カテゴリー別アーカイブ: ニュースの英語と文化背景・時事解説

山久瀬洋二の「ニュースの英語と文化背景・時事解説」
話題の海外ニュースから旬な英語表現をピックアップ。グローバルな視点で文化背景、歴史、時事を解説。過去の記事は「海外ニュースの英語と文化背景・時事解説」目次からどうぞ。

平野歩夢の銀メダルが語るアメリカ人のcoolなイメージ

”So important questions first: Who exactly is Ayumu Hirano, and also, Is he single?”

HalloGigglesより

アメリカの女性向けのウェブマガジン「HalloGiggles」が、平野歩夢選手を特集しました。
今回は、平昌オリンピックでの選手の活躍を通して、アメリカ人にとっての「かっこいい」Coolとは何かというテーマについておいかけます。
よく、海外では日本人は何を考えているかわからないというコメントがあります。それは、日本人が海外の多くの人のように喜怒哀楽を表情に出さず、何か問題があったり、重要なことがあったりしたときでも、苦笑いという不可思議な笑みを浮かべながら、あまり相手にはっきりと対応しないことに起因しています。しかも、ことばの上でも海外の人からみれば、得てして曖昧で、自分の考えていることを言葉で表現しないために、さらに誤解が加速します。
 
では、アメリカ人は本当に日本人が思うように、いつも大きなジェスチャーで、表情豊かに、しかもダイレクトな言葉を使って相手に対応するのでしょうか。確かに異文化でのコミュニケーションというスタンスで、アメリカ人と話をするときにはこうした対応をお勧めします。その方が、誤解もなく相手と話し合えることは事実ですし、従来の日本型の対応よりもはるかに相手に受け入れられることも保証します。
 
しかし、実はアメリカ人が「静かな」人を「変なひと」と思うかというと、それは違います。
平昌のオリンピックで銀メダルをとった、平野歩夢選手に女性をターゲットとしたアメリカのネット雑誌が注目した背景にはそんなところがあるようです。「HalloGiggles」は、平野選手には付き合っている人がいるのだろうかと問いかけます。彼女らは、オリンピックという大舞台で迫真の演技を見せたあとも、しかもライバルのホワイト選手に僅差で敗れ銀メダルになったときも、感情を激しくだすことなく、どちらかというと淡々とインタビューに応じている姿に惹かれたのです。
逆にショーン・ホワイト選手はまさにアメリカ人らしく、喜びを全身で表現しました。彼は彼で体調を怪我を克服しての奇跡的な勝利です。ですからその喜びもひとしおでしょう。ですから、ショーン・ホワイト選手のオープンな喜び方は、ある意味では当然なのです。
ただ、彼と平野選手の感情の表し方の違いが、なぜかアメリカ人には平野選手にクールな男性というイメージを与えたのでしょう。
 
では、このクールCoolとはどういった印象を語るのでしょうか。
直訳すればカッコイイということになりますが、苦境や障害を克服したあとも、平常心で淡々としている姿はまさにホットではなくクールです。
このイメージは、昔のカウボーイのイメージにつながります。孤独で、寡黙で、それでいてタフで力もちというカウボーイの理想的なイメージはクールといえます。昔の西部劇のステレオタイプなヒーローは、決闘のあとでも、自分の射撃の腕を誇ることなく、静かに街を去ってゆきます。そんな強い男のイメージが女性を惹きつけていたわけです。
 
