カテゴリー別アーカイブ: ニュースの英語と文化背景・時事解説

山久瀬洋二の「ニュースの英語と文化背景・時事解説」
話題の海外ニュースから旬な英語表現をピックアップ。グローバルな視点で文化背景、歴史、時事を解説。過去の記事は「海外ニュースの英語と文化背景・時事解説」目次からどうぞ。

コロナのせいとは言えない「国際女性デー」の報道が少ない日本の事情

©2020 BBC.

“Marches to raise awareness of discrimination against women have taken place around the world to mark International Women’s Day.”

(国際女性デーを記念して、世界中で女性への差別を撤回する行進が行われる)
― BBC より

韓国のスラングに見る女性の姿と意識

 新型コロナウイルスのニュースに世界中が震撼する中で、3月8日が「国際女性デー」であったことが報道されることは、あまりありませんでした。ウイルスによる感染の拡大を受けて集会等の制限が強化される中、それでも世界各地で女性の地位向上を求めるデモなどがありました。
 
 そんなとき思い出したのが、チョ・ナムジュ氏による「82年生まれ、キム・ジヨン」という小説でした。韓国社会における女性のおかれているデリケートな現実を克明に描いたこの小説は、日本でも売り上げを伸ばしベストセラーの仲間入りをしています。
 
 その韓国で男性たちの多くが、今の若い世代の女性を「キムチ女(じょ)」というあだ名で悪口を言っているという話を耳にします。
 「キムチ女」とは、会社では軽い仕事しかしていないのに、女性の権利を主張し、男性には強くあたる最近の若い女性を皮肉ったスラングだと言われています。徴兵制度のある韓国では、女性は基本的に徴兵されることはなく、大学を卒業すれば就職もでき、キャリアを伸ばしたい人はそうすることも可能です。それに引き換え、男性は軍隊には必ず行かなければならず、就職難では常に矢面に立たされ、かつ女性から男性は女性差別をしていると批判されるというわけです。
 そんな韓国の人たちが、「スシ女(じょ)」と言って日本人女性を羨んでいるという皮肉な情報も聞こえてきます。彼らは男性に従順でやさしい女性を、このように呼んでいるのです。
 実際、韓国ではこうした言葉に象徴されるように、「男女の平等」というテーマをめぐって、男性と女性が激しくネットでも火花を散らしているようです。
 
 こうしたことを、アメリカ人の友人と話していたときのことです。
 彼が日本のある番組を、名指しで批判します。
 彼は、日本の長寿番組として知られる「おかあさんといっしょ」という子供番組を見るたびに、そのタイトルに怒りを覚えるというのです。理由は、このタイトルの裏に潜む日本人の意識にあります。「子育てや家庭のことはお母さんと」という偏見が、このタイトルには滲んでいるというわけです。さらに、週末には「おとうさんといっしょ」という番組があることから、男性と女性に対するステレオタイプを助長していると海外の多くの人が思うのです。
 

平等を主張する女性、柔軟に合わせる女性

 歴史的に見て、差別の廃止を求めて運動するのは、差別をされている側に偏っています。アメリカで黒人や日系人への差別に向けて立ち上がったのは、黒人であり日系人でした。もちろんそれに理解を示し、支援する他の人種の人々が多かったことも事実です。しかし、差別されている人の強い声がない限り、制度を変革し、人々の意識を変えてゆくことはなかなかできません。
 女性への差別も同様です。国際女性デーの起源も、1904年3月8日にニューヨークで、婦人参政権を求めて女性達がデモを起こしたことに起因しています。
 であれば、韓国で日本人の女性を「スシ女」とイメージしていることは、極めて皮肉なことといえましょう。
 
 実は、そんな話をするきっかけは、オフィスで国際女性デーについて意見を求めたとき、ある女性社員から、

「食事をするとき、なぜ男性が食事代を支払わなければならないのでしょうね」

というコメントをもらったことでした。

「しかも、それをラッキーと思っている女性が結構多いんです。これが問題なのではと思うんです」

と彼女は指摘します。
 お金をしっかり稼ぐ男と結婚すればそれで安心、という女性も多くいます。また、かわいければそれでよいと思っている男性に同調する女性も多くいます。そんな女性の意識を、国際女性デーでは考えさせられると彼女は思っています。

