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自動車業界からみえる日本人の未来への強烈な課題とリスクとは

Photo by Justin Sullivan / Getty Images

“Amazon leads $700M funding round for Rivian.”

(アマゾンはRivianに700万ドルの大型出資を行う)
― Automotive News より

日本の競争力低下の根本にあるものとは

 今、日本の競争力の低下が問題になっています。
 バブル経済がはじけて、失われた10年と呼ばれる不況の後、少し持ち直した景気もリーマン・ショックで再び低迷し、その後目立った進捗もないまま現在に至っています。
 
 再生のために必要な処方箋については、これまで様々な議論がなされてきました。
 しかし、日本社会は根本的な変革を経験することなく、ずるずると続く国力の低下に悩まされているのが現状です。
 そこで、敢えてこの問題の本質にメスを入れてみたいと思います。そもそも、日本という国を構成している人々、つまり我々日本人一人ひとりのいわゆる人間力、組織力には問題がないのでしょうか。
 

日本の自動車産業を脅かす海外のベンチャービジネス

 自動車業界を例にとってみます。というのも、日本の産業を支えている重要な柱の一つだからです。
 日本企業を代表する自動車業界。そこには、日本の技術やものづくりのノウハウが集積されています。ところが、そんな日本の技術を学んだ海外の技術者たちが今、起業して新たなネットワークを元に、将来の日本の自動車産業を脅かそうと挑戦してきています。
 それら一つ一つを見るならば、今は小さな動きです。しかし、どんな変化も小さな芽から生まれ、それが繁茂し始めたときは大きなうねりとなって、業界の優占種に成長します。
 ここで見つめなければならない課題は、「ネットワーク力」です。
 
 去年から今年にかけて、二つの事例が自動車業界で注目されています。
 一つはByton(バイトン)、そしてもう一つはRivian(リビアン)です。この二つは対照的な経緯で業界にデビューしました。
 Bytonは、技術とマーケティングのプロがグローバルに結集、ネットワークして創生されました。Bytonは未来型のAI技術をもって、運転空間が快適な居住空間となるよう設計された新型車です。そしてRivianは、日本企業からの出資もあるとはいえ、アマゾンから大型の投資を受けて大衆向けの電動車を製造しました。
 
 それ以前に、自動車業界の新たな動きとして注目されてきたのはTESLAでした。しかし、今ではTESLAを開発した技術者の中に、新たなネットワークをもってこのようなベンチャーに挑戦している人々が多数います。
 Bytonの場合、BMWやTESLA、そして日産に勤務していた人々が結集し、さらにホンダでアメリカの生産ラインをデザインしていた人物が製造に加わり、新車を発表しました。そして、その市場の中に日本は含まれていないのです。
 
 では、Rivianはどうでしょうか。Bytonが最初の市場を中国と欧米に設定しているのに対して、Rivianはもともと三菱自動車クライスラーとが合弁で運営していたイリノイにある工場を買収し、ピックアップと呼ばれる自家用トラックや、ハッチバック車をアメリカで売り出そうとしています。
 これに投資しているのは、GMとアマゾンです。錆びついた自動車産業の象徴であるかのように言われていたGMも、こうした新たな動きに活路を求めているのです。そして、アマゾンに集積された膨大なデータベースが、大衆車の未来の動向に大きな影響を与えるはずです。
 ちなみに、TESLAが生産ラインとして使用しているのは、GMとトヨタが合弁で使用していたカリフォルニアの工場です。
 
 こうした新しい動きが、日本の自動車業界のみならず、世界の大手の市場をじわじわと侵食し始めていることに気付いている人は多くありません。
 

NUMMI plant in Fremont with Mission Peak behind it. (Joint venture between General Motors and Toyota.)

