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100年間問われている国家と企業との切れない縁

Huawei’s Meng Wanzhou was arrested in Canada on 1 December Photograph: STRINGER/Reuters

“The Justice Department is investigating Ms. Meng’s company, Huawei, on charges of violating sanctions on Iran, and her arrest was meant as a warning shot by the Trump administration in its campaign to limit the global spread of Chinese technology.”

(司法当局の孟氏への取り調べは、ファーウエイがイランへの制裁決議に違反しているためであるが、彼女の逮捕はトランプ政権による中国の技術の世界への拡散に歯止めをかけるための警告とも受け取れる)
ーNY Timesより

2018年:国策と企業活動に揺れた世界

 2018年もそろそろ終わりに近づいています。
今年は、経済界でも多くのことが起こりました。特に年末近くになって、カルロス・ゴーン氏のスキャンダルによって、日産・ルノー連合に激震が走ったことは記憶に新しいはずです。さらにそれから間もなく、カナダでファーウエイの副会長である孟晩舟氏が、イランへの制裁決議に違反し、技術を提供したかどでアメリカの要請で逮捕され、これまた通信業界での大きなニュースとなりました。
 この二つの事件に共通していること。それは、国家の利益と大企業との関係です。日本では伝統的に官僚主導の規制に守られて多くの企業が成長してきました。三井や三菱など、明治以降、政治と大企業とは国策を共に担って成長してきたことは周知の事実です。
 
 アメリカは、ファーウエイが自らの端末を使って、アメリカの機密情報を諜報しているとも非難。もちろん中国側はこの主張に真っ向から反発しています。
 国家情報法という法律が中国にあることが最近報道されています。中国国籍の者は国家の必要とする情報を提供する義務がある、というのがこの法律の骨子です。ということは、中国は国家として自国の国民をスパイとして使えることになるわけです。ファーウエイはそうした諜報活動の最先端企業である、という嫌疑がかけられていることになります。
 

20世紀:アメリカの金融業界に動かされた世界

 そもそも国家と企業とが、その利益が一致している限りにおいて、陰に日向にその国の運営を共有していることは、今に始まったことではありません。
 この関係が特に強固になったのは、20世紀になってからのことといえましょう。ここで、今から100年前の世界を覗いてみます。100年前の今頃、ヨーロッパでは第一次世界大戦が終了し、翌年1月に開かれるパリ講和会議に向けて様々な準備が行われていた頃でした。
 
 アメリカからは、ウィルソン大統領が、大国が引き起こしてきた戦乱に終止符を打とうと、国際連盟の設立を提唱し、人々はそれを支持し恒久平和を願っていました。
 しかし、そんな望みはその後20年であえなく葬り去られました。いろいろな原因が考えられますが、まずウィルソン大統領の提案した国際連盟がその後、有名無実化していったことが挙げられます。そもそも提案を行った当事者のアメリカで、国際連盟加盟が議会で否決され、アメリカ不在の連盟となったことも禍根となりました。
 
 その原因の一端を担ったのが、アメリカの金融資本であることはよく知られた事実です。元々、ヨーロッパが世界大戦に突入したとき、将来のドイツの敗戦を予測して、アメリカの金融資本は多額の投資をフランスやイギリスに対して行っていました。和平が成立した後に、そうした資金を回収するためには、ドイツに多額な賠償金を支払わせなければなりません。ウィルソン大統領の理想に従えば、国際連盟の設立とともに、ドイツへの損害賠償の請求も行われないことになります。
 これを警戒したJPモルガンをはじめとしたアメリカの金融業界が、ウィルソン大統領の提案に反対し、議会を動かしたのでした。その結果、多額の賠償金に苦しむドイツではヒトラーが台頭し、有名無実化した国際連盟は機能できないまま、第二次世界大戦へと世界は突き進んでいったのです。
 