「平野選手のプライベートは結局わからない。しかも、彼はファンに追っかけ回されるのはいやなようだ」とその雑誌は語ります。
しかし、我々はそんなコメントに、異文化でのコミュニケーションの深いギャップをみるのです。つまり、静かに寡黙でいることは悪いことではないのですが、日本人が曖昧な笑みを浮かべたまま、自分の気持ちをはっきりと語らないことは、人々から不可思議で付き合いにくい人というイメージを与えるのです。どちらも似た行動ですが、決定的に違うことは、「タスクフォーカス」という発想と行動との関係です。
仕事をしっかりとこなし、Jobを見事にやり遂げたあと、静かでいることは日本人の美徳とアメリカ人のクールという感情との共通点になるでしょう。平野選手はまさにその一点でアメリカ人の心を掴みました。
しかし、日本人が日本人だけとグループで活動しながら、仕事のプロセスや海外の仕事仲間との情報共有をせずに、曖昧なままにニヤニヤして寡黙であることはまずいのです。
「タスクフォーカス」とは、まず果敢に仕事に集中し、試行錯誤はあったとしても結果を通して仕事を評価してゆこうというスタンスを意味します。
日本では事前の準備や、人と人とのコンセンサス・ビルディングを大切にします。時にはノミニケーションなどでの人間関係や、事前の根回しなどに集中し、リスクを徹底的に潰して完璧な準備を尊重します。
まず与えられた職務や企画にチャレンジし、リスクが現れればそこでつぶしながら障害を克服する過程、つまり混乱Struggleを克服して成功を導き出す姿勢が海外では伝統的に求められます。
この「タスクフォーカス」なやり方を通し、結果を出し、タフな人物として寡黙であること。これが今回アメリカの女性誌が平野選手に抱いたcoolなイメージというわけなのです。

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興味のある分野で英語に触れよう!

『英語で読む羽生結弦 The Yuzuru Hanyu Story』土屋晴仁(著) 佐藤和枝(訳)英語で読む羽生結弦 The Yuzuru Hanyu Story
土屋晴仁(著) 佐藤和枝(訳)

フィギュアスケーター・羽生結弦選手の物語を英語で読んで、聴いて、楽しむ! 2006年頃から現在にいたる10余年の間、日本はフィギュアスケートの世界でトップクラスの選手を輩出してきました。そしてこの流れを決定づけ、世界中の人々が“フィギュア大国・ニッポン”に注目するようになったのは、ひとりの若者の大活躍があります。
若者の名は、羽生結弦。世界ランキング1位に君臨し、世界の人々を魅了する選手となった彼のこれまでのストーリーを、読みやすい英語と日本語の対訳で楽しむ一冊です。
音声付(MP3)だから、リスニングのトレーニングにも最適。

* 各ページの下欄に重要語句・表現のワードリスト付きなので気になる語彙はその場で確認できます。
* スピーキングやライティングに役立つ英語解説付き。覚えておきたい英語表現や重要語彙を抽出し、解説します。
* 本文の英文はアメリカの言語学者の指揮のもとMP3音声をCD-ROMに収録

『英語で読む錦織圭 The Kei Nishikori Story』松丸さとみ (著)、バーナード・セリオ (訳)英語で読む錦織圭 The Kei Nishikori Story
松丸さとみ (著)、バーナード・セリオ (訳)
日本テニスの歴史と常識を変えた錦織圭の“挑戦”の物語。
ATP世界ランキング最高位4位という快挙を成し遂げた錦織選手。日本のテニス界のみならず、アジアのスポーツ選手たちの希望となった彼にも、さまざまな挑戦と挫折があった。5歳でテニスを始め、故郷を離れて言葉の通じない土地で練習にあけくれ、スター選手たちに憧れの眼差しをそそいでいた少年が、スターたちと肩を並べるまでに至る。そんな錦織選手の軌跡を、読みやすい英語と日本語の対訳で楽しめる一冊。音声付 (MP3) だから、リスニングのトレーニングにも最適。

* 各ページの下欄に重要語句・表現のワードリスト付きなので気になる語彙はその場で確認できます。
* スピーキングやライティングに役立つ英語解説付き。覚えておきたい英語表現や重要語彙を抽出し、解説します。
* 本文の英文はアメリカの言語学者の指揮のもとMP3音声をCD-ROMに収録。

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未来型のCore Competenceの創造とは

“China e car venture future mobility names brand Byton, eyes U.S.,Europe.”

(中国の未来型の自動車へのカーベンチャーはアメリカとヨーロッパを視野にバイトンというブランド名を)
ロイターより

“Byton has revealed an electric vehicle that it thinks presents a glimpse at the future of how we will drive and interact with cars.”

