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ネイチャーの警告は、日本の教育のあり方への苦言

” Japan’s status as a science superstar is vulnerable. Nature Index 2017 Japan reveals that although the country is still among the upper echelons of global research, its output has continued to slide.”
(日本の科学分野での優位が危機に直面している。ネイチャーインデックス2017をみると、日本が今でも世界のリサーチレベルでの上位にあるものの、その発表量は常に減少傾向にあることがわかる)
Nature Index より


日本の教育のあり方

このヘッドラインは科学雑誌で有名なネイチャー(Nature)が発行する ”nature INDEX” の日本についてのヘッドラインです。
実は、日本の競争力の基盤となる「科学技術」や「リサーチ能力」の衰微が、現在深刻な問題にさらされているのです。
nature INDEX は、世界での優秀な論文の発表数を詳細にまとめて公表しています。それによると、日本からの科学研究成果の発表数がこのところ他の先進国と比較しても減少傾向にあるのです。
この原因をじっくりみるとき、我々は「教育のあり方」そのものを見つめ直す必要性に迫られていることに気付かされます。

つい先日、長崎の大学で講義をすることがありました。
講義の冒頭、学生にテーマを与えました。「海外の人に日本を紹介するとき、どのように日本のことを伝えますか?」というのがその内容です。
すると出席した70名のうち、95%の人から日本は「安全」「清潔」「食事が美味しい」「美しい四季がある」「便利」のいずれか、そして日本人は「親切」「丁寧」であるというコメントがかえってきました。
さらに、ほとんどの人が、日本人には「おもてなし」の精神があるといっていました。

さて、この回答と、Natureでの指摘とは、どのようにリンクしているのでしょうか。

日本の教育現場での課題

まず、彼らがどうしてこのように回答したかを考えましょう。
彼らに問いかけてみると、多くの場合高校教育の過程で同じようなテーマで討議を盛り込んだ、いわゆる「アクティブ・ラーニング」を経験しているのです。
また、日本での報道からの影響も大きく、多くの外国人がそうコメントしているという理由も伺えました。

では、仮に外国から来た人が、日本をみてそのようにコメントしているからといって、それを日本人がこうしたことを海外に向けて逆に表明することがよいことなのかを考えてみましょう。
きっと多くの外国人は、「え、どういうこと?」と思うはずです。多くの国の人は思います。「我々にだって美しい四季はあるよ」「それって、われわれは清潔でないってこと?」「我々はまずいものばかり食べているの?」「そうかなあ、我々は親切ではなく、雑なんだ」と思うかもしれません。

彼らのコメントには、相手の身になってものごとを考え、そのデリカシーをもって日本を紹介するという、ちょっとした意識の変換への知恵が欠如しているのです。また、海外のことを知らないままに、日本に向けて語られた報道のみを受け売りにしていることも忘れてはなりません。
さらに課題は、そうしたコメントを学校の教育現場でも支持してきたことです。テレビ等での海外の人の外交的なコメントの報道について、それを検証したり、考えたりすることを教育現場で奨励していないことにも大きな課題があります。

教育現場が生み出した負の遺産

科学的な発想力の根源はといえば、「常識を疑う心」です。これが想像力を育み、人類の進歩をもたらします。引力の発見、地球が球体であることや太陽系の一員であることの認識など、すべてはそれ以前の常識にメスをいれることから、それらの発見がはじまりました。
日本の教育は、覚えること、暗記すること、さらに試験に合格するノウハウを磨くことという技術に特化し、先生のいうことにWhy?という質問を投げかけること自体をタブーにしてきたのです。
ですから、報道されていること、教科書に書かれていることを丸のみにし、模範回答をする子供が優秀とされ、それにWhy?と切り込み個性をみせる子供は異端とされてしまいがちです。親も子供に学校の方針に合わせることが無難だという教育を行います。その結果、親と教師が一緒になって子供の能力を摘み取っているケースが数知れずあるはずです。
「日本を海外の人にどのように紹介するか」というテーマを与えたとき、正に模範解答のようにここで紹介した内容のコメントで埋め尽くされた事実は、このWhy?という能力を磨くことを怠っている教育現場が生み出した負の遺産なのです。

