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韓国からのメール、そして会社の求人

“Chase the vision, not the money, the money will end up following you.”

「ビジョンを追いかけろ。お金ではない。そんなものはあとでついてくる」
― Tony Hsieh

連休中に韓国から届いた、一通のメール

 連休中のことです。
 一通のメールが届きました。韓国の友人の奥さんからでした。
 彼は、数年前にある会社を退職しました。経営陣との考え方の違いが原因でした。
 残念なことに、退職後に病気で入院。回復した後に、一度ソウルで食事をしました。4年前のことでした。以来、彼からの連絡は途絶えていました。
 彼の奥さんは大学の先生で、地方都市で教鞭をとっていることは知っていました。私は、きっと彼は新しい仕事を見つけ、週末は奥さんとソウルで暮らし、平日は別々の場所で仕事をしているものと思っていました。
 

* * *

 先日、ソウルへ出張したときのことです。
彼が働いていた会社の幹部の一人に、彼の消息を尋ねました。彼は奥さんの働く街に移動しているんじゃないか、とのことでした。それなら、きっとそこで新しい仕事をしているのかなと思っていました。
 
 彼は韓国の有名大学を卒業し、学術系の出版社のベテラン編集者として活躍していました。大学でも、出版社でも、仕事を見つけるのに困ることはないと思っていました。
 そんなとき、彼の奥さんからメールが届いたのです。そしてメールには、彼が何も仕事をせず引きこもってしまっていたこと、そして大学時代の友人などとも連絡を絶っていたことなどが書かれていました。彼にとって私は大切な友人で、何かできないだろうかという悩みを打ち明けてくれました。
 

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 彼は私にとって、韓国のことを理解する大きなヒントを与えてくれた大切な友人です。竹島(韓国では独島)のことで日韓関係がもつれていたとき、こうしたことは国際司法裁判所に委ねるべきでは、と私が話したときのことです。彼は私に、韓国人にとってこれは民族の独立の象徴なのです、と答えてくれました。彼は日韓関係に対して、特別な政治的立場をとっているわけではありません。むしろ彼は、韓国のナショナリズムにはシニカルな立場をとっていました。そんな彼が「民族」という言葉を使って韓国人の心を解説してくれたとき、私はふと思いました。日本人が自らのことを「民族」として意識しているだろうか、と。
 
 この「民族」という言葉は、私にとって重たい言葉でした。日本人が自らを日本民族という表現で海外に向けて語ることは、ほとんどありません。「民族」とは大国の間で翻弄されてきた歴史を持つ、韓国の人ならではの表現だったのです。この彼の一言で、私の韓国への理解が大きく変わったのです。
 

会社の求人面接と人材採用の難しさと

 連休前に、私は多くの応募者と面接をしなければなりませんでした。
 会社の業務の関係で、数名の人材が必要だったのです。すると200名を超える人が応募してきました。彼らの中には40代、50代で高学歴かつ職歴も素晴らしい人が多くいました。あまりにもその経歴が素晴らし過ぎて、今回求める人材には見合わないなと思いながら、そうした人々の希望年収を見たとき、その低さに驚きました。
 今は人材の採用が難しく、希望者が会社を選ぶ時代だと思っていたところ、それは新卒の一部の人に限られたことだということがよくわかりました。
 
 そんなことがあった後だけに、私に韓国のことを教えてくれた友人を見舞う厳しい状況が気になりました。
 韓国は、日本と同様に人口の逆ピラミッド化が進んでいて、そのことによる人口減少にも拍車がかかっています。おそらく引きこもりや格差など、日本同様の社会現象も多くあるはずです。
 とりあえず私は時間が空き次第、韓国へと彼を訪ねることにしました。今、彼の元同僚や学生時代の同級生はそれぞれの道を進み、仕事も順調とのことです。それだけに、彼はそうした人たちと連絡をとる気にもならず、仕事を探す気力も失せて久しいのです。
 私は5月中旬に台湾へ、そして5月末から6月初旬にかけてはアメリカへ出張しなければなりません。おそらく、韓国に行くとしたら6月末になるでしょう。きっと東南アジアか中国への出張の途中で、その地方都市に立ち寄ることになるのではと思います。
 
