カテゴリー別アーカイブ: Yamakuse Yoji’s World View

コロナウイルスが見せるもう一つの南北問題

“Utility companies have suspended meter readings and bill deliveries following the month-long coronavirus quarantine in Luzon.”

(長期に及ぶコロナウイルスによる隔離措置に対応し、ルソン島では水道や電気など公共料金の請求を留保)
― マニラタイムズ より

フィリピンへの出張中止と困惑

 新型コロナウイルスによって世界が閉ざされ、人々はますますネットでのコミュニケーションに頼って仕事をしようとしています。
 こうしたとき、異文化への理解がどれだけ大切かが痛感されます。
 
 3週間前のことでした。私は台湾への出張のついでにフィリピンまで足を伸ばし、現地オフィスのメンバーとの打ち合わせをしようと考えました。コロナウイルスが世界規模で甚大な脅威をもたらす直前のことで、日本と韓国が要注意国となっていたタイミングでの出張予定でした。
 
 私は従業員への配慮から、マニラから離れたフィリピンの現地オフィスを訪ねるのではなく、主要な社員にマニラに来てもらい、安全で清潔なホテルの会議室で打ち合わせをし、そのまま帰国することを考えていました。
 台湾では、関係者がこうしたときにわざわざ訪ねてきてくれたことを感謝され、有意義な打ち合わせができました。
 しかし、日本を発つ前日にフィリピンのマネージャーから連絡があり、社員の母親が心配しているので、マニラまで出張ができないかもしれないという連絡がありました。
 
 首都マニラのインターナショナルホテルでの打ち合わせにもかかわらず、何を心配しているのかと、多少心外にも思ったものでした。もちろん、マスクも消毒用アルコールも用意し、相手に不快感を与えないように配慮しての出張です。
 しかも、台湾では公共の場所では誰もがマスクを着用していたものの、取引先のオフィスでの打ち合わせは、いつもと変わらずマスクもなしで、活発に進み、その後夕食を一緒にするという状況でした。
 結局、マニラでの打ち合わせはキャンセルとなり、私は台北から直接帰国したのです。
 
 その数日後、台湾での外国人の入国禁止が発表され、それに追い打ちをかけるようにフィリピンのルソン島セブ島での同様の措置が発表されました。
 私はその直前に台湾で面談ができ、ほっとしたわけです。同時にこれからフィリピンのオフィスをどのように管理しようかと困惑しました。
 

現地の人々が感じている恐怖

 さて先日、そんなフィリピンのマネージャーとSkypeで連絡を取りました。
 彼女は早々に近況を報告します。まず、フィリピンでは私が出張を計画していた頃から、コロナの感染者数は少なかったものの、マニラなどで医師が肺炎で死亡するケースがいくつかあり、さらにコロナ感染が疑われても検査の準備ができないままに死亡するケースも増えていたということでした。
 今、ルソン島では午前5時から午後1時まで、一家族一人まで食料調達など生活のための外出しか許可されず、違反すると逮捕されるという厳しい規制がしかれています。
 
 マネージャーもオフィスへ出勤できず、社員によってはネット環境が十分でないところに居住している者もいます。さらに問題は、銀行のサービスも人手の関係で制限され、日本からの送金が無事に銀行に届き、給与を支払うことができるかどうかも懸念材料だと、彼女は言います。しかも、受け取った資金を社員にどのように給与として届けるかということも深刻な課題です。現金を手渡すことが当たり前のフィリピンでは、これは我々が思う以上に悩ましい課題です。
 しかも、社員によっては、そのわずかな給与で一家を支え、銀行口座も保有していない人がいます。給与が文字通り現金として手渡されないときは、そのまま生活の維持ができなくなるという深刻な事態につながるのです。
 
 コロナ感染の実態がつかめないまま、医師まで含む死者や病人が増えているために、フィリピンでは政府が非常事態を宣言しているのです。
 しかも、私のオフィスの社員が住む地方都市では、我々が考えるような隔離や医療従事者を保護する設備が充分ではありません。病院自体が危険な環境にさらされている中で、喘息やアレルギーをもつ一部の社員は、疾患があっても見えないウイルスが怖くて病院に行けません。彼らはこうした状況でマニラへ出張することに恐怖を感じていたわけです。
 
 私たちが恵まれた環境で考え、感じていることとはまったく異なる不便さ、さらには生命への脅威があることに私がいかに鈍感であったかを、彼らのその後の状況を知るにつけ反省させられたのでした。
 
