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ニューヨークでのユダヤ系のパレードから世界をみれば

イスラエルの建国を祝うユダヤ系の人々

“More than 1,000 police officers will secure the Israel Day Parade in New York City. The annual event will make its way up Fifth Avenue on Sunday.”

(ニューヨークでのイスラエル建国記念日のパレードを1000名以上の警察官が警護。日曜日の五番街で記念行事が敢行。)
JTA(Jewish Telegraphic Agency)より

6月3日の日曜日にニューヨークでは、ユダヤ系の人々の大きなパレードがありました。
五番街を中心に道路を封鎖して、ニューヨーク各地のユダヤ系のコミュニティの人々が、イスラエルの独立70周年を祝ったのです。
パレードはお祭り気分で、ニューヨーク選出の議員やテレビの著名なコメンテーターまで、様々な人がマーチに加わります。
ニューヨーク市警は、パレードの妨害を警戒してバレードの現場のみならず、その周辺の道路まで車の立ち入りを規制。その地域のホテルにチェックインする人も、タクシーを途中で降りて荷物を運ばなければなりません。
 
先日、アメリカはエルサレムに大使館を移動させることを決め、エルサレムがイスラエルの首都であることを公認しました。この決定にアラブ系の人々が猛反発。流血騒動にまで発展したことは記憶に新しいはずです。
 
「ニューヨークの人はトランプ嫌いが多い。でも、今回のエルサレムへの大使館の移転には賛成している人が多いのです」
そう私の友人はコメントします。
「でも、今回のパレードはそのこととは関係ないはず。70周年の記念行事は相当前に予定していたはずだから」
 
実は、私の友人にもユダヤ系の人がいます。エルサレムからカナダのトロントに移住し、英語関係のオンライン教育の分野で活躍するその人は、「これでよかったんだ。テルアビブが首都だというのは単なる外交上の妥協だった。ユダヤ系の人は皆エルサレムに首都があってこそのイスラエルだと思っているさ」というのです。彼も確かにトランプ政権には懐疑的な人だったのですが。
 
アメリカの世論は複雑です。トランプ政権の政策に不満をもっている人でも、各論の中では様々な意見が飛び交います。そして、ユダヤ系の人々のスタンスは、当然世論に大きな影響を与えるはずです。
「ニューヨークタイムズは、リベラルな新聞だというけれど、ことユダヤ系の人々に関する論調となると慎重になるんだよ」
とニューヨークの友人は指摘します。
そうした背景を証明するかのような今回の大掛かりなパレードをみたときに、その盛況の背景には、やはりエルサレムが首都としてアメリカに承認されたことがあるのではと疑ってしまうのです。
 
ところで、北朝鮮がミサイルでアメリカや日本を威嚇していた頃、アメリカにとってはイスラエルが絡む中東問題が外交の基軸で、中東での火種がおさまらない限り、北朝鮮と交戦状態になることはないのではと解説したことがあります。
そんなアメリカの心理をついて、韓国が北朝鮮にアプローチをかけ、トランプ政権はその機会を逃さずに行動にでようとしたのです。そして、同じタイミングで、エルサレムへの大使館の移転を発表します。これは偶然の一致ではなく、アメリカの世界戦略を考えれば当然の帰結といえましょう。
 
このパズルを日本が把握できずにいることが、今回の北朝鮮問題で日本が蚊帳の外におかれている理由でもあるのです。ニューヨークを意気揚々とマーチするユダヤ系の人々と、北朝鮮問題とは、アメリカの外交政策の中でのコインの表と裏だということがお分かりになったと思います。
 
安倍政権は外交でかなりの成果を上げていると自民党の中では評価されていますが、実際はその逆なのではと考えてしまいます。まず、第一にアメリカの生々しい民衆の感触に対して安倍政権はあまりにも鈍感です。トランプ政権ができる前、外務省はヒラリー・クリントンが当選するものと決め込んで、トランプ側の人脈とはほとんどコンタクトを持たなかったといわれています。先ほど解説した、アメリカの世論の複雑さを考えたとき、それはあり得ないアプローチです。そしてトランプ大統領が登場したとき、慌てて安倍首相はアメリカを訪問したわけです。
こうしたボタンの掛け違いがなぜ起こるのか。
それは、政治家の無知と官僚のおごりのせいかもしれません。しかし、さらに言えることは、海外の人と庶民レベルのネットワークができていない日本の外交戦略に瑕疵があることをここで指摘したいのです。
 
