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欧米の価値観が育んだ変化とは

“Since large scale human corporation is based on the myths, the way people cooperate can be altered by changing the myths-by telling different stories. Under the right circumstances, myths can change rapidly.”

(人々は神話によって結ばれているので、そうした人々の協力のあり方は、異なった神話を語ることで変えることができる。環境が整えば、神話は即座に変えることができるのだ。)
Yuval Harari著、Sapiens より

今回は、欧米人の意識構造がいかにして形成されたかを考えます。7月3日のブログで、ベンジャミン・フランクリンの「Time is money」という言葉について解説したことがありました。そこで、16世紀の宗教改革によって芽生えたプロテスタントは、神を教会やローマ教皇という従来の権威を通して意識せず、自らが勤勉に働き、奢侈を禁じ敬虔な日々を送ることで、直接自己と神とを繋げてゆこうと意識していると解説しました。
20世紀初頭の著名な宗教社会学者マックス・ウェーバーは、この概念がヨーロッパで人々が勤勉に富を蓄積しようという意識を生み出し、その後の資本主義の発展につながったのだという見解を表明し、注目されました。
 
このように、宗教が直接人々の行動様式や、行動の背景にある意識に影響を与えてゆくケースは、他の宗教に支配されている人々にも見られる現象です。
 

アメリカ社会に潜在する「プロテスタンティズム」

プロテスタントの信条は、その後のカトリックとプロテスタントとの抗争の中で、ヨーロッパを逃れた移民によってアメリカに上陸し、培養されます。そして、アメリカではプロテスタントの様々な分派が育ち、社会に大きな影響を与えていったのです。
ですから、その後アメリカにやってくる人々は、たとえ宗教や心情、文化が異なっていても、こうして育てられたアメリカ人の価値観や常識に馴染まない限り、アメリカ社会で生き抜けなくなりました。もちろん、宗教的にプロテスタントを信仰する必要はありません。しかし、アメリカで生活する以上、プロテスタントが育成した勤労の意識や、人と人とが交流するための価値観を、多かれ少なかれ受け入れてゆく必要があるのです。
 
プロテスタントの多くは、集団より個人を尊重します。権威に服従せず、自らの責任と意思で勤勉に働くことに重きを置きます。それが、集団でのコンセンサスを重んずる日本など、他の社会とは異なった価値観や行動様式を育みます。異なる意識を持つ個人の価値を大切にする社会であれば、ビジネスでは結果を重視し、結果にコミットするための契約が重んじられます。
また、アメリカ社会では、個人が自らの意思をしっかりと明快に表明することが求められます。その上で、仕事の進め方も、個々人の創意工夫を尊重し、その進行を通して次第にプロジェクトやビジネスが形成されてゆきます。逆に日本などでは、まず全体の合意を取り付け、リスクを全て解消した上でプロジェクトを前に進めます。仕事の進め方の本質の相違がそこにはあります。
多くの人が、最初にアメリカにやってきたときに、この違いの向こうに、ここまで深い宗教観が介在していることに気づかず、戸惑ってしまうのです。
 

富の投資と勤勉さが育む「資本主義」

ここで、欧米の資本主義を形成する上での原点となった、神と自己とを直接結び付けようとする考え方が、その後どう変化していったのかということについて考えてみます。
 
勤勉に働けば、富が生まれます。
人は富が生まれれば、それを自らの享楽のために使用したがります。宗教改革の頃のプロテスタントは、そんな享楽を信仰の上での罪であると考えます。ですから、罪の意識をシフトするために、富を慈善事業などに寄付する風習が生まれます。今でも欧米にはキリスト教系の病院や学校などが多いのはそのためです。しかし、もっと大切なのは、富を蓄積したときは、それを個人の享楽に使わず、その富を投資し、さらに大きな事業へと転換してゆこうという、金融戦略的な発想が生まれたことです。そうなのです。起業家は成功しても、次のビジネスへと自らを掻き立てて、プロテスタントとして勤勉に、忙しく働くのです。
 
この発想が、欧米の経済が世界を席巻したときに、グローバルベースで拡散しました。好むと好まざるとにかかわらず、我々はこうして育てられたビジネスの常識や金融システムの中で生きているのです。
これは、他の宗教にも影響を与えます。例えば、元々国を持たず、迫害による移動を強いられてきたユダヤ系の人々は、自らの資産の安全に対して常に注意を喚起してきました。彼らはアメリカに移住してきたとき、プロテスタントの土壌の中で、自らの金融戦略を縦横無尽に培養できたのです。
 