 私がそんなやりとりを現地としていた頃、セブ島では私の知人の日本人が奮闘し、1000名の日本人語学留学生を帰国させるために日夜働いていました。フィリピン航空と交渉し、日本への帰国便を2便チャーターしたのです。本来なら日本政府の仕事ではないかとも思うことを、彼女ら現地を知り尽くしている人々が昼夜駆け回って手配したのです。
 

©岐阜新聞社

現状に目を向けた適切な行動を

 今、世界中がコロナ感染に翻弄されています。しかし、フィリピンなど途上国を見舞う恐怖とは対照的に、この3連休で穏やかな日が続いた日本では、なぜか観光地も賑わったと報道されています。アメリカでは、政府の警告を無視してビーチなどで騒ぐ若者の姿がテレビに映ります。
 
 コロナの感染では、若者の不用意な行動が、体力のない老人や病人に深刻な影響を与えることが繰り返し報道されています。そして国際的には、ここに紹介した典型的な「南北問題」にも影響を与えているのだということを、我々は理解しなければならないようです。
 

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誰も守ってくれない、世界で最も貧しい人たち

『Unseen Faces, Unheard Voices』リビングストン&都・アーミテッジ (著)Unseen Faces, Unheard Voices』リビングストン&都・アーミテッジ (著)

この本の登場人物は,主にアフガニスタン、カンボジア、ネパール、パキスタンに住んでいる。彼らは国家という枠組みの外に生きており、栄養も教育も医療も、雇用の安定も、身の安全すらなく生活している。社会的に排除された人々が見せる人間としての尊厳―その目を見張る美しさを通して、彼らの苦しみに光を当てる写真集。日英対訳。

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コロナウイルス近況、最も身近な戦争体験

“Saudi Air is operating a very limited route. I am optimistic to get a flight to London on Tuesday and then connect to the US from there. It is always a pleasure to visit Japan and comforting to know I have a trusted friend in you. I will let you know how things go.”

(サウジエアはとても限られたルートだけ運行しているので、なんとかロンドンへ火曜日に出てアメリカへの帰国便に挑戦してみるよ。日本に行って、信頼のできる友人がそこにいることはとても嬉しい。また状況を伝えるよ)
― 友人からのメール より

経験して感じる各所の対応と影響

 新型コロナウイルスのパンデミックを受けて、世界中が混乱しています。
 先日、台北に出張しました。飛行機の乗客数は行きも帰りも20名そこそこ。このままでは、多くの航空会社が倒産に追い込まれそうです。
 台北の空港内はトイレの各個室に消毒用アルコールの噴霧器が置かれ、手を洗う洗面台にも別途噴霧器が置かれていました。
 入国時には特別な書類に健康状態を記入して、検温を受け、中国へ入国していないこと、特に武漢へ行っていないかとの確認を受けました。
 ホテルでチェックインをしていると、係りの人が検温が必要なのでと、体温計を額にあてられます。その後、外出から帰ってくるたびに同様の処置を受けることになりました。
 
 そんなとき、北京在住の知人から連絡が入りました。
 日本から北京へ入国するときに、14日間の自宅待機を命じられたということです。アパートに戻ると管理人が彼に同行して彼の部屋に行き、その通告を実施することを告げられます。部屋のドアには「日本人で14日間自宅待機」という張り紙が貼られていたとのことでした。
 彼は、ゴミを捨てたりする正当な理由のあるときは、アパートの敷地を歩くことは許されていたものの、実際にそれをやると住民が出てきて苦情を言われ、管理人も即座に方針転換。完全に自宅軟禁状態となったそうです。
 ただ、ゴミはドアの前に置いておけば分別して持って行ってもらえるし、食事は電話やネットで注文すれば運んできてくれるため、生活そのものに急を要することはない、とのことですが。
 
 台北では知人と打ち合わせのあと、別の会社でさらに仕事上のプレゼンを受け、夕食にも連れて行かれました。ただ、街にはマスク姿の人がほとんどで、なんといっても繁華街も人影がまばらです。
 そんなとき、台北の次の目的地であるフィリピンの関係者から連絡が入りました。フィリピンも非常事態宣言で、国内の航空機の運行、バスなどの公共交通の利用などに大幅な制限がかかったため、マニラでの打ち合わせが事実上不可能になったとのこと。仕方なく翌日は台湾で時間を潰し、そのまま帰国することになりました。フィリピンなどいわゆる途上国でかつ島国の場合、流行が拡大するとそのリスクは日本などよりはるかに大きいわけです。かつ、実際どれだけの人が保菌者なのかも把握できない状態であれば、その恐怖はなおさらです。
 