そんなことを思いながら、パレードを見ていると、人々がひときわ熱狂してきます。みると、ニューヨーク出身の上院議員チャック・シューマーがパレードに加わって歩いていたのです。ニューヨークのブルックリン地区には大きなユダヤ系コミュニティがあります。彼はそこで生まれ育った生粋のユダヤ系移民の子孫なのです。そして、彼は民主党の上院議員。共和党の保守派が地盤のトランプ政権とは対立した存在です。
しかし、そんな彼でも、エルサレムへの大使館の移転の決定には強い支持を表明したのです。この複雑さを理解できない限り、そしてこうした人々とのネットワークをしっかりと維持しない限り、日本はアメリカの世界戦略に翻弄され続けるのかもしれません。
 
午後4時、パレードの喧騒が一段落し、週末のニューヨークに静けさが戻ってきました。
私は、ある友人の家を訪ねるためにタクシーに飛び乗ります。タクシーの運転手は運転中ずっと無線を使ってウルドゥ語で友人と話しをしています。彼は明らかにパキスタンから移住してきたイスラム教徒です。ニューヨークのタクシーの運転手にはそうしたイスラム系の人々が多くいます。彼らは今回のパレードを複雑な気持ちでみていたはずです。
 
ニューヨークから世界情勢が見えてきた一瞬です。
 

* * *

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日本の未知の体験、「拡大から縮小」とは

19世紀末、アメリカに移動する移民たち

Rather than rely on battleships and the mettle of the Imperial Army for their expansion, they could build their commerce on mechanisms forged largely by the Anglo American –jets, modern telecommunications and open financial markets—to explore an ever-wider sphere of activities and countries.

軍艦や陸軍の強靭な意識に依存することなく、ほとんど欧米が開発した航空機や電信システム、自由経済市場によって彼らは自らの商圏を今までなく広範に地球上の様々な国々に拡大することができた。
(Joel Kotkin著 Tribesより)

Diasporaという言葉があります。
これは、世界に拡散移住したユダヤ系の人々を指し、民族の離散、移住を意味した宗教的な用語です。Diasporaはユダヤ系の人々のような経験のない日本人には最も縁のない用語といえます。
 
とはいえ、日本人が海外に移住拡散した経験がないわけではありません。
実際、戦前には多くの日本人がアジア各地に、アメリカなどに移住しました。
そして、第二次世界大戦の終了と共に、海外の植民地に在住していた500万人の人々が日本に戻ってきました。中には旧満州でロシア軍の侵攻にさらされ、家族や同胞を失いながら命がけの帰国を経験した人々も多くいました。
 
もちろん、すべての人が帰国したわけではありません。
例えば、アメリカに移住した日系人の人々は、戦争がはじまるとアメリカの収容所に収監されたものの、戦後はそのままアメリカに残り、アメリカ人として生活を続けました。彼らは、まさに日本人のDiasporaです。
戦後も一部の日本人は南米などに移住し、未来にチャレンジしたことはありました。しかし、500万人が日本に帰国したのを最後に、現在まで大規模な海外移住の波を日本人が経験したことはありません。
 

アメリカ人は皆、Diasporaの子孫たち

 
このヘッドラインの文章を書いた著者は、この著書で1925年の日本の状況に触れています。それによると、当時の日本の人口密度はドイツやイタリアのおよそ3倍以上だったようです。この過密な状況が生み出す経済的困難に押し出されるように、多くの日本人移民が海外に流出したのです。
当時、ニューギニアボルネオといった太平洋西岸の島の主権を日本に渡すことで、日本の軍事的な膨張の原因となっていた過密な人口問題を解決するべきだ、といったオックスフォード大学の学者がいたほどなのです。それは、増加する日本や中国からの移民に、アメリカなどで社会的反発や差別がおき、移民の流入への規制が進められていた最中の提案でした。ひどい話です。
そして、こうした状況に押されるように、日本は中国に進出し、権益を拡大しようとしたことが、第二次世界大戦の引き金となったのは周知のことです。
 
