海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

電子ブックと刺激し合い、売り上げ好調なアメリカ出版事情


【海外ニュース】

The Association of American Publishers reported that overall revenues, and number of books sold in all formats, were up sizably in three years since 2008. Without e-books, the numbers would have been flat, or declined.(New York Times Opinion Page より)

アメリカ出版協会によると、全てのフォーマットを考えた場合、書籍の売り上げと販売部数は共に2008年から3年間、大きく上昇しているとのこと。もし電子書籍がなければ、この数字は横ばいか、下降線をたどっていたことだろう。

【ニュース解説】

日本と同様、というよりも日本に先立って、アメリカでは書籍の電子化が進んでいます。そうした新たな波を受けながら、アメリカの大型チェーン書店 Barnes & Noble が、Nook ヌークという電子ブックの端末を売り出し、Amazon の Kindle キンドルに対抗しながら、小売りビジネスをも維持しようと必死になっていることは、アメリカでは周知の事実です。
Barnes & Noble にしてみれば、最大のライバルであった Borders ボーダーズが去年倒産したことが、却って彼らの恐怖心を煽ったはずです。そこまで、書店ビジネスが危機に瀕しているのかと。

特に、地元と密着した個人経営の独立系書店 Independent bookshop は、どんどん姿を消していることが、よく業界紙などでは話題になっています。将来の見えない書店の跡継ぎになる人がいないこと、それに加えてオンラインショップ、大型チェーン、さらに電子ブックという競争の激化が、こうした傾向に拍車をかけているのです。
そして、再販制度 resale system がないアメリカでは、書店が小売価格 retail price を決めることができるため、どうしても大手書店や大型のオンラインショップが価格戦略で優位に立つという指摘もありました。
I love independent bookstores — the feel, the smell, the randomness.
(私は、独立系書店の、雰囲気、紙の匂い、そしてとりとめのない書籍との出会いの場所を愛している)
と、この筆者は指摘し、そうした空間が消滅しつつあることを嘆いています。
そして、出版界は、小売ビジネスの崩壊と共に、大打撃を受け、電子以外の書籍がアメリカから消滅するのではという評論も、ちらほらというわけです。

しかし、この記事は決して出版界の将来を悲観しているわけでありません。
Another surprise: e-book readers also buy lots of paper books. The buyers of digital tomes “read more books in all formats.”
(電子ブックのリーダーは、同時に通常の書籍も多く買っています。電子書籍の書架をそろえる人は、あらゆるフォーマットで書籍を楽しんでいるのです)
と筆者は解説します。
実際、冒頭の文章のように、2008年から書籍の売り上げは向上。電子書籍という新たな市場に刺激され、読者は増えているのです。再販制度のないアメリカでは、いわゆる普及版 paperback の価格が時には電子ブックよりも安くなることもあり、人々はニーズやそのときの雰囲気に合わせて、書籍の購買方法を電子や通常書籍というふうに多様化させているのです。

最近、マイクロソフトが、Barnes & Noble の Nookに、大型の投資をしたというニュースもあり、さらに Apple が大手版元と価格提携をしているという独占禁止法での裁判もマスコミを賑わす中、電子ブックめぐる、アメリカの出版界は、まだまだ新たな市場へ向けての変動を続けてゆくでしょう。

それにしても残念なのは、そうした世界の動きとは無縁に、書籍が売れないとぼやき続ける日本の出版界。今回のアメリカの事例にみられるように、購買するチョイスが増えれば、読者の購買意欲も刺激されるという考え、残念なことに昔ながらの大手版元と取次の護送船団で運営される日本の出版界には無縁のようです。
コンテンツを産み出す産業は、その国の教育、文化、そして未来にも大きな影響力をもつだけに、思い切った変革が求められているのですが。どうなることやらとぼやくのは、出版界の人だけではないはずです。

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