「個人」の力と「ネットワーク」の構築力を育てられない日本の教育

 さて、主題となる日本人の「人間力」について解説します。
 問題は、こうした自動車業界の新たな動きに、積極的に関係している日本人が極めて少ないことです。日本企業はピラミッド型の指揮系統と重層構造の硬直した組織の中で、社員を育てています。社員は社内の人間とは交流しても、他の業界や他社のエキスパートとの交流はほとんどしません。会社の人間としては力があっても、個人としてのネットワーク力は極めて低いのです。
 データベースとAIによって車を設計・マーケティングする時代に、このフラットなネットワーク力を構築できない日本人と日本企業が置き去りにされるのは、ごく当然のことといえましょう。
 
 では、どうしてそのような現象が起こっているのでしょうか。
 その背景には、日本の教育そのものの課題が見えてきます。学校単位、教室単位、そして企業においても、部門単位の集団内でしか生きられない人間を育て続けている日本の教育制度の課題が、そこにはあるのです。
 “Individual”、すなわち「個人」を集団とは分けて、その能力や個性を育て、その個人の強い部分を他の個人の強い部分と結びつけることで発熱させるエネルギーこそが、未来の産業を引っ張る新たなビジネスモデルとなるはずです。そうした個人の能力を育てる教育という理想と最も遠いところに、集団で同じことを学ぶことによって、”Japan Inc.”を創造し続けてきた日本の教育制度があるのです。
 
 “Difference”、つまり「異なること」を良しとする教育によって育てられた人が、その異なる才能をネットワークできるようになることが必要です。日本人はこうした個人プレーが極めて苦手です。同時に、日本人は与えられた課題をこなすことは上手くても、ネットワークによって無から有を生み出すことが、なかなかできません。
 
 日本の重厚な産業と技術が世界に吸収され、新たなネットワークによって消化されたとき、日本に何が残るのか。そのことを考えたとき、今の日本で議論されている教育改革の悠長さに苛立つ人も多いのではないでしょうか。
 

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100年間問われている国家と企業との切れない縁

Huawei’s Meng Wanzhou was arrested in Canada on 1 December Photograph: STRINGER/Reuters

“The Justice Department is investigating Ms. Meng’s company, Huawei, on charges of violating sanctions on Iran, and her arrest was meant as a warning shot by the Trump administration in its campaign to limit the global spread of Chinese technology.”

(司法当局の孟氏への取り調べは、ファーウエイがイランへの制裁決議に違反しているためであるが、彼女の逮捕はトランプ政権による中国の技術の世界への拡散に歯止めをかけるための警告とも受け取れる)
ーNY Timesより

2018年:国策と企業活動に揺れた世界

 2018年もそろそろ終わりに近づいています。
今年は、経済界でも多くのことが起こりました。特に年末近くになって、カルロス・ゴーン氏のスキャンダルによって、日産・ルノー連合に激震が走ったことは記憶に新しいはずです。さらにそれから間もなく、カナダでファーウエイの副会長である孟晩舟氏が、イランへの制裁決議に違反し、技術を提供したかどでアメリカの要請で逮捕され、これまた通信業界での大きなニュースとなりました。
 この二つの事件に共通していること。それは、国家の利益と大企業との関係です。日本では伝統的に官僚主導の規制に守られて多くの企業が成長してきました。三井や三菱など、明治以降、政治と大企業とは国策を共に担って成長してきたことは周知の事実です。
 
 アメリカは、ファーウエイが自らの端末を使って、アメリカの機密情報を諜報しているとも非難。もちろん中国側はこの主張に真っ向から反発しています。
 国家情報法という法律が中国にあることが最近報道されています。中国国籍の者は国家の必要とする情報を提供する義務がある、というのがこの法律の骨子です。ということは、中国は国家として自国の国民をスパイとして使えることになるわけです。ファーウエイはそうした諜報活動の最先端企業である、という嫌疑がかけられていることになります。
 

20世紀:アメリカの金融業界に動かされた世界

 そもそも国家と企業とが、その利益が一致している限りにおいて、陰に日向にその国の運営を共有していることは、今に始まったことではありません。
 この関係が特に強固になったのは、20世紀になってからのことといえましょう。ここで、今から100年前の世界を覗いてみます。100年前の今頃、ヨーロッパでは第一次世界大戦が終了し、翌年1月に開かれるパリ講和会議に向けて様々な準備が行われていた頃でした。
 
 アメリカからは、ウィルソン大統領が、大国が引き起こしてきた戦乱に終止符を打とうと、国際連盟の設立を提唱し、人々はそれを支持し恒久平和を願っていました。
 しかし、そんな望みはその後20年であえなく葬り去られました。いろいろな原因が考えられますが、まずウィルソン大統領の提案した国際連盟がその後、有名無実化していったことが挙げられます。そもそも提案を行った当事者のアメリカで、国際連盟加盟が議会で否決され、アメリカ不在の連盟となったことも禍根となりました。
 
