にありました。
ローマ帝国は古代ヨーロッパの超大国でした。そんなローマが拡大したとき、どこを占領して膨張したでしょうか。今のフランスやイギリス、ドイツ、そしてスペインといった西ヨーロッパがローマの版図拡大のターゲットでした。

一方、ローマは中東からアジア方面には拡大できませんでした。どうしてでしょう。そこには、ペルシャに代表されるメソポタミア文明の恩恵を受けた強力な帝国が存在していたからです。逆に、現在の西ヨーロッパはローマから見れば蛮族の住む未開地でした。ですから、ローマは未開の地を版図にいれ、そこから人員を補給しながら東の脅威に備えたのです。

従って、ローマ帝国が強靭な国家になった後、ローマの戦略的な拠点はローマではなく、東方に睨みをきかせ、迅速な対応ができるコンスタンチノープル(今のイスタンブール)とその周辺へと移行していったのです。
東の文明、つまりローマから見たオリエントこそが、彼らが常に意識しなければならなかった脅威でした。

ローマ帝国とキリスト教

ところが、時とともに蛮族の土地とされ、傭兵などの供給源となっていたアルプス以北のヨーロッパが変化します。それらの地域が次第に開拓され、ローマ化が進み、力を蓄えながら、独自に版図を広げ始めたのです。ローマが、自らが支配した辺境の人々に飲み込まれていったとき、社会は大きく変化します。

特に、ローマで禁止されていたキリスト教は、ローマを逃れ、そうした地域に広がっていました。彼らが、ローマとの交流を通し次第に経済力や軍事力を蓄えたとき、ローマ帝国としては東方の脅威に向けて国家を統一させるためにも、彼らと妥協しなければなりませんでした。こうして4世紀末にキリスト教はローマ帝国の国教になったのです。

イスラム国家の誕生

やがて、中世になると、東方では新たな宗教の元に、強大な国家が生まれました。イスラム教を信奉する数々の王朝です。当時ローマ社会はすでにキリスト教を軸にしたヨーロッパ諸民族の連合体へと変化し、それぞれの地域が自立、独立していました。現在のヨーロッパ社会の始まりです。後年、ヨーロッパ社会は新大陸にも膨張し、今のアメリカを建設します。

このことによって、長い世界史の流れの中で、ローマをご先祖様とするキリスト教社会と、東方のイスラム社会とがユーラシア大陸の西半分の文明を二分するのです。この東西の対立が、現在も尾を引いているというわけです。

ですから、ヨーロッパ社会とその延長となるアメリカは、常に中東の問題に目を光らせ、必要に応じて鋭く介入します。これは2000年にわたる東西の対立の中で培われた遺伝子のようなものです。この介入に対抗していたイスラム社会は、15世紀以降オスマントルコがその盟主となりました。彼らは、1453年にはローマ帝国を継承していた東ローマ帝国を滅亡させ、17世紀には当時の西ヨーロッパの中心であったウィーンなどへも遠征しました。
しかし19世紀になってその大帝国が衰微したころに、逆にヨーロッパ諸国は産業革命を経て力を蓄えたのです。

欧米の脅威と、衰退するオスマントルコへの民族運動が融合する中、ちょうどキリスト教にとってのローマのように、イスラム教の聖地メッカのあるサウジアラビアが、20世紀にイスラム社会の精神的支柱となる国家として建国したのです。建国前夜にはオスマントルコの衰亡を企むイギリスなども大きく関与します。ですから、サウジアラビアは伝統的にイスラム右派を標榜する国家でありながら、親米、新ヨーロッパ政策を継承してきたのです。

イスラム教の分離

もちろん、キリスト教がカトリックやプロテスタント諸派に分離したように、イスラム教もスンナ派やシーア派など諸派に分離し対立します。スンナ派の拠点がサウジアラビアであれば、シーアの拠点はイランです。
こうした内部対立はあるものの、世界がキリスト教とイスラム教との対立を軸に激しく争い、混乱を生み出しているのはこうした背景によるのです。

今回のヘッドラインは、そんなサウジアラビアにおきた政変です。スンナ派の盟主とされるサウジアラビアの今後は、今、中東で起きている様々な政治問題にも微妙な影響を与えるはずです。だからこそ、あえて2000年にわたる東西交流と対立の歴史を紐解きながら、今回のサウジアラビアの情勢を注視してゆきたいのです。