 帰国早々、この調子だとアメリカへの次の出張も見合わせなければならないと判断し、アメリカの関係者に連絡を入れました。そこは、大学等と提携して留学生に英語を教える語学学校です。知人の学校のオーナーは、今年予定されていた留学生や留学生を送る法人や団体のほとんどからキャンセルが入り、先行きへの強い不安を抱えているとのこと。ウイルスのワクチンが治験を通して一般に配布されるには、一年以上の時間が必要ということなので、確かにこの状況下でビジネスの継続がいかに困難かはよく理解できます。
 
 ウイルスが経済と社会をここまで攻撃することになるとは、と多くの人は思います。しかし、例えば地球温暖化などで、シベリアツンドラなどが湿原となったときのことなどを考えると、そのインパクトの大きさにさらなる脅威を感じます。今まで人類が触れたことのないウイルスが溶解され、地上に蔓延し始めるのですから。これから我々はそうした時代に直面するのかもしれません。
 

ウイルスに奪われる移動や言論の自由

 ところで、今回のウイルス騒動での勝者はいないはずです。しかし、政治的に見るならば、習近平は国内の世論を誘導し、中国ではウイルスを制圧したということで、自らの政治的立場を強化できたのかもしれません。しかも、このウイルス騒動によって、彼を脅かしていた香港での民主化運動などの脅威も事実上霧散してしまいました。ロシアのプーチン大統領も独裁体制を強化し、そのための法的な整備を行うものの、ウイルス騒動に揺れる世界では以前ほど反発もなく目論見を遂げることができました。
 
 トランプ大統領には課題が残ります。このあと指導力を発揮してウイルスの抑制と経済の立て直しができれば、再選への切符を手にすることができるかもしれません。しかし、そのハードルの高さすら見えてこないのが実情です。民主党側もウイルス対策のことで大統領を批判すれば、人間の生命の危機を政治的に利用したとしてダメージを被ります。ですから、あまり民主党としての激しいアピールはできないまま、大統領候補選定へと進んでいます。
 
 このように、コロナウイルスは、人々の健康と精神への不安のみならず、経済と言論にまで大きな影響を与えているのです。これは、過去にない事態です。人が移動の自由を失われ、経済活動や言論活動の制約に苦しむ状況は、戦争以外には起こり得ないというのが今までの常識でした。ですから、今回の事態は戦争と全く同じ環境に人々が置かれたことになります。政府の発表への疑念が世界中に広がっているのも戦争と酷似しています。実態の把握や対策そのものに正道が見当たらないまま、政府自体も右往左往しているのが実情なのかもしれません。
 
 この混乱は1929年の大恐慌以上のものかもしれません。
 社会の混乱が、未来をより不安に満ちたものにしないことを祈りたいものです。
 ただ、こうしたときこそ、国の舵取りを任された者は国民へ直接語りかけ、情報をできるだけ率直透明に誠意をもって説明するよう心がけなければなりません。そうした対応からほど遠ければ遠いほど、株価は混乱し、人心の混乱により経済がさらに負のスパイラルへと落ち込んでゆくはずです。そうした視点で見る限り、今の日本政府の対応には大きな限界を感じてしまいます。
 

離れていてもメールを送り合えば

 アメリカへの出張を断念した直後、中東へ出張中のアメリカ人の友人から連絡がありました。帰国便がなくサウジアラビアから出国できないままの状態が続いているとのことです。封鎖状態のヨーロッパ経由ではなく、日本経由でのアメリカ帰国を考えてみてはとメールを送り、必要なら私の自宅に泊まってもいいからとメッセージを送りました。冒頭に紹介したのはその返信です。私はさらにその後の状況を心配しながら、彼からのメールを待っているところです。
 世界中で、ビジネスをする人同士、こうしたメールが飛び交っているのかもしれません。
 

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『オンラインで英語をはじめて、つづけて、うまくなる』松本晃秀 (著)オンラインで英語をはじめて、つづけて、うまくなる』松本晃秀 (著)
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下請けからメーカーに至る自動車業界の未来への課題とは

“Multiple parties are already at work developing autonomous-driving technologies, and the trend toward putting SDVs on the road is rapidly gaining momentum across a broad front that encompasses OEMs, suppliers, mobility providers, technology companies, academic institutions, governments, and regulatory bodies.”

