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メキシコでの日米談義はグローバルなコメントから

“Car plants from Michigan to South Carolina could pay more for the steel used to make engines and auto parts. Farmers across the Midwest would be a prime target for China, the biggest buyer of some American crops.”

(今回のトランプのアメリカの産業を保護するという関税は)ミシガン州やサウス・カロライナ州の自動車製造業はエンジンと部品の調達コストがあがるだろう。そして、中西部の農家も、最大の作物の買い手である中国の輸入制限という報復の対象になるはずだ。
CNNより

「メキシコ人はプライドが高いんだよ。実は本音でいえば、多くの人はアメリカ嫌い。トランプ政権のメキシコ蔑視の発言はそれに拍車をかけたことになるさ。でも、とはいえ、経済的にはアメリカは大きな影響力を持つ。だから、多くのメキシコ人は英語も勉強しようとしているし、アメリカに移住した親戚や友人にも期待しているんだ。」
メキシコ中部の中核都市グアダラハラのレストランで、そこに暮らすマイケルというアメリカの仕事仲間と夕食を共にしました。
「実はね。メキシコ人で英語をしゃべれるのは人口の5%に過ぎない。その5%の中に英語の初心者もいれば、上級者もいる。いかにこの国で英語が通じないかということがわかるだろう。」
すると、アメリカから一緒にグアダラハラに飛んできて夕食に同席したもう一人の知人が私に質問します。
「でも、メキシコ人はトランプ政権に強く反発しているよね。声にだして。日本ではどうなんだい。今回、鉄鋼やアルミにアメリカは関税をかけると発表したろ。日本人は黙ってそれを受け入れるのかねえ。」
これを受けて、もう一人のアメリカ人が言います。
「あれって確か中国に向けられたものだよね。日本も対象なんだ。でもさ、日本は軍事でもアメリカにタダ乗りしているし、まあ関税でもかけないとバランスが取れないんじゃない。」
「それって、事実に反するんだよ。」
私はそう言って反論しました。
「日米安保条約があって、アメリカ軍は日本に駐留しているけど、その経費のかなりは日本がもっているんだよ。むしろアメリカはその経費によって日本に軍隊をおいて極東でのプレゼンスをもつことができるという利益を受けている。知らなかったの。」
「そんな事実アメリカ人は誰も知らないよ。なぜなら日本はそのことを全然主張しないから。主張しなければアメリカの世論に届かないじゃない。」
確かに彼らのいう通りです。我々が思っているより強く主張して、初めて海外にはじんわりとメッセージが伝わるのだということを、日本人は知らなすぎます。日本人の考え方やスタンスについて、自分たちはちゃんと言っているというものの、実際はそのほとんどが的確に伝わっていないことがあまりにも多すぎるのです。
「じゃあ今回の関税の問題も、日本の声はアメリカには届いていないようだね。」
「そうだよ。韓国やヨーロッパ諸国はアメリカに強く反発した。でも、日本からの声は届いていないよ。韓国やヨーロッパ諸国もアメリカにとっては大切な友好国だろ。でも彼らはいうべきことははっきりいうさ。日本人って何か遠慮しているのかな。それともはっきり言いすぎることは美徳じゃないと本気で思っているんだろうか。だから日本だけはしごを外されたんだよ。」
 
このアメリカ人のコメントには確かに耳を傾ける必要があります。
こちらでは、親しい友人が様々なことで口角泡を飛ばすように議論します。横でみていると喧嘩をしているように見えることも。でも、彼らはそうした議論をしてこそ、相手との理解を深めることができるというスタンスを持っていることを忘れてはなりません。異なる意見を戦わせることは、むしろ良いことなのです。
日本人で流暢に英語をしゃべり、海外通と呼ばれ教養もある人が、この一点を理解していないために、海外との交渉で思わぬ失敗をする場面が多いのです。
軍事や経済での日米の交渉も例外ではありません。正直なところ、こうした点を踏まえることのない、日本の官僚、大企業の幹部の交渉力のなさには苛立ちを感じるほどなのです。
ですから、今でもアメリカでは、日本に対する様々なステレオタイプが横行しています。ここで取り上げた日本タダ乗り論に加え、日本では女性が奴隷のように差別されている。ほとんどの日本人は内気ではっきりものを言わない。日本人は中国や韓国へ戦争責任について何も謝罪していない。日本には言論の自由がないなどなど。
 
確かにこれらのステレオタイプ(Stereotype)には、それなりの原因があるかもしれません。しかし、はっきりと英語で自らのスタンスを語ることのできない日本人が得る不利益は思っているよりも大きいのです。
「おいおい、アメリカ人は利益があると思えば、平気でスタンスを変えるよ。例えば、関税のことでも同様さ。トランプは今ひどい支持率だろ。だからアメリカの産業を自分が支えていることを強調するために、日本をスケープゴート(scapegoat)にするなんて当たり前のことなんだ。事実に反してもね。俺は中東の出身だからよくわかるけど、アラブ系の人がどれだけそんなアメリカの政策の被害にあってきたことか。トランプ政権はその最たるもの。知ってるかい、中東の混乱のため、俺の親戚の住むレバノンには、シリアから200万人の難民が流れ込んでいる。日本はこうしたことに何もしていない。俺たちからみても日本人は大人しすぎる。大人しければ、アメリカはこれ幸いにアドバンテッジ(advantage)をとってもいいと彼らは思っているんだ。」
同じテーブルにいたイラン系のアメリカ人が話し出します。
「いいかい。なんだったっけ今の日本の首相。」
「安倍首相かい。」
「そうそう、アベ。彼がトランプとゴルフをしたから大丈夫だって。馬鹿な話だよ。結果としてヨーロッパの多くの国はトランプを強く批判して、自分の国の利益を守ったじゃない。仲のいいことと、ビジネス上の利益とは違うんだよ。そこのところがどうしてわからないんだい。」
 
