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中国人の意識の変化こそが香港の人々の脅威を煽る

“Hong Kong endures 20th straight weekend of anti-government protests..”

(20週間絶え間なく続く反政府運動に苦しみ続ける..)
― South China Morning Post より

経済成長著しい上海に見える中国社会の変貌

 上海に滞在していると、中国が見えてきます。
巨大な龍に成長した中国でも最も経済的な伸長が著しい上海では、今でも古い町並みが壊されて高層ビル街へと変化を遂げています。
30年前にこの街を訪れたときは、中心街となる南京路から少し路地に入れば、そこには19世紀の住宅が広がり、庶民の生活が息づいていました。しかし、今ではそんな風情を楽しめる場所も限られてきています。
南京路から地下鉄でほんの数駅行ったところにある老西門は、そんな古い町並みが息づく地域と言えましょう。昔ながらのマロニエの並木路の両側には様々な小売店が続き、その脇からは住宅街へと路地が伸びています。昔ながらの市場は今でも買い物客で賑わい、活気にあふれています。
 しかし、一歩大通りを隔てた地域は、すでにそんな町を取り壊し、巨大なアパート群が建設されようとしています。道路を隔てて二つの世界が存在するのです。一つは、住人のコミュニティ意識の強い伝統的な中国の社会。そして、もう一つは、隣に住む人が誰かもわからない大都会ならではの社会です。
前者は前時代のものとしてどんどん縮小し、後者は所構わず拡大しています。すでに語り尽くされているかのような中国社会の激しい変貌が今なお続いていることが、上海に来れば否応無く実感させられるのです。
 そんな変化の中にあって、中国政府は治安の維持にも懸命です。地下鉄の駅でも空港さながらの荷物検査があり、通行人は検査の際に映像にも記録されています。街にはあちこちに警察官がいて、人々の動きを監視しています。
しかも、新しく開発されたビルが常に商業施設で埋まっているかといえば、決してそうではありません。空きビルと化したところも多く、バブル経済に踊る中国の危うい一面も見えてきます。
とはいえ、そんな矛盾が見え隠れはするものの、この街に住む人々が豊かさを謳歌していることは否めません。確かに、彼らの暮らしは過去に比べると大きく向上しているのです。

開発に晒される、古き良き上海

中国政府の強権と豊かな暮らしとの狭間に生きる

 そんな上海の人に今香港で起こっているデモや暴動のことを尋ねれば、ほとんどの人が理解できないと首をかしげるのも事実です。
「デモを起こしている人たちは、国を裏切ったとんでもない人だよ」というのが、ほとんどの人の見方です。
以前は報道されることも稀だった香港での事情も、上海の人の目には不可解を通り越した犯罪行為に映っているようです。
それは、こと香港だけではありません。台湾での反中国活動に対しても、人々は同じように反応しています。
 確かに、この20年で中国経済は大きく成長しました。ですから、豊かな暮らしを維持するためには、今の政府を批判せず、その功績を称えていたいというのが人々の本音でしょう。国が豊かで生活の質が向上し続けている限り、あえて政治の問題には触れる必要がないと、中国の人は思っているのかもしれません。
さらに、上海の街角に立てば、豊かになった中国を積極的に誇りに思い、そんな中国の一部であるはずの香港や台湾の人々が、どうして中国を批判しているのか理解できないと本気で思っている人が大半のように見えてきます。それだけ、中国は官民共に自信をつけてきたのでしょう。昔、天安門事件などで中国国内を大きく揺らした民主化への意識は、今では完全に過去のものとなってしまったのです。
 では、そんな中国で、どこまで政府は人々の自由を認めるのでしょうか。
最近、原宿や秋葉原から来たのかと思うような、コスプレを楽しむ若者を上海でも見かけることがあります。ネットなどで拡散する新しいライフスタイルが都会生活の中に着実に浸透してきているのです。
そして、そんな若者を交差点で見かけたとき、年配者や地方から来た観光客が驚きの目で振り返る光景も目にします。
若者のこうした変化を中国政府がどこまで受け入れ、彼らが政治に口を出さない限り寛容でいられるのかはまだわかりません。
そして、香港での騒動が中国社会に、岩から滲み出る水のようにじわじわと影響を与えることがあるのかどうかも未知数です。言論の自由が日々規制され、海外からの情報も制限されている中でもなお、中国の都市部ではコスプレが流行り、ホテルのテレビでは海外の情報もそれなりに得ることができるのです。
それでも大多数の中国人は、そんな情報をあえて無視しながら、逆に成長著しい中国経済を誇りに思うというジレンマの中で生活しているのです。

©NIKKEI(ロイター)

薄れゆく香港への関心、迫りくる情報管理社会

 先週から今週にかけては、チリレバノン、さらにはスペインのカタルーニャでの暴動やデモ、加えてブレグジットの可否に揺れるイギリスなどのニュースの中で、香港情勢はそれほど報道されることはありませんでした。日本でも、台風や皇位継承のニュースなどの影響で、香港での緊張への関心が希薄になりつつあるようです。
そんな状況の中で上海に来てみれば、日本以上に香港も含む海外の情報から隔絶されてしまいます。
上海の繁華街を歩く人々は、自らの生活を守るために中国政府が「違法行為」に監視の目を光らせ、街のあちこちで個人情報を管理していることは仕方のないことだと信じているのです。そして、豊かであれば国家は維持できると、国の舵を取る指導者や政府の末端で働く警察官も実感しているのでしょう。
 こうした中国国内の環境がさらに整い、上海に見られるバブル経済の危うさを強引にでも封じ込めたとき、中国は香港や台湾に対して本格的に腕力を誇示してくるのかもしれません。
上海の街で輝くネオンの洪水の中に立っていると、その秒読みが始まっているのではないかという恐怖が、逆に香港などでのデモの背景にもあるのではと気づかされるのです。

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