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自動車会社のスキャンダルへの海外の反応が語るもの

【海外ニュース】

Suzuki admits fuel testing issues but denies cheating.
(BBCより)

スズキは燃費データの問題は認めたものの、改ざんではないと発表

【ニュース解説】

三菱自動車やスズキ自動車で、燃費データなどの改ざん疑惑が話題になったときに、BBC をはじめ海外のジャーナリストが、硬直した日本の組織について解説をしていました。
その多くが、上下関係のピラミッドが組織を貫いている日本企業では、個人がリーダーシップをとり課題を調整してゆくことが極めて難しく、何か企業内に問題があっても、それをなかなか改善することができないと指摘しています。

一般的に、日本企業は決裁が遅いことで知られています。
組織の中で何度もコンセンサスをとり、検証を続け、あちこちからお墨付きをもらわない限り、組織が舵をきることができません。
まず、決裁をして、動きながら調整を重ねて物事を進めてゆこうとする欧米型の組織とは対照的なのです。
日本型の組織運営の場合、確かに一度決裁がおりれば完璧なまでに準備が整っているために、決裁の後は組織力をもって物事を前に進めてゆける強さがあるかもしれません。しかし、あまりにも全体のコンセンサスを重視し、同時に事前に検証することに重きをおくばかりに、状況への迅速な対応ができず、硬直した組織の中でビジネスチャンスを逃してゆくことも多々あるのも事実です。
それに対して欧米型の組織では、決裁は早くするものの、その後状況によってはその決裁を覆すほどの変更も平気で行います。
日本側からみるならば、その変わり身の早さが、無責任きわまりなく映るわけですが、彼らからしてみると、状況に柔軟に対応しているために、いざというときには迅速な調整が可能になるというわけです。
BBCの記者たちは、こうした日本企業ならではの組織の問題を指摘しているわけなのです。

実は日本型の組織の弱点が最も顕著に現れたのが、先の戦争でした。
まず、日米開戦を決裁するとき、当時の指導者の誰もがその無謀な決裁に対して疑問を持っていたとされています。しかし、アジアでの権益の拡大と、ドイツとの同盟関係の中でアメリカやイギリスとの対立が深まってゆく現実に、誰も異を唱えることができないままに、全体のコンセンサスという、見えない「怪物」に背中を押されるように、日米開戦へと進んでいったといわれています。

そして、日本の戦況が悪化していったときも同様でした。
ドイツが降伏し、硫黄島や沖縄が陥落し、さらに日本中が空爆にさらされて、戦争を遂行する人的物的資源にも限界が近づいていたにもかかわらず、誰もが降伏をするという決断を語り出せないままに、連合国からのポツダム宣言への対応を怠ります。その結果、広島と長崎に原爆がおち、ソ連が参戦してくるという決定的なダメージを受けるまで、日本側は決裁をできなかったのです。

ところが、一度決裁がおりれば、あとは全てをその方向に向けて動かすことができるのも、日本の特徴です。1945年8月15日以降、一部の例外を除いて、全ての戦闘行為が消滅したのみならず、国民全体が連合国による変革を驚くべき早さで受けいれます。ドイツの場合、ベルリンが陥落し、文字どおり有無を言わさずそれまでの体制が消滅したことと比較すると、日本の場合は本土に連合国が侵入することはなく、あくまでも日本側に決裁によって終戦が断行されたのです。つまり、日本は最終的に決裁すれば、後は自らの力によってそれを徹底させてゆく組織力を発揮できるというわけです。
よく日本には黒船が必要だといわれます。
日本という組織が変化するきっかけとなったのは、黒船到来と終戦による占領でした。自動車業界が経済的に苦境に立たされたとき、日産はルノーによって、マツダはフォードによって組織を大きく変革しました。これも黒船による改革だったわけです。

今回の三菱自動車とスズキでの改ざん問題を考えるとき、それがそのままここに紹介した組織の問題と直結しているかはわかりません。
ただ、日本の組織は、人がリーダーシップをとる組織というよりも、人が組織に従うための組織という側面がなきにしもあらず。従って、これはまずいんじゃないかなと思いながらも、誰もそれを指摘できず、ずるずると重大な事態になるまで状況を放置しているということが起こりうるのではないでしょうか。ちょうど、ハメルンの笛吹き男に従って湖に向かって行進してゆく子供のように、誰もが組織に操られ、ただ行進をしてゆく様子は、日本のあちこちで見受けられる悲しい現実です。人との和を重んじ、出る杭にならないように、他と、特に上司や企業の方針に自らを合わせてゆく硬直した常識が、日本企業を苛んでいるのです。
そして、何か課題をみつけ、提案した場合も、その検証を徹底的に行うことで担保しようとするあまり、結局一つ一つの「木」について語りすぎ、森全体を動かす決裁ができないケースも多くあるようです。

バブルの崩壊以降、日本型組織の弱点が指摘されて久しいものの、その根本にメスをいれることができずにいるのは、教育や政治、さらに人の心に植えつけられている常識の変革という多岐で複雑な要素が絡んでいるからに他なりません。幕末や第二次世界大戦の混乱にも匹敵したカタストロフィなくして組織を変革できるノウハウを、我々は今必死で考えなければならないのです。

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『海外メディアから読み解く世界情勢』山久瀬洋二日英対訳
海外メディアから読み解く世界情勢
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。

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