(自動運転への対応は、様々な業種や変革に対応する企業、テクノロジー関連や学術部門から政府や規制を行う部門に至るまで、広範な領域を巻き込んで、来るべき変化に向けてすでに迅速な稼働を開始している)
― ボストンコンサルティング・グループ より

自動車産業に押し寄せる変化の波

 「IT革命」と言われるようになって、すでに20年以上の年月が経とうとしています。
 最初は通信革命から始まりました。そしてAIITとが融合するようになり、革命の波は通信からあらゆる産業へと波及しようとしています。
 よく今後30年でなくなる業種のことが云々されています。人間はその瞬間になるまで、変化が自分の生活にどのような影響を与えるか実感できません。人ごとのように思え、まあいつかは来るだろうけれど慌てなくても…と思っているうちに、波は津波のように一気に産業を変えてゆきます。
 
 日本の基幹産業である自動車業界には、この津波の轟音がすでに聞こえてきています。電動化、自動運転カーシェアリング、さらにAIと直結したコミュニケーションシステムの改革によって、自動車のあり方が大幅に変化しようとしているからです。それはすなわち、内燃機関に頼っていた自動車産業そのものの体質が変わることを意味しています。
 コンパクトなボックスが、シャーシーと呼ばれる自動車の骨組みの上にぽつんと置かれ、そこから発信する信号でタイヤへ動力が伝達され、ハンドルとも連結されるようになります。また、車は「所有する」時代から消費者が「シェアする」時代に突入しようとしています。これらの変化に対応したインフラ整備、法的な整備も必要になってきます。
 
 ここで課題になるのが、日本の下請けとメーカーとの関係です。
 今まで、自動車業界はメーカーが下請けに君臨していました。メーカーはエンジンのピストンを磨く研磨技術から、ドアノブの触感に至るまで、下請けをコントロールしながら厳しい競争に打ち勝つために技術を磨き、コストを抑えてきました。同時に、阿吽の呼吸で業務ができるように、下請けとの関係自体を密にしてきました。
 90年代に、そんな自動車産業に最初の波が襲ってきました。日産マツダといった日本を代表するメーカーが経営危機に見舞われ、下請けのピラミッド構造そのものを見直す動きも出てきました。
 

問われるメーカーと下請け企業のあり方

 しかし、これから日本の自動車産業を見舞う波は、90年代のものをはるかに凌駕しているはずです。
 まず、今まで必要不可欠であった部品のほとんどが不要になります。内燃機関から電動で駆動する自動運転へと車が変化すれば、ボンネットの中を埋め尽くしている機材の多くが無用の長物と化すからです。
 問題はそれだけではありません。今まで下請けの上に君臨していたメーカーの部品調達のノウハウそのものが、これから問われることになるのです。購買部門は下請けに対して絶対の力を持っていました。購買部門は「納期・品質・コスト」の三種の神器すべてを自社の都合でコントロールし、下請けに伝達していたのです。また、メーカー内でも、もともと躯体とエンジンこそが自動車の中心という意識のもと、設計においてもまずこの二つの要因に合わせてすべてが調整されていました。ところが、これからはプログラムや電子システムの方がはるかに重要になってきます。これらの調達は、今まで経験したことのないグローバルな視野での新しい交渉が必要となります。
 
 今までは英語と無縁であった技術者も、調達部門と一緒にシリコンバレーなど世界各地のハイテクメーカーに開発と協力を求めなければなりません。そうしたネットワークによる調達のノウハウは、従来の下請けに対する調達のノウハウとは根本的に異なるフラットなものとなるでしょう。つまり、上下関係ではなく、横のネットワークによる対等な交渉が求められるのです。
 阿吽の呼吸で言うことを聞いてくれていた企業に要求する調達部門のあり方そのものが問われるようになるのです。
 しかも、技術革新は分刻みで進み、技術の供給は自動車のみならず、人の生活に関わるありとあらゆる産業に共有されるため、自動車メーカーとはいえ、今までのように優遇されることはありません。
 
