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トランプ大統領にノーベル賞という「冗談」の裏の「真実」とは

“On Friday, Trump said Abe had nominated him for a Nobel Peace Prize with a five-page letter. Abe has been one of Trump’s most stalwart allies in the two years since he took office.”

(金曜日にトランプは、安倍が5枚の手紙で彼をノーベル平和賞に推薦すると語る。安倍はトランプが大統領に就任して以来2年間、最も熱烈な支持者であり続けている。)
― CNNより

報道にみるアメリカの分断と日本の対米追随外交

 北朝鮮との緊張緩和に協力したとして、安倍首相がトランプ大統領をノーベル平和賞に推薦したという報道があったことは、記憶に新しいはずです。
 
 そこで、この情報のインパクトの大きさについて考えてみます。
 よく言われることですが、現在アメリカでは世論が二つに分断されています。
 メキシコとの国境に壁をつくり、「アメリカ・ファースト」をスローガンにするトランプ大統領を支持する人と、非難する人との間には、埋めがたい溝ができているのです。
 日本の指導者がそうしたアメリカを直視した場合、そのどちらかに味方するような行動は極めて危険です。リベラル派と呼ばれるアメリカの都市部に住む人々は、多くがトランプ氏に対して批判的です。
 ということは、安倍首相の今回の行為は、そうしたアメリカの知識人に不信感を与える行為となりかねないのです。
 アメリカの大統領との蜜月を、イニシアチブをとる外交上手な首相としてイメージ付けようというのが本音であれば、それは大きな過ちです。というのも、その行為でアメリカ人の半数が日本に対してマイナスのイメージを抱き、アメリカの世論やメディアがバイアスをもって日本を見るリスクがあるからです。
 
 では、このニュースを一つの情報として捉えたとき、我々はそれをどう分析すればいいのでしょうか。まずは、ニュース自体が事実かどうか検証することです。実際、このニュースが事実であるという裏付けは取れていません。トランプ大統領がメディアにそう語った、ということだけが報道されているからです。
 では、それがもし事実であるならば、ここに指摘したように、安倍首相は対米外交において、揺れるアメリカの世論を意識できないという極めて初歩的なミスをしたことになります。そして、もし事実でなかった場合は、事実ではないことを公表したトランプ大統領に対する抗議ないし日本政府のあり方が問われなければなりません。かつ、なぜそのようなことが起こったのか、アメリカ側でも背景の検証が必要です。
 
 ということは、今回のニュースを見た場合、それが事実であろうがなかろうが、日本政府が極めてお粗末な対米追随外交を強いられている様子が浮き彫りにされてきます。
 

背景にある情報収集能力の欠如と対米政策における誤解

 では、なぜそんなニュースが飛び交ったのでしょうか。
 一国の首相が他国の大統領をノーベル平和賞に推薦することは、明らかな外交的行為で、決して私的なこととはいえません。外交的な行為である以上、そこには誰かからの推薦、助言があったはずです。あるいは、首相がそのようにしたいと語ったとしても、それに対してアドバイスがなかったとしたら、それこそ日本の政府と、それを支える官僚の質を疑うことになります。
 
 背景にあるのは、外務省北米局の情報収集能力の欠如かもしれません。
 外務省は伝統的に、アメリカの共和党政権に好意的です。その背景には、民主党政権の支持母体がアメリカの労働組合にあり、労働組合が日本の高度成長期に起こった貿易摩擦に対して不利益な団体であったという判断があるからかもしれません。さらに、日米の蜜月期の多くが共和党政権のもとで推進されたという事実もあるでしょう。
 また、とかくぎくしゃくする日韓関係を意識して、北朝鮮問題で日本がイニシアチブをとろうという思惑もあったかもしれません。
 
 しかし今、民主党も共和党もそうした単純な図式で判断できない複雑な支持層の上に成り立っていることを、我々は知らなければなりません。ユニオン(労働組合)に所属している労働者の多くは、格差に苦しみ、錆びついた産業構造の中で失業の危機に怯えています。トランプ政権はそうした人々の不安を煽って選ばれた、共和党政権です。
 そして現在、アメリカ経済を牽引しているシリコンバレーに代表される東西両海岸の都市部で活動している人々は、伝統的な企業構造を否定し、ネットワークの中からグローバルに成長しようとしている企業に勤めています。こうした人々の多くは、逆に民主党の支持者か、仮に共和党の支持者であってもトランプ政権の支持者ではないのです。
 
 外務省北米局が過去の対米政策のいわゆるステレオタイプに固執して、共和党と民主党を単純に色分けしているとすれば、それは極めて稚拙な誤解なのです。
 そんな誤解の上に、安倍政権の対トランプ外交が立案されているとしたら、これは日本にとって大きなリスクとなるのです。我々はノーベル平和賞への推薦といった、わざわざしなくてもよいことをして外交能力をアピールすることがいかに愚かなことか、ということをしっかりと理解する必要があるのです。
 

日本人に足りない「情報」を多面的・多角的に捉える力

 日本人は「情報」という概念に対して鈍感なところがあります。
 日本向けに日本語で発信される海外の情報を受け取っているだけでは、情報の本当の意味は伝わりません。日本で発信される情報を鵜呑みにすることには注意して欲しいのです。日本にニュースが伝えられ、それが報道されるとき、そのニュースはすでに日本人向けに脚色されているケースが多いのです。
 もちろん、同様のことは海外でもいえるでしょう。しかし、この脚色のプロセスを理解しないことのリスクは、我々が思っている以上に大きいはずです。
 
 問題は、脚色された情報を鵜呑みにして育った人が、再びそうした情報を信じ、脚色して発信する張本人になることです。残念なことに、こうした張本人たちを育成するのが、教育というシステムなのです。
 日本人が日本で成功するには、日本の教育システムに順応し、そこで優等生にならなければなりません。そこでの成功者はすでに、その脚色の過程に対して自らこそが鈍感になっていることを忘れているのです。外務省北米局は、そうした「エリート」の集団なのではないかと思われます。
 
 情報とは、決して一つの面だけでは構成されていません。それは重層で複雑、かつ多様です。アメリカで何かが起こったとして、そのニュースだけを日本に報道すれば、日本人はその背景にある複雑な側面を理解することなく、表層の事実からアメリカという社会そのものを判断してしまいます。こうしたリスクを、日本人は官民そろって冒しているように思えるのです。
 
 トランプ大統領へのノーベル平和賞、というコミカルな報道の背景にある深刻な課題。それは、日本人の情報収集能力の欠如という課題と無縁ではなさそうです。
 

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