 その原因の一端を担ったのが、アメリカの金融資本であることはよく知られた事実です。元々、ヨーロッパが世界大戦に突入したとき、将来のドイツの敗戦を予測して、アメリカの金融資本は多額の投資をフランスやイギリスに対して行っていました。和平が成立した後に、そうした資金を回収するためには、ドイツに多額な賠償金を支払わせなければなりません。ウィルソン大統領の理想に従えば、国際連盟の設立とともに、ドイツへの損害賠償の請求も行われないことになります。
 これを警戒したJPモルガンをはじめとしたアメリカの金融業界が、ウィルソン大統領の提案に反対し、議会を動かしたのでした。その結果、多額の賠償金に苦しむドイツではヒトラーが台頭し、有名無実化した国際連盟は機能できないまま、第二次世界大戦へと世界は突き進んでいったのです。
 

~21世紀:ネットビジネスの台頭とグローバル経済

 アメリカの金融業界が世界の景気を左右するまでに成長した20世紀。その一挙一動は、すでに世界史の主要なイベントに大きな影響を与えていたのです。
 20世紀の終盤から21世紀になって、そんな伝統的なアメリカの経済界は大きな変化に見舞われました。それは、諜報機関が最も必要とする情報が、ネットビジネスという新手の起業家の手による発案や製品に委ねられはじめたことです。それまでは、鉄鋼や自動車、そして航空業界といった財閥は、明らかに金融界と密接に関わりながら政界にも影響を与えてきました。ところが、そうした伝統的な業界とは全く関わりのないフィールドからネットビジネスは成長してきたのです。アップルにしろ、マイクロソフトにしろ、アメリカの政界とはなんら関係のないベンチャービジネスから成長してきました。これら新しい企業とどのように付き合い、アメリカの国益と絡めてゆくかというテーマは、アメリカ政府にとっても全く新しい課題だったのです。
 
 これは未だに古い伝統に縛られた、長大型の企業との関係に依存する日本にとっては、さらに深刻な課題といえましょう。
 しかし、中国は状況が異なります。中国経済が成長したとき、その利権を最も享受したのは、政界や軍事などと深く関わった人々でした。ファーウエイの創業者も、元は人民解放軍と深く関わっていたといわれています。その関係が以前どのようなものであったにしろ、国と大企業との関係がネットビジネスにおいても極めて密接であることが、中国のアドバンテージではないかと多くの人が語っています。
 
 カルロス・ゴーン氏の逮捕についても、我々はフランスという国の存在を常に意識します。国がルノーの株主であればなおさらです。そして、トランプ政権下のアメリカでは、国家の利益がグローバルな企業活動より優先され、一度は分断されつつあった国家主導での経済運営へと、大きく舵が切られてゆく可能性は十分にあり得るのです。いかに、ネットビジネスが国策とは無縁の成長を遂げ、グローバルなネットワークに支えられているとはいえ、グローバリズムと国策との綱引きの中で、こうした新興企業が選択を迫られる可能性は十分に考えられます。
 

2019年~:企業のグローバリズムと国策を見つめる地球市民へ

 理想をいえば、企業活動はグローバルであればあるほど、国家権力とは一線を画すべきです。ある中国人の友人が、中国には三権分立による権力同士の監視が機能していないと嘆いていたことがあります。彼は付け加えて、三つの権力の他に、マスコミという監視機能も極めて大切だが、中国ではそれは機能不全に等しい状況だと指摘していました。司法、行政、立法の三権に加えて、報道という第四の権力。そしてさらに必要なのが、企業という五番目の機能。この五つのパワーが自立しながら、お互いを監視できてこそ、社会は健全に運営されるのかもしれません。もちろん、この五つのパワーの土台には国民、あるいは地球市民が主権者として存在しなければならないことはいうまでもありません。
 
 日産の事件、ファーウエイの事件、そして100年前の教訓となったアメリカ金融界と議会による世界平和という理想へのサボタージュ。これらに共通したテーマをしっかりと見据えられるのは、究極の権力を維持している有権者であり、企業にとっては消費者である、我々市民であることを忘れないようにしたいものです。
 

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ゴーン逮捕でみえてきたモラルと法律、そして国家戦略の矛盾

“Nissan ousts Carlos Ghosn as chairman following his arrest.”