グアダラハラの夏の夜は、メキシコの話題から日本人論へと移りながらふけてゆきました。
その話題に加わる私の複雑な気持ち。それが、海外を実感したときに抱くやるせなさなのです。この気持ちを一人でも多くの人が共有できるようになったとき、日本は少しずつ変化してゆくはずです。そんな未来が来ることを祈りたいものです。
 

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100年経っても変えることのできなかった課題とは

United Nations

“What we demand in this war– is that the world be made fit and safe to live in, and that it be made safe for every peace loving nation which like our own, wishes to live its own life, determine its own institutions, be assured of justice and fair dealing by the other peoples of the world as against force of selfish aggression.”

(我々がこの戦争を通して求めること、それは我が国の国民同様に平和を求める全ての人々が、安全に生活でき、自らの生命と国家を維持し、利己的な抑圧によって他の人々が被害を受けない公正な世界を創造することでなければなりません)

1918年に発表された「14カ条」

2018年の新年にあたって、100年前を振り返りたいと思います。
ここに紹介したのは、ちょうど100年前の1月8日に、当時のアメリカ大統領ウッドロウ・ウィルソンがアメリカの議会で世界に向け提案した「14カ条の原則Fourteen Points)」と呼ばれる声明の序文の一部です。
1918年は第一次世界大戦が終結した年にあたります。
第一次世界大戦は、列強の植民地をめぐる覇権争いと民族運動とが引き起こした惨劇でした。それは、機関銃や毒ガス、戦闘機の導入など、過去にはない近代兵器がはじめて本格的に投入された殺戮戦だったのです。戦死者は2000万人にのぼりました。

そして、この戦争を通してヨーロッパ全土が荒廃する中で、世界の超大国へと成長したのがアメリカだったのです。ウィルソン大統領は、そんなアメリカの指導者として、戦争の再発を防ぐためにこの声明を発表したのです。この提案を元に発足したのが、現在の国連United Nations) の前身となる国際連盟League of Nations)だったことも知っておきたい事実です。

そこで注目したいことは、この14カ条の骨子です。そこでうたわれていることは、秘密外交の禁止開かれた交易や公海での航行の自由軍備の縮小、そして民族問題の解決への期待に他なりません。特に民族自決という課題の中では、混乱する中東情勢をそこに住む民族の自由意志で解決するべきだという意図が述べられています。

100年後も変わらない中東問題や軍拡問題

それから100年を経た2018年冒頭、この14カ条の声明からさほど世界が前進していない事実に我々は愕然とします。中東問題は以前よりさらに複雑になり、そこに住む人々の悲しみや怒りが、テロ行為をうみだし、それが新たな憎しみの連鎖につながっています。軍縮どころか、世界の主流は軍拡へと進みつつあります。
実は、14カ条の提案を受けて、さらにそれを前進させたのが、1928年に締結された不戦条約Kellogg Briand Pact)でした。
これは列強間で「国際紛争の解決の手段として武力を使わない」という条文で知られた国際条約です。この一文、どこかで聞いたことがありませんか?実はこの条文が法制化され、戦争放棄という第9条に取り込まれたのが日本国憲法だったのです。

しかし、不戦条約の精神はその後踏みにじられてしまいます。
第一次世界大戦から僅か20年で、それよりさらに多くの犠牲者を出した第二次世界大戦が勃発したのです。それは、1930年代になって世界中が軍拡競争へと走った末の結末でした。当時、国際連盟にしろ、不戦条約にしろ、違反した国への懲罰規程が曖昧でした。しかもそれぞれの国が他国への侵略はまずいとしながらも、自国の防衛のために武力を行使することは条約に抵触しないというスタンスをとったのも、不戦条約が有名無実になっていった原因でした。

戦後、日本は不戦条約の精神を取り入れた憲法を持つことができました。とはいえ、世界各国では戦後になっても自国の防衛という名目で軍備拡張や核兵器の開発競争が是認されました。そのつけが、北朝鮮問題や中東問題へとつながってしまいました。そして、日本もそうした新たな世界情勢への対応を模索する中で、着実に軍備を拡張してきたのです。

今、日本人も意識したい「14カ条」の精神

最後に、もう一つ注目しておきたいことがあります。
ウィルソン大統領の提言で発足したのが国際連盟ですが、それが発足したとき、アメリカは加盟しなかったのです。議会が条約を批准しなかったからです。当時、日本は国際連盟の憲章の中に人種差別の撤廃を盛り込むように主張していました。アメリカに根強かった日系人差別を念頭においてのことでした。
こうしたことがアフリカ系アメリカ人への差別などの人種問題を抱えていたアメリカの議会を硬化させたことも事実でした。
同時に、当時戦勝国であった日本の中国への進出には、列強の多くが譲歩し、その後の日中関係の悪化が第二次世界大戦への導火線の一つとなったことも忘れてはなりません。

ウィルソン大統領の14カ条の提案から100年。今、日本では憲法改正の論議も熱を帯びています。2018年が1918年から20年間の動乱の経験を我々が繰り返す起点の年になるのかどうかが問われています。そうした意味でも、この一年の内外の動きを注視してゆきたいものです。
全ての人にとって良い一年でありますように。

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『海外メディアから読み解く世界情勢』山久瀬洋二日英対訳
海外メディアから読み解く世界情勢
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。

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