批判する目を養う意識が欠如しながら、報道や国のいうこと、あるいは権威があるといわれる人のいうことを鵜呑みにして、判で押したような回答をする子供が増えているのです。その結果、海外の人と柔軟にコミュニケーションのできない人材が日本を埋め尽くすことになりかねません。政治上、あるいは国際関係の上では一応うまくいっているようにみえても、実際は精神的に世界から孤立した人が増え続けるのではという危惧を抱くのです。

本当に大切なのは英語 ”+α” の力

よく、日本人は自らの国を島国で、だからこそユニークだといいます。
世界に島国は数え切れないほどあり、それぞれがユニークな文化を持っているにもかかわらず、日本人は自分のことを特殊扱いしがちです。その意識が歪んだ優越感へと退化した結果、こうした判で押したような日本礼賛のコメントがでてくるのです。
こうしてみると、ネイチャーの記事が指摘する、日本人による優秀な論文や科学的発表の機会の減少は、単に英語力だけの問題ではないことがわかります。英語力は大切ですが、英語を使いどのように人とコミュニケーションをし、Why?という疑問をぶつけ合いながら切磋琢磨できるのかという点こそが大切なのです。これは日本の教育現場全体に投げかけられる課題なのです。
英語教育の改革の現場で、4技能の育成がとやかくいわれています。しかし、ここに指摘した課題を踏まえずに改革を実施した場合、それは新たな「受験技術」を磨くための教育がはじまったに過ぎないことになります。

英語教育をどのように変えてゆくかを見据えることと、Natureの指摘する危惧をどのように克服するかというテーマとは同次元の深刻な課題なのです。

今、日本では教育者自身の意識改革こそが問われているのです。


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  • おもてなしの精神
  • 英語教育について思うこと・目次へ
  • 『日英対訳 アメリカQ&A』山久瀬洋二日英対訳 アメリカQ&A
    山久瀬洋二 (著)
    IBCパブリッシング刊

    地域ごとに文化的背景も人種分布も政治的思想も宗教感も違う、複雑な国アメリカ。アメリカ人の精神と社会システムが見えてくる!

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    山久瀬洋二の活動とサービス・お問い合わせ

    新たな英語教育に向けて

    これから英語教育が変わるといわれています。
    今、中学1年生の子供が大学受験に臨む頃、英語の受験は外部のテストを導入して、よりコミュニケーション力を重視した選抜方法に移行するといわれています。

    では、コミュニケーション力とはそもそも何でしょうか。
    例えば、「駅で会いましょう」という文章に対して See you at the station. という英文がその英訳としてあり、この文章の中の at の部分がブランクの括弧になっています。そして正解として at をいれることが従来の受験のあり方でした。

    でも、考えてみてください。
    例えば、東京駅で待ち合わせているとき、ただ、See you at Tokyo station. などと言って、本当に二人は出会うことができるのでしょうか。
    不可能ですね。しかも、実際は東京駅の中で会うわけですから、See you inside Tokyo station. という方が現実的じゃないでしょうか。
    つまり、inside であろうと at であろうと、よしんば by であろうと、状況によってどのような正解でもいいわけです。
    今までの英語教育はそこに無理矢理 at という一つの正解を押し付けていたわけです。

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    その一言が!乗り越えよう異文化摩擦

    エグゼクティブ・コーチング(29): 社内の人材開発において、あるいは一般的に、今日本の英語教育に求められるものは何ですか。

    今、日本の英語教育が大きく変わろうとしています。
    その変革は単なる掛け声ではないようです。
    今までの読解と文法偏重の教育からの離脱を本気で進めようとしているメッセージが、毎週のように手元に届いてきます。

    確かに、日本人の英語でのコミュニケーション力の低さは目を覆いたくなるほどで、これはそのまま将来の日本の世界レベルでの競争力にも悪い影響を及ぼすのではと懸念されています。
    ですから、コミュニケーションのできる英語力を鍛えなければならないのです。では、どのようにすればよいのでしょうか。

    最初にいえること。それは、従来の受験教育で求められてきた、答えを一つだけ選ぶ習慣を忘れることです。
    たとえば、黄土色の器をみて、この器の色は何でしょうという質問があったとします。黄土色と答えてもよければ、「なんだろう。よくわからないけど、濃い黄色かな。とても落ち着いた色だね」という風に答えてもいいわけです。
    むしろ、後者の答えの方がよりコミュニケーション力の高い答えとなるのです。

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