山久瀬洋二の日常と旅日記

ロサンゼルス点描


ロサンゼルスは大都会ですが、いわゆる東京でいう首都圏にあたる、ロサンゼルス中心街とその周辺を含む広大な地域のことを Greater Los Angeles といいます。
さて、このグレーター・ロサンゼルスの中でも、太平洋岸に面したサンタモニカの近く、パシフィック・パリセイド地区はビバリーヒルズやマリブに挟まれた高級住宅地です。その日、私はアメリカの友人の運転するオープンカーに乗って、どこで昼食を楽しもうかと話していました。
彼曰く、リビエラ・カントリークラブがあるけどそこにいかないかと。
「構わないけど、あそこはメンバー制だろ?しかも、このあたりじゃトップクラスのクラブじゃないか。君はあそこのメンバーなのかい。そりゃおどろきだ」
そう問いかけると、
「いや、メンバーじゃないさ。聞くところによると入会金も数十万ドルっていうじゃないか。そんな金はないさ。ただ、あそこに働いているやつを知っているんだ。そいつの知り合いだといって行けば、入れると思うよ。ランチを楽しんでメニューのお金を払いさえすれば」
「そんなにうまくいくんだろうか……」
そう話しているうちに、彼はリビエラ・カントリークラブのゲートに車を滑らせます。

案の定、ゲードを管理している警備員が、メンバーですかと問いかけます。
そこで彼は言います。
「いえね。実は忍び込もうと思ってね」
忍び込む (違法に) は英語で smuggle in といいます。彼はよりによってその表現を使ったのです。
するとガードがすかさず、ニコッと笑って、
「ならば、俺が必要だね So you need to see me.」といいます。
私の友人も笑い出して、「いやね。ここにマイケル(仮名)が働いてるだろ。あいつは俺の知り合いなんだ。彼に連絡して中に入れてくれよ」
とおおらかに話します。
ガードは、ゲートにある電話で、中にマイケルって奴がいると思うが、チェックしてくれといいます。そして確かにマイケルはその日働いていたのです。

ガードはおおらかに、「じゃあ楽しみな」と、ゲートの遮断機を開けてくれました。わざと smuggle in と言ったジョークがおおらかな雰囲気を作ったのです。オープンカーで乗り付けて、堂々とジョークを言ったことで、ガードも心を開いたのでしょう。

さて、クラブにはいるとマイケルが、「なんだ、サンダルばきじゃないか。ここは靴を履いていないと入れないんだ」と言って、友人を靴置き場に案内。そこで靴を貸してくれました。
そして私をみて、「あんたさ、Tシャツだろ。せめてそのTシャツの裾をズボンの中にいれるように」と注意します。もちろんいう通りにしました。
そして、二人で何食わぬ顔をしてレストランに行き、昼食とワインを注文。

レストランの窓からは、このあたりでも有名なゴルフコースが見下ろせます。窓のすぐ前がティーショットの場所となります。
「何年も前に、ここに来たとき、あの刑事コロンボ役をしていたピーター・フォークがちょうど最初のショットの時に出くわした。もう彼も死んじゃったね。そうそう、タイガー・ウッズもみかけたよ」
そう友人は話してくれます。ここを訪れた往年の名優の写真がレストランの一角に飾ってありました。

「ところで、昨日一緒に夕食をしたとき、君の息子のライアンと奥さん、ええとリサだったっけ。あの時一緒にいた彼らの子供 (友人の孫娘) の名前、ミッシェルだったね」
「そう。彼女、なかなかあれで頑固な性格でね。何かをやりだしたら結構集中するんだ。ところで、ライアンとリサは離婚しているんだよ。でも今では仲のいい友人でね」
彼の息子、ライアンはテキサスに住んでいます。ちょうど娘と一緒に友人のところに 10日間休暇を兼ねてやってきていたのです。
そしてリサは週末だけ娘の面倒を見に、ロサンゼルスまで同じくテキサスから飛んできたのでした。
そんな人々と昨夜は夕食を一緒にしていたのです。
「なんと。じゃあライアンは独身なんだ」
「そう。誰か候補がいたら紹介してくれよ」

私の友人は、出版業で一財産をつくり、今はリビエラ・カントリークラブから車で 15分ほどの丘の上のプール付きの家に住んでいます。
でも、この地域には彼の何十倍もの資産を持った富豪が数え切れないほど住んでいます。
久しぶりに観光客モードになった私は、彼に頼んでリビエラ・カントリークラブで写真をとってもらい、それをフェイスブックにアップ。でもそれは、smuggle in したことと、アメリカならではの離婚した夫婦のドライでかつあっけらかんとした関係を話題にした昼食が印象的だったからです。

その日クラブは閑散としていました。青い空と眩しい太陽。南カリフォルニアの午後にあって、重厚な建物の中にあるレストランの窓辺の席は、ひんやりと心地よく。静かで楽しいひと時でした。

* * *

『日英対訳 アメリカQ&A』山久瀬洋二日英対訳 アメリカQ&A
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

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