海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

トヨタ女性役員辞任に思うこと


【海外ニュース】

Toyota Motor Corp. said Wednesday its first female managing officer Julie Hamp has resigned after being arrested last month for allegedly importing a narcotic painkiller to Japan.
(CNNより)

トヨタ自動車は水曜日に、初めて女性の役員として登用されたジュリー・ハンプス氏が、先月日本に痛み止めの麻薬を持ち込んだとして逮捕されたことを受け、辞任したことを発表

【ニュース解説】

 トヨタ自動車にとって、初の女性役員として脚光を浴びていたジュリー・ハンプス氏が薬物取締法容疑で逮捕されたことは、日本でも大きく報道されました。
この問題、彼女が日本の法律を破っているという認識がどれだけあったのか、疑問が残ります。

 国によって、法律は異なります。
 例えば、日本では麻薬取締法に抵触すると、懲役刑となる可能性はありますが、同じ先進国であるシンガポールでは、場合によっては死刑事案として裁判にかけられます。
 薬物も、ある国では認可されている薬物が他の国では認可されていないということはよくあることです。

 今回のケースの場合、アメリカでは比較的自由に使用が認められている鎮痛剤を、医療上の特別な許可なく使用することが認められていない日本での使用を目的として、日本に持ち込もうとしたということが、ハンプス氏のトヨタ自動車の役員としての命取りとなったわけです。

 法律はそれぞれの国の主権の中で尊重されなければなりません。
 これくらいはと安易な気持ちでなした行為が、海外では大きな問題となるケースは枚挙に暇がないのです。
 トヨタ自動車のケースでいうならば、2006年に和解が成立したトヨタアメリカの日本人社長に対しておこされたセクハラ訴訟を思い出します。この訴訟は、被害者はアメリカ在住の日本人でした。
「社長の大高さんは脇が甘かったんですよ。このセクハラ事件、当時は日本だったら許されていた程度のことだった。相手が日本人の女性だったとはいえ、アメリカで生活していてアメリカの常識の中で生きている人に、彼の行為はセクハラに映ったのです」
 当時、米国のトヨタ自動車に勤めていたある社員はこう私に語っていました。
 事実とその背景はともあれ、確かにアメリカではセクハラに対する会社や経営者のリスクは、日本とは比べものにならない程大きなものであるといえましょう。つまり、その社員の言葉を借りるならば、日本の常識と日本の尺度で判断した行為が、海外では厳しく罰せられたということになります。
 誤解を避けるためにいうならば、セクハラが良いとか悪いということではなく、被害者も加害者も、何をセクハラと感じ、判断するかという基準が文化や国によって異なるのです。

 ここで知っておきたいのは、異文化での universal なアプローチと situational なアプローチへの発想です。
 universal なアプローチとは、常識や判断が文化を越えて世界のどこでも通用するべきだという思いを意味し、situational のアプローチとは、状況によって柔軟に判断して、対応ができると判断することを意味します。

 トヨタ自動車を結果として辞任したジュリー・ハンプス氏も、米国トヨタ自動車の社長を辞任した大高英昭氏も、この異文化、そしてグローバルな環境で業務をしてゆく上でのこの二つの概念の使い分けを誤ったのではないでしょうか。
 アメリカで合法なドラッグを日本に持ってきてなにが悪いという universal な発想によって、日本で逮捕されたジュリー・ハンプス氏。アメリカではセクハラ問題には気を付けなければと知りつつも、日本人同士であれば多少こうしたことにも寛容であってよいのではと situational な判断によって高額な損害賠償訴訟の原因を造った大高氏。
 法を冒すことへのリスクに関する甘い認識も、こうした判断ミスへとつながったのかもしれません。

 これは企業が多様な世界の文化を越えてグローバルに活動をする上で最も繊細でかつ看過できないテーマといえましょう。ここを見誤ると、異文化の落とし穴によって、経営陣の犯罪行為やスキャンダルにまで発展してしまうのです。

 国際企業のコンプライアンス上の課題を投げかけた、今回の役員辞任劇。とにもかくにも、日本を代表する企業として海外から初めて女性の役員を招聘した結末としては、極めて残念なことであったといえましょう。

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