海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

民族国家と近代国家—ヨーロッパの抱える潜在リスク


【海外ニュース】

Soccer Fans Supply Strong Voice in Scottish Independence Debate
(ニューヨークタイムズより)

サッカーファンはスコットランドの独立の是非をめぐり強いメッセージを発信

【ニュース解説】

今になって何をと多くの日本人は思うでしょう。
しかし、このニュースには世界中が注目しています。
スコットランドが今月18日に独立の是非を問う住民投票 independence referendum を実施するのです。しかも、独立支持派が結構優勢というからびっくりです。
スコットランドの人々は、英語を話すものの強いスコットランド訛があり、そのアクセントのために現地の人との会話はとても骨がおれます。そもそもスコットランドは1707年までは独立国でした。
イギリスの正式名称を、United Kingdom というように、イギリスはイングランド、ウェールズ、スコットランド、それに北アイルランドが合併して成立した「多民族国家」なのです。

あるときスコットランド出身の人と会話をしていると、English man という言葉がでてきました。つまり、自らを The Scottish (スコットランド人) として意識して、いわゆるイギリス人のことをそう呼んでいたのです。彼らの多くは、自分たちが British と呼ばれ、あたかもイギリスの一員として扱われることを好みません。

イギリスが、伝統的にアイルランド系の人々が多く住む、北アイルランドでの分離独立運動に悩まされてきたことはよく知られています。この地域では、それが流血事件にまで至るため、例えば企業の内規として、従業員が政治的な会話をすることを禁止している事例も多くあります。
しかし、分離独立運動は、北アイルランドだけではなかったのです。
イギリス東部にあるウェールズもスコットランドと同様に独立運動がないわけではありません。ウェールズの人々は伝統的に Welsh と呼ばれる言語を話し、民族としての強いアイデンティティを有しています。

「イギリスはいずれ、スコットランドと北アイルランド、それにウェールズが独立し、ロンドンを中心とした小さな国家になるだろうね」
ロンドンのある出版社の社長が以前そう言っていたことを思い出します。

さらにこの問題は、ヨーロッパ中を震撼させていることを忘れてはなりません。
スコットランド問題に呼応するように、先週にはスペインのカタルーニャ地方の分離独立運動が火を噴き、バルセロナをデモ隊が埋め尽くしました。
そのスペインには伝統的にバスク地方の独立運動もくすぶっています。
そもそも中世には数えきれない王国があり、言語も今以上に多様であったヨーロッパ。それが分離や統合を繰り返しながら現在の国々にまとまったのです。
それは、ちょうど日本にアイヌがいて、沖縄があり、それぞれが日本という国家に統合されてゆく過程と比較しても、遥かに多様で複雑でした。
それだけに、スコットランドが独立となれば、ヨーロッパ各地で、さらにはカナダから分離を求めるケベック州などを含め、欧米全体にその影響がでるのではと指導者達は固唾をのんで成り行きを見詰めているのです。

Scotland’s First Minister Alex Salmond said the independence referendum was “a once in a generation opportunity” (スコットランドの首相にあたるファースト・ミニスター、アレックス・サモンドは、独立の是非を問う住民投票を一生に一度の好機だと言明) と、イギリスの BBC も総力取材を続けています。アレックス・サモンドは Scottish National Party (スコットランド国民党) の党首で、スコットランド議会の多数派の代表として、国家でいえば首相にあたるファースト・ミニスターに就任しています。既にスコットランドには相当の自治が保証されているのです。
スコットランドに本拠地をおく多くのイギリス企業が、スコットランドが独立をしたときは本部をイングランドに移転させると表明している一方、スコットランド系の金融機関は、独立したスコットランドの経済はむしろ好転するだろうと反論。政治のみならず、経済的にも論争の波紋は拡大しています。
民族国家が近代国家に変貌するときに包含した多様な人々。
その分離独立運動が物語ること。それは人々の右傾化なのか、それとも民族の伝統と権利を尊重する民主化なのか。問いへの答えはまだみえてこないのです。

山久瀬洋二の「海外ニュースの英語と文化背景・時事解説」・目次へ

山久瀬洋二の活動とサービス・お問い合わせ