(バイトンは将来我々がいかに運転とデジタル上のインタラクションとを共有してゆくかというテーマを見据えた電気自動車を披露)
BBCより

Byton が自動車業界に本格参入

中国とヨーロッパ、そしてアメリカの頭脳を集め、自動車産業に新しい台風の目を創造しようという動きが注目されています。ロイター通信、BBC放送などが積極的に報道しています。コンシューマーテクノロジー分野での見本市で知られる CES(Consumer Electronics Show が、現在ラスベガスで開催されています。
そこで注目されたのが、中国の資本により BMW Apple などの技術者が共同して開発した新型の電気自動車 Byton でした。
Byton という名前は、Bytes on Wheels からきています。Byton の母体となる Future Mobility Corp. は中国の電気自動車開発会社で、ここに BMW の技術部門で活躍してきた Carsten Breitfeld 氏が中心となって制作してきたのが Byton という車です。

この車は、我々が日常触れているインターネットの世界を車に導入し、車とインタラクティブな環境との究極の融合を目指した製品で、開発センターは南京とカリフォルニアのサンタクララ、ミュンヘンにあります。そして、技術者の中には、Google やApple、さらには TeslaNissan に関わった人々までが含まれています。
Byton はまずアメリカとヨーロッパの市場で2019年にデビューし、その後販売ネットワークを拡張してゆくことになっています。もちろん中国も重要なターゲットです。

人材ネットワークが Core Competence のあり方を変える

このプレスリリースが物語ること。それは人のネットワークです。
今まで企業はその企業が持つ Core Technology(コアテクノロジー,基幹技術 を基に、その企業技術と文化をいかに大切にしながら海外に進出し、そのテクノロジーを海外に移植してゆくかというテーマに没頭していました。日本の企業はその典型です。ですから、海外に進出するとき、自らのスペックに対するこだわりが極めて強く、海外で採用した社員もそのスペックを学ぶことにプライオリティをおかされてきたのです。これが通常のグローバル企業の Technology transfer(技術移管)のあり方でした。そしてこの Core Technology によって育まれるのが Core Competence (強い競争力)であると考えてきたのです。この企業経営の土台が根本から変化しようとしているのです。
ある意味で日本人が一番苦手としている、海外の知恵とネットワークして、コンセプトを造り、そこに資本を投下して製品を作ってゆくという手法が Byton をはじめとした自動車業界をも席巻する世界各地のベンチャー企業の手法となっているのです。

昔、Silicon Valley(シリコンバレー)と Silicon Alley(シリコンアレー)のコラボという発想がありました。
ハイテク産業都市が集中するシリコンバレーで技術を開発し、もともと出版産業などが多くコンテンツを制作することのできるニューヨークの alley(路地)で技術にコンテンツを注入して製品化するというのが、電子ブックなどの開発の背景にあったのです。

自動車産業の場合、この Silicon Alley にあたるのがコアテクノロジーを有する既存の自動車メーカーと下請けネットワークでした。ここに世界中の未来型知識を導入することが、現在版の Silicon ValleySilicon Alley のコラボなのです。engine(エンジン)と chassisシャシ,車台)の技術にいかに世界の知恵と結合させ、integrate(統合)してゆくかが課題なのです。

日本の製造業の課題とは

そもそも、Byton はなぜ日本のマーケットをターゲットにしていないのでしょうか。おそらく日本は日本の自動車業界が既にネットワークしているため、進出が難しいと思ったからでしょうか。それとも、日本に進出するには日本独特のガラパゴス的な要望に応えてゆく必要があり、その手間とコミュニケーションの難しさを考えたとき、とりあえず日本はスキップしておいたほうが効率的と思ったのかもしれません。こうしたことから推測し、考えなければならない日本の産業に求められる将来像。それは、「世界の人材と自由に交流できるノウハウと人の養成」に他なりません。そして、日本のノウハウの輸出というスタンスから、日本のノウハウと世界の知恵との融合というスタンスに、製造業の戦略をシフトさせることから、新たなCore Competence(強力な競争力)を創造することが必要です。
そのための発想と組織構造を企業が育成してゆくことが求められているのです。

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『海外メディアから読み解く世界情勢』山久瀬洋二日英対訳
海外メディアから読み解く世界情勢
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。

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歴史の重みに悩む社会の世直しに強権は必要か

“A Philippine President had an approval rate of just 48% — the first time his popularity has dipped below 50% during his 16-month presidency.”