 
 確かに男性から見て、そうした女性が多いことも否めないようです。また、女性が職場で差別されている現実をみとめたとき、それを乗り越えようとして頑張る女性の姿も見えてきます。そんなとき、男性よりコンピュータを使いこなせ、締め切りを守り、頼んだことはきっちりとこなすというパフォーマンスを意識し、それを売り物にしながらも、それ以上組織の上層へと上がっていけない皮肉もそこには存在します。心の中で、自分の方が仕事はできるのに、と思っている女性は無数にいるはずです。
 
 一方、アメリカでは、海外へ駐在しマネージメントをするには女性の方が適しているのではないか、という指摘もあります。
 それは、女性の方が表面上の名誉などにこだわらず、人の話や意見にも柔軟に対応し、話をよく聞こうとするため、異文化環境での摩擦への対応がうまくいくからだというわけです。
 

社会にくすぶる男女の役割問題

 「キムチ女」と陰口を言う韓国の男性社会。そして、その男性が日本人の女性を「スシ女」と言い、そのことをまんざらでもないなと思う人が多い日本社会。
 国際女性デーがクローズアップされなかった理由は、単にコロナウイルス騒動でマスコミが手一杯だっただけではないかもしれません。
 「ジェンダー・イシュー」といわれる性の違いへの配慮の複雑さは、過去から引きずる男性と女性の役割へのステレオタイプとともに、まだまだデリケートな課題として社会の中にくすぶってゆきそうです。
 

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世界を蝕むコロナウイルスと疎外という二つの病根

“EU raises coronavirus alert level to high.”

(EUではコロナウイルスへの警戒レベルを引き上げ)
 

“Turkey says it will not stop refugees headed to Europe.”

(トルコは難民のヨーロッパへの移動を抑制しないと表明)
― いずれも CNN より

国境を越えるウイルス、越えられない難民

 新型コロナウイルスが世界経済に影響を与えようとしていることは、単なる検疫や防疫という課題以上の恐怖となって、人々を惑わしています。
 もともと2010年代に入ってから、世界はだんだんと閉鎖的な方向に進んできました。移民の排斥や自国の利益のために他国との連携を排除しようという新しい心理が、選挙のたびに人々の心を大きく揺さぶりました。
 コロナウイルスの問題は、そうした人間の排他的な意識をさらに刺激しているようにも思えます。防疫のニーズによる対応と差別とをきっちりと分けるように意識することが、今求められていることは言うまでもありません。
 
 そうした混乱の最中に、目下中東から膨大な難民がヨーロッパやトルコに押し寄せていますトルコ政府はそうした難民の受け入れに限界を感じ、トルコとギリシャとの国境を開放し、難民のヨーロッパへの流出を促そうとしました。これに反発したギリシャは国境に警察を配備し、催涙ガスを発射するなどして難民の流入に備えています。
 アサド政権下の内戦、加えてロシアによるISISへの空爆などにより、食料補給や医療という人間にとって基本的な生命維持手段を奪われた人々が、トルコへと流れ込み、今寒波に見舞われているトルコ東部に集結しようとしているのです。テント生活どころか路上で焚き火をして寒さに耐えながら、ギリシャからの救済を待っているわけです。
 
 ところが、EUの中でも経済難に苦しむギリシャとしては、そう簡単に難民を受け入れるわけにはいきません。まして、ギリシャからEU圏内に難民がさらに流れこむことで、国内世論の右傾化を懸念する周辺諸国にとっても事情は同じです。なぜ他国で起こった混乱のつけを我々が払わなければならないのかと、世論は硬化しつつあります。この意識が拡大すれば、様々な国々と経済体制を融合させようというEUの枠組み自体が危機に瀕してしまいます。
 そして、ウイルスがイタリアで蔓延したとき、それまではアジアの人々に向けられていたウイルスを通した偏見がイタリア人にも向けられる、というジョークとも言えず笑うこともできない現実が、ヨーロッパで垣間見られます。
 
 トランプ政権によるメキシコの壁も同様です。メキシコの壁に向かって殺到した人々は、メキシコ人とは限らないと言われています。政治的・経済的混乱の続く中米の人々が、メキシコを縦断して歩いてきたのだと言われています。トルコとメキシコとが置かれている状況には、皮肉な類似点があるのです。
 