さて、ここまでまとめてきたことは、マックス・ウェーバーが着眼した、プロテスタントと資本主義の発展の過程の歴史を、私なりに解釈したものです。
では、彼の死後100年以上が経過した現在はどうなのでしょうか。実は、彼が生きていた19世紀から20世紀初頭にかけての時代ですら、宗教改革から400年が経過しています。その時間の経過の中で、宗教改革での理念がその後の社会システムの構築に大きな影響を与えながらも、それを担う人の意識は時とともに変化していったのです。
 

「貨幣経済」とプロテスタンティズムのねじれが形作る現代社会

確かに、勤勉に働くことで富を得た人間が、富をさらに増殖させることで、社会的なインフラや産業システムそのものが進化していったことは事実です。しかし、その過程で、宗教改革の中で戒められた富を謳歌することへの罪の意識が薄れたのみならず、富の獲得の過程で人類が行なった収奪や人権への侵害などの歴史をみれば、本来プロテスタンィズムという信仰の中で培われていた意識が、時とともに大きく変化してきた現実がみえてきます。この意識の変化の原因となった「罠」。それは富がMoney、すなわち貨幣経済と結び付けられざるを得なかった宿命です。
勤勉と節約により、富が増えた人は、それをさらに活用するために、貨幣経済の原則に取り込まれてゆきます。貨幣をより蓄え、資産を増やすことへの人間の本能的な欲望が、プロテスタントの作り上げたシステムを活用し、それを運用する人の意識自体を大きく変化させていったのです。
 
それが、今回ヘッドラインとして紹介した、神話が変化したことでの、人の行動様式の変化なのです。富の蓄積は、神話による信仰の対象が、キリストから貨幣へと変化し、人の行動様式と価値観そのものを変えてしまったのです。
 
プロテスタントの遺伝子、つまりジーンによって、組織と構造が形成されながらも、それを取り扱う人の意識が変化し、ねじれながら現代社会は形成されたのです。そのねじれの過程で人類は世界大戦を経験し、さらにITはAIの世代を通して膨大な富の蓄積と、生命の限界への挑戦をはじめているのです。
このねじれながら加速する変化が、人々の間で無意識のアイデンティティクライシスを育み、それが現代人の歪みや不安、恐怖の源泉になっているのかもしれません。
 
また、欧米人の意識の原点を500年前の宗教改革におきながら、その意識で作られた社会経済システムが世界に拡大したとき、全く異なる環境で文化を形成してきた、日本をはじめとする世界の他の民族は、それを消化不良やアイデンティティクライシスなしに受け入れてゆくこと自体、多くの困難を伴いました。
日本や中国など、プロテスタンティズムの土壌のない地域を見舞う様々な課題をみるときに、こうした視点をもってそれを分析することも、また必要なのではないでしょうか。
 

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『日英対訳 アメリカQ&A』山久瀬洋二日英対訳 アメリカQ&A
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

地域ごとに文化的背景も人種分布も政治的思想も宗教感も違う、複雑な国アメリカ。アメリカ人の精神と社会システムが見えてくる!

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朝鮮半島の雪解けムードの背景の『思想』と『運用』

“North and South Korea teams unite at table tennis at world championships”

(卓球世界選手権で韓国と北朝鮮は一つのチームに)
CNNより

朝鮮半島の統一という理想と、そこに至る運用との間で日本は今翻弄されています。こと、朝鮮半島の問題に限らず、思想(あるいは理想)とその運用(Basic idea and its application)。これは世界情勢や歴史を考える上で常に念頭におかなければならないテーマなのです。
 
一つの例を挙げてみます。
マルクスエンゲルスの説いた共産主義。それは市民革命を経て資本主義経済が浸透したことによる、新たな貧富の差や社会的不公正に対して、労働者の権利を階級闘争というテーマで理論化した思想といえます。
この共産主義という思想を実際の国家運営に「運用」したのが1917年に革命を経て成立したソ連でした。その後中国など多くの国が独自に「運用」を行いました。
課題は、思想が運用される過程で、様々に変質することです。集団や国家といった組織の制度化に取り入れられ、権力や利害によって時とともに腐敗するのです。共産主義、あるいは社会主義はソ連の中でスターリンの独裁体制を生み出し、その過程で制度にそぐわないとされる人々が多数殺戮されました。
 
このスターリン型の運用を引き継いだのが北朝鮮でした。
北朝鮮は、冷戦の中で、社会主義の運用方法をめぐって対立した中国とソ連との間に置かれるなか、自らの体制を維持するため、「主体思想」という新たな「思想」をスローガンとして掲げました。
自立して、自らの責任で社会主義的な理想を貫こうというのが、主体思想のテーゼでした。この運用にあたって、北朝鮮は当時の指導者であった金日成の独裁体制を確立し、その権力が世襲されて現在にいたっています。
 