(フィリピンの大統領の支持率は48パーセントと、就任後16ヶ月にしてはじめて50%を割り込んだ)
CNNより


【ニュース解説】

フィリピンとサウジアラビアの共通点

今回は、先週解説したサウジアラビアでの改革の旋風を思い出しながら、フィリピンの現状を考えてみます。
というのも、フィリピンにもサウジアラビアにも共通していることは、長年の汚職や不公正に対して、強いリーダーによる強権政治が必要かどうかの是非が問われているからです。
サウジアラビアは、皇太子モハメッド・ビン・サルマンに権力が集中する中で、王家も含む伏魔殿にメスがはいろうとしています。そして、フィリピンでは、逆らう者を射殺してでも麻薬と賄賂を撲滅するとしたドュテルテ大統領が話題になって、すでに1年以上が経過しています。

フィリピン人のルーツ

「フィリピンの人の顔をみるとね、いろいろなルーツがあることがわかるんです」ルソン島の中部にある町を仕事で訪れたとき、現地の友人がそうかたってくれました。
私の前に座る5人のフィリピン人。彼らの顔をみると、確かにそれぞれ異なったルーツがあることが確認できます。ヨーロッパ系、アメリカ系、中国や日本系などなど、多様な民族の血がそこに流れているのです。

フィリピン人の英語が堪能な背景

まず、フィリピンはに16世紀スペイン領になっています。ですから、今でも町や通りの名前などにその名残があるだけでなく、彼らがローカルに話す様々な言語の中にもスペイン語が混ざり込んだりしています。
そして、1898年にアメリカとスペインが戦争をしました。その戦争にアメリカが勝利した結果、アメリカはスペインからフィリピンを譲渡されます。アメリカの植民地となったことが、フィリピン人が他の地域より英語に堪能になった原因となりました。また、フィリピンが近代法を導入するときなどに、アメリカの法律が参考にされました。

フィリピンの戦い

そして、1941年のこと、アメリカと日本が戦争になると、フィリピンは激しい戦場になりました。スペインやアメリカ領の時代にも、現地のフィリピン人への差別や虐待は多くありました。独立運動もおき、その犠牲になったフィリピンの人も多くいました。そして残念なことに、フィリピン人に対する対応は、日本が数年間フリピンを占領したときも同様でした。日本の占領政策に不満を持った多くのフィリピン人が、アメリカが日本に反撃し、フィリピンに再上陸したときに、アメリカ側に協力しました。その結果、密林の中で、飢えや疫病で数えきれない日本兵が命を落とし、戦後になっても戦犯として裁きを受けたことはよく知られています。

独立後のフィリピン

戦後にフィリピンは独立しますが、貧困や政変が続き、国は荒廃します。そして多くのフィリピン人が家政婦などになって海外で働きました。
この経緯から、フィリピン人にはスペイン、アメリカ、そして日本や中国の血の混じった人が多くいるのです。

フィリピンの学校ではもちろん、こうした過去の悲劇について教えています。日本人が忘れている日本軍の占領時におきたことも教わっています。不思議と彼らはそのことを公の話題にはしません。でも、彼らに深く聞けば、歴史の授業で日本のことをどのように勉強したかがわかってきます。
そんなフィリピンが独立以来悩み続けてきた社会の混乱。特に蔓延するドラッグと賄賂を一挙に撲滅しようと、強硬策を実施したのがドュテルテ大統領でした。しかし彼の人気に今陰りがでているといわれます。裁判なしで、警察がどんどん容疑者を射殺し、刑務所に送り込んだことが、人権侵害と三権分立の原則に反すると攻撃されているのです。ある人によれば、スペインの占領政策の影響で、フィリピンには多くのカトリック信者がいることも大統領の人気の陰りの原因であるといいます。教会が大統領が麻薬撲滅政策の中で、人命を軽視した改革を断行していると批判しているからです。
長い歴史の重圧を克服し、国家を成長させることは並大抵のことではありません。フィリピンに限らず、中東やアフリカなど、近世から現代にかけて植民地として収奪された地域の多くが、その影響から抜け出し社会を発展させることができず、今でも政情不安や貧困に悩んでいることはいうまでもありません。
先週紹介したサウジアラビアのように、そうしたジレンマを解決するためには強権的な改革も必要なのかもしれません。そして、サウジアラビアでのニュースが流れたとき、真っ先に思い出したのが、ドュテルテ大統領の政策でした。サウジアラビアの場合も、女性に対する不公平など、様々な社会問題を解決するときに、つねに課題となったのが、イマームと呼ばれる宗教的な権威による抵抗でした。
フィリピンの場合、人権問題という課題を克服しながら、教会や司法との対立を乗り越えて改革を続行できるか、今大統領の手腕が問われているのです。
国が未来に向けて過去の汚泥を捨て去るとき、どこまで強権を行使できるのか。あるいはどこまで強いリーダーシップが許されるのか。
サウジアラビアとフィリピンのケースが、世界から注目されているのです。