防疫・安全が先か、国益・支持率が先か

 そして、国境での緊張と移民の流入に右往左往している世界の国々を、コロナウイルスが伝播しました。
 まさに国境など、ウイルスには関係ありません。アメリカが中国の武漢からの帰国者の防疫体制を楽観視した結果、アメリカ国内でもウイルスに感染した人々が拡大しているという懸念を専門家が指摘すれば、それを聞いたトランプ大統領が渋い顔をするといった醜い状況が、生々しくテレビで中継されます。
 トランプ大統領としては、再選のためにどうあっても好景気を維持しなければなりません。そこにウイルスが待ったをかけようとしたのです。その深刻さをあまり国民に知ってほしくなく、楽観的な見方を強調しようとした同じ場所で、コロナはパンデミック(大流行)の恐れがあると関係者が発言するものですから、大統領は苦笑してしまったのです。
 
 移民の流入に待ったをかけ、アメリカの国益はアメリカ人だけで享受すべきだとして支持率を上げてきたトランプ大統領にしてみれば、ウイルスにも「国境」があってほしいのです。
 同様に、つい最近まで日本と韓国との間には、国境を挟んで厳然とした政治的課題があり、お互いがプライドをぶつけ合ってきました。そんな両国も、海峡という国境を越えて同じウイルスに見舞われ、今やお互いに収束に向けてやっきになっています。
 元々ピラミッド型の組織の中で硬直し、上からの指示なくしては何も判断できない日本の制度が、ウイルス検査の実施を遅らせました。一方の韓国では、慌てて全国的に検査を徹底しますが、感染者の数は増える一方です。もっとも検査が徹底できない日本での実際の感染者の数は未知数であるという事実も忘れてはなりません。
 
 ウイルスの拡大は経済のみならず、東京オリンピックの開催にも影響を与えるかもしれません。しかし、世界中がまさにオリンピックさながらに、自分の国こそウイルスへの対応で優等生になろうと、他国を横目に見ながら指導者たちは国内への政治的アピールに必死です。
 安倍首相も国民をさんざん待たせたあと、遅れに遅れたリーダーシップを国民に向け誇示しています。そこには、トランプ氏と同じ心理が見てとれます。経済への波及は最小限に食い止め、同時に医療対応の不備への国民の怨嗟を処理しようと重い腰を上げたわけです。現場でどんどん判断し危機に対応する、という権限委譲のできていない国の組織の末端は、そんな首相の動向を見ながら、改めてどうしようかとあたふたするという体たらくです。
 

©JIJI PRESS LTD.

閉鎖的な世界に蔓延する人々の不安

 そして、トルコとギリシャの国境では難民が、ウイルスに目を奪われている世界の人々からも放置されたまま、寒さに震えています。恐らく、我々には想像もできない劣悪な環境の中、ウイルスに感染したりインフルエンザで落命したりする人も多いのではないでしょうか。
 
 株式市場も大荒れです。株式市場はそれ自体が経済を即日直撃するものではありません。問題は、株式市場は人々の不安を率直に照らし出し、その不安が経済にじわじわと影響を与えるのです。
 
 内向き志向へと偏りつつある世界の傾向に拍車をかけた、国境なきウイルスの蔓延。この皮肉をこれからどのような気持ちで注視してゆけばよいのでしょうか。
 

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『英語で読む そして誰もいなくなった』アガサ・クリスティー (原著)英語で読む そして誰もいなくなった』アガサ・クリスティー (原著)
孤島の洋館に集められた年齢も職業も異なる10人の男女。招待主は姿を見せず、10人は嵐が襲う島から出られなくなってしまい、やがて、館に伝わる童謡になぞらえた殺人が起こる。誰かが殺されるたび、10体あった兵隊人形も一体ずつ消えていく。ひとり、またひとりと殺されて、ついには…。
今も世界中で映画化やドラマ化がされるミステリーの女王、アガサ・クリスティーの傑作が、日英対訳で楽しめる一冊です。

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つまずいた民主党の新星への期待

“Iowa Caucus Results Riddled with Errors and Inconsistencies.”

