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アメリカ流平等社会を目指すオバマのスピーチ

【海外ニュース】

Let’s close the loopholes that lead to inequality by allowing the top one percent to avoid paying taxes on their accumulated wealth. We can use that money to help more families pay for childcare and send their kids to college.
(オバマ大統領の年頭教書 State of the Union address より)

不平等の元となる抜け道、人口の1パーセントを占める富裕層が税金を逃れ、富を蓄積できる抜け道を塞ぎ、その資金で家族が子供を養育でき、大学におくることができるようにしなければなりません。

【ニュース解説】

今日、シアトルからサンフランシスコに帰ってきました。シアトルでは、仕事の後、あるプロジェクトのビジネスパートナーでもある友人の家に招かれ、昼食をともにしました。
彼は、外で会っているときは、ごく普通のビジネスマンです。いかにもアメリカらしいコンサルティング会社の社長で、色は浅黒く、目はくりっとして、とてもフレンドリーな人物です。

さて、彼の家に招待され昼食となりました。
彼の兄弟2人、それにパキスタン系の友人が同席し、私をいれて5人がテーブルを囲みます。食事を運んでくるのは次男、時々長男が手伝います。
料理は、彼らの故郷エリトリアの民族料理。エリトリアは 1991年にエチオピアから独立したものの、紛争が絶えず、政情は安定していません。

そんな故郷からサウジアラビアに逃げ、さらにアメリカに移民してきた兄弟。彼らは、移民当初から友人として付き合ってきた一家と同じイスラム教の繋がりで常に親しくしています。その息子が今日来ているパキスタン系の人物です。

実は私の友人は、そのパキスタン系の人物の父親の知人を介してお見合いをし、結婚しました。写真を交換するのみで、結婚したとき初めて出会った相手です。

食事はスパイスがきいていてとても美味しく、造るのに一晩以上かかったということです。最大限の歓迎に感謝です。ただ、面白いことに、奥さんや娘さんといった女性は一人も私の前に顔を出しませんでした。通常のアメリカの家庭に招かれたときとは全く異なる、イスラムの世界がそこにありました。

パキスタン人の友人も、さらに彼の兄弟の一人もマイクロソフトのエンジニア。そして、彼自身国際企業のコンサルタントとして世界を駆け巡っています。

これが、私のみるアメリカ、さらには欧米社会にも普及しつつある多様な移民社会の内側です。
多くの移民が、それぞれの伝統を家庭に持ちながら、アメリカという共通の社会で、アメリカという平等を重んずる常識に従って生活しています。
「女性が家庭にいることは、こうした料理の味付けなどの伝統を守ってゆく上で欠かせない。もちろん、毎日メッカに向かって礼拝も欠かさないよ」
彼は、そう私に話してくれます。
ランチでの話題は、彼らにとって遠い国である日本についての質問。そして、今週他界したアブドラ国王亡き後のサウジアラビアとアメリカとの関係についてなど。中東問題での興味深い情報も教えてもらいました。

彼らの子供達は、普通のアメリカの家族の家にいったとき、オープンに接してくる女性とも語り、男女平等が原則のアメリカ社会にとけ込んでいるはずです。しかし、自分の家庭では、家庭としての伝統にしっかりと従っているのです。
これが移民社会の二重構造です。よく出れば多彩な文化が前向きに共存し、能力を競い合う、強靭な社会を造ります。実際に、以前にも説明しましたが、シアトルに本社をおくマイクロソフトで働く技術者の殆どが、私の友人のような移民であり、その子供達です。
しかし、その歪みが偏見や孤立、そして差別へ、または世代間の対立へと傾斜したとき、イスラム国へのリクルートに応募したり、人種対立による暴動がおきたりということになるわけです。

オバマ大統領の年頭教書は、久しぶりに好感をもってアメリカ人に迎えられました。回復基調の経済が彼の政権を後押ししているのです。
年頭教書でも、彼はアメリカ経済の復活を強調します。そして、これからも世界をリードし、自由経済を守りながらも、「世界の警察官」の立場をおりて、外交力によって問題を解決し、同盟国に軍事や警備などの役割を移譲してゆく政策をアピールしていました。
そして、ヘッドラインのように、富裕層に課税し、中間所得層や低所得者への就学や医療、さらには生活全般への下支えを行うよう、予算を配分してゆくと言明しています。

強いアメリカの復活は、こうした多彩で複雑な移民社会にある貧富の問題、差別や偏見の問題をいかに解決してゆくかというテーマと合致しているのです。

私の友人の家庭での一幕が、アメリカ社会のあちこちにあって、色々な融和や化学反応をおこしながら、社会そのものに影響を与えているのです。
そして、その向こうに、オバマ大統領が指摘するような貧困や偏見が助長されてきたときに、今回まで特集してきた、人種対立などによる fundamentalism 高揚のリスクが潜んでいることを、ここに改めて強調したく思います。

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