 私に何ができるでしょう。
 ただ、一つ嬉しかったことは、彼の奥さんが彼の最も信頼する友人として、私に連絡をしてきてくれたことです。彼と会って、社会的道徳に沿ってあきらめるなと正論を語るのは、極めて簡単なことです。しかしもちろん、そんなことをする気は毛頭ありません。私に何ができるかもまだわかりません。ただ、彼が私と同じような仕事をしてきたことを手掛かりに、私にできることはなんでも協力しようと思っています。

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 AI の進化で、これからどんどん必要でなくなる職種が増えてくるといわれています。
 以前は羨望の的であった仕事が、今は斜陽産業となっている事例も数え切れません。これから数年で、大手銀行でも大量の人員削減があるといわれています。
 そんな人たちが、私の会社の求人サイトに殺到し、そこで採用を断られ、さらに別の求人面接へと自分を追い込むうちに、次第にプライドも精神力も磨耗し、仕事への意欲も失われてゆくケースも増えるのではないでしょうか。
 

自分にとってのビジョンを追いかけろ

 そんな時代に生きる上で、一ついえることがあります。それは、キャリアを会社や組織に求めないことです。
 個人ベースで仕事をして生活してゆくアイディアと力を蓄え、求人状況が変化しても柔軟に対応できる個人の力を蓄えることが必要です。自分がやりたいことを見つめ直し、そこから就職することが目的ではなく、自分が何をしたく、何ができるのかという視点から生きてゆく目標を再構築しなければ、学歴があっても高年齢の人の就職はますます困難になってくるように思えます。
 韓国に行って、友人の話を聞きながら、一緒にそんなことを考えられればと思っています。
 冒頭の引用は、会社の経営についての格言です。しかし、それは個人にもいえること。自分にとってのビジョンを追いかけるのです。そうすれば、どのようにしてお金を稼ぎ、生活するかは次第に見えてくるのではないでしょうか。
 

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平昌での「民族意識」に当惑するアメリカ、日本、そして中国

“Kim Jong-un’s Overture Could Drive a Wedge Between South Korea and the U.S.”

金正恩の(雪解けの)提案は、韓国とアメリカとの関係を悪化させかねない。
(New York Timesより)

「民族」という言葉。これを翻訳すると race となります。同時に「民族」は tribe です。大陸の長い歴史を通して活動してきた部族tribe が、国家として自らを意識したとき、tribe race となりナショナリズムの原点へと成長したのです。
平昌オリンピックで、韓国と北朝鮮とが急接近したとき、韓国人の多くはこの「民族」という言葉を意識したのでしょう。
 
確かに韓国では「民族」という言葉をよく耳にします。
韓国はいうまでもなく Korean、つまり朝鮮民族による国家です。では、日本はというと、日本人という言葉はありますが、日本民族という語彙には馴染みません。民族という言葉を使用するときは、日本人は「大和民族」として自らを表現しますが、これは戦前の国粋主義への記憶と繋がってしまいます。
島国として戦後の一時期を除きほとんどの期間独立を維持してきた日本人は、自らのことを「民族」として意識するチャンスがなかったともいえましょう。
 
朝鮮半島の利害に絡むアメリカは、自らを多民族国家 multinational state と定義します。「アメリカ民族」という言葉はなく、多様な人種や宗教を持つ人々が共存する国家というビジョンを民族の代わりのスローガンとしてきました。
では、もう一つの当事者である中国はどうでしょう。中国もアメリカと同様に多民族国家です。しかし中国の歴史はその中心で活動する漢民族と、周辺の民族との対立と侵略の反復でした。漢民族が衰退したとき、満州族などの北方民族が常に中国に侵攻してきました。
逆に漢民族が繁栄したときは、周辺民族は服従を強いられました。朝鮮民族はそんな周辺民族の一つでした。
現在の中国では、社会主義を建前として民族の融合を唱えていますが、ウイグル族チベット族など少数民族との対立が国家の課題であることには変わりありません。北朝鮮との国境には朝鮮民族も活動しています。つまり、中国では、今でも漢民族と周辺の様々な民族との対立の中で、「民族」という意識が揺れ動いているのです。この状況は朝鮮半島の隣国ロシアでも同様です。ロシアでも多民族国家をスローガンとしながら、チェチェンジョージアなど、ロシア民族と他の民族との対立に揺れているのです。
 