日産は、カルロス・ゴーンの逮捕を受けて彼を会長職から追放する
(CNNより)

カルロス・ゴーン逮捕のニュースは、日本だけではなく世界中を駆け巡りました。
彼と彼の側近にかけられた容疑とその背景については、すでに多くのメディアが解説しています。そこで、彼の逮捕から1週間以上が経過した今、我々は少し冷静に、今までの報道も含め、今回の事件のあらましを考えてみる必要があるのではないでしょうか。
 
ここで考えたいのは、モラル法律というテーマです。
カルロス・ゴーンが高額な報酬を受けていたことは、企業やそのリーダーのモラルの問題として批判の対象となっています。そして、彼がその高額報酬を低く報告したという容疑について、今、彼は法律で裁かれようとしているのです。
 
ここで、あえてモラルと法律とを分離して考えてみましょう。
もちろん、法律の遵守というテーマには、モラルの問題も深く関わります。
しかし、モラルと法律とを分離して注視した場合、いかに法律自体がそれぞれの地域のモラルや文化と深く関わっているか、そして人間がいかにその影響を深く心に刻み込んでいるかが分かってくるのです。
 

文化に影響されるモラル、モラルに影響される法律

分かりやすい事例を挙げるならば、日本で「大麻を所持していた」と報道されれば、その人は麻薬の売買に関わっていたとして、モラルの上からも厳しく糾弾されます。しかし、アメリカでは、いくつかの州でマリファナの所持や吸引は合法とされています。さらに面白いことに、マリファナの需要が高まっていることを投資の機会ととらえた投資家(ごく合法的に活動している)の間で、マリファナ農場への出資が堂々と行われていることが話題となっているのです。
このニュースを聞いて違和感を覚える人は、日本を含め、世界各地にいるはずです。しかし、その違和感はそれぞれの国のモラルの影響を受けたものに他なりません。
 
では、マリファナと同じように、摂取することで心身に影響を与える、お酒はどうでしょう。酩酊して人に迷惑をかけない限り、飲酒は日本では合法です。しかし、イスラム圏の国々の中には、この行為は、モラルに反する行為として厳しく罰せられるケースがあるのです。もう一つの事例を挙げれば、日本では今でも食事の場での分煙が徹底しておらず、喫煙者が側にいることで健康被害を受けている人が無数にいます。しかし、アメリカの多くの州では、公の場所での喫煙は違法行為のみならず、モラルの上からも厳しく糾弾されるのです。 こうした事例から、法律はそれぞれの国のモラルと深く関わっていることが理解できると思います。
 
そこで、まずはカルロス・ゴーンが高額な報酬をとっていたことに対する批判を考えましょう。世界中に彼と同様、あるいはそれ以上の報酬を享受している企業のリーダーがいることは周知の事実です。社員は薄給で苦労しているのにおかしいじゃないかという議論は、社会主義国であれば通用するモラルかもしれませんが、資本主義国であれば社員が過剰労働や労働基準法に反する業務を押し付けられていない限り、それは個々の会社の問題にすぎません。それをモラルの問題とするか否かは、それぞれの地域の文化の影響によるものです。
 
では、報酬を過小に報告していたことはどうでしょう。これは、確かに日本の法律には抵触するかもしれません。そして、日本という主権国家の中で、その国の法律に抵触する以上、それをおかした人物が処罰の対象となるのは仕方のないことです。しかし、カルロス・ゴーンはまだ有罪と決まったわけではありません。未決の段階で社会を騒がせたことで、取締役会で解任されるのは、日本のモラル文化の問題です。つまり、そこにも文化の問題が介在しているといえましょう。
 

情報を収集するマスコミの目、報道を監視する国民の目

そして、現在のマスコミの問題は、このモラルと法律の問題を同じ器に入れてかき混ぜ、個人が何か法的なリスクを背負ったときに、その個人や法人をモラルの上からも徹底して叩いてしまうことにあるのです。そして、一般の人々も、マスコミの報道に対して冷静かつ批判の目を持って接する姿勢が欠如しているようにも見えるのです。
 