~21世紀:ネットビジネスの台頭とグローバル経済

 アメリカの金融業界が世界の景気を左右するまでに成長した20世紀。その一挙一動は、すでに世界史の主要なイベントに大きな影響を与えていたのです。
 20世紀の終盤から21世紀になって、そんな伝統的なアメリカの経済界は大きな変化に見舞われました。それは、諜報機関が最も必要とする情報が、ネットビジネスという新手の起業家の手による発案や製品に委ねられはじめたことです。それまでは、鉄鋼や自動車、そして航空業界といった財閥は、明らかに金融界と密接に関わりながら政界にも影響を与えてきました。ところが、そうした伝統的な業界とは全く関わりのないフィールドからネットビジネスは成長してきたのです。アップルにしろ、マイクロソフトにしろ、アメリカの政界とはなんら関係のないベンチャービジネスから成長してきました。これら新しい企業とどのように付き合い、アメリカの国益と絡めてゆくかというテーマは、アメリカ政府にとっても全く新しい課題だったのです。
 
 これは未だに古い伝統に縛られた、長大型の企業との関係に依存する日本にとっては、さらに深刻な課題といえましょう。
 しかし、中国は状況が異なります。中国経済が成長したとき、その利権を最も享受したのは、政界や軍事などと深く関わった人々でした。ファーウエイの創業者も、元は人民解放軍と深く関わっていたといわれています。その関係が以前どのようなものであったにしろ、国と大企業との関係がネットビジネスにおいても極めて密接であることが、中国のアドバンテージではないかと多くの人が語っています。
 
 カルロス・ゴーン氏の逮捕についても、我々はフランスという国の存在を常に意識します。国がルノーの株主であればなおさらです。そして、トランプ政権下のアメリカでは、国家の利益がグローバルな企業活動より優先され、一度は分断されつつあった国家主導での経済運営へと、大きく舵が切られてゆく可能性は十分にあり得るのです。いかに、ネットビジネスが国策とは無縁の成長を遂げ、グローバルなネットワークに支えられているとはいえ、グローバリズムと国策との綱引きの中で、こうした新興企業が選択を迫られる可能性は十分に考えられます。
 

2019年~:企業のグローバリズムと国策を見つめる地球市民へ

 理想をいえば、企業活動はグローバルであればあるほど、国家権力とは一線を画すべきです。ある中国人の友人が、中国には三権分立による権力同士の監視が機能していないと嘆いていたことがあります。彼は付け加えて、三つの権力の他に、マスコミという監視機能も極めて大切だが、中国ではそれは機能不全に等しい状況だと指摘していました。司法、行政、立法の三権に加えて、報道という第四の権力。そしてさらに必要なのが、企業という五番目の機能。この五つのパワーが自立しながら、お互いを監視できてこそ、社会は健全に運営されるのかもしれません。もちろん、この五つのパワーの土台には国民、あるいは地球市民が主権者として存在しなければならないことはいうまでもありません。
 
 日産の事件、ファーウエイの事件、そして100年前の教訓となったアメリカ金融界と議会による世界平和という理想へのサボタージュ。これらに共通したテーマをしっかりと見据えられるのは、究極の権力を維持している有権者であり、企業にとっては消費者である、我々市民であることを忘れないようにしたいものです。
 

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100年経っても変えることのできなかった課題とは

United Nations

“What we demand in this war– is that the world be made fit and safe to live in, and that it be made safe for every peace loving nation which like our own, wishes to live its own life, determine its own institutions, be assured of justice and fair dealing by the other peoples of the world as against force of selfish aggression.”

(我々がこの戦争を通して求めること、それは我が国の国民同様に平和を求める全ての人々が、安全に生活でき、自らの生命と国家を維持し、利己的な抑圧によって他の人々が被害を受けない公正な世界を創造することでなければなりません)

1918年に発表された「14カ条」

2018年の新年にあたって、100年前を振り返りたいと思います。
ここに紹介したのは、ちょうど100年前の1月8日に、当時のアメリカ大統領ウッドロウ・ウィルソンがアメリカの議会で世界に向け提案した「14カ条の原則Fourteen Points)」と呼ばれる声明の序文の一部です。
1918年は第一次世界大戦が終結した年にあたります。
第一次世界大戦は、列強の植民地をめぐる覇権争いと民族運動とが引き起こした惨劇でした。それは、機関銃や毒ガス、戦闘機の導入など、過去にはない近代兵器がはじめて本格的に投入された殺戮戦だったのです。戦死者は2000万人にのぼりました。

