海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

ケネディ大統領暗殺50周年の意味するもの


【海外ニュース】

Forty years after his death, John F. Kennedy and his cruelly abbreviated presidency continue to resist generalization.
(2003年11月22日のニューヨークタイムズ より)

暗殺によって無惨にも中断されたその任期は、ジョン・F・ケネディの評価そのものを今なお困難にしている。

【ニュース解説】

アイルランドを旅すると、ニューヨークのブルックリンブリッジの写真がパブなどの壁にはってあるのを見つけることがあります。
マンハッタン南部は、昔アイルランド系をはじめとする、ヨーロッパ各地から移民が居住する地区として知られていました。そこにかかるブルックリンブリッジの写真は、移民たちが本国に送る格好のイメージだったのです。

そして、アイルランド系移民にとっての自慢は、初めて彼らの子孫として大統領に就任した John F.Kennedy にほかなりません。
アイルランド系移民は、アメリカでは後発の移民で、しかもカトリック系。元々アメリカで幅をきかせていたプロテスタント系の移民にとっては正に差別の対象でした。No Irish Need To Apply (アイルランド系はお断り) という言葉が当時はよく使われていました。これは、仕事の募集などのときに、アイルランド系の人を閉め出したスローガンです。

差別された彼らは、公務員となって社会進出を試みます。アメリカの都市部の警察官や消防士にアイルランド系の人が今でも多いのは、そうした背景によるものです。やがて彼らは数の力で政界に進出します。街の実力者にのし上がるために、彼らはマフィアなどとも連携します。

このあたりの移民同士の壮絶な確執を描いたのが、レオナルド・デカプリオが主演した映画、Gangs of New York だったのです。

今回のヘッドラインは、ちょうど10年前のニューヨークタイムズの記事からの抜粋です。11月22日は、そんなアイルランド系移民にとっての英雄、ケネディ大統領が暗殺された日です。今日はあれから50年の月日が経ったことになります。

50年前のその日は、ちょうど日本とアメリカとの間で衛星放送が始まった記念すべき日でもありました。
衛星を通して、世界のニュースがオンタイムで映像とともに日本の茶の間に届くことになり、皆がテレビの前に集まった、その最初のニュースが、この悲劇だったのです。

実は、ケネディが今なお人気のある大統領のベスト5に入るのは、こうした貧しいアイルランド系移民の子孫が大統領になったことと無縁ではありません。
彼の曾祖父パトリック・ケネディは、アイルランドの New Ross という小さな村の貧農でした。1840年代に飢饉に疲弊する故郷を捨てて、ボストン郊外に移民し、そこで樽職人として身をおこしたのです。
彼の祖父パトリック・ジョセフ・ケネディは、ボストンの港湾労働者として働き、酒屋の経営で頭角を表し、地元の政界にデビューします。そしてその息子、すなわち、ケネディ大統領の父親ジョセフ・パトリック・ケネディが、その地盤を受け継いで大物の政治家となり、民主党を改革し、世界恐慌を乗り切った後、第二次世界大戦を指導したフランクリン・ルーズベルト政権下ではイギリス大使も勤めました。

ケネディ大統領は、アイルランド系初、同時にカトリック系初の大統領でした。その任期の途中で暗殺されたことが、彼をさらに神格化してゆきます。
そして、彼の暗殺を巡るマフィアなどを巻き込んだ様々な疑惑、生前のマリリン・モンローとの不倫疑惑、政治面では、キューバ危機を巡るソ連との絶妙な駆け引きや黒人差別撤廃を目指した公民権運動の推進など、正にアメリカの繁栄と激動の時代の指導者として、人々の記憶に残っています。

今、オバマ大統領がアメリカ初の黒人の大統領となっています。
彼がケネディ大統領と同じように歴史に名を残すかどうか。アメリカの黄金時代を担った、華やかで劇的な大統領と、21世紀の硬直し低迷する政治や経済の狭間に苦しむ実務派の大統領。それを比較すれば、古き良き時代のアメリカの明暗と、現在のアメリカの葛藤とが、共に浮き彫りにされてきます。

ちなみに、ケネディ大統領の曾祖父パトリック・ケネディが、アイルランドからボストンに渡り、苦労の果てに35歳の若さでコレラにかかり死亡したのは、1858年11月22日。ケネディ大統領が暗殺されるぴったり105年前のことだったのです。

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