さらにヨーロッパに目を向けると面白いことに気付きます。
フランスやドイツやイタリアなどは、それぞれの民族で成り立ってきた国民国家です。しかし、民族の対立の歴史の果てに、お互いに加害者と被害者との立場を繰り返した末に第二次世界大戦という破局を経験したヨーロッパでは、とりたて「民族」という言葉を意識しなくなりました。例えば、戦前ドイツ人は「ゲルマン民族」と自らを位置付け、独自のアイデンティティ(identity) を強調しました。
しかし、今ではヨーロッパの主要国は戦争の悲劇の教訓から、自らを多民族国家へと変化させてきたのです。その結果、パリでもロンドン、そしてベルリンでもアフリカや中東、アジアからの移民が目立つようになりました。もちろん、そうした動きに反発するナショナリズムが高揚していることも事実ですが。
 
さて、こうした世界の動きをみながら、改めて韓国人にとっての「民族」という概念を考えてみたいと思います。
北朝鮮の脅威は、韓国人にとっても喫緊の課題です。実際、朝鮮戦争とのそこに至る過程で、民族を分断した対立を通して、家族が分断され、無数の血が流されました。その後も北朝鮮とは武力による小競り合いが頻発しました。
その悲劇の中で彼らは考えます。ドイツは戦後分断された。しかし日本は分断されずアメリカに保護された。でも東西対立の最前線に取り残された韓国は分断されたと。常に近隣の大国の脅威と植民地化、分断に晒されながらも、世界史の陰に置かれてきたことが、彼らの強い民族意識の原点となったのです。
従って、北朝鮮問題、日韓問題を語るとき、彼らは「朝鮮民族」として極めて複雑な心境を抱くのです。この複雑な意識が、国際関係に優先されるとき、日本やアメリカ、そして時には中国をも困惑させる事態がおきるのです。韓国はアメリカの保護によって朝鮮戦争を克服し、国家として自立してきました。ですから北朝鮮に対抗し、資本主義経済を守るにはアメリカとの同盟が必要です。しかしそれは日本も組み込んだ日米韓という連携へとつながります。しかもアメリカは東西対立を促進し、朝鮮半島を分断した片方の加害者でもあるのです。
 
こうした韓国の人々のアメリカと日本への意識が、平昌オリンピックというスポーツの祭典を利用した北朝鮮への接近に彼らを駆り立てたのです。
北朝鮮との問題は、過去から続く民族の悲劇を克服する問題として、自らの力で解決したいという強い意識が韓国の背景にあるわけです。
この民族意識を考えたとき、アメリカも日本も、当惑しながら、対応を考えざるを得なくなりました。これは中国も同様です。中国は2千年にわたって朝鮮半島に影響力を持ち続けてきました。しかし、このところ北朝鮮が中国に対して、「民族」として対抗するようになりました。中国からしてみれば、韓国がアメリカから自立することと、北朝鮮が中国から離反することをどう判断してよいか、文字通り困惑しているのです。
 

「民族」という概念の薄い日本。確かに日本人は、こうした激動の時代に翻弄された大陸国家の微妙な意識の機微には疎いようです。それだけに、アメリカと中国に挟まれた朝鮮半島の動向にはより繊細な対応が必要になるのです。

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アジアの人々と働くこと

『なぜ銀座のデパートはアジア系スタッフだけで最高のおもてなしを実現できるのか!?』千葉祐大 (著者)なぜ銀座のデパートはアジア系スタッフだけで最高のおもてなしを実現できるのか!?』千葉祐大 (著者)
価値観の違うメンバーを戦力化するための17のルール!
訪日外国人の数が、毎年過去最高を記録している現在の日本。お客さまが外国人であれば、接客する側も言葉や文化を理解している同国人のほうがいいと考えるのは当然のこと。
しかし、「はたして外国人に、日本人と同じレベルのおもてなしを実践することができるのか」「どうやって、外国人におもてなしの教育をすればいいのか」と、懸念や疑問を持つ現場関係者が多いのも事実です。
本書は、外国人とりわけアジア系人材を、おもてなし提供者として育成する教育方法について、銀座のデパートで実際に行われている事例を取り上げながら、詳しく解説します。

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