(アイオワ州党員集会の結果は、エラーと不確定要素が多すぎて謎のままとなっている)
― New York Times より

 出だしから大揺れに揺れ、党員の選挙結果がなかなかリリースされず不安を煽った、アメリカ大統領選挙・民主党のアイオワ州党員集会。選挙管理の不備で、投票結果が明快にならないままの状態が続いています。これは、民主党としては大きなイメージダウンです。
 しかし今回、そうした状況の中でも、ブティジェッジ氏が僅差でサンダース候補を破り首位となったことは、多くの人を驚かせました。インディアナ州サウスベンドという地方都市の市長から、一挙に大統領候補に躍り出たブティジェッジ氏にどうして票が集まったのかを分析する必要がありそうです。
 

4年前のアメリカ大統領選挙から振り返ると

 まず、民主党には、今回の大統領選挙には絶対に負けられないという悲壮感があります。オバマ前大統領が8年間積み上げてきた様々な政策を180度転換し、独特の手法で内政外交にメスを入れ続けてきたトランプ大統領の再選だけはなんとか防ぎたいというのは、民主党の全ての候補者が抱いている危機感です。そして、この危機感は民主党候補の背景となるリベラル系のアメリカ人全ての悲願でもあるからです。
 アメリカがかつてこれほど分断されたことはないほどに、トランプ政権は今までの余裕のある大国アメリカの姿を大きく転換させ、移民への厳しい制限、中国イランなどへの強硬姿勢などによって多くの人を驚愕させました。
 
 そんなトランプ氏の「アメリカ・ファースト」というスローガンに、製造業が錆つき、職を失い、かつ都市と地方との格差に苦しむ人々が支持を表明しています。アメリカ人の心の中に隠れている、移民への危惧や伝統的なアメリカの価値を喪失することへの危機感が、経済問題と合流し、トランプ氏支持へのうねりを作ったのです。
 
 このトランプ氏と同様に、同じく勤労者や地方の有権者の心を掴んでいたのは、大企業や富裕層に集中する富の分配を主張していた、バーニー・サンダース氏でした。前回の選挙では、アメリカの民主主義のあり方という建前よりも、仕事と地方、そして古くからの居住者が培ってきたアメリカの伝統とその延長での強いアメリカを求めようという、アメリカ人の本音が放出したのです。
 
 従って、前回の選挙のとき、もし民主党からサンダース氏が正式に立候補していれば、トランプ氏が大統領になることはなかったのではという悔いが、民主党の中にはありました。従って、アイオワ州党員集会の時には、オバマ政権の副大統領として知名度があり、いかにも民主党の顔であるといったバイデン氏よりも、ストレートに富の公平な分配を説くサンダース氏がトップになると多くの人は予想していたのです。ただ、彼には高齢であるという弱点がありました。それでもエネルギッシュにトランプ氏の再選阻止に挑む姿には、多くの人が好感を持ったはずです。政治のプロであるバイデン氏や、大都会の実業家としてニューヨークに地盤を持つブルームバーグ氏などは、やはりマンネリ化したプロの政治に飽き飽きし、大都会の実力者にふんぞり返って欲しくないと思う有権者の支持を得られないのではと多くの人が危惧したのです。
 

U.S. Senator Bernie Sanders of Vermont / United States Congress

サウスベンドから彗星の如く現れた若き候補者

 そんなサンダース氏をブティジェッジ氏が抑えたように見えたのが、今回の混乱したアイオワ州党員集会でした。
 彼が市長を勤めたインディアナ州サウスベンドは、もともと民主党の地盤ではありましたが、製造業の工場の閉鎖が相次ぎ、失業者が増え、住宅地には空き家が多かった典型的な中西部の都市でした。一方、この街は学園都市でもあり、そんな錆びついた市街地と学園に勤務する人々との格差や政治意識への微妙な隔たりがある街だったのです。ある意味では、中西部のどこにでもある中核都市の一つでした。
 
 そんなサウスベンドの市長を8年間勤める間に、山積した都市問題を改善し業績をあげたのがブティジェッジ氏です。これは庶民レベルでの広い支持へとつながります。また、彼は高学歴で軍歴もあり、アフガニスタンにも従軍したという大統領になるための「パスポート」もしっかりと持っています。かつ、彼はまだ38歳という若い指導者です。
 同時に、ブティジェッジ氏は自らが同性愛者であることを表明し、配偶者のパートナーの情報も公開しています。その上で、保守的なキリスト教徒の地盤ともいえるミッドウェストの市長として再選されているのです。
 
