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紙面に露になる矛盾に揺れる中国の苦悩

【海外ニュース】

1)China can help set dynamic global agenda
中国は日々変化するグローバルな課題の設定に寄与する用意がある

2)China wants objective media reports on terror
中国はテロの脅威にメデイアが客観的であってほしいと要望

3)China urges impartiality for US newspaper on Diaoyu Islands
アメリカメディアに魚釣島に関する公平な扱いを要求

4)China Phases out organs from executed prisoners
中国は処刑された囚人から臓器移植を削減してゆく予定

5)Beijing cuts new car plates by 90,000 for 2014
北京は 2014年までに車のナンバープレートの発行を9万件削減する予定

(いずれも China News より)

【ニュース解説】

11月6日に、天安門前での乗用車が炎上した事件に続き、山西省の共産党省委員会のビルの前でも爆発事件がおきました。党中央委員会第3回全体会議 (3中全会) という重要な会議の開幕を9日に控える中国。指導部にとって、開幕直前におきたこうした事件は、貧富の差や、少数民族への差別、地方での土地の強制的な接収、賄賂の横行などへの国民の不満が露呈した事件として深刻に捉えられているはずです。そこで今回は、思い切って、5つのヘッドラインを中国の英字新聞から取り上げて、今の中国でおきていることを俯瞰してみたいと思います。同じ日に掲載された記事を比較すれば、現在の中国の苦悩と不安が浮き彫りにされてくるからです。

「習近平は重く腰を据えたままなかなか行動しませんね」
最近ある台湾のジャーナリストにこのように質問したとき、
「いえね。動かないのではなく、じっと機会を伺っているか、それとも動けない状況にあるのか、どちらかなのですよ」
 とその人は答えてくれました。

中国の政治は様々な利権と権力闘争の中で展開されるといわれています。山積する課題に対して、習近平体制で大鉈をふるって改革 reform を行うには、その混沌の沼が深すぎるのでしょうか。

1番目の記事は、中国が自らの課題を克服し、そこで培う経験や技術を世界規模の問題の解決に向け積極的に提供するというもので、環境問題、ナノテクノロジー、さらには中国の伝統的な価値を高齢者から学び、拝金主義を変革し世界に貢献してゆこうと解説しています。今や世界は、あらゆる国や人々がネットワークしたダイナミックな活動の中で経済を発展させてゆく時代にはいっており第二次世界大戦によって造られた体制と価値に頼った世界戦略は既に前時代の遺物であると説くのです。これは、アメリカを中心とした経済体制を間接的に批判し、アジアやアフリカで求心力をもって中国が世界経済でのリーダーシップを担ってゆくという野心的な記事でもあります。

しかし、大国になった中国は、それでも実は海外のメディアや報道に対し常に神経を尖らせています。それが、2番目と3番目の記事にあらわれています。
2番目の記事は、今回の天安門前広場でおきた車両火災の報道が、中国での少数民族への抑圧の結果による抗議行動だったとみる欧米のメディアへの不快感を示したもので、中国はテロと闘ったのだと強調した記事です。
さらに3番目は、魚釣島、すなわち尖閣列島問題でアメリカのメディアが日本寄りとも捉えられる報道をしたことに対する抗議の記事。
中国は明らかに自身の問題を認識しています。だからこそ、海外からの批判に敏感になり、かつ尖閣列島の問題も、自らの面子を維持しながらどのように幕を引くか、微妙な表現をちらつかせながら、神経を尖らせています。

そして、中国はそうした海外メディアや世論に対応するためにも、国内問題に必死で取り組まなければなりません。まず、人権問題。4番目の記事はそれを象徴的に示したものです。
中国では囚人が処刑されると、その臓器 organ はそのまま病人への移植 transplantation に使われます。そしてその臓器をめぐる汚職やお金のやりとりが恒常的になり、より裕福な病人が優遇されるという矛盾がおきています。そもそも臓器提供は人の「善意の意思」によってなされるべきものと欧米から批判されていたのも事実です。今回中国はそれに対応しようとしたわけです。
そして最後の記事は、世界が危惧する大気汚染への対策として、北京市が新車の認可数に厳しい規制を設けるというもの。大気汚染に関する危惧は、この他にも2つの大きな記事として掲載されていました。

中国は苦悩する巨人です。そして面子の国です。
自らの政策の正当性を強調しながらも、海外からの指摘や批判を無視できない以上、自らの面子を汚さないよう、政府が主導し民間を規制しながら事態を好転させてゆこうとする思惑が、全ての記事から伺えます。
さらに、こうした問題に苦しみながらも、巨人中国として敢えて世界をリードしてゆくスタンスを示しているのが最初の記事に他なりません。
記事の中で、我々の生きる時代は、一つの中心を維持するのではなく、クラスター的なアプローチ cluster approach により双方向の世界観 bilateral approach を尊重することが必要と説いています。そして中国はそんな未来に立脚した政策を維持してゆくと強調します。
しかし、中央集権国家で、メディア規制が公然と横行する中国がいかにそうした世界観に貢献できるのか、疑問が残ります。

一枚の新聞。それも一面にこれだけの矛盾が読み取れる紙面はめったにありません。それだけ、中国は揺れています。そして習政権が動かぬ巨竜なのか、怒り断ずる巨竜なのか、世界が注視しています。
こうした内外の緊張と矛盾の中で、ますます流動的になる中国の政策を、その背景を考えず短絡的に解釈する危険性をこの紙面は物語っているともいえましょう。

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