海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

殺人事件の容疑者が保釈される裁判とは


【海外ニュース】

Oscar Pistorius opens defense with tearful apology to Steenkamp family
(CNN より)

オスカー・ピストリウスは自らの弁護にあたってスティーンカンプ一家に涙ながらに謝罪

【ニュース解説】

1994年に、妻とその友人を殺害したという容疑で、アメリカンプロフットボールの英雄 O・J・シンプソンが逮捕されたとき、その青天の霹靂に全世界が注目して既に20年。
今、南アフリカで同様の裁判が行われています。
被疑者の名前はオスカー・ピストリウス Oscar Pistorius。あのロンドンオリンピック、そしてパラリンピックで義足のランナーとして世界中に感動を与えた選手が、今ガールフレンドの殺害容疑で、南アフリカのプレトリアで裁判にかけられているのです。

O・J・シンプソン事件のときは、捜査官の偏見などが取りざたされ、人種問題まで絡んだ裁判となり、全米で注目されました。
ピストリウスの事件では、担当刑事自身の別件の殺人事件への関与など、様々なスキャンダルが混在し、それに捜査段階での不手際なども指摘され、O・J・シンプソン事件と同様に裁判の行方は混迷しています。
ピストリウスは一貫して無実を主張。恋人のリーバ・スティーンカンプを、住居侵入を図った暴漢と間違えて射殺したと主張しています。

実は、この事件、アメリカでも多くのメディアが注目し、CNN などでも毎日のように裁判の経過が報道され、ワイドショーにも大きく取り上げられているのです。そんな事件の公判の最中、今週の月曜日にピストリウスが遺族に対し過失であったとはいえ、多大な苦しみを与えたことを、涙ながらに謝罪したのでした。

“I would like to take this opportunity to apologize — to Mr. and Mrs. Steenkamp, to Reeva’s family — to those who are here today who knew her,” Pistorius said as he took the stand at his murder trial.
“I can’t imagine the pain and the sorrow and the emptiness that I have caused you and your family. … I can promise you that when she went to bed that night, she felt loved,”

「私はスティーンカンプ夫妻、リーバのご家族、彼女の知人でここにいらしている方々に、この場を借りてお詫びしたい」ピストリウスは彼にかけられている殺人容疑の裁判にあたって、このように発言した。「私のしたことで、どのような痛みと悲しみ、そして彼女を失ったことからくる喪失感を皆さんに与えたか、それは想像を絶するものであるはずです。ただ、彼女はあの夜、ベッドで確かに愛されていたと私はここに誓うものです」
CNN は、彼の発言をこのように赤裸々に報道しています。

この機会にというときに Opportunity という単語を使っていることも、英語の上で覚えておくといいでしょう。Opportunity はこのように、未来への好機を示すためだけに使う単語ではないのです。

さて、本題に戻りますと、この裁判、実は被疑者のピストリウスは保釈されていることを知っておきましょう。しかも、保釈にあたって国外に出てはならないとされたことを不服とし被告側は抗議。結局試合のために海外に出ることは許可されました。日本で殺人事件の容疑者にこのようなことがありえるでしょうか。
また、裁判の模様は、この涙の謝罪も含め、逐一テレビで報道。南アフリカどころか、この事件に興味をもつ全米の視聴者はもとより、CNN などを通し世界中にその模様が流れています。

O・J・シンプソン事件、そして今回のピストリウス事件に共通していること。それは、多くの国での裁判のあり方が日本の実情とあまりにも異なること。
テレビ中継まで交え、事件の真相を巡るやりとりが報道され、被疑者の保釈条件も、逃亡のおそれなしと決定されれば実に柔軟に対応。被疑者と被害者双方の人権をいかに配慮するかという「常識」が、文化や制度によってこうまでも異なるのかを実感させられます。

ちょうど同じ頃、日本では袴田事件の再審開始が決定され、人生の大半を牢獄で過ごした袴田氏が釈放されました。そして同じときに、既に死刑が執行されてしまった飯塚での幼女殺人事件の再審請求は DNA の資料などが開示されないままに却下され、高等裁判所に抗告されたことが報道されました。
いずれも、検察官に証拠が握られたまま、裁判に傍聴者はいるものの、証拠などを巡る扱いは密室におかれたままで被疑者が裁かれる実態が報道されました。
日本では検察官の訴追した刑事事件の殆ど全てに有罪判決がおりているという異様な事態を、多くの日本人は違和感なく捉えていると、海外の識者は指摘します。

さて、再び南アフリカへ。
ピストリウスの裁判がどうなってゆくか。裁判にはさらに一月以上の時間がかかるだろうとメディアは報道しています。
その是非はともかくとして、我々はその一部始終をお茶の間におかれたテレビで追いかけることができるのです。

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