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『海外メディアから読み解く世界情勢』山久瀬洋二日英対訳
海外メディアから読み解く世界情勢
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。

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海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

Japan Inc. というイメージを変えるには

【海外ニュース】

What is happening with Japan Inc? Japan has long been held up as a shining example of integrity, assured quality and reliable products…
(BBCより)

日本は誠実で、質がよく、安心できる商品を提供できるという輝かしいイメージを維持してきた。しかし…。いったい Japan Inc. に何がおきているのか

【ニュース解説】

神戸製鋼や日産など、日本企業のスキャンダルが相次いで報道されています。
今回の衆議院選挙の結果と照らし合わせ、保守化する日本と、そんな日本を代表する企業での不正に、海外の報道機関は複雑な視線を投げかけています。

Japan Inc. という言葉があります。文字どおり「日本企業」を示す言葉ですが、この表現の向こうには、80年代に政財界が一体となって日本という企業集団を運営し、成功へと導いていったときのイメージが残っています。
当時、高度成長以降、さらに破竹の勢いで拡大を続けていった日本企業の姿を、欧米の人々は Japan Inc. という言葉で表現したのです。

バブルがはじけて以来、そうした Japan Inc. のイメージが変化しました。構造改革に乗り遅れ、低迷に悩む日本の産業界の姿を、人々は Japan Inc. と表現しはじめたのです。
CNN などでは、今回の選挙のあと、安倍政権の長期化が予測されるなか、この Japan Inc. の「負のイメージ」を、いかに日本が変えてゆけるのか特集を組みました。
日本にはもっと若くリーダーシップをとれる企業人が必要とされているのではないかと彼らは問いかけます。
高齢化、財政赤字という二つの大きな課題に、日本政府は本気で取り組み、社会を変えてゆくことができるのかとも海外のマスコミは問いかけました。

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民族の独立の背景にある国際政治の課題とは

【海外ニュース】

Catalonia’s Leader, Facing Deadline, Won’t Say if Region Declared Independence
(New York Times より)

カタルーニャのリーダーは、スペインからの回答期限に直面し、この地域の独立の名言を避けるかも

【ニュース解説】

スペインのカタルーニャでの分離独立運動が話題になっています。
1479年にスペインによって統一されて以来、この地域では何度も民族運動がおき、20世紀になってからも弾圧の歴史を経験しています。特に、スペインのフランコ政権下では、カタルーニャ語や文化そのものへの厳しい統制にさらされたこともあったのです。

同じスペインでは、北部のバスク地方でも長年同様の運動がおきています。
スペインを離れ、さらにヨーロッパをみれば、そこにはイギリスでのスコットランドや北アイルランド、ベルギーやオランダにまたがるフランドル地方など、現在主権をもっている国家と異なる歴史や文化背景をもつ地域がいくつもあります。さらに海を渡れば、カナダのケベック州などでもフランス系の人々による分離独立運動がありました。
もともと民族の興亡が続き、時には大国が小国を飲み込み、人々が分断されてきた歴史のあるヨーロッパをはじめとする大陸では、こうした独立運動があっても別に不思議ではありません。

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北朝鮮との外交問題をビジネス的に考えれば

【海外ニュース】

President Trump undercut his own secretary of state on Sunday, calling his effort to open lines of communication with North Korea a waste of time, and seeming to rule out a diplomatic resolution to the nuclear-edged confrontation with Pyongyang.
(New York Timesより)

トランプ大統領は国務長官の北朝鮮との交渉は時間の無駄だと日曜日に断じ、平壌との核の問題での外交的解決を一蹴する可能性も。

【ニュース解説】

国際関係をひもどくとき、忘れてはならない単語があります。それは benefit です。利益とか恩恵という意味のこの単語。この意味するところがわかれば、国際問題のパズルが面白いようにわかり、かつ未来の予測ができるのです。もちろん予測が 100% 正確かというと、その保証はありません。しかし、かなりの確率で、世界の動向を読み取ることは可能なのです。

例えば北朝鮮問題です。核の力をちらつかせ、かつミサイルを発射して日本やアメリカを威嚇する北朝鮮ですが、誰もがいうのはトランプ大統領の判断が読めないことです。このヘッドラインからも、感情的な発言を繰り返すトランプ大統領への戸惑いが見えてきます。しかし、このときにトランプ大統領が北朝鮮を攻撃する benefit は何かと考えてみるのです。

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