 下請けはさらに大変です。その昔、ランプの部品を作っていた企業が、電灯が拡販されるようになったときにどうなったかを想像すればよくわかるはずです。実際はそんな変革どころの騒ぎではないかもしれません。ランプから電灯へと変わるときは共有できていた部品も、内燃機関から電動による自動運転へと変化するときには共有できないからです。
 下請けの多くは、自動車産業以外にも自社の技術を応用した販路を求めなければなりません。また、陶器メーカーが特殊なセラミックやその製造技術を応用した未来型の製品を開発してきたように、精密なエンジンのピストンを作っている会社も、同様な対応を求められるに違いないのです。しかし、そうした新たな分野を先取りするには、現在の自動車メーカーの要望に応えるのが精一杯で、時間、人材、資金のすべてに余裕がないかもしれません。二次、三次下請けとなればなるほど、激しい変化に対応する舵取りは難しいはずです。
 

波の到達を前に求められる国際化

 このように、日本の自動車産業全体、つまりピラミッドの頂点であるメーカーからその最底辺の町工場までのあらゆる人の耳に、津波の轟音が聞こえ始めているわけです。
 課題はその波の到達予測、そして到達地点にいる人々の予測の甘さ、つまり自分たちは大丈夫だろうと安心している、企業の管理職や調達部門などの楽観的な意識です。下請けは仕事を失い、メーカーは新たなニーズに合わせた調達ができなくなるという日がやってきたとき、日本の自動車産業の足元が崩れてしまうのです。そのことは、自動車産業に支えられている日本経済に今までにないインパクトを与えるはずです。
 
 海外の企業の強みは、こうした変化への柔軟性と迅速な対応力です。まず、言語でいえば英語で即座にメールをし、交渉をし、相手とフラットな立場に立って、妥協しながら商品開発を進められることです。これは、重厚なピラミッド型の産業構造に慣れている日本企業が一番苦手とするノウハウといえましょう。
 
 教育のあり方、過去の常識へのこだわりなど、日本の産業構造を変えてゆくためのバリアは、日本社会のいたるところに存在しています。それを変えるには時間がありません。であれば、なおさら、海外から直接人材を含めたノウハウを引っ張ってくる国際化が、企業内部にも求められているのです。また、企業そのものが従来の下請けと改めて対等な立場に自分を置いて、それぞれの弱点を補いながら資金と人材の双方で新規事業を育成してゆく協力姿勢を構築することも求められているはずです。
 

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『シリコンバレーの英語: スタートアップ天国のしくみ
Silicon Valley Buzzwords』ロッシェル・カップ、スティーブン・ガンツ(共著)シリコンバレーの英語: スタートアップ天国のしくみ Silicon Valley Buzzwords』ロッシェル・カップ、スティーブン・ガンツ(共著)
排他的で閉鎖的。世界が注目するシリコンバレーの奇妙な英語とは?!
アップル、グーグル、フェイスブックなどの名だたるインターネット企業が本社を置く場所としても知られ、IT企業の一大拠点となっているシリコンバレー。そんな世界中が注目する場所で生き抜くために必要な100のキーワードを徹底解説。世界で活躍するために最先端の英語を身につけよう。シリコンバレーでエンジニアや ITべンチャーを目指す人はもちろん、世界最先端の企業が集う場所で使われる英語に興味のある人におすすめです。

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まとまらないアメリカと、まとまりすぎる日本

“Delta, United and American suspended all flight from the U.S. to China and stock fell over the spread of the coronavirus.”

(デルタ、ユナイテッド、そしてアメリカンの航空三社は、中国に向かう全ての便の運行を見合わせた。株価もコロナウイルスの拡大を受けて下落)
― New York Times より

とあるSkypeでの会話から

 前回のブログでオフェンス(攻撃)に強いアメリカと、その反面ディフェンス(防衛)が苦手な彼らの文化について紹介しました。
 
 今回はその続編です。
 一昨日、アメリカのある経営者からSkypeがありました。長年の友人でもあり、久しぶりに楽しく情報交換をしたのです。その中で私は、

「ところで、コロナウイルスについてだけど、アメリカではどう受け止められているんだい?」

と問いかけました。

「アジアじゃ大変みたいだね。でもさ、アメリカではこの冬だけで、すでに1万人近くインフルエンザで死者が出ているんだよ。毎年のことだけどね。コロナよりもよほど致死率が高いんじゃない」