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『海外メディアから読み解く世界情勢』山久瀬洋二日英対訳
海外メディアから読み解く世界情勢
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。

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2000年の歴史の鏡に映る中東の要、サウジアラビアの異変とは

ムハンマド・ビン・サルマン

“Crown Prince gains power after sweeping purge of Saudi officials”

(皇太子はサウジの高官を一掃して権力を集中)
ワシントンポストより


【ニュース解説】

サウジアラビアの異変

サウジアラビアに異変がおきています。日本からは遠い話かもしれません。
しかし、石油を通して中東問題は日本経済に直結しています。サウジアラビアは、「斬首による処刑」や「女性の社会参加への厳しい規制」など、イスラム教の最も保守的な価値を政策にも導入している王国として知られています。この国は日本とは石油で結ばれながらも、イスラム教の保守的なイメージを象徴する国家として、中世さながらのミステリアスな王国として多くの人の目に映ります。一方、同国は長年動乱の続く中東の中にあって親米国家としても知られています。

しかし、新たに王権を継いだサルマン国王の皇太子ムハンマド・ビン・サルマンへの権力集中が進む中で、そうしたサウジアラビアがより開かれた国家に変貌しようともがいているのです。
そして今、長年石油の利益を独占し、富豪として君臨していた王家のありかたにもメスがはいります。皇太子は昨日、世界のメディアやTwitterなどの株主としても知られるアルワリード王子などの王族とその取り巻きを逮捕、追放という大鉈をふるったのです。世界経済にも大きな影響が考えられます。

今回の改革の背景を知るには、サウジアラビアに異変がおきています「そもそもイスラム社会にとってのサウジアラビアとはいったいどのような国家なのか」を知っておく必要があります。

古代ローマ帝国にとっての脅威

ここであえて古代史に目を向けます。
古代ローマ帝国以来、西欧社会の脅威は常に中東にありました。
ローマ帝国は古代ヨーロッパの超大国でした。そんなローマが拡大したとき、どこを占領して膨張したでしょうか。今のフランスやイギリス、ドイツ、そしてスペインといった西ヨーロッパがローマの版図拡大のターゲットでした。

一方、ローマは中東からアジア方面には拡大できませんでした。どうしてでしょう。そこには、ペルシャに代表されるメソポタミア文明の恩恵を受けた強力な帝国が存在していたからです。逆に、現在の西ヨーロッパはローマから見れば蛮族の住む未開地でした。ですから、ローマは未開の地を版図にいれ、そこから人員を補給しながら東の脅威に備えたのです。

従って、ローマ帝国が強靭な国家になった後、ローマの戦略的な拠点はローマではなく、東方に睨みをきかせ、迅速な対応ができるコンスタンチノープル(今のイスタンブール)とその周辺へと移行していったのです。
東の文明、つまりローマから見たオリエントこそが、彼らが常に意識しなければならなかった脅威でした。

ローマ帝国とキリスト教

ところが、時とともに蛮族の土地とされ、傭兵などの供給源となっていたアルプス以北のヨーロッパが変化します。それらの地域が次第に開拓され、ローマ化が進み、力を蓄えながら、独自に版図を広げ始めたのです。ローマが、自らが支配した辺境の人々に飲み込まれていったとき、社会は大きく変化します。

特に、ローマで禁止されていたキリスト教は、ローマを逃れ、そうした地域に広がっていました。彼らが、ローマとの交流を通し次第に経済力や軍事力を蓄えたとき、ローマ帝国としては東方の脅威に向けて国家を統一させるためにも、彼らと妥協しなければなりませんでした。こうして4世紀末にキリスト教はローマ帝国の国教になったのです。