そして、この戦争を通してヨーロッパ全土が荒廃する中で、世界の超大国へと成長したのがアメリカだったのです。ウィルソン大統領は、そんなアメリカの指導者として、戦争の再発を防ぐためにこの声明を発表したのです。この提案を元に発足したのが、現在の国連United Nations) の前身となる国際連盟League of Nations)だったことも知っておきたい事実です。

そこで注目したいことは、この14カ条の骨子です。そこでうたわれていることは、秘密外交の禁止開かれた交易や公海での航行の自由軍備の縮小、そして民族問題の解決への期待に他なりません。特に民族自決という課題の中では、混乱する中東情勢をそこに住む民族の自由意志で解決するべきだという意図が述べられています。

100年後も変わらない中東問題や軍拡問題

それから100年を経た2018年冒頭、この14カ条の声明からさほど世界が前進していない事実に我々は愕然とします。中東問題は以前よりさらに複雑になり、そこに住む人々の悲しみや怒りが、テロ行為をうみだし、それが新たな憎しみの連鎖につながっています。軍縮どころか、世界の主流は軍拡へと進みつつあります。
実は、14カ条の提案を受けて、さらにそれを前進させたのが、1928年に締結された不戦条約Kellogg Briand Pact)でした。
これは列強間で「国際紛争の解決の手段として武力を使わない」という条文で知られた国際条約です。この一文、どこかで聞いたことがありませんか?実はこの条文が法制化され、戦争放棄という第9条に取り込まれたのが日本国憲法だったのです。

しかし、不戦条約の精神はその後踏みにじられてしまいます。
第一次世界大戦から僅か20年で、それよりさらに多くの犠牲者を出した第二次世界大戦が勃発したのです。それは、1930年代になって世界中が軍拡競争へと走った末の結末でした。当時、国際連盟にしろ、不戦条約にしろ、違反した国への懲罰規程が曖昧でした。しかもそれぞれの国が他国への侵略はまずいとしながらも、自国の防衛のために武力を行使することは条約に抵触しないというスタンスをとったのも、不戦条約が有名無実になっていった原因でした。

戦後、日本は不戦条約の精神を取り入れた憲法を持つことができました。とはいえ、世界各国では戦後になっても自国の防衛という名目で軍備拡張や核兵器の開発競争が是認されました。そのつけが、北朝鮮問題や中東問題へとつながってしまいました。そして、日本もそうした新たな世界情勢への対応を模索する中で、着実に軍備を拡張してきたのです。

今、日本人も意識したい「14カ条」の精神

最後に、もう一つ注目しておきたいことがあります。
ウィルソン大統領の提言で発足したのが国際連盟ですが、それが発足したとき、アメリカは加盟しなかったのです。議会が条約を批准しなかったからです。当時、日本は国際連盟の憲章の中に人種差別の撤廃を盛り込むように主張していました。アメリカに根強かった日系人差別を念頭においてのことでした。
こうしたことがアフリカ系アメリカ人への差別などの人種問題を抱えていたアメリカの議会を硬化させたことも事実でした。
同時に、当時戦勝国であった日本の中国への進出には、列強の多くが譲歩し、その後の日中関係の悪化が第二次世界大戦への導火線の一つとなったことも忘れてはなりません。

ウィルソン大統領の14カ条の提案から100年。今、日本では憲法改正の論議も熱を帯びています。2018年が1918年から20年間の動乱の経験を我々が繰り返す起点の年になるのかどうかが問われています。そうした意味でも、この一年の内外の動きを注視してゆきたいものです。
全ての人にとって良い一年でありますように。

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『海外メディアから読み解く世界情勢』山久瀬洋二日英対訳
海外メディアから読み解く世界情勢
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。

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