海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

グローバルスタンダードでの悲劇の後の対処とは


【海外ニュース】

‘We are looking at every inch of the sea’
Family members of passengers on Flight 370 are told to brace for the worst, as Malaysian authorities say they have found no sign of the missing passenger jet, two days on.

(CNN より)

「我々は海上の隅々までくまなく探しています」マレーシア当局のこの2日間行方不明者の安否に関する情報が何もつかめないという発表を受け、370便の搭乗者の家族は、最悪の事態への心づもりを。

【ニュース解説】

航空機の事故は痛ましいものです。
この記事が掲載される金曜日の段階には、行方不明となったマレーシア航空 370便の搭乗者の安否ついて、少しでもよい方向への進捗があることを祈っています。

今回は、このニュースを受けて、事故や悲劇がおきたときの、関係機関の対処の方法について、語ってみたく思います。危機や事故への対応を、グローバルなスタンダードに基づいて検証したいのです。
あってはならないことですし、できれば避けたいものですが、人が生きてゆく上で事故や悲劇はつきもの。それは、企業が予測しようが準備しようが、運命として容赦なく降りかかりうるリスクです。

まず、日本では、こうした事件がおきると、記者会見で会社の責任者が起立し、お詫びとともに、そろって頭を下げます。声明文もまず深いお詫びの一文からはじめます。しかし、これをそのまま英語に翻訳したり、グローバルな場に持ち込んだりすると、思わぬ誤解の原因になることをどれだけの人が知っているでしょうか。

マレーシア航空は、事故の第一報をリリースしたときに、We deeply regret that we have lost all contacts with flight MH370 (残念な事に、マレーシア航空370便との連絡が全く途絶えてしまったことを発表しなければなりません) と英文でアナウンスしています。その文章のどこにも apologize、つまり「お詫び」という言葉はありません。その翌日も、同社は We are deeply saddened this morning with the news on MH370 (マレーシア航空 370便の今朝のニュースに関し、大変心を痛めている状況です) という文章でプレスリリースをはじめています。
そして、このプレスリリースの英語表現には特に瑕疵は見当たりません。

では、何故英語の世界では apologize という一言が発せられないのでしょうか。
もし、マレーシア航空自体に重大な意図や過失があって、この事件がおきた場合は、お詫びの一言は必要でしょう。しかし、現段階では事故が何が原因でおきたのかは誰にもわかりません。論理的にみて、その段階で apologize という言葉を使う事は不適切なのです。
日本では、まず「お詫びをしてから」という日本独自の発想に従って、apologize の一言が最初の段階で表明されます。しかし、それは英語の発想でいえば、意味のない、時には無責任にも聞こえかねない声明になってしまうのです。
「この度は、関係者、そしてお客様に多大なご迷惑とご心配をお掛けしましたことを心からお詫び申し上げます」という文章は、日本語ではそれなりの意味がありますが、英語の感覚では翻訳すらやりにくい、無意味なものなのです。

この感覚の違いは、国際社会では重要です。海外のメディアに晒されている環境で、日本企業などがこの感覚の違いに気付かずに、無用な誤解を与えた事例が数えきれないほどあるからです。

大切なことは、お詫びではなく、的確な情報公開と、再発防止や改善に向けた具体的なアクションプランの表明です。それなくして、ただ「暫時努力を重ねています」というような表現がお詫びのあとにあるだけでは、何かを隠蔽しているとか、問題解決へのリーダーシップのなさ、能力のなさを問われるだけになってしまうのです。お詫びでごまかしている。災難というよりは、彼ら自身に何か問題があったのではと思われてしまいます。

もし、声明の中にお詫びの一言をいれたければ、apologize ではなく、We are sorry for the… という一文で事故などで被害を受けた人へのお見舞いの表現としてそれを伝え、冒頭にはおこったことへの「悲しみ」や「遺憾」の表明を、このマレーシア航空のリリースのように行うべきです。
危機管理の重要な要素の一つが、プレス対応です。そこでのグローバルスタンダードを学ぶことは、今後の日本企業にとって避けては通れない課題といえましょう。
We regret… あるいは We are deeply saddened… といった表現は、日本人の感覚からすれば、人ごとのような、無責任なメッセージだと思われがちです。
しかし、海外からみれば We sincerely apologize などという表現の方が、「不可思議な日本人」と誤解される可能性があることを、ここに敢えて強調したく思うのです。

マレーシア航空機の事故の一日も早い原因究明を祈りたいと思います。

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