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ポストコロナの発熱に揺れるアメリカとは

Bizarre incidents on recent flights have one thing in common: California.

(カリフォルニアでは、最近エアラインでの奇妙きてれつな事件があまりにも多い)
― ロサンゼルス・タイムズ より

住宅価格の高騰に見るアメリカ経済の変化

 このところ、アメリカの友人とZoomなどで会議をするたびに面白いことを聞かされます。明らかに、アメリカはポストコロナバブルへ移行しようとしているように見えるのです。
 とはいえ、コロナの脅威が完全に去ったわけではありません。イギリスでのデルタ変異株による罹患者の再増加のニュースなど、ワクチンが行き渡ったとしても、まだまだコロナウイルスを警戒しなければならない状況に変わりはありません。
 しかし、アメリカ人のほとんどが、すでにパンデミックは過ぎ去ったものであるかのように思っています。それが経済活動にも驚くべき速さで影響を与えているのです。
 
 例えば、アメリカ中西部の知人は今、自宅を売却しようとしています。理由は住宅の価格がなんと、この一年で1.7倍にも高騰しているからです。売ろうと決めてから数週間で買い手は見つかるというのです。
 確かに売り手がいれば買い手もいるようで、彼らはいかにもアメリカ人らしく、住宅は一生ものではなく投資対象と捉え、あっさりと利益を享受しようとしているわけです。
 
 そして、ニューヨークの友人によると、今マンハッタンの繁華街はコロナ以前と全く変わりないまでに賑わっているそうです。まもなくブロードウェイなどの劇場も通常の営業に戻り、街は外国人観光客こそ少なくなっているものの、アメリカ各地からの訪問者で活気が戻っているのです。そんなニューヨークの郊外に住む友人も、ハワイへ移住しようとしたものの、住宅価格が高騰したため、思ったように物件が探せず当惑しているようです。
 
 半年前まで、コロナパンデミックは、アメリカ社会を窒息させるかのような閉塞感に追い込みました。第二次世界大戦の死者を上回る60万人の犠牲者を出し、アメリカ社会が分断される中で、人々は出口の見えない毎日を送っていました。それがあっという間に変化しようとしているのです。
 

アメリカのバブル景気とマーケットの回復基調

 今でも多くの地域では、外出時や公共交通機関でのマスク着用を義務付けていますが、それも少しずつ緩和されようとしています。当然、人の動きも活発になります。
 民間航空機の利用も増え、機内でのマスク着用を拒否した乗客のために運行が遅延する、といったようなハプニングも相次いでいるのです。ロサンゼルス・タイムズでは、そうした乗客とのトラブルがカリフォルニアで増えていると報道しています。その報道の一部が、今回のヘッドラインです。
 
 航空会社はパンデミックのために業務をどんどん縮小しました。そのために人員削減も進み、一時は経営自体が危ぶまれました。ところが、最近の需要の急増で、航空業界は一挙に業務を拡大したのです。当然そのための人員補充が追いつかず、サービスの提供もうまくいかず、顧客とのトラブルも増加。ロサンゼルス・タイムズによれば、サウスウエスト航空では乗客が客室乗務員と言い合いになり、挙句の果てに乗務員に殴りかかったという事件まで起こる始末です。その乗客は罰金刑とともに、終生このエアラインへの搭乗を拒否されるという措置を受けたようです。
 
 よく「戦時バブル」という言葉を耳にします。戦争が起こると、国を挙げて戦争遂行のために生産力を拡大させ、それがバブル景気へと繋がるわけです。
 コロナの場合も、ある意味では戦争に似た状態でした。しかし、パンデミックの最中は人々の動きが制限されたため、経済活動は打撃を受けました。そんな経済活動を支えるために、政府は多額の財政出動を行います。そして、ワクチンがいち早く普及し、ドラッグストアなど、ありとあらゆる場所で接種を加速した結果、パンデミックの脅威が急速に縮小したのです。
 
 だぶついた市場の資金が投資に回り、住宅価格が高騰すれば、それに引きずられて景気も上昇します。人々の動きも活発になり、戦時バブルならぬ「ポストパンデミックバブル」へとアメリカが浮かれ出したのです。それでなくても、未来志向の国民性で知られるアメリカです。あたかも60万人の死者の恐怖すらなかったかのような、人々の心理状況の急激な変化には確かに驚かされます。
 
 当然、そんなアメリカへの移民も増えつつあります。
 新たに発足したバイデン政権は、トランプ前大統領が作ろうとしたメキシコとの国境間の壁の建設を中止し、国境を越えて流入する中米各地からの不法移民も増えています。この問題が新たな移民をめぐる論争になろうとしています。
 
 さらに、留学マーケットも回復基調にあります。友人の経営するアメリカの語学学校も、一時は倒産の危機に見舞われていました。航空会社と同じように、大急ぎで業務を縮小し、9校あった学校を4校まで減らしたところで、ワクチンが行き渡り、中南米や中東、さらには日本からも学生が戻ってきています。アメリカに着けば、何もなかったかのようにごく普通に入国でき、学校で授業が受けられるのです。
 コロナの脅威に苛まれ続け、ワクチンの接種も大幅に遅延した日本からは想像もできない、太平洋の向こう側の状況というわけです。
 

先の読めないアメリカの動向と世界経済への影響

 とはいえ、このアメリカの動向は経済学者にとってもなかなか解説しにくいものとなっているようです。
 まず、何と言ってもコロナが終息したわけではありません。これだけ経済活動が活発になれば、どこでどのような変異株の脅威にさらされるかは、まだ予測がつきにくいはずです。さらに戦争バブルと同様に、こうした心理状況が生み出す好景気はちょっとした状況の変化で弾けることもありえます。
 変化することをよしとして、リスクを取り未来に向かうことに積極的なアメリカ人気質によって作り出された今回の景気の上昇が、沈滞する世界の経済、とりわけ日本を含むアジアの経済にどう作用するかも未知数です。
 
 第二次世界大戦が終わったとき、物理的な被害が甚だしかったヨーロッパや極東地域の経済が壊滅状態だったこともあり、アメリカは世界経済を牽引する巨人として繁栄を謳歌しました。今回のアメリカの回復が、そうした巨人の再来になるのか、それとも単なる短絡的なバブルで終わるのか。この先行きが、国際通貨や株式市場にどのような影響を与えるのか。これを正確に読み解くことは困難です。
 それだけに、アメリカ人の生の声や、今の心理状況をしっかりとモニターした報道が、日本であまりにも少ないのが気になるところです。こうしたアメリカでの消費動向が、アメリカのみならず、国際政治にどのような影響を与えるのかも注視する必要があるのです。
 

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