彼はそう答えます。

「それにしては、アメリカじゃあ誰もマスクをしないよね。今回はさすがに、みんな気にしているんじゃないの」

「全然、マスクなんて誰もしないよ。今週末も街へ買い物に行って、家族で夕食を食べたけど、ごった返しているレストランでマスクをしていたのは、アジアからの旅行者1組だけだったよ」

「マスクをしていると、アメリカでは確かに変に見られるよね。不審者かなにかのように顔を隠しているわけだから」

「そうさ。第一、マスクって本当に効果があるんだろうか。口の中が蒸れて、むしろ不潔に思えるしね。アジアの人がみんなマスクをしている様子をニュースで見ると、とても異様だよ」

 
 アメリカでのインフルエンザの死者は、一冬で3万人とも言われています。
 私も一度、ニューヨークでインフルエンザにかかって病院に行ったとき、タイレノール(解熱剤)をもらって帰されたことを覚えています。日本で処方される薬の量を考え、びっくりしたものでした。

「インフルエンザの予防。そうだね。薬屋に行けば予防注射をしてはもらえるが、よほどのことがない限りそんなことをする人もいないよね。アルコール消毒だって?日本ではそんなこともやっているの、びっくりだよ。なるほど、日本らしいね。日本人は完璧主義者が多いんだよなあ」

 それを受けて、もっとも、今はコロナウイルスの騒ぎで、日本だけではなくアジア各地で予防対策に大わらわという実態を、私は説明しました。
 実は、アメリカには面白い統計があることを思い出しました。それは、トイレに行って手を洗わない人が5割だとか、1日に一度もうがいをしない人が過半数だといった様々な数値です。

 

合理的なアメリカ、完璧主義の日本

 一方で、今回武漢在住のアメリカ人が、日本と同様に国のチャーターした専用機で帰国したとき、アメリカは実に適切な対応をしました。
 チャーター機を軍用基地に着陸させ、帰国した全員をしばらく隔離検査したのです。その手際の良さと比較して、日本の対応の生ぬるさに唖然としたことを覚えています。法的な整備ができず、人権への配慮からも判断ができず、結局帰国者を中途半端な状態に置いていたことと比較すれば、必要なことは合理的に即断するアメリカの政策には頭が下がります。
 
 つまり、こうなのです。日本では完璧主義に徹するあまり、最も大切な防疫対策だけでなく、その背景にある法的整備、帰国者個人の権利と法の関係など、ありとあらゆることを全てクリアしなければ物事を先に進めることができないため、最終的な対応に時間がかかりすぎるのです。
 かつ縦社会で、現場がその場の状況ですぐに判断し、対応することができないように日本では教育されているのです。
 そのために結局、防疫措置が後手に回り、結果として感染拡大への恐怖が助長されることになるわけです。
 
 アメリカの場合、適切な措置をまずピンポイントで行い、それを実行する途上で必要とされる様々な周辺事情を整えてゆきます。このプロセスを柔軟に変更するやり方は、ビジネスにおいても同様です。まず、決裁をして、そこから試行錯誤が始まるのが、アメリカをはじめとする欧米の多くの国々のビジネス文化なのです。
 
 そして、そんなアメリカでありながら、毎年数え切れない人がインフルエンザで死亡する実態があること。この矛盾こそがアメリカ社会なのだと説明しても、なかなか理解されないかもしれません。
 実は、セプテンバーイレブン(アメリカ同時多発テロ事件)の後で、アメリカの空港などでの安全管理が問題になったことがありました。空港のセキュリティチェックの実情を調査したところ、調査員の多くが手荷物にピストルを隠して空港の内部に入れたというのです。つまり、手荷物検査員がチェックを徹底していなかったことになります。
 
 アメリカでは、何かあったときの機動力は合理的で徹底しています。その一方で、人の質や発想、そして考え方があまりにも多様で、現場での準備に常に混乱が付きまとうのが課題です。
 それに対して、日本では一度風評などが拡大すると、全ての人がその影響を受けます。まとまりすぎるほど様々な行動規範を、全ての人が徹底させるのです。反面、そこから逸脱した例外に対しては、まったく融通の利かない対応をしかねないのも現実です。法の枠の外にあった場合、さらには新たな事態が出現したときの即応力に、発想の上でも組織の上でも大きな課題があるのです。
 

優先順位を明確に判断すること

 このように、日本とアメリカとのビジネス文化の違いが、今回のコロナウイルスの騒動にも見事に表れていることになります。

「アメリカでは、皆がマスクをするなんて絶対にありえないよ。個々人レベルで何か規制されることはとても嫌だし。でも、逆に中国全土へのフライトを止めるといった判断は早いんだけどね」