日本に滞在しているある中国の友人が、中国には報道の自由がないことを嘆いていました。そして、三権分立が民主主義だけではなく、そこにマスコミというもう一つの監視の目がないことが中国社会の問題だと批判をしていました。
確かに、彼のいうことには一理があります。マスコミを含む4つの権力がお互いを監視することこそが民主主義の基本かもしれません。しかし、そこにもう一つ必要なことは、主権者である国民自身の監視の目です。この目がこなれていない場合、政治の場ではポピュリズムが横行し、マスコミも責任ある報道ができなくなります。
 
今回のカルロス・ゴーンの逮捕についていうならば、司法取引に応じた外国籍の人物の意図とその背景をしっかりと見極めることが重要です。同時に、ルノーの株主であるフランス政府とルノーとの関係、そこでのパワーバランスとフランス政府の自動車産業への思惑に対する視点をもった報道が必要です。具体的には、日産をいかに守ってゆくかという国家レベルでの戦略が必要なのです。
なぜ、ルノーではカルロス・ゴーンは役員として留任したのか。そして、そんなカルロス・ゴーンとフランス政府とは過去に経営を巡ってどのように対立していたのか。このあたりをしっかりと見つめてゆくには、まだマスコミ自体に情報がなさすぎるようにも思えます。
 

グローバル経済の中で日本に求められるもの

カルロス・ゴーンの功罪のみにスポットをあてて、日産をがんじがらめにしてしまうことは、以前東芝のスキャンダルによって、東芝が世界企業の生存競争の中で一人沈没していった状況と同様の結果を招きかねません。
日本は、官も民もこうした世界での生存競争の中で、いかに戦略を研ぎ澄ましてゆくかというノウハウに、大きな瑕疵があるように思われます。
 
現在、グローバルに成長した企業は、その国の経済を左右する力を有しています。それは、政治の力をも凌ぐ影響力を有しているといっても過言ではありません。であれば、政治と経済、官と民との間にいまだに歴然とした上下関係がある日本の体質に、大きなメスをいれる必要があることはいうまでもありません。また、カルロス・ゴーンの逮捕によって、企業やベンチャーをリードして、未来社会に貢献する優秀な人材が、過剰な税金やコンプライアンスの鉄の鎖によって葬られないようなバランス感覚が必要です。
 
もし、カルロス・ゴーンが日本の法律を破っていれば、それは処罰の対象となるでしょう。しかし、ただ、彼の行為を叩き批判するだけでは何も起こりません。
彼の処罰という法的な問題と、日本の硬直した税制のあり方や税金の使い方、さらに企業家や起業家のモラルの問題とを同じ土俵で処断することは、グローバル経済の波にさらされる日本にとっては、決して良いことではないはずです。
今後のフランス政府の出方、ルノーの戦略を注視しながら、日本人にとっては苦手な果敢で迅速な対応が、我々に求められているのではないかと思われます。
 

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英語力だけじゃない、世界に通用するスキルを身につけるなら

『日本人がグローバルビジネスで成功するためのヒント Tips for How to Succeed in a Global Business Context』ジョン・K・ギレスピー (著)、小野寺粛 (訳)日本人がグローバルビジネスで成功するためのヒント Tips for How to Succeed in a Global Business Context
ジョン・K・ギレスピー (著)、小野寺粛 (訳)
グローバルビジネスのスキルを学びながら、英語学習にもなる。ビジネスパーソンのための対訳読み物。
20年間で、海外の日系企業の5000人を超えるビジネスパーソンと面談を行ってきた著者が教える、「日本人のためのグローバルビジネスで成功するためのヒント」。日本人以外の人々とのコミュニケーションやビジネスに対する見方を説明しながら、日本人の問題点を指摘し、その解決方法を伝授。グローバルに成功したいビジネスパーソンのみなさんに、英語力よりももっとはるかに大事なことをお教えします。

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未来型のCore Competenceの創造とは

“China e car venture future mobility names brand Byton, eyes U.S.,Europe.”

(中国の未来型の自動車へのカーベンチャーはアメリカとヨーロッパを視野にバイトンというブランド名を)
ロイターより

“Byton has revealed an electric vehicle that it thinks presents a glimpse at the future of how we will drive and interact with cars.”