 1960年に当選は無理だと言われていたジョン・F・ケネディが当選したとき、彼は43歳でした。彼も高学歴で太平洋戦争に従軍した軍歴があり、かつ当時では異例のカトリック系(アイルランド系)の大統領でした。今ではオバマ大統領のように黒人系の大統領も登場し、これからは同性愛者の大統領候補が出たとしてもおかしくはありません。
 おそらく、アイオワでの民主党大統領候補選挙でブティジェッジ氏への票が集まったのは、こうした背景によるのではないでしょうか。そして、この事実はトランプ大統領にとっても確かに脅威となるはずです。
 

Pete Buttigieg speaking at the 2019 California Democratic Party State Convention in San Francisco, CA. / Gage Skidmore

共和党支持者に潜む浮動票を獲得できるか

 問題は、民主党がアイオワ大会のように混乱せず、分裂することなく、一人の大統領候補の元にできるだけ早く力を結集することです。今、一般の共和党支持者の中にも、トランプ大統領への不安を抱く人は少なくありません。東西両海岸の都市部ではそうした潜在的な共和党支持者の多くが、トランプ大統領のみならずペンス副大統領へも強い違和感を抱いています。彼らが民主党の候補に投票することは十分に予測できるのです。
 今のトランプ氏の政策を行きすぎた保守主義と捉えるのか、アメリカの原点回帰と捉えて歓迎するのか、共和党支持者の心理状態も微妙に揺れているのです。
 前回のトランプ氏への弾劾裁判でも、そうした人々の声を代表するように、元大統領候補でもあったミット・ロムニー氏はトランプ氏批判を貫きました。
 
 それでも、現職の大統領として華やかなスタンドプレーを駆使するトランプ大統領は、いまだ有利に選挙戦に臨んでいます。さらに、トランプ大統領は「投票する有権者」の多い地方都市でしっかりと支持者の心を掴んでいます。
 
 同性愛者であることを公表し、若さと地方都市での業績を盾に彗星のように現れたブティジェッジ氏が、こうした人々の心の揺れをしっかりと捉らえることができるのか。今後の民主党の党員集会での動向に注目が集まります。
 

* * *

『A Short History of America アメリカ史』西海コエン (著)A Short History of America アメリカ史』西海コエン (著)
アメリカの歴史を読めば、アメリカのことがわかります。そして、アメリカの文化や価値観、そして彼らが大切にしている思いがわかります。英語を勉強して、アメリカ人と会話をするとき、彼らが何を考え、何をどのように判断して語りかけてくるのか、その背景がわかります。本書は、たんに歴史の事実を知るのではなく、今を生きるアメリカ人を知り、そして交流するためにぜひ目を通していただきたい一冊です。

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ウクライナ航空だけではない民間航空機撃墜という悲劇

AFP via Getty Images / ©2020 Cable News Network

“Protesters take to streets in Tehran, furious at their government for shooting down Ukrainian passenger plane.”

(イランでは、政府がウクライナ航空機撃墜事件を起こしたことに強く憤った人々が、抗議のためテヘランの通りを埋め尽くしている。)
― CNN より

高まるイランとアメリカとの緊張感

 イランで発生したウクライナ航空機の墜落事件で、イラン側が誤射により同機を撃墜したことを認めたことは、世界に大きな衝撃を与えました。
 このことが、意図的な行為ではなかったにせよ、罪もない民間人が殺害されたという事実は重いものです。イラン国内でも、軍が誤射した上に、政府がそれを即座に認めなかったことへの怒りの声が人々の間に上がっているようです。
 この事件の背景には、アメリカとイランとの長年にわたる緊張関係があったことは否めません。しかも、イラン軍の指導者バクダッドでアメリカ軍によって殺害された報復攻撃の連鎖が、この悲劇の原因であることは誰もが知るところでしょう。
 