「日本だと、その判断が遅いんだよ。人の移動の権利を奪うのではといった法的なこともあるのかもしれないし」

「そこさ。何を優先するかというビジネス的な判断に立てば、それは万人に適応されるビジネス上の判断であって、差別でもなければ人権侵害でもないよ。今起こっていることに対して、何をするのが最も効果的かという部分を明白にして、その上でのプライオリティを合理的に実行することが最優先さ」

 
 アメリカの合理的な発想と、日本の完璧主義とのギャップのそれぞれの長短を見せつけられたSkypeでした。
 

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『日・英・中3ヵ国語医療フレーズ』趙霞 (訳)日・英・中3ヵ国語医療フレーズ』趙霞 (訳)
留学・海外駐在・中国語ガイド試験に必携の医療フレーズ最新版!指を指すだけで医者や看護師とコミュニケーションできます!
「シミュレーション会話」「ポイントとなる表現」「病名・医療用語のキーワード」を日英中3ヵ国語でわかりやすく展開。語学が得意な人でも外国で病気になると医者に症状を伝えるのはひと苦労。実際に医者にかかるときに必要な知識や情報を日本語で解説するとともに、会話例と指差しで使えるポイント表現を日英中3カ国語で紹介。「キリキリと痛い」「胃が重い」などの言いたくても言えなかった表現が満載。イザというときに頼りになる1冊。

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ディフェンスに強い日本人、オフェンスに強いアメリカ人

“Not less difficult is it to make them believe, that offensive operations, often times, is the surest, if not the only (in some cases) means of defense.”

(多くの場合、そして場合によっては、攻撃こそが防衛手段ではないにしろ、最も優れた行為であると説得することは別に困難ではないはずだ。)
ジョージ・ワシントンの格言 より

オフェンスで発揮されるアメリカの「未来志向」

 アメリカ人のビジネス文化、そして行動様式について少し面白い視点で解説してみたいと思います。
 そもそも、アメリカ人は伝統的にディフェンス(防衛)に弱い国民なのです。
 もともとハングリーな移民が集まった国であれば、彼らはまず自分の未来を切り開くことに注力します。つまり、未来に向けて進むことしか道がありませんでした。過去の経験をもとに十分に反芻して、その経験値からしっかりと物事を準備することは、彼らのビジネス文化では伝統的にあまり存在しなかったのです。
 
 逆に、未来志向である彼らにとっては、見えない未来を切り開き、そこで新たな経験を積まなければなりません。ですから、彼らはオフェンス(攻撃)には極めて強く、エネルギーを集中できるのです。
 
 したがって、ディフェンスの弱さを突いて、アメリカに先制攻撃をかけたあと、彼らにオフェンスのためのエネルギーを充電させれば、それは甚大なる脅威となって攻撃者がつけを払わなければならなくなります。有名な歴史的事実を振り返ればわかります。パールハーバー(真珠湾攻撃)がそうですし、セプテンバーイレブン(アメリカ同時多発テロ事件)がそうなのです。今回のコロナウイルス騒動でも、アメリカの方では病原菌を水際で防ぐディフェンスには様々な課題があるでしょう。しかし、一度侵入し被害を与えられた後の、医療機関での対応や撲滅に向けた取り組みといったオフェンスサイドでは、アメリカは大きな力を発揮するのではないでしょうか。
 
 80年代、ソニーや日本車などで、アメリカは産業界の脆弱さをさらけ出しました。全く予期していない国から膨大な投資が行われ、アメリカの消費者をごっそりと持ってゆかれたのです。ディフェンスの弱さを見せつけられた一瞬でした。
 しかし、その経験を受けて、アメリカでは日本のバブルがはじけた後、ソニーなどをモデルにITの考えを組み込んで一気にオフェンスに移りました。そして、今ではITやコミュニケーション関連産業のほとんどをアメリカが席巻し、震源地になろうとしています。自動車業界も同様です。タイヤの製造や内燃機関の改善に日本が固執している間に、ITからAIに至る一連の先端技術をもって、彼らは自動車の中枢を構成する技術変換の先鞭をつけたのです。
 

