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ギリシャ危機: 経済の問題だけではない原因


【海外ニュース】

Figures from the Organisation for Economic Co-operation and Development (OECD) show that the average Greek worker toils away for 2,017 hours per year which is more than any other European country.(BBCより)

OECDの統計によると、ギリシャの労働者の年間の平均労働時間は2017時間と、他のヨーロッパの国々を引き離している。

【ニュース解説】

ご存知の通り、ギリシャの経済危機がユーロ諸国に深刻な影響を与えています。そんなことから、多くの人は、ギリシャ人が勤勉ではなく、ドイツなどのまじめな国々に迷惑をかけているかのような印象を持ってはいませんか。
このステレオタイプなイメージを覆すのが、この OECD の統計。なんと、ギリシャ人の年間の労働時間はヨーロ圏ではダントツの一位。そして、世界的にみても韓国に次いで第二位であるというのです。

これに対してギリシャ支援のカードを握っているドイツはというと、なんとユーロ諸国で最も労働時間が低いオランダについで、最後から2番目。年間勤労時間だけでいうならば、ドイツ人はギリシャ人にもっと勤勉になれとはいえないというわけです。

元々、ドイツは勤勉な人々が集まっている典型的な国 the very epitome of industriousness のように思われていますよね。ドイツ人はまじめで、論理性にこだわり、細かいことまでしっかりとケアする国民だと。
アメリカ人の友人が、アメリカのドイツ系企業で、そんなまじめなドイツ人上司による細かく厳しい指導に、うんざりするアメリカ人秘書の話をしてくれたことがあります。
このエピソードのオチは笑えません。ドイツ人の上司はそれでも自分なりに少し優しくなろうと努力し、ある日その秘書に、「君の今日の服装はすてきだね」と、褒めるつもりでニコニコしながら話しかけたのです。しばらくして、秘書は、その上司をセクハラで訴えます。理由は、普段仕事では全然褒めてくれないのに、服装が素敵だと言ったとは、心に性的な欲望があったからだと。
このエピソードは、アメリカで人をマネージする難しさを語っています。
でも、一方では、ドイツ人の生真面目さを皮肉った話でもあったのです。

対照的に、ギリシャなど地中海に面した国々はおおらかで、どちらかというとロジックより感情で動く国民性があるかのように思われていますね。同じく経済危機がささやかれているイタリアでは、前首相がセクハラどころか、未成年者とのセックススキャンダルにまで見舞われていたのですから、こうしたステレオタイプなイメージが地中海諸国の人々に抱かれるのもまあまあ頷けます。

では、実際のところ、この統計から見えてくる現実はどうなのでしょう。
BBC の記者によると、The Greek labour market is composed of a large number of people who are self-employed、ギリシャの労働市場は多数の自営業によって成り立っているということ (ここにある labour はアメリカ英語では、labor、すなわち労働です)。言い換えれば、農家や商店といった自営業者はサラリーマンに比べ勤労時間が長い傾向にあり、それがギリシャの勤労時間を長くしているということなのです。
逆に、休暇制度や病気などでの休業の権利など社会保障が整い、自営業の比率が低いドイツは、企業内でのインフラなども整備されているために、勤労時間が短くても充分に強い経済を維持でき、生産性で言えば、ドイツはギリシャをはるかにしのいでいるというわけです。They are more efficient – partly because technology is more widespread (彼らはテクノロジーがより普及しているだけ効率的なのです) と OECD 関係者は BBC に語っています。

家族でわきあいあいと生活する自営業の国ギリシャと、効率的な企業経営に支えられるドイツと、どちらが個人として幸福なのかは、色々な意見があるでしょう。ただ、伝統的な生活を維持している文化圏の人が、経済的なベネフィットを求め、効率を優先する西欧型の経済環境に巻き込まれたとき、そこに様々な消化不要や矛盾が噴出し、本来そこにあった人々の絆までが破壊される現実が、今ギリシャ危機の背景にあることは、この統計からも見えてくるようです。
そう、ギリシャ危機は単に経済の問題だけがその原因ではないのです。

これって、必死で西欧化し、そうした西欧型のシステムを取り入れてきた日本やアジアの国々にとっても、人ごとじゃないと思えるのは私だけでしょうか。

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