その一言が!乗り越えよう異文化摩擦

エグゼクティブ・コーチング(25): 日本を紹介するノウハウについて(その2)


「おもてなし」の心を本当に理解してもらい、喜ばれるには

前回に引き続き、日本の文化や価値観を海外の人にどのように理解してもらい、そして楽しんでもらうかというテーマについて、考えてみたいと思います。

前回、日本を特別視したり、日本の発想や価値観をただユニークなものだという意識で相手に語ったりしても、それがうまく伝わらないだけではなく、思わぬ反発を呼び起こすリスクについて指摘しました。

今回は、それに加えて、我々が良いだろうと思っていることが、必ずしも海外の人にはそうは受け取られない点について指摘してみます。

日本の文化は「与えられる文化」であるといわれます。
例えば旅館に泊まったとします。すると宿泊者はそこでもてなされる料理などを、こちらから能動的には働きかけません。旅館が提供するサービスを、そのまま楽しみ、そこの料理や温泉を堪能します。
レストランなどでも、メニューに書かれている料理をそのまま注文しますし、懐石料理など高級な料理屋さんに行ったときは、正に相手がだしてくる料理をそのまま楽しみます。
このこと自体、決して悪いことでもなければ、そこに素晴らしい日本の「おもてなし」の心があることは事実です。
しかし、この発想だけに固執しておもてなしをすれば、相手が窮屈に思うことがあるかもしれません。

欧米の文化は「働きかける文化」です。そして、このことを知っている人は余り多くはありません。
例えば、アメリカを旅して、レストランに入れば、ビールを頼むときも、「ビールをください」というのではなく、そこであつかっている銘柄を聞き、その中から自分の好みのビールを選びます。
さらに、朝食にフレンチトーストを注文したとして、「添え物にベーコンとイチゴのスライスをつけ、フレンチトーストの上には目玉焼きをのせてください」というふうに、自分の好みを能動的に相手に伝え、注文します。

この受動的なおもてなしと、能動的な申し出を受けて対応するサービスとの意識の違いを、我々は知っておく必要があるのです。

海外から来る旅行者の多くは、そうした能動的な発想で、我々には思いも寄らない旅をしようとします。自分で手打ち蕎を体験し、手造りのおそばを楽しもうとしたり、人によっては怪談話を聞きながら日本の古い墓地を夜散策したりと、実に独創的な発想をするのです。

我々が「おもてなし」を考えるとき、ただこちらがいいだろうと思うことを供給するのではなく、そうした素材を与え、能動的に選んでもらい、旅を創造する発想を持つことも、我々が考えなければならない「おもてなし」なのです。そして、こうした能動的な行動を、積極的にサポートをしてゆくことが、日本人ならではの、気遣いあるおもてなしになるのかもしれません。
Do it yourself という言葉がありますが、自分で旅を切り開く楽しみを彼らが堪能できれば、それが最高のおもてなしになるはずです。

それではどうすればよいのでしょうか。
我々は得てして、「素晴らしい日本をぜひ体験してください」と意気込んで、パッケージを与えようとします。そうではなく、まず必要なのは適切な情報なのです。情報は多いほど歓迎。あとは彼らがそこから選び、組み合わせ、自分の旅を組み立てます。
さらに忘れてはならないことは、例外への対応です。
日本で飛行機に乗っていると、離着陸時のアナウンスなど、マニュアルに書かれている案内はバイリンガルでよく対応しています。しかし、到着の遅れなど通常ではないことがおきたとき、必ずしも適切に対応しているとは思えません。

「日本では、緊急なときは自分でなんとかしなければ、誰も教えてくれない」と日本に住むある外国人が言っていたことがあります。
ついつい完璧に「与えよう」と意識するあまり、英語での対応が正しくできないのではなどと危惧して、そうした例外への対処が疎かになるのでしょう。
これも、「与えられる文化」のもたらす誤解です。

与えられる側は、与える側の完璧さを要求します。そのため与える方もついつい完璧主義に徹しようと苦慮しがちです。
しかし、能動的な発想を持つ人が欲しいのは、まず生きた情報なのです。情報は使えればよく、完璧な表現は必要ありません。時と場合によっては、英語ですら完璧である必要も、文章がしっかりと綴られている必要もないかもしれません。
看板や、道路標識をバイリンガルにすることも大切ですが、常に片言でもいいから海外の人に適切な情報を提供する意識造りが、日本の「おもてなし」には欠けているのです。

これも、能動的に判断する海外の人への心遣いとして、是非習得して欲しいノウハウといえましょう。

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