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ニール・アームストロングの死で終わった一つの時代

【海外ニュース】

Private service Friday in Ohio for Neil Armstrong; President Obama orders flags at half-staff(ワシントンポストより)

ニール・アームストロングの家族葬が金曜日にオハイオで。オバマ大統領は半旗にするように指示

【ニュース解説】

人類最初の月旅行をした元宇宙飛行士ニール・アームストロングが今月25日に他界したことは、日本でも既に報道されています。

ワシントンポストによれば、オハイオ州生まれ The Ohio native のニール・アームストロングは、オハイオ州シンシナチ市で今週金曜日に家族に見送られて埋葬されるとのこと。オバマ大統領は声明を発表 issued a proclamation し、ホワイトハウスをはじめ、軍や海外のアメリカの公館庁を含む全ての政府の建物に掲揚されている星条旗を、弔意を示し半旗 half-staff (half-mastともいいます) にするように指示をだしました。
1969年7月20日にアポロ11号で彼が月に降り立ったとき、That’s one small step for a man, one giant leap for mankind (一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である) と言ったことは、余りにも有名です。ここで使われている leap という単語は、いきなり大きく動いたり跳ねたりすることを指す単語です。

アームストロングの死去は、アメリカの一つの時代が終わった印象を私に与えます。古き良き栄光のアメリカの終焉です。
ニール・アームストロングは、オハイオ州の小さな町に、ドイツ系とスコットランド系の両親の元に生まれました。この出生から見えてくるのは、実直な中西部の白人の家庭、典型的なアメリカ地方都市の生活風景です。
そして、地元近くの大学を卒業したあと海軍に入り、パイロットに。朝鮮戦争では撃墜の危機の中、奇跡的に生還した英雄で、その後カリフォルニアにあるエドワーズ空軍基地に勤務します。
この空軍基地は、エリートの集う基地で、ここでアメリカの将来の軍事技術を担う新鋭機が開発され、テスト飛行を通してパイロットの訓練も施されます。

こうした経歴の末、彼は宇宙飛行士に抜擢され、最終的には月へおりたのです。月からの帰還後、しばらくして引退。その後経済界などでも活躍し、1994年には長く連れ添った妻と離婚、その年に再婚しています。

これらのストーリーすべてが、絵に描いたようなアメリカのサクセス・ストーリーです。
アメリカには、アメリカン・ドリームというように、才能と勤勉によって、たとえ生まれが地味でも大成功ができるという常識があります。その代表は去年他界したスティーブ・ジョブズです。しかし、ジョブズのような派手さはないものの、ニール・アームストロングは白人系移民の子孫として生まれ、地方都市で勉強し、軍隊で成功するという多くの人が憧れるもう一つの成功物語の典型でした。ちなみに、アイゼンハワーや JF ケネディ、ジョージ・ブッシュ (父親) など、軍人から政界へと進出する事例は多いものの、アームストロングは周囲のすすめを断り、退役軍人として活動します。

戦後しばらくして、世界各地が復興を遂げ、経済的に伸長すると、アメリカの力は相対的に小さくなります。80年代には日本が、そして最近では中国をはじめとした国々がアメリカの主導権 hegemony に色々な側面から挑戦します。今アメリカは世界を自らのニーズで動かすことから、世界をうまくコーディネートして、共存してゆく方向へと舵を切らなければならなくなりました。またアメリカ国内でも、多様な人種の伸長によって、アームストロングが育った頃の白人中心の社会とは異なったコミュニティが編み出されようとしています。
引退後は地味な生活 keep a low profile を好み、アメリカの軍隊が世界をパトロールすることに疑問を持っていたというニール・アームストロング。彼の血の中には勤勉と実直をよしとする、ミッドウエストの価値観が根付いていたのでしょう。そんな地方のバリューが現在のアメリカを造り上げた原動力であることはまぎれもない事実。アームストロングの死は、日本でいうなら、高度成長を担った人が一人また一人と世を去ってゆくのと同じように、アメリカの栄華を担った人々が、一人一人世を去って、時代が変化していくことを、我々に知らせてくれているのです。

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