海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

平和教育を考える。ポツダム宣言と戦争被害


【ポツダム宣言第13条より】

We call upon the government of Japan to proclaim now the unconditional surrender of all Japanese armed forces, and to provide proper and adequate assurances of their good faith in such action. The alternative for Japan is prompt and utter destruction.

我々は日本国政府が全日本軍の無条件降伏を宣言し、それを実施する適切な保証と制約を与えることを求む。この宣言を受け入れないときは、日本国に対して迅速かつ完全なる破壊が行われることになるであろう

【解説】

1945年7月26日にアメリカ合衆国、イギリス、そして中国によって日本に対して公布されたポツダム宣言 Potsdam Declaration の最後の部分の文章がこれにあたります。

この宣言には、日本の武装解除の他に、民主的な国家を樹立するための戦勝国の占領、戦争犯罪人の処罰、戦後の日本の領土が本州、九州、四国、北海道の4島と、その周辺の島々に限定されることなどが記されています。
この宣言にはまだソ連は含まれていません。この時点でソ連は日ソ中立条約によってポツダム宣言への参加を遅らせていたのです。

アメリカ、イギリス、そして中国は、対日戦争で大きな犠牲をはらってきました。日本側が主張する本土決戦に及んだときの彼らが被りかねない甚大な被害、その後ソ連が対日戦争に加わったときの、日本への影響などを考え、日本側が迅速にこの宣言を受け入れることを強く期待していたのです。
それは、これら3国に加え、日本にとってもこれ以上犠牲を増やさず、戦後懸念されていた資本主義社会と共産主義社会による国際政治の狭間に日本を放り込まないために必要な宣言だったのです。
従って、ポツダム宣言の最初に、Japan shall be given an opportunity to end this war (日本がこの戦争を終結させるための機会を与える) と記し、交戦国の一方的な攻撃と占領ではなく、日本側の自発的な戦争終結の機会があることを明記しているのです。

しかし、日本政府がこの宣言を黙殺したことは広く知られている事実です。
そして、その 11日後にポツダム宣言で警告された通り、日本に原爆が落とされることになり、さらにソ連も参戦してくることになりました。
アメリカなどで、原爆投下の是非を問う時、このポツダム宣言を無視した日本政府の責任が問いただされているのには、そうした背景があるのです。

夏になると、平和教育の名の下に、戦争の悲惨さを子供達に教える様々な試みがなされています。特に沖縄や原爆投下などにより、どれだけ戦火の苦しみを味わったか、お年寄りなどの証言が語られます。
そのことは、これからも是非続けて欲しい大切な活動です。
ただ、例えば原爆投下などの悲劇が、世界に率直に受け入れられない現実の背景に何があるのかを、我々はこのポツダム宣言を巡る歴史の中からみてゆく必要はないでしょうか。
つまり、日本政府がポツダム宣言の受諾を逡巡していた結果が、その後の戦災へと直接影響を与えている事実を知るべきなのです。

また、日本人が自らの戦災の悲惨さを語るとき、その戦争がどのようにしておこり、日本の戦争行為によって海外にどのような被害があったかを語り継ぐ努力はしているのでしょうか。
日本人が受けた戦災と共に、海外に向けたこうした視点、そして戦争によって日本が加害者になったことによる災禍が語られない限り、日本人の戦争教育は、自分だけの苦しみを強調する独りよがりの教育だと、海外での冷たい視線にさらされるのではと危惧するのです。

栃木県那須に千振 (ちふり) 農場があります。
この農場は8月9日に日ソ中立条約を破棄して、ソ連がポツダム宣言に加担する形ではじまった戦争によって、当時の満州(中国東北地方)から罹災してきた人々が帰国し開拓した農場です。
彼らの知人や家族の多くが、中国で命を落とし、ソ連軍に長きにわたって抑留され、極寒のシベリアでの重労働に苦しみます。この事例のように、ポツダム宣言を受諾しなかった結果、多くの人々の命が奪われたケースは数限りなくあるのです。

そんな日本人が被った被害を、第二次世界大戦という世界レベルの戦争の中での一コマであるという冷静な視点が必要です。
そして、他者への同情と洞察の姿勢を日本人が平和教育の中に取り入れたとき、はじめて周辺国を含む多くの国が、日本の平和教育の真価を認めるようになるのではないでしょうか。

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『海外メディアから読み解く世界情勢』山久瀬洋二日英対訳
海外メディアから読み解く世界情勢
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。

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