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海外で誤解をうみだす言語の奥に潜む異文化の意識

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“In Japan, one’s language and the way one interacts with another person will differ depending on whether the other person is “higher” or “lower” than oneself.”

(日本では相手の人格が自らより「上」の立場にあるか、「下」にあるかによって、言葉遣いも変われば、応対も違ってきます。)
― IBCパブリッシング版『日本人のこころ』より

とある海外オフィスでの一幕:日本人上司と外国人部下

「ねえ、君にお願いしていたレポートどうなってる?」

ニューヨークで、斎藤さんという日本人が部下のニールに英語で尋ねます。

「まだ半分しかできてませんよ」

ニールは答えます。

「え、急ぎだって言ったよね」

斎藤さんは憮然としてニールに文句を言います。

「サイトー。あなたの指示はいつも急ぎじゃない。いつまでにしろと具体的に言ってくれないとわかりませんよ。曖昧なんです、指示の出し方が」

これには斎藤さんも返す言葉がありません。

「でもさ、これって責任感の問題だよ。仕事に対する意識の問題だと思うんだけど」

彼は、拙い英語で必死にニールを諭します。すると、ニールはいきなり立ち上がって、斎藤さんを攻撃します。

「私が責任もってやっていないって言うんですか。どういう意味?今やらなければならないことがどれだけあるか、あなたは知っているのですか。サイトー、あなたの言っていることは意味不明。いったい何を言いたいんですか」

いやな雰囲気が漂います。そして、斎藤さんは何も反論できないまま、「わかったよ」と言ってその場を離れます。心の中は怒りに燃えながら。そして、ニールはニールで両手を上げて不満を表明しながら、自分のブースの椅子に腰掛けます。

こんな場面が、日本企業の海外オフィスのあちこちで見かけられます。
 

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「言語表現」に裏打ちされた「人間関係」の意識の差異

 日本語には、敬語があります。そして、我々は子供の頃からその使い方を学びます。 敬語には尊敬語、謙譲語、丁寧語など、様々な種類があり、これは日本語を学ぶ外国人にとっては頭痛の種といえましょう。 例えば、「ぜひ何かお礼を差し上げたいのですが。お望みのものがあれば、ご遠慮なくおっしゃってください」という言葉の中には、この3種類の敬語が全て含まれています。
 
 では、英語はどうでしょうか。中世の英語はともかく、極めて特別な場合を除いて、我々が使っている英語にはせいぜいあっても丁寧語のみでしょう。しかも、最近ではそうした丁寧な表現はあまり使用されなくなり、表現がどんどんカジュアルになっています。
 
 言語は、人の意識に知らず知らずのうちに影響を与えます。 敬語を常に使用する日本人は、敢えて意識しなくても、心の中に人との上下関係への配慮を抱きながら社会生活を送っています。例えば、初めて人と出会った瞬間に、相手と自分とを様々な立場から立体的に捉え、そこに上下関係を感知し、それに従った行動をとるのです。相手の年齢、先輩か後輩か、顧客かどうか、どんな組織に属する人か、上司か部下か、何かを学ぶ立場か教える立場か、さらに親族の中でどういう立場の人かなど、瞬時に相手をこうした立体的な図面の中で捉え、言葉遣いを選択します。
 
 英語によって育った人々は、そうした日本人の感覚を持ち合わせていません。 アメリカの独立宣言に All men are created equal という言葉がありますが、敬語表現の少ない英語の社会では、立場の違いはあっても、人と人とは基本的に平等であるという意識が心の中に刻み込まれています。 従って、英語を母国語とする人は、例えば自分が売り手で相手が買い手である、というその場での立場の違いは意識しても、言葉遣い自体は日本語に比べ極めて平易です。そして、立場の違いを理由に、相手に対して上下関係を求めるような表現をすることは、マナーの上からもタブーなのです。 ですから、アメリカなどでは部下であっても、上司に対して反論するときは、我々が思う以上にはっきりと驚くほど強く反論します。ウエイターも客に対して、日本で期待するようなへり下った対応はしません。サービスはするものの、人としては対等であるという意識が、英語という言語を通して形成され、それが制度となり、常識ともなっているのです。
 
 斎藤さんとニールとの不愉快なやり取りの背景には、こうした文化の違いからくる相手への異なった期待感が摩擦となったのです。
 

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言葉で伝える文化と雰囲気に頼る文化との違いを乗り越えて

 しかも、日本語は曖昧です。 多くの場合、日本人は雰囲気で不満などの感情表現を伝えようとします。言葉にしてしまえばおしまいという意識があるのか、自らの立場を意識しながら婉曲に感情を表現します。 「最近の若い人たちは、以前よりはっきりと自分の意思を表明するようになったけど」と反論する人がいるかもしれません。確かにそれは事実でしょう。しかし、その意思の表明の方法はやはり遠回しで、直截ではありません。言葉そのものに頼らなくても、相手に意味するところが十分に伝わるからです。 ですから、そんな日本語の感覚に従って英語を使った場合、英語の能力が高いほど誤解が広がるという悲劇が起こるのです。

「フィードバックがないんですよ。言葉でちゃんとどうなのかを伝えてくれなければ、自分がどのように評価されているかわからないんです」

ニールは以前、そのように別の日本人に語っていました。

「サイトーは、英語は堪能でしょ。だから、彼は我々アメリカ人の部下のことを見下しているんですよ。日本人優越主義者なのかもね」

彼はこのように斎藤さんを批判します。 斎藤さんは英語ができるだけ、却って目に見えない文化の違いという罠にはまったまま、相手に深刻な誤解を与えてしまっているのです。

 言葉そのものによってコミュニケーションをする欧米型の文化と、日本をはじめいくつかのアジアの国々にありがちな、雰囲気や阿吽の呼吸にコミュニケーションの多くを頼る文化とが生み出す誤解は、時として深刻です。 ですから、我々が英語で欧米の人とコミュニケーションをするときは、常に自分の意図が相手に伝わっているか確認することが必要です。 そして、相手が自分の感じている上下の「立場」の意識をもっていない、よりフラットな環境にいる人であることも、しっかりと意識しておく必要があるのです。
 

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