 実は、イランとアメリカとの緊張による民間航空機への誤射は、今回だけではないのです。すでに32年前に全く同じことが、しかもアメリカ側の誤射によって発生し、290名もの命が失われた事件があったことを忘れてはなりません。
 それは、テヘランからドバイに向かったイラン航空655便をアメリカ海軍が撃墜した事件です。この航空機には6カ国の乗客290名が搭乗しており、全員が死亡しています。
 従って、今回の事件が報道された直後、私はもしかするとアメリカ軍からテヘランにある空港へミサイルの発射があり、そのミサイルが誤ってウクライナ機を追尾してしまったのではと思ったほどでした。
 
 イランとアメリカ双方の関係者の心の中には、その時にアメリカが行なった行為と今回の悲劇とが、複雑に交錯していたことでしょう。アメリカは事件発生後9年経って、犠牲者への賠償金の支払いには応じたものの、それは犠牲者を含む人的物的被害の全てをカバーするものではなかったのです。
 
 今回、イラン側は相当動揺したようです。アメリカによる戦闘行為に怒りの拳を振り上げた直後に起きた誤射だけに、世界に対してどのように説明すればよいか、発表までにあれこれと考えたことでしょう。もともとの原因となったアメリカによるイラン軍責任者の殺害行為が世界から懐疑的に見られていた時だけに、誤射事件でアメリカへの非難自体がしにくくなることを懸念したはずです。
 ただ、起こったことはできるだけ透明に迅速に対応することが、国際間での信頼関係を維持するためには絶対に必要です。そうした教訓を我々に伝えるためにも、今回の事件はしっかりと調査するべきであることは言うまでもありません。
 

繰り返される民間機撃墜の悲劇

 国家間の緊張や戦闘行為が、こうした思わぬ惨事へと繋がった事例は、他にも多々あります。代表的な事件としては、冷戦の緊張の最中の1983年に、誤って領空を航行していた大韓航空機が旧ソ連軍によって撃墜された事件や、最近では2014年に紛争地域であったウクライナ上空を航行していたマレーシア航空機が、親ロシア派とみられる戦闘員のミサイル攻撃で撃墜された事件が記憶に新しいはずです。いずれも愚かなことです。
 
 今回の場合、イランが今後被害者の所属する国や遺族にどのような対応をするかは、これから見つめていかなければなりません。ただ、それと同時に、過去に同様の事件が何度も繰り返されている事実を、もう一度検証するべきではないでしょうか。
 紛争地域や国際間の緊張が高まっている地域を全て回避して民間航空機が航行することは、事実上不可能かもしれません。それだけに、テロを事前に防止するのと同様の注意や管理が、当事国となる国々の中で行われるように要望したいものです。
 
 アメリカの場合、今回の事件とイランとの緊張とを混同して、ただイランを一方的に責めることは慎むべきかと思います。実際、アメリカの場合、これ以上イランとの緊張が高まれば、ロシアなどイランと緊密な関係にある国家との関係はもとより、ヨーロッパなど多くの国々との信頼関係にも影響が出てくるでしょう。それはイランにとっても同様です。
 
 一般的に言って、現在の武器は小型化かつ無人化しています。アメリカがイランの軍事関係者を殺害したときは、ドローンが使用されました。また、ターゲットを破壊するときは弾道ミサイルが使用されます。スピードやサイズからして、レーダーによってそれが民間機のような大型で多人数が搭乗しているものか否かは見分けられるはずです。特に、アメリカやロシアといった防空に長けた大国は、そうしたレーダーをはじめとする察知機能は充分に進化しているはずです。それでも民間機が撃墜されるということは、軍隊の現場が本当にそうした先端技術にしっかりと依拠し、かつ指揮命令系統が徹底しているのかどうかをしっかりと調査する必要があることを物語っています。
 

すべての失われた命に祈りを

 実は、イランとアメリカとの緊張が高まり、こうした事件の連鎖が起こったとき、私はちょうどロサンゼルスからの帰国便で太平洋の上空を飛んでいました。
 太平洋はその名前の通り、最も安全な公海かもしれません。それでも、今回のフライトは気流が悪く何度も大きく揺れ、嫌なものでした。ウクライナ航空に搭乗していた犠牲者の恐怖と苦痛がどれほどのものだったかと想像するだけで、心が痛みます。
 