ビジネスで見られるアメリカの「攻撃」スタイル

 そもそも「攻撃は最大の防御なり」という発想は、中国の『孫子』の兵法にそのルーツがあり、それを武田信玄が使ったことで有名になった言葉です。しかし、この発想を最も実践しているのがアメリカではないでしょうか。弱いディフェンスが故に、攻撃を受けたとき、彼らはその原因がどこにあったか、そして責任を誰が取るべきかなどといった、日本によくある反省を徹底させません。その代わり、この問題を二度と起こさないために、この経験を未来へと活かしてゆくにはどうすればよいか、という発想に切り替えます。彼らの意識の中では過去は小さく、現在が中程度、そして未来が大きいのです。日本はどちらかというとその逆です。過去をしっかりと検証することなく未来に進もうとするアメリカ人のことを、時には無責任だと批判さえするのです。
 
 ところで、アメリカ人はオフェンスのスタイルをよく見ると、そこにはいくつかの傾向があるようです。これは実際の戦争行為ではなく、ビジネスという戦場においても共通した法則です。
 一つは、ディフェンスで受けたダメージへのショックを利用し、オフェンスに移るときの迅速な決裁です。この決裁の速さは、日本のコンセンサスを取りながらじっくりと決裁へと持ち込む時間のかけ方とは対照的です。
 次に、オフェンスにおいては常に相手も抵抗します。その抵抗の様子に従って、オフェンスの戦略を変化させる柔軟性にもその特徴があるのです。時にはオフェンスのターゲット自体も変化します。例えば、ソニーのウォークマンに刺激を受けてiPhoneの開発までこぎつけたAppleでも、途中で何度も開発計画を見直し、プロジェクトを中止・変更しながら、現在に至っています。決裁、すなわち decision making に時間のかかる日本の場合、その後の計画の変更は極めて困難です。
 
 では、ビジネスの上で、そんなアメリカ型企業とどのように付き合ってゆけばよいのでしょうか。もし、競争に勝ちたければ、まず相手のディフェンスを突き破らなければなりません。しかし、その後相手のオフェンスに対して、常に柔軟に対応する組織の改革が必要です。
 さらに、最も大切なことは、日本人はディフェンスが得意だという事実です。ディフェンスには、過去の経験に基づいた詳細で緻密な計画が必要です。見えない未来よりも、ディフェンスには過去の経験がものを言います。従って、アメリカのオフェンス力と日本のディフェンス力の双方を、柔軟に協力して活用できる新たな組織づくりもおすすめです。アメリカを競合として捉えるのではなく、チームに引き入れ、双方の強みをいかした人材活用ができるマネジメントスタイルを構築できれば、素晴らしいシナジー効果を発揮できる企業が創造できるはずです。
 

米進出する日本企業に求められるものとは

 アメリカに進出している日本企業は、オフェンスが得意なアメリカ人をうまく統率できず、むしろアメリカ人の中にあっても日本人とうまくやってゆける「おとなしい」人材を重用します。かつ、日本の経営層まで海外の人を昇進させている企業はあまりありません。
 充分に準備をしてオフェンス力を最大限に活用できる日本企業が生まれれば、それはまさに世界に羽ばたくグローバル企業に成長できるはずです。
 
 その戦略のために一つ知っておきたいこと。それは、いかにアメリカ人のオフェンス力を活用するかというノウハウです。彼らのオフェンスへのモチベーションを刺激するには、リスクや完璧さだけを求めるのではなく、彼らに未来のベネフィットをいかにしっかりと見せることができるかにかかっています。日本人はあまりにも完璧にこだわるため、相手から見るとそのプロジェクトを共にやるベネフィットや価値が見えなくなるのです。
 この異文化をコントロールできるマネジメントスタイルを学ぶことが、今の日本企業には強く求められているのです。
 

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『英語の格言に学ぶグローバルビジネス』山久瀬洋二、アンドリュー・ロビンス (共著)英語の格言に学ぶグローバルビジネス』山久瀬洋二、アンドリュー・ロビンス (共著)
欧米の人がビジネスをする上で好む名言や格言。これを理解すれば、彼らのビジネスシーンでの物事の考え方、仕事のプロセスの背景が見えてきます。
「グループ志向で組織の構造を重んじる日本、個人のイニシアチブが評価される欧米」など、日本人がしばしば困惑してしまう“ 異なるビジネス文化” や、“ビジネスの進め方と発想法の違い”などについて、彼らが好む名言・格言から理解を深めることができる1冊です。

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