イスラム国家の誕生

やがて、中世になると、東方では新たな宗教の元に、強大な国家が生まれました。イスラム教を信奉する数々の王朝です。当時ローマ社会はすでにキリスト教を軸にしたヨーロッパ諸民族の連合体へと変化し、それぞれの地域が自立、独立していました。現在のヨーロッパ社会の始まりです。後年、ヨーロッパ社会は新大陸にも膨張し、今のアメリカを建設します。

このことによって、長い世界史の流れの中で、ローマをご先祖様とするキリスト教社会と、東方のイスラム社会とがユーラシア大陸の西半分の文明を二分するのです。この東西の対立が、現在も尾を引いているというわけです。

ですから、ヨーロッパ社会とその延長となるアメリカは、常に中東の問題に目を光らせ、必要に応じて鋭く介入します。これは2000年にわたる東西の対立の中で培われた遺伝子のようなものです。この介入に対抗していたイスラム社会は、15世紀以降オスマントルコがその盟主となりました。彼らは、1453年にはローマ帝国を継承していた東ローマ帝国を滅亡させ、17世紀には当時の西ヨーロッパの中心であったウィーンなどへも遠征しました。
しかし19世紀になってその大帝国が衰微したころに、逆にヨーロッパ諸国は産業革命を経て力を蓄えたのです。

欧米の脅威と、衰退するオスマントルコへの民族運動が融合する中、ちょうどキリスト教にとってのローマのように、イスラム教の聖地メッカのあるサウジアラビアが、20世紀にイスラム社会の精神的支柱となる国家として建国したのです。建国前夜にはオスマントルコの衰亡を企むイギリスなども大きく関与します。ですから、サウジアラビアは伝統的にイスラム右派を標榜する国家でありながら、親米、新ヨーロッパ政策を継承してきたのです。

イスラム教の分離

もちろん、キリスト教がカトリックやプロテスタント諸派に分離したように、イスラム教もスンナ派やシーア派など諸派に分離し対立します。スンナ派の拠点がサウジアラビアであれば、シーアの拠点はイランです。
こうした内部対立はあるものの、世界がキリスト教とイスラム教との対立を軸に激しく争い、混乱を生み出しているのはこうした背景によるのです。

今回のヘッドラインは、そんなサウジアラビアにおきた政変です。スンナ派の盟主とされるサウジアラビアの今後は、今、中東で起きている様々な政治問題にも微妙な影響を与えるはずです。だからこそ、あえて2000年にわたる東西交流と対立の歴史を紐解きながら、今回のサウジアラビアの情勢を注視してゆきたいのです。

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『海外メディアから読み解く世界情勢』山久瀬洋二日英対訳
海外メディアから読み解く世界情勢
山久瀬洋二 (著)
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海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

Japan Inc. というイメージを変えるには

【海外ニュース】

What is happening with Japan Inc? Japan has long been held up as a shining example of integrity, assured quality and reliable products…
(BBCより)

日本は誠実で、質がよく、安心できる商品を提供できるという輝かしいイメージを維持してきた。しかし…。いったい Japan Inc. に何がおきているのか

【ニュース解説】

神戸製鋼や日産など、日本企業のスキャンダルが相次いで報道されています。
今回の衆議院選挙の結果と照らし合わせ、保守化する日本と、そんな日本を代表する企業での不正に、海外の報道機関は複雑な視線を投げかけています。

Japan Inc. という言葉があります。文字どおり「日本企業」を示す言葉ですが、この表現の向こうには、80年代に政財界が一体となって日本という企業集団を運営し、成功へと導いていったときのイメージが残っています。
当時、高度成長以降、さらに破竹の勢いで拡大を続けていった日本企業の姿を、欧米の人々は Japan Inc. という言葉で表現したのです。

バブルがはじけて以来、そうした Japan Inc. のイメージが変化しました。構造改革に乗り遅れ、低迷に悩む日本の産業界の姿を、人々は Japan Inc. と表現しはじめたのです。
CNN などでは、今回の選挙のあと、安倍政権の長期化が予測されるなか、この Japan Inc. の「負のイメージ」を、いかに日本が変えてゆけるのか特集を組みました。
日本にはもっと若くリーダーシップをとれる企業人が必要とされているのではないかと彼らは問いかけます。
高齢化、財政赤字という二つの大きな課題に、日本政府は本気で取り組み、社会を変えてゆくことができるのかとも海外のマスコミは問いかけました。

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