 そして成田空港に到着後、車で帰宅するときにラジオをつけると、なんとあるFM局で株の専門家が、音楽を交えたカジュアルな番組の中で、今アメリカとイランとの間の戦争によって、軍事物資を生産する企業の株が買いだという解説をしていました。
 思わずなんと酷い解説だと怒りを覚えました。人が死に、傷つくことと、株価の上下との関係が無縁ではないことは充分に理解していても、そうした解説をFM局のカジュアルな番組で平気でする人と、そんな株の売買に熱を上げる人がいること自体が、現在の世界の危機の象徴なのではと思ってしまいます。
 
 これ以上、イランとアメリカとの関係が悪化しないよう、宗教や思想信条を超えて一緒にお祈りをしようよと、帰宅後アメリカに住むイラン系の友人と、スカイプを通したビジネスの打ち合わせで語り合ったのは、ほんの数日前のことでした。
 

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北朝鮮問題と素人好みのポピュリズム政権が生み出す「脅威」の関係

©ロイター / Leah Millis

“With North Korea’s deadline for American concessions fast approaching, the North announced Sunday that it had conducted a ‘very important test’ at a missile-engine site.”

(アメリカとの譲歩の期限を目前に、北朝鮮はミサイルのエンジンに関する「極めて重要なテスト」を行ったと表明)
― New York Times より(一部編集)

プロの政治家たちが掲げる理想「ネオコン」とは

 先週末、自宅でケーブルテレビを見ていると、たまたま History Channel北朝鮮を特集した番組に出くわしました。そこで専門家が口を揃えて、すでに誰も北朝鮮を追い込むことができなくなった、と述懐しているのが印象的でした。
 トランプ政権の国家安全保障問題担当大統領補佐官として、北朝鮮問題にも深く関わったことのあるジョン・ボルトンも、そうしたコメントをした一人でした。彼は、歴代のアメリカの政権が現在の北朝鮮を育ててしまったと、アメリカの朝鮮半島への関わり方を厳しく批判しています。
 
 ジョン・ボルトンは、アメリカの政治家の中でも極めて保守色が強く、オバマ政権で進められてきたイランキューバなどとの融和政策を痛烈に批判していました。従って、彼がトランプ政権のチームに加わったときは、どこまでアメリカがイランに対して強硬な対応をとるのか、多くの人が危機感を抱いたものでした。しかし、ボルトン氏は、今年の秋にトランプ大統領とも袂を分かち、政権から離脱してしまいます。
 
 トランプ政権の不思議なところは、彼の政策を象徴するような右寄りの政治家が、政権のチームに加わっては去ってゆくことです。
 そのことを理解するには、トランプ政権の成り立ちを振り返る必要があります。
 まず思い出したいのは、今世紀初頭にアメリカで台頭し、世界の注目を浴びたネオコン(Neoconservatism)という考え方です。ネオコンは新保守主義とも呼ばれ、ジョージ・W・ブッシュ政権などを支えていた人々の多くがそうした主張をしていました。彼らはアメリカという国家の理想のためには、他国に対して軍事介入をも辞さず、強いアメリカとそうしたアメリカを支えてきたキリスト教的な価値観に回帰し、移民政策に対しても多様化するアメリカ社会にブレーキをかけようとしていました。
 
 従って、トランプ政権が誕生したとき、共和党支持者の中でネオコンの流れを汲む右派の人々は、トランプ大統領が表明したアメリカ・ファーストという政策を強く支持してきたのです。ジョン・ボルトンもその一人でした。
 しかし、トランプ大統領は、彼らから見るとあまりにも素人臭く、政策への一貫性が見えてきません。やがて、ネオコンの政治家たちは、トランプ大統領の個性について行けずに乖離し、政権チームから離脱し始めたのです。
 
 実は、トランプ政権は今までのプロフェッショナルによる政治を嫌っていた、ごく普通のアメリカ市民の支持によって誕生した政権なのです。一般の人々の中でも、リーマン・ショック以来失業に怯え、移民の流入で地域社会が変化してゆくことへの不安を抱えた、保守層の支持によって誕生した政権なのです。言葉を変えれば、素人臭さこそが、トランプ大統領の人気を支えてきたのです。それに対して、ネオコンを標榜する人々の多くは、トランプ政権が発信してきた考え方には共感しながらも、彼ら自身はプロの政治家だったのです。
 

