海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

ミズーリの「長い暑い夏」が語ること


【海外ニュース】

Michael Brown‘s funeral: Hope, tears and a call for social change.
(CNNより)

マイケル・ブラウンの葬儀、希望と涙、そして社会変革への声の中で

【ニュース解説】

8月25日、アメリカでは国中がある葬儀に注目していました。
去る8月9日、アメリカの中西部、ミズーリ州で、マイケル・ブラウン Michael Brown という18歳の黒人少年が、白人の警察官に射殺されたのです。

事件発覚当初、地元の警察は狙撃した警察官の名前を秘匿し、狙撃が正当であったことを主張しました。しかし、被害者が丸腰であったこともあり、警察の行為は、黒人への差別だと人々は憤慨します。
やがて、抗議の群衆は暴徒化し、混沌 turmoil が世界に報道されたのです。
ジェイ・ニクソン Jay Nixon 州知事は、非常事態宣言を発令し、警官隊を導入して鎮圧に臨みますが、それが人々の怒りに油を注ぐことになりました。

実際に事件は、当初の発表のように、警察官が正当な行為として発砲したのか、それとも無抵抗の被害者を射殺したのかはっきりしません。FBIも調査に乗り出し、司法解剖を行い、少なくとも、被害者は6発の銃弾を被弾し、そのうち2発は頭部に命中したことが明らかになりました。このことから、どのような状況であれ、警察の行為は過剰だったのではと世論は傾きます。

ニューヨーク生まれで、公民権活動家である Al Sharpton 牧師は、葬儀で暴徒の行為を批判し、“You don’t understand that Michael Brown does not want to be remembered for a riot.” (君たちは、マイケル・ブラウンが暴動の代名詞として人々の心に残ることを望んでいるのか) と、暴走を強く戒めました。そんな声もあり、なんとか緊張は溶け、これから事件の真相への調査が始まります。

60年代に、黒人を中心としたマイノリティ minority の人権向上を求めた公民権運動がおきたとき、アメリカでは怒る黒人系の人々が各地で暴徒となり、それは「長い暑い夏」Long and Hot Summer と呼ばれました。今回の暴動は、当時のことを思い出させます。事件は、1992年4月に、ロサンゼルスで黒人系のロドニー・キング Rodney King 氏に暴行を加えた警察官が無罪になったことに怒った人々が暴徒と仮した、「ロス暴動」LA Riot とも酷似しています。

アメリカは、公民権法が発足して以来、人種、性別、国籍、宗教、年齢、性的趣向などをもとに人を差別してはならないという意識を、社会が受け入れてきました。それは法的な拘束力と共に、職場や公共施設、レストランや商店などの公の場での常識となっています。
実際、アジア系など、元々マイノリティとされてきた人々への露骨な差別は、今では、殆ど見られません。
しかし、社会の底辺におかれてきた黒人系の人々の、元々社会的に優位な立場にあった白人系への不信感だけはなかなか拭えません。しかも、残念ながら、黒人系の人々が経済的なハンディキャップを克服できず、多くが犯罪率の高い地域で生活していることも事実です。
そして、治安の維持にあたる白人系の警察官は、黒人系の人々の憎悪に緊張を強いられる一方、黒人系の人々はそれが故の白人系の警察官の態度に恐怖や怒りを覚えてしまうという、悪循環が常に繰り返されます。

こうした環境の中で、いつも暴発の悲劇の引き金になる「銃社会」。
日本では警察官の銃は「おかざり」であるといっても過言ではありません。でも、一歩海外に出れば、状況は異なります。
私は、以前、ある白人系の人が当時の私のオフィスで銃を目の前において実弾を入れたとき、その人が単に銃を私に見せようとしていただけだとわかっていても、いいようのない恐怖を覚えたことを忘れません。
また、ニューヨークのブルックリンで、今回と同様の暴動を取材したとき、防弾チョッキをきて、自動小銃をもった警官の緊張に強ばった顔も忘れません。そして、私自身、カメラマンと共に暴徒に囲まれ、正にドライバーの機転で車を車道から歩道に乗り上げて、その場を脱出した時の恐怖も忘れません。

映画で、銃を向けられただけで自白する人をみて、バカバカしいと思う人は、平和に慣れた日本の中だからこそ、そういえるのだと私は断言できます。幸い、日本人の殆どは、実弾の入った銃を向けられたときの恐怖を知らないのです。

まして、今回、被害者となった黒人の少年が、白人警官に銃を向けられたとき、それはどれだけの恐怖だったでしょう。
ですから、パニックになった黒人少年と、同じく緊張の糸の張りつめた警察官とが、お互いにどういったいきさつで悲劇をおこしたか、なんとなく想像にかたくないのです。

アメリカ、いえ、世界各地の戦場など、銃がものをいうありとあらゆる社会で、こうした悲劇が繰り返されています。今回の事件は、公民権を徹底させながらも、何度もこうした事件が勃発するアメリカ社会の矛盾をこえた課題であることを、我々に突きつけているのです。

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