もちろん、思想と運用のテーマは、共産主義だけのことではありません。それは、人類の歴史がはじまってこのかた、常に我々の生活に影響を与えてきました。キリストの出現とその後のローマカトリックによるその宗教観の運用のように、世界の主だった宗教も思想と運用の過程を経て、現在に至っています。その典型的な事例といわれるイスラム国家は、イスラム教という思想を制度の中で「運用」する国家です。
 
この宗教や思想が政治の中で運用されることの危険性に気づいたのが、近代ヨーロッパの哲学者たちでした。彼らの唱えた政治と宗教の分離、特定の思想による独裁を排除するための民主主義の力学など、思想とその運用がうみだした長年の弊害を教訓として編み出されたのが民主主義という制度なのです。
 
しかし、皮肉なことに、民主主義も一つの思想です。
イギリスで民主化を求めた最初の革命がおきたあと、アメリカの独立革命フランス革命と、その思想が受け継がれました。
しかし、その思想によってそれぞれの国家が自らの利益の追求に走ったとき、「民主主義」、「自由」、「平等」という思想が世界戦略の駆け引きの中で運用されたのです。イギリスやフランスはアジアやアフリカを席巻し、アメリカは戦後資本主義の旗手としてその運用のために世界各地を傘下におきました。現在この民主主義の「運用」に反発し、対抗しているのが中国であり、ロシアというわけです。
世界は、まさに思想の「運用」からうまれる確執と妥協の反復、作用と反作用によって動いてきたのです。
 
では、日本はどうだったでしょう。第二次世界体制以前、日本はこうした列強の「運用」に対して、自らの伝統や古来の風習を「思想」として打ち立て、それを運用しました。その過程で、自らの立場を強化するために朝鮮半島を植民地にし、中国に進出した結果、欧米と対立し、敗北します。
 
皮肉なことに、今回北朝鮮と韓国との雪解けのムードの中で、日本は蚊帳の外に置かれているように思われます。実は、北朝鮮の思想である「主体思想」は韓国の世論の中にも少なからぬ影響をもっているのです。太平洋戦争の結果日本はドイツのような分断国家とならず、朝鮮半島が分断されたという過去をみたときに、少なくとも建前の上では韓国と北朝鮮とのイニシアチブ initiative による統一が望まれているというわけです。
 
しかし、この思想の運用は矛盾をはらんでいます。それは分断された二つの国家に利権を持つ大国の存在です。北朝鮮にとっての中国。軍隊の駐留まで許している韓国にとってのアメリカ。そして韓国とのみ平和条約を結び、戦後の経済交流を進めつつ、韓国と二人三脚でアメリカ軍を駐留させている日本など、利害がねじれているのです。
しかも、このねじれへの反発が、ときとして、韓国内の反日感情、反米感情にも飛び火します。運用の確執と妥協という舵取りを、朝鮮半島の和平という理想とどのように合わせてゆくかは一筋縄ではいかない課題です。
当然、今後も関係する国々から日本へも微妙な外交メッセージが送られてくるはずです。実は、日本は今回の卓球の世界選手権での出来事にしろ、要人や文化人の招待にせよ、こうした微妙なメッセージをデリケートに捉えて、運用することが苦手です。というのも、日本人はともすれば建前や原則に固執しがちな国民性があるからです。
 
とはいえ、朝鮮半島での動きでの思想と運用の課題を、どう器用に乗り越えてゆくか、今日本は試されているのです。
 

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アジアの人々と働くこと

『なぜ銀座のデパートはアジア系スタッフだけで最高のおもてなしを実現できるのか!?』千葉祐大 (著者)なぜ銀座のデパートはアジア系スタッフだけで最高のおもてなしを実現できるのか!?』千葉祐大 (著者)
価値観の違うメンバーを戦力化するための17のルール!
訪日外国人の数が、毎年過去最高を記録している現在の日本。お客さまが外国人であれば、接客する側も言葉や文化を理解している同国人のほうがいいと考えるのは当然のこと。
しかし、「はたして外国人に、日本人と同じレベルのおもてなしを実践することができるのか」「どうやって、外国人におもてなしの教育をすればいいのか」と、懸念や疑問を持つ現場関係者が多いのも事実です。
本書は、外国人とりわけアジア系人材を、おもてなし提供者として育成する教育方法について、銀座のデパートで実際に行われている事例を取り上げながら、詳しく解説します。

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