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核拡散の脅威が現実となった北朝鮮問題

【海外ニュース】

North Korea’s success in testing an intercontinental ballistic missile that appears able to reach the United States was made possible by black-market purchases of powerful rocket engines probably from a Ukrainian factory with historical ties to Russia’s missile program.
(New York Timesより)

北朝鮮がアメリカに到達可能な大陸間弾道弾を開発できた背景には、ロシアでの過去のミサイル開発に関連したウクライナの工場からのブラックマーケットを通した技術の流出があった

【ニュース解説】

ニューヨークタイムズのスクープ記事によれば、北朝鮮の核弾頭を搭載した大陸間弾道弾 intercontinental ballistic missile の開発の背景に、旧ソ連からの技術の流出があったのではということです。
多くの人が北朝鮮の核開発を脅威と感じている背景には、北朝鮮の行為が単なる核を抑止力 deterrence として利用しているのではないように思えることがあるようです。

そもそも、核が抑止力とされていたのは冷戦時代のことでした。
アメリカとソ連とは、お互いに核開発を促進し、相手を威嚇しながら外交戦略を遂行していたのです。この核による威嚇が実際の戦争の脅威となったのが、キューバ危機でした。
アメリカの咽喉元のキューバで革命がおこり、1959年に社会主義政権が成立します。そして、1962年にキューバを支援するソ連が核弾頭を搭載したミサイルをキューバに搬入していた事実が明らかになり、アメリカとソ連との関係が一触即発の状態になったのです。
同様の危機は、1950年から 53年にかけての朝鮮戦争のときにもありました。マッカーサーが北朝鮮への核の使用を強く進言していたといわれています。

朝鮮戦争もキューバ危機も最終的には核の使用が回避され、事態は沈静化してゆきました。広島や長崎で使用された原爆の残忍な破壊力を熟知したアメリカは、その再使用に対して人道的に躊躇していたことも事実でしょう。

朝鮮戦争やキューバ危機を経て、アメリカとソ連とはお互いに外交上は激しく衝突しながらも、戦争を回避するという点では常に協調してゆきます。いわゆる「雪解け」のはじまりでした。
こうしたソ連の変化に失望したのが、当時の中国でした。
国内での社会主義体制を磐石にしたかった中国ですが、50年代の後半に内政の失敗で建国以来の経済危機に見舞われていたのです。中国を指導していた毛沢東は自らの政治責任を回避するためにも、経済危機を社会主義に起因したものとしないように画策します。こうして始まったのが、共産党内部の粛清と社会変革を目指した文化大革命だったのです。こうした中国の動きは、ソ連との利害の対立を生み出します。
中国はソ連などとの外交上の緊張を克服するために、核を保有していることを内外に公表し、抑止力としてアメリカのみならず、ソ連にも対抗したのです。

さらに、冷戦当時、ソ連や中国、そしてアメリカ以外にも核の保有に強くこだわった国がありました。フランスです。
フランスは、第二次世界大戦後、インドシナ戦争でベトナムを失い、北アフリカではアルジェリアが独立するなど、その影響力に強い陰りがあったのです。また、第二次世界大戦が終結したあとのフランスは、戦禍からの復興のために、アメリカに経済的に依存していたのです。過去の威信と政治的、経済的な自立を取り戻すためにも、フランスは核の保有にこだわったのです。
しかし、現実の核戦争の危機という意味でいうならば、宗教的な対立に加え、領土問題も抱えていたインドとパキスタンの双方が核を保有したことがあげられます。インドは 74年、パキスタンがインドに対抗して核の保有を宣言したのは 98年のことでした。

こうした核の脅威を緩和するために、1970年に国連加盟国62カ国によって調印されたのが核拡散防止条約 Treaty on the Non Proliferation of Nuclear Weapons です。北朝鮮は、この条約から脱退したために、制裁 sanctions の対象となっているのです。
しかし、この条約自体完璧なものではありませんでした。従来の核保有国の核軍縮に対して効果を発揮できないばかりか、インドやパキスタンのように条約の批准 ratification を拒否したまま核を保有している国家が存在している現実を克服できないからです。また、今回の報道のように、核技術の流出には有効的な手段がないままなのです。北朝鮮の場合も同様です。北朝鮮は条約から脱退した上に、核の搭載を示唆するミサイルの発射を繰り返しています。

いずれにせよ、核という大量破壊兵器 weapon of mass destruction に頼った脅迫外交の愚かさは、すでに冷戦の初期から議論されていました。
そうした意味からも北朝鮮への厳しい対応が求められるのは当然のことでしょう。しかし、アメリカと北朝鮮との関係をみると、売りことばに買いことばという子供じみた舌戦の応酬のようにみえるのも事実です。振り上げた拳をうまく下ろさせることができないとき、北朝鮮が拳の下ろしどころを誤ることもありえるでしょう。

核の脅威が、中国や旧ソ連、さらにアメリカという超大国から顕在化することは、そもそもあり得ないことだったのです。むしろ、北朝鮮の事例のように、特殊な体制を持つ国家や団体が、自暴自棄になったときが問題なのです。また、北朝鮮がブラックマーケットを通して核技術を入手したとすれば、北朝鮮から核技術の再流出がないという保証はどこにもないのです。
加えて、そうした国家や団体への制裁が武力行使へと変わったときは、超大国そのものの核の使用へと繋がり得ることも知っておくべきなのです。

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『海外メディアから読み解く世界情勢』山久瀬洋二日英対訳
海外メディアから読み解く世界情勢
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

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