台湾を知れば、戦後の隣国の複雑な国際環境がみえてくる


“Over the last few years China has made a series of ambitious military reforms and acquired new technology as it aims to improve its ability to fight regional conflicts over places like Taiwan.”

(ここ数年間、中国の本格的な軍事、軍事技術改革によって、台湾など周辺地域での戦闘能力が改善されている)
― CNNより

台湾に感じる日本への関心と複雑な状況

 台湾に出張しました。
 台湾では、出版関係の人々と様々な書籍の企画について話し合いました。
 彼らが一様にいうには、台湾の人は日本への興味が強く、一般的な日本紹介の書籍はすでに出尽くしているということでした。彼らが本当に求めているのは、よりニッチで深い日本の事柄なのです。
 

 その上で、ある編集者が私に日本人の台湾への意識の低さを嘆いていました。台湾へ観光に来る人は多いものの、台湾の置かれている本当の状況を理解しようと思う日本人は極めて少ないというのです。
 
 台北の中心部に、林森・康楽公園という市民の憩いの場があります。ここには日本の鳥居が二つ立っています。これは、戦前に日本が台湾を統治していた時代の第7代総督・明石元二郎とその秘書官を葬ったときに建立されたものといわれています。そこには、この鳥居が歴史の記念碑として保存されている旨の案内板が置かれています。案内板には、日本の統治時代への批判は一切触れていません。
 
 台湾の人々のこうした日本への意識に触れるたびに思わされることが、この国の置かれている複雑な状況です。
 韓国と同様、台湾は戦前日本が植民地にしていました。その後、中国での国共内戦の結果、国民党政府が台湾に逃げ込み、中華民国の本拠地となったことは、歴史を勉強したことのある人であればお分かりかと思います。
 

日本人の知らない台湾の事情と独立の精神

 しかし、それ以上台湾のことを詳しく知る人は、日本には少ないようです。
 もともと台湾には、現地に昔から住んでいた人々がいました。こうした人々を台湾では本省人といいます。
 そもそも台湾は中国の東にある自立した島でした。大航海時代にはオランダやスペインが拠点を置いたこともありました。
 清朝になって、中国本土の主権が及ぶようになったものの、実質上組織的な統治が進められたのは、日本が日清戦争の後に台湾を植民地にしてからのことでした。
 そして、日本が戦争に負けたあと、台湾を引き継いだ国民党が、中国本土からやってきた新たな占領軍となったのです。
 
 国民党政権は、台湾在住の人々を統治するにあたり強権を発動しますが、国民党内部の腐敗や横暴な統治に人々は反発し、大規模な暴動も起こります。国民党が本格的に統治を始める直前の1947年には有名な二・二八事件という暴動が起こり、国民党政府が民衆に発砲、反政府活動をした者のみならず、数万人の本省人や残留日本人が殺害されたといわれています。
 
 多くの本省人にとって、国民党は日本に代わって台湾に入ってきた侵略者だったわけです。中国本土が共産化され、台湾が国民党政権の下に中華民国として存続した後も、外省人と呼ばれた中国本土からやってきた国民党関係者と本省人との対立は続きます。その結果、中華民国政府は政権基盤を強めるために、長期間国民党による独裁政権を維持していました。その結果、多くの血が流れました。その詳細はいまだに闇の中。日本でもほとんど知られていないのです。
 その後、本格的な民主化運動が始まり、総統が選挙で選ばれたのは1996年、李登輝政権のときでした。それは、反共の砦として、冷戦の中で1987年まで民主化運動を封じ込めていた韓国と、極めて似た経緯であったといえましょう。
 
 ここで知っておきたいのは、台湾が自らの独立を保とうと主張するとき、それは中華人民共和国に対して独立を維持しようというのではなく、台湾が台湾として、外省人が打ち立てた中華民国から独立しようという主張であることです。
 台湾では、中華民国ではなく台湾としてのアイデンティティを維持し、その上で中華人民共和国が主張する一つの中国という発想からもしっかりと距離を置き、自立しようという世論が強いのです。
 
 しかし一方で、経済大国となった中国なしには、台湾経済は成り立たないといわれています。それだけに、台湾の人はやっと獲得した民主化された台湾が、中国に飲み込まれることには強い警戒感があるのです。
 
 台湾の人の多くは、日本から独立し、中華民国からも独立し、かつ中華人民共和国からも侵略されずに、台湾として独立したいのです。しかし冷戦以来、中国は台湾を宿敵の国民党の統治する国家として見てきました。そして、台湾は中国の一部であると主張します。そのために、中国への配慮から国際政治の中では、台湾を国家として承認する国はほとんどなくなりました。ここに、台湾の本省人のやりきれない思いがあるのです。
 
 人口2300万人の台湾こと中華民国が、いかに本当の台湾となり、強大な中国(中華人民共和国)の脅威からも自立できるか。この政策をめぐり、台湾では選挙のたびごとに意見が激しく対立します。
 

隣国の歴史を理解し、対日感情と向き合う

 そして、沖縄のすぐ西にある台湾は、日本にとっても極めて重要な国であることも、我々はもっと理解する必要があるのです。

「台湾人に、日本の植民地時代への反発がないかといえば嘘でしょう。しかし、その後の国民党に支配された台湾の悲劇が、それ以前の過去を吹き消しているのです。今、台湾は日本との協力と連帯を強く求めているのです」

 ある出版関係者はそう語ります。確かに書店に行けば、日本語のコーナーも英語と同じほどの大きさで、様々な日本語学習書が並んでいます。

 
 韓国は長年、韓国人の国家でした。ですから、日本が植民地にしたことへの恨みが深いことは否めません。それと比較して台湾は、そもそも日本が統治した後、中国が台湾に進出し、現地の意向をよそに国家をそこに樹立したわけです。この歴史的背景の違いが、韓国人と台湾人との対日感情の差異となっていることも、理解しておくべきなのです。
 

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