©Oliver Contreras / Pool via Bloomberg

素人目線が生み出したトランプ「ポピュリズム」政権

 今、アメリカのみならず、世界中でプロの政治家への不信感が蔓延しています。
 前回の大統領選挙は、ヒラリー・クリントンというまさに政治、外交のプロと、素人で分かりやすい発言で有権者を取り込んだドナルド・トランプとの、プロ対素人の闘いでした。
 多くの有権者には、複雑な国際関係のしがらみや利害関係など、どうでもよいことです。自らの収入が安定し、地域社会が今までと同じように維持されれば、それでよしということになります。移民がアメリカにやってくる理由や、移民の多様性による社会の進化がアメリカを支えてきたと、プロの政治家が理想を語っても、自分たちの職や社会を守るためにはよそ者を安易に受け入れるべきではないと主張した方が分かりやすく、説得力があるように思えるわけです。この素人臭さこそが、ポピュリズム政権を生み出すエッセンスだったのです。
 
 ネオコンの政治家は、同じ考え方を持っていたとしても、その底流には伝統的なアメリカの政治のあり方へのイデオロギーがありました。合衆国憲法独立宣言に端を発し、強く大きな政府が良いのか、地方分権が良いのかという、アメリカの伝統的な政治理念における対立の一つの極に、ネオコンの存在がありました。彼らは世界情勢にも目を向け、その上で、アメリカの利益を守るためには強硬な手段も必要だと主張しました。その結果、ジョージ・ブッシュ元大統領はイラクと戦争を始め、サダム・フセイン政権を崩壊させました。
 
 しかし、トランプ大統領を選んだ人々は、こうした世界におけるアメリカのあるべき姿などに興味を持ってはいないのです。むしろ、アメリカは強くて当然で、世界一のアメリカであるはずなのに、自分たちの地域社会は経済的に困窮し、治安の上でも混乱していると考えます。ですから、トランプ大統領の単純明快な発言が彼らの心の琴線に触れたのです。そして、仕事を守るためにメキシコとの国境に壁を作ろうと思ったのです。ネオコンブームとポピュリズムとの違いは、このプロと素人との発想の違いや溝を見ればよく分かってきます。
 
 トランプ政権の誕生と、その後の様子に目を向ければ、ポピュリズムが一般大衆の政治不信を源流として、次第に大きな濁流へと発展してゆく様子が見えてきます。今、この濁流が世界中を席巻しそうな勢いです。そして、日本も例外ではありません。アメリカの場合、共和党民主党がお互いをチェックすることで、どちらから大統領が選ばれても、そこには一定のバランスが保たれていました。そうしたバランスそのものが政治の醜い取引であると、多くの人々の目には映っていたのでしょう。
 

©2019 Dow Jones & Company, WSJ

世界秩序を保ってきたパワーバランスの崩壊を前に

 トランプ大統領は、自らがそうした背景で誕生した素人出身であるということを否定するために、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)と電撃的な会見を実現させました。しかし、現時点でそうした政治ショーはその後の成果とはなっていません。
 北朝鮮が核を保有する以上、彼らを追い詰めすぎるとまずいものの、彼らの政策を容認するのも危険であると専門家は見ています。だからこそ、そもそも核を持たせるまで傍観していたアメリカの歴代政権を、ジョン・ボルトンは厳しく批判したわけです。政治的立場への是非はともかく、そこに見えてくるのは妥協と謀略とを繰り返してきたプロの政治家を、ネオコンのプロが批判したという皮肉な現実です。
 
 ちょうどアメリカが、共和党と民主党という二つの政治プロ集団によってバランスを保っていたように、20世紀後半は米ソ冷戦による政治的駆け引きが、皮肉にも世界のバランスを維持していました。
 しかし、冷戦終結後、そのパワーバランスが崩壊した隙をついて、中東には過激なテロ集団が、極東には北朝鮮という核保有国が生まれたのです。彼らには通常の国際常識にのっとった交渉が機能しません。
 世界は、ポピュリズムとテロ集団という、極めて対処が困難な政治的環境の中でもがいているのです。
 

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