(バイトンは将来我々がいかに運転とデジタル上のインタラクションとを共有してゆくかというテーマを見据えた電気自動車を披露)
BBCより

Byton が自動車業界に本格参入

中国とヨーロッパ、そしてアメリカの頭脳を集め、自動車産業に新しい台風の目を創造しようという動きが注目されています。ロイター通信、BBC放送などが積極的に報道しています。コンシューマーテクノロジー分野での見本市で知られる CES(Consumer Electronics Show が、現在ラスベガスで開催されています。
そこで注目されたのが、中国の資本により BMW Apple などの技術者が共同して開発した新型の電気自動車 Byton でした。
Byton という名前は、Bytes on Wheels からきています。Byton の母体となる Future Mobility Corp. は中国の電気自動車開発会社で、ここに BMW の技術部門で活躍してきた Carsten Breitfeld 氏が中心となって制作してきたのが Byton という車です。

この車は、我々が日常触れているインターネットの世界を車に導入し、車とインタラクティブな環境との究極の融合を目指した製品で、開発センターは南京とカリフォルニアのサンタクララ、ミュンヘンにあります。そして、技術者の中には、Google やApple、さらには TeslaNissan に関わった人々までが含まれています。
Byton はまずアメリカとヨーロッパの市場で2019年にデビューし、その後販売ネットワークを拡張してゆくことになっています。もちろん中国も重要なターゲットです。

人材ネットワークが Core Competence のあり方を変える

このプレスリリースが物語ること。それは人のネットワークです。
今まで企業はその企業が持つ Core Technology(コアテクノロジー,基幹技術 を基に、その企業技術と文化をいかに大切にしながら海外に進出し、そのテクノロジーを海外に移植してゆくかというテーマに没頭していました。日本の企業はその典型です。ですから、海外に進出するとき、自らのスペックに対するこだわりが極めて強く、海外で採用した社員もそのスペックを学ぶことにプライオリティをおかされてきたのです。これが通常のグローバル企業の Technology transfer(技術移管)のあり方でした。そしてこの Core Technology によって育まれるのが Core Competence (強い競争力)であると考えてきたのです。この企業経営の土台が根本から変化しようとしているのです。
ある意味で日本人が一番苦手としている、海外の知恵とネットワークして、コンセプトを造り、そこに資本を投下して製品を作ってゆくという手法が Byton をはじめとした自動車業界をも席巻する世界各地のベンチャー企業の手法となっているのです。

昔、Silicon Valley(シリコンバレー)と Silicon Alley(シリコンアレー)のコラボという発想がありました。
ハイテク産業都市が集中するシリコンバレーで技術を開発し、もともと出版産業などが多くコンテンツを制作することのできるニューヨークの alley(路地)で技術にコンテンツを注入して製品化するというのが、電子ブックなどの開発の背景にあったのです。

自動車産業の場合、この Silicon Alley にあたるのがコアテクノロジーを有する既存の自動車メーカーと下請けネットワークでした。ここに世界中の未来型知識を導入することが、現在版の Silicon ValleySilicon Alley のコラボなのです。engine(エンジン)と chassisシャシ,車台)の技術にいかに世界の知恵と結合させ、integrate(統合)してゆくかが課題なのです。

日本の製造業の課題とは

そもそも、Byton はなぜ日本のマーケットをターゲットにしていないのでしょうか。おそらく日本は日本の自動車業界が既にネットワークしているため、進出が難しいと思ったからでしょうか。それとも、日本に進出するには日本独特のガラパゴス的な要望に応えてゆく必要があり、その手間とコミュニケーションの難しさを考えたとき、とりあえず日本はスキップしておいたほうが効率的と思ったのかもしれません。こうしたことから推測し、考えなければならない日本の産業に求められる将来像。それは、「世界の人材と自由に交流できるノウハウと人の養成」に他なりません。そして、日本のノウハウの輸出というスタンスから、日本のノウハウと世界の知恵との融合というスタンスに、製造業の戦略をシフトさせることから、新たなCore Competence(強力な競争力)を創造することが必要です。
そのための発想と組織構造を企業が育成してゆくことが求められているのです。

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『海外メディアから読み解く世界情勢』山久瀬洋二日英対訳
海外メディアから読み解く世界情勢
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。

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