海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

ボストンでの爆弾事件が語るもの


【海外ニュース】

A grim hunt for answers in wake of Marathon attack; Bomb pieces, circuit board found; FBI requests tips
(Boston Globe より)

マラソンでの爆弾テロに対して徹底した調査を。爆発物の配電板を発見。FBIは情報提供を求める

【ニュース解説】

私が最初にテレビでボストンマラソンでの爆発のシーンをみたとき、爆発物はハンドメイドじゃないかと直感しました。
理由は、二つの爆発の威力がそれぞれ異なるという稚拙さがあり、かつ全体的な殺傷能力もプロによる爆殺にしては脆弱に思えたのです。しかし、それが故に今回の事件は脅威となります。つまり、こうした事件はアメリカ社会のみならず、日本を含むそれぞれの国が、いかに複雑で混沌とした社会構造の上に成り立っているかを見せつけるからに他なりません。

事件がおきたとき、真っ先に思い出したのが、1978年から95年にかけて、全米各地の大学や航空業界などに爆発物を送り続けたセオドア・カジンスキーのケースです。
ユナボマーと呼ばれたカジンスキーは、優秀な数学者で、カリフォルニア大学バークレー校で助教授として教鞭をとったあと辞職し、モンタナ州の電気も水道もない山小屋に隠棲して爆弾魔となったのです。
犯行について、彼には彼なりの理由があり、産業社会に支配される人間への警鐘として、現代社会への破壊活動を正当化していたのです。
世界を驚愕させた同様のテロ事件は、1995年3月に日本でもおきました。オウム真理教による地下鉄サリン事件です。そう、今回の事件などが報道されると、我々は「危険な外国」というステレオタイプを抱きがちです。しかし、日本でも、こうしたことは充分おこりうるのです。

ところで、アメリカには大きく分けて3つのテロ活動のリスクがあります。
最初は、いうまでもなくアルカイダなど、イスラム原理主義者の国際テロ組織からの攻撃です。
2番目は、アメリカに伝統的にある連邦政府やグローバルな巨大資本などへの憎悪を動機としたテロ活動です。
このことについては、私も以前この紙面で詳しく解説しました。去年の 2月24日に掲載した「アメリカの保守主義とアメリカ流フリーダムの価値観」という記事を参照ください。
ここに解説したオクラホマでの連邦政府ビルの爆破事件がこの2番目のカテゴリーの典型となります。この事件も地下鉄サリン事件と同じ年におきています。
また、カジンスキーの犯行動機に背景にも、そこで解説した事柄と酷似した「地方分権の理想と個人の自由という原理」を踏みにじる巨大産業への憎しみがうかがわれます。
そして3番目が、1番目のアルカイダなどとも関連しますが、移民によるアメリカ社会への不適応からおきるアメリカ内部で産まれるイスラム原理主義活動、さらには反アメリカ活動となります。これはアメリカだけではなく、イギリスなどでも深刻な問題となっています。テロ活動は常に輸入されるものではなく、多くは「国産」であるという認識を FBI は強く抱いているのです。
もちろん、アメリカにも「愉快犯」や、個人的な異常心理による犯行も存在します。しかし、これらの多くは爆弾を製造して起爆させるという犯行ではなく、ネット犯罪、さらには銃の乱射などへとつながります。

さて、ここで、今回の事件がおきたときの、アメリカのメディアの動きを注視してみます。
事件直後、既に容疑者が病院に運ばれているといった誤報はありました。しかし、殆どのマスコミは、アルカイダなどイスラム原理主義への容疑を報道しませんでした。
9.11 のときに、過敏な報道によって、アメリカ国内のイスラム教徒が差別に合うといった被害を受けた教訓は、マスコミの中でも活かされています。
また、1989年にサンフランシスコで大地震がおきたとき、CNN などがいち早くゴールデンゲイトブリッジなどが倒壊したという誤報を流し、混乱を煽った教訓から、大惨事の時の誤報やデマの弊害を真剣に考えるべきだという世論が巻き起こりました。

今回も、CNN のみならず、ニューヨークポストなどの大衆紙にいたるまで、極めて冷静に事態の変化を注視した対応は評価されます。
ただ、それだけに、逆に事実がなかなか把握できなかったというジレンマもおきましたが。
ここに紹介した Boston Globe の報道も、現在の捜査状況や各地の反響を淡々と伝え、pressure cooker (圧力鍋) が爆弾として使用された状況などを報道しています。また、circuit board (配電板) が発見され、このボードの分析によって起爆装置をタイマーによって作動させたか、遠隔操作で作動させたかを見分けることができるだろうといった専門家のコメントを掲載しています。

You’re looking for a needle in a haystack, but the needle is there.
(干し草の山の中から針をみつける仕事をいまやっている。でも針はそこにあるのだ)
という専門家のコメントが印象的です。
つまり、現在 FBI などの捜査陣は、現場で収集した全ての破片を組み合わせて、爆発物を再現することからはじめよういう根気のいる捜査を続けているということなのです。

山久瀬洋二の「海外ニュースの英語と文化背景・時事解説」・目次へ

山久瀬洋二の活動とサービス・お問い合わせ