戦後、日本はアメリカを軸とした戦勝国の管理下におかれ、自由経済の枠組みの中で活動するように位置づけられました。戦前のような膨大な軍事的負担もなくなり、日本は自由経済のプールの中でうまく泳ぐことによって奇跡的な復興をなしとげたのです。
その段階で、戦前よりも多くの日本人が海外に渡航するようになりました。その傾向は現在も変わっていません。しかし、それは移住ではなく、あくまでも渡航だったのです。軍事的野心を放棄させられ、戦前とは真逆な方法で経済的に成功した日本は、国内にコアを維持し、海外に支店や工場を拡張することで、世界へと平和に進出できたのです。
興味深いことに、その結果日本企業は常に日本に本社をおき、本社の中枢は全て日本人が管理運営することで、そのネットワークを維持してきました。戦前は軍事的な拡張のニーズによって、日本人の海外移住が促進されました。しかし、戦後は経済的なニーズのみによって、日本人は本社と海外の支社とを振り子のように行き来するだけでよくなったというわけです。
 
ただ、このことで、島国に閉じ込められた日本人は、海外と日本とを区別し、日本と海外との溶解を拒絶して生きてゆくことに馴染んでしまいました。例えば、数百年にわたって海外に進出してきたイギリスの場合、自国の伝統を維持しながらも、海外からの移民も増加し、それにともない国民の意識も大きく変化しました。今回ヘンリー王子結婚相手は、アフリカ系の血を引くアメリカ人です。こうしたことが日本の皇室に起こり得るかを考えてみれば、日本がいかに日本人という血にこだわっているかが見えてきます。
実際、日本企業のトップに外国籍の企業家が就任することも、買収などによって資本関係に変化がない限り、稀にしかありえません。
このことが、戦後の拡大した日本経済が、IT革命による新たなグローバル化の波に対応できず、その後の失速の原因になったのだと、多くの人が指摘します。
 

今後、日本はDiasporaをどう捉えるか

 
そして今、日本は人口の老齢化と少子化に悩まされています。
日本の人口が減少し、それに伴い国力も衰えてゆくのではないかと多くの人が懸念しています。人口の減少によって、豊かになった経済インフラを支えるだけの人材を維持できなくなるのです。
アジアに進出した戦前と、過密な人口を経済的な膨張で支えてきた戦後。この二つの時代では経験できなかった現実に日本がさらされているというわけです。
 
人口の逆ピラミッド化と人口そのものの減少、という未来の試練を乗り越えるには、日本という島の中と、海外という島の外との壁を取り払っていかなければなりません。教育制度、社会保障制度、そして移民政策などの変革を通して、日本社会は変化を余儀なくされています。
そして、拡大から縮小に向かう日本人がDiasporaとなり、海外からのDiasporaとの溶解を進めてゆく現実が、近未来に迫っているのかもしれないのです。

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アメリカの動向に翻弄されるエルサレムに思いを寄せて

“The president declared Jerusalem as the capital of Israel, delivering on a campaign promise to his evangelical supporters.”
(大統領はエルサレムをイスラエルの首都と宣言。これは福音教会の支持者への公約に基づいている)

New Republic誌より

世界の反発を煽るエルサレムの首都宣言

エルサレムをイスラエルの首都として認め大使館を移動させるというトランプ大統領の決定に、世界が反発しています。この見出しにある evangelical supporters とは、福音教会に属する人々の支持者、つまりトランプ大統領の支持母体だった保守的なキリスト教(プロテスタント系)の人々のことです。

先週、シアトルから友人が来日しました。
彼とはここ数年同じプロジェクトの仕事をしています。
彼はエリトリア Eritrea という国からのアメリカへの移民です。紅海に面し、エチオピアやソマリアなどと国境を接するこの国は、古い歴史を持ちながらも近年は政情不安が続いていました。彼も若い頃にエリトリアからサウジアラビアに逃れ、そこで英語教育関連の会社に勤務しました。その後、私と共通の友人の経営する会社に勤め渡米。今ではシアトルで同社の社長をしています。つまり、彼は中東からアメリカに渡ってきた移民なのです。そして彼は敬虔なイスラム教徒 Muslim です。

そんな彼がエルサレムをめぐるアメリカの対応に憤ります。
京都で、彼とモロッコ人の友人、それに教徒在住のアメリカ人と夕食を共にしました。彼とモロッコ人の友人とは、イスラム教の戒律に従った食事、ハラールフード Halal だけしか食べることができません。そして、仕事をしながらも夕暮れどきには、メッカに向かいお祈りをします。実際は、1日5回はお祈りの時間があるのです。京都にも、そんなイスラム教徒が祈りのために集う場所があることを知りました。

エルサレムはイスラム教徒にとっても、キリスト教徒にとっても、そしてユダヤ教徒にとっても聖地なのです。長い歴史の中ではそこで数々の宗教的な対立もありました。しかし、多くの時代、彼らは共存し、交流も盛んだったのです。

危ぶまれる多民族の共存

京都に住むモロッコから来た友人は、ベルギーのアントワープに住んでいたことがありました。アントワープは、ダイヤモンドの取引で有名な都市で、その取引にはユダヤ系の人々が多く関わっています。エルサレムと同様に、そこでもユダヤ系とアラブ系の人々が同居しているのです。
「ベルギーにいた頃、そんなユダヤ系の奴らとも友達だった。子供同士お互いの家に行って遊んでいたよ」
彼はそう述懐します。
「アメリカでも同様さ。狂信的な人々を除けば、宗教の違いはさほど問題ではなかったんだよ」
そういう私の京都の友人はユダヤ系です。イスラエルといえばユダヤ系の人々が建国した国家です。しかし、実のところ、多くのユダヤ系の人は今回のトランプ大統領の決定に強い懸念をいだいているのです。

“Despite the mess in Washington—the swamp, it appears, not only has yet to be drained, the accumulating muck would appear to be getting stickier and deeper.”
(ワシントンで起きている混乱、でもその混乱の沼は未だにそのままで、汚泥は粘りをまし、深みを形成しているよ)

これは、ユダヤ系のガールフレンドとニューヨークに暮らす私の親友からのクリスマスのメッセージです。彼は、ガールフレンドが精神的に辛い思いをしているといいます。トランプ政権の決定が宗教的な対立を煽り、人々の間に微妙な不信感が生まれつつあるからです。京都に住む友人も同様でした。

アメリカと日本との思わぬ共通点のリスクとは

そして、シアトルから日本を訪れたエリトリア出身の友人もコメントします。
「俺だってアメリカの国籍を持っている。れっきとしたアメリカ人だよ。イスラム教徒でも、ユダヤ教徒でも、アメリカに来て、税金を払って、法律を守ってちゃんと生活している。確かに、我々の文化背景は違うだろう。一部のアメリカの人はそんな文化背景の違いに配慮しない。それがトランプ政権を生み出したんだよ」
彼はそう言って面白いジョークを言います。

「世界中の多くの人は他国と国境を接した国で生きている。だから、バイリンガル bilingual なのは当たり前。いいかい。トライリンガル trilingual、マルチリンガル multilingual なんて言葉があるよね。俺は最低でもエリトリア語、アラブ語、英語を使えるよ。それは当然のことだろ。でだな。1ヶ国語しか話せない人のことを何ていうと思う?モノリンガル?違うんだ、1ヶ国語しか話せない人のことをアメリカ人というんだよ」

つまり、アメリカは大国で、そこに住む人は英語を話していればそれでいい環境にあるため、バイリンガル以上の人が少ないと彼は言いたかったのです。
こう言われた時、私は日本のことをチラッと考え、どうコメントしていいかわからなくなりました。多くの日本人は日本語しか話せないのですから。日本、そしてアメリカの常識は世界の非常識というわけです。

エルサレムに暮らす人は、ヘブライ語(ユダヤ系)、アラブ語やアラブ系の様々な民族の言葉、さらにアルメニア語など多数の言語に接して生活をしています。
だからこそ、エルサレムは、多民族、多宗教、そして多国籍の人々が共存する象徴的な都市なのです。その地位を強制的にユダヤ系の国家の首都とした時に、この地域に長年続くイスラエルとアラブ系の人々との対立はさらに深まってしまうはずです。

2017年はトランプ政権の成立とその余波で揺れた一年でした。友人のいう mess in Washington(ワシントンの混乱)が来年は解消されるでしょうか。人々の間に広がる宗教や民族の違いへの不信感が少しでも緩和されることを願っています。そして、そのためにも、日本人もより閉鎖的にならないようにしたいものです。そのためにも、日本人の語学力の向上も必要なのではと思う今日この頃です。

どうぞよい新年をお迎えください。

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『海外メディアから読み解く世界情勢』山久瀬洋二日英対訳
海外メディアから読み解く世界情勢
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。

山久瀬洋二の「海外ニュースの英語